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株式会社オカモトヤ

業種

卸売業,小売業

地域

関東

従業員数

100〜300人

File.1

「すべては社員の未来のために」老舗企業の挑戦 ―創業107年「オカモトヤ」の場合―

生産性の向上による処遇改善

2019.09.20

株式会社オカモトヤ

「ライブオフィス」で社員と談笑するオカモトヤ・鈴木眞一郎社長(左)

 霞が関の官庁街からほど近く、企業のオフィスが集中する東京・虎ノ門。室内は優しい太陽の光を浴びているような明るい空間が広がり、社員が思い思いの場所で、パソコンに向かったり、立って談笑したりする姿が見られる。文具販売とオフィスの内装のデザインなどを手がける「オカモトヤ」(本社・東京都港区)のショールームを兼ねた「ライブオフィス」の光景だ。

 オカモトヤは、虎ノ門で1912年に設立された「鈴木紙文具店」を発祥とする。文具販売から印刷事業、事務機器やオフィス家具の販売などで成長し、現在は、オフィスのレイアウトやデザイン、内装工事をはじめとしたオフィス環境のサポート事業を主力としている。

 社長を務める鈴木眞一郎さんは、創業75周年の節目の年に当たる87年に3代目社長に就任した。「経営とは人づくり」との考えから、働く人を大切にする企業風土づくりに力を入れている。会社の増益分は税金を除いて、会社と社員で分け合い、社員の生活の豊かさを作り上げていく方針という。現在、オフィス環境にかかわる自社の商品やサービス開発と並行して、社内の働き方改革を進めている。

勤務時間の「見える化」で 残業削減

 ショール―ム兼オフィスの「ライブオフィス」では、2018年8月の開設以来、営業関係部署の社員を中心に、社内で席を固定せずに自由に仕事ができるフリーアドレス制を導入している。ほぼ同時期に、本社のITインフラも整備し、スマートフォンとパソコンを使って働く場所を選ばずに仕事ができる「テレワーク」環境を整えた。

 ここ数年、ITインフラをはじめオフィス環境を整えて、全社員の仕事の効率化を図ってきた。スマートフォンと社内の入退室などに使うICカードを使った新しい勤怠管理システムを導入し、社員の勤務時間を「見える化」した結果、2016年から18年までの3年間で、平均残業時間を約30%削減した。

 2019年5月にスタートした経営3か年計画では、「明るくやりがいのある職場を構築し社員満足を実現する」ことを掲げている。今後3年間で、全社員の60%以上が満足する職場を実現し、振替休日の100%消化や残業時間をさらに10%削減することを目指している。

働く人を大切にする企業風土づくりに取り組む、創業107年のオカモトヤ3代目・鈴木眞一郎社長

社長の鈴木眞一郎さんは「オフィス環境をつくる商品とサービスを扱う当社だからこそ、社員が働き方改革に通じる自分の経験を重ねて自信を持って、自社の商品とサービスの良さを伝えることができる」と語る。

男性社員も子育てしやすい 環境づくり

 オカモトヤの「働き方改革」では、社長の長女で、専務の美樹子さんがリーダーシップを発揮している。現在2児の母でもある美樹子さんは、第1子を出産後、2015年春に職場復帰した。社員とともに自身の働き方も考える中で、まずは、社内の男性の意識を変えることから始めることにした。

オカモトヤの働き方改革の推進役・鈴木美樹子専務

 外部機関から「お墨付き」をもらうことで納得してもらおうと、厚生労働省が育児をしやすい環境を整えている子育てサポート企業や団体を認定する「くるみんマーク」の取得を目指した。これまでは社員の妊娠や出産、介護にかかわる規定がなく、個別に対応をしていたため、規定を設けるなどして2018年に「くるみんマーク」を取得。社長の鈴木眞一郎さんは「最初は、『くるみん』をよく知らない社員もいて、『くるみん』とは何かといったところから議論が始まりました」と笑顔で振り返る。

 同社では、共働きの男性社員も少なくなく、男性社員も育児休暇を取得しやすくするなど、子育てしやすい環境づくりを目指す。専務の美樹子さんは「(男性社員の)奥さんが離職せずに働き続けることができるようにしたい」という。その結果が、男性社員さらには全社員の働きやすさにつながると考えている。今年から、育児中の社員に在宅勤務を認め、育児のための「時差出勤」も可能にした。オフィスの内装工事は主に休日に行われることが多いため、土日出勤もあるが、振替休日を必ず取得するよう義務付けている。振替休日を完全消化しているかどうかも、査定の対象にする徹底ぶりだ。

「仕事と子育ての両方を楽しむ」

 オカモトヤが進める「働き方改革」は、社内でも好評だ。同社官公庁部第2グループで、官公庁や自治体向けの営業を担当する木村一貴さんは、埼玉県内の自宅から2時間近くかけて通勤している。ここ1年ほどは、埼玉県内の顧客に出向いた後は直接、帰宅できるようになった。「以前は早くても帰宅は午後9時過ぎで、子どもたちは寝ていて寝顔を見ることしかできなかった。今は、午後6時半過ぎに自宅に戻ることができる日もあり、習い事の迎えなど平日でも子どもとの時間を持つことができるようになった」と笑顔を見せる。小学6年生を筆頭に3人の子どもを持つ父親として、「子どもたちが小学生のうちは、なるべく一緒に過ごし、今しか経験できない時間を大切にしたい」と考えている。

「自分の体験に基づいて自社の商品やサービスの良さを説明できる」と話す営業の木村一貴さん

 オカモトヤが、自社が展開する商品・サービスと同様、スマートフォンとパソコンを使って場所を選ばずに仕事ができる「モバイル勤務環境」を整え、テレワークが可能となったことで、木村さんの平日の時間の使い方に変化が起きた。木村さんは現在、子どもたちとの時間が仕事へのモチベーションになっているとともに、「お客様にも自分の体験に基づいて自社の商品やサービスの良さを説明できる」と仕事への手ごたえも感じている。

 「これからの時代、もっと女性の力が必要になる」。ワークプレイス事業部の有方美幸さんは、専務の美樹子さんの言葉に引かれて2018年5月に入社した。出産後、仕事と育児との両立に悩んでいたが、働き方改革を通じて子育ても応援しながら女性の活躍の場を作っていこうとする専務の美樹子さんの意気込みに共感して転職を決めた。営業事務にかかわる仕事を担当し、毎日、仕事の段取りを考えながら定時の午後5時半には仕事を終えるようにしている。有方さんは「仕事と子育てといったプライベートの時間をきっちり分けてそれぞれを楽しむことができている」と語る。

オカモトヤに転職して「仕事と家庭の時間管理に余裕ができた」と話すワークプレイス事業部の有方美幸さん

 外回り先にいる営業担当者から見積もり書など書類の作成を依頼されると、常に早めに送るように心がけている。有方さんは、「モバイル勤務環境」を利用して、営業担当者の仕事の効率化にも役に立つことが、自身の仕事のやりがいにつながっているという。また、子どもの急な発熱などで休むことがあっても、チームで仕事をカバーする体制ができており、「小さい子どもがいても仕事を続けやすい」と感じている。同社には、育児中の社員で、「モバイル勤務環境」を利用して在宅勤務で仕事をしている人もいる。

家族と一緒に休日にサッカーを楽しむ木村さん
仕事と家庭の時間管理に余裕ができ、「平日に会社の仲間との懇親会に参加できる機会も増えた」と有方さん

働く人の時間を 大切にできる企業へ

 オカモトヤ本社内には、「チャレンジボード」として、公私の生活の充実に向けた全社員の目標が壁一面に貼られている。専務の美樹子さんが現在、オカモトヤの「働き方改革」の目指す形としているのは、「社員全員が在宅勤務をできる会社」だ。育児や介護、勉強や趣味など、だれもが自分の人生の時間を大切にしながら長く働き続けることができる会社を目指している。「すべては働く人たちの未来のために」。柔軟に組織を変化させていく老舗企業の挑戦は続く。

全社員の仕事とプライベートにおける目標が書かれた「チャレンジボード」

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

残業時間削減

効果
残業時間を2016年の年平均32.2時間から2018年には同23.4時間に削減した。
取組2

テレワークによる働き方改革の実践

効果
スマートフォンとパソコンを使って時間と場所を選ばずに仕事ができる「モバイル勤務環境」を整備。育児中の社員を対象に在宅勤務を導入。社内では席を固定しないフリーアドレス制を採用し、社員の柔軟な働き方を進めて仕事の効率アップを図っている
取組3

5営業日連続休暇取得を推進

効果
年休取得カレンダーを作成し、各部門で個人の年休スケジュールを事前に組み不在時の代理対応などの分担ができるように実行。3か月に1回、個人ごとの年休の消化状況を部門長にフィードバックして取得を推進している。

COMPANY DATA企業データ

株式会社オカモトヤ

代表取締役社長:鈴木眞一郎
本社:東京都港区
従業員数:155名
設立:1912年
資本金:7,000万円
事業内容:文具販売をはじめオフィスのレイアウトやデザイン、工事など。

経営者略歴

鈴木眞一郎(すずき・しんいちろう)1948年生まれ。70年慶応義塾大学商学部卒業。70年リコー入社。72年にオカモトヤに入社し、74年取締役、常務、専務、副社長を経て87年7月から社長。