「お互い様の精神」で進める オーダーメイドの働き方
―町工場「横引シャッター」の場合―

柔軟な勤務形態

2019.09.20

「横引シャッター」の市川慎次郎社長(左)と最高齢91歳の社員、平久守さん

「横引シャッター」の市川慎次郎社長(左)と最高齢91歳の社員、平久守さん

東京都足立区には2000を超える町工場がある。そのうちの一社、「横引シャッター」は、横に引く特殊シャッターの専門メーカーとして業界で存在感を示している。最高齢の社員は91歳。事実上、定年がなく、製品同様にユニークな働き方を実践している。

60歳超えてもバリバリ現役社員、90歳で昇給も

「横引シャッター」は、現在、社長を務める市川慎次郎さんの父親、文胤さんが1970年に創業した。当初はシャッターの修理や商品開発を行っていたが、横に引く特殊シャッターを開発し、専門に作るようになり、1986年に法人化した。横引きシャッターには、中が見えるパイプカーテンゲートやガレージシャッターなどがある。すべてオーダーメイドで、製品ごとに工場を分けて製造している。足立区が優れた技術を持つ地元企業を認定する「足立ブランド」にも選ばれている。

創業者の次男で社長を務める市川慎次郎社長

創業者の次男で社長を務める市川慎次郎社長

市川さんは、2012年12月に文胤さんから社長を引き継いだが、それまでも文胤さんの下で長年、経営に携わってきた。中でも、市川さんが大切にしているのが、「働き方改革」だ。人材の確保や活用のためにも「社員一人ひとりが自分に合った働き方ができる会社」として成長を目指している。

市川さんが総務部長だった2006年には、パートタイマーとアルバイト社員について、正社員と同じ仕事の場合は、同じ基本給とした。市川さんが「同じ仕事をしているのに、賃金で差をつけるのはおかしい」と疑問を持ったのがきっかけだった。パートタイマーやアルバイト社員は勤務日数等の都合で、雇用保険上、正社員とは区別されるが、「同じ仕事であれば、正社員と同じ賃金で働いてもらっている」と市川さん。

横引シャッターは、就業規則では、60歳を定年とする定年制を設けているが、実際には運用していないという。60歳を超える社員が現役として活躍し、現在の最高齢は91歳の平久守さんだ。平久さんは、長年、溶接の仕事をしており、78歳で入社した。シャッターを動かすための滑車を作る工程を担当している。平久さんは「真面目に元気に仕事をしていれば、長く働き続けることができる」という社員のロールモデルとしての役割も担い、90歳で昇給も果たした。

78歳で入社し、90歳で昇給も果たした平久守さん91歳(左)

78歳で入社し、90歳で昇給も果たした平久守さん91歳(左)

市川さんは「60歳という年齢で一律に、働き方を区切る理由はない」と説明する。「60歳になった途端に、急に能力が落ちるわけでもない。実際に現代の60代は若い」との強い思いがある。社員が就業規則上の定年の60歳を迎えると、「60歳になりました」と市川さんにあいさつをするのが恒例となっているが、その際、市川さんは必ず、「『60歳、そう、若いね』と答えている」という。

社員が60歳を超えても、待遇が下がることはない。そのかわりに、「これまでに培った技や経験を後輩に伝授してほしい」との思いを込めて、技や経験を教えることができる業務を新たに一つ、担当する。後輩への伝承が、60歳を超えた社員の昇給につながるというわけだ。平久さんの昇給もその一例だ。

横引シャッターは、多様な人材を活用するねらいで、職場のダイバーシティー化も進めている。外国人技能実習生には、「自分の仕事の実力で、ジャパンドリームをつかみなさい」と声をかけている。「日本語が分からない、外国人だからということを理由にあきらめてほしくない。異国の地、日本で仕事を頑張って、いつか故郷に錦を飾ってほしい」との思いを込めている。

社員との連絡には、通話アプリの「LINE」も活用している。職場ごとに「LINE」グループを設けて、職場内の連絡もとりやすくしている。市川さんは「小さい子どものいる社員から、『朝、子どもが熱を出しました』とLINEで連絡がくる。そうすると、「僕が(LINEの)スタンプを押して『承認』は終わる」と笑顔を見せる。

闘病、育児…
身にしみた職場の温かさ

がんとの闘病と仕事を両立させている社員もいる。そのうちの一人、高折治美さんは、「がんと告知された時、正直、自分は職場では干されると思った」と振り返る。しかし、市川さんが伝えた言葉は、「治療に専念して、会社には、来ることができる時に来ればいい」だった。その後、出社すると、市川社長をはじめ職場の同僚が、心配をしながらもとにかく笑わせてくれたという。高折さんは、「幸い、抗がん剤による副作用はほとんどなく、がん患者であることを忘れるくらいだった。髪が抜けても笑いに変えている。職場では笑顔が絶えず、仕事も続けることができて、社長の懐の深さに感謝している」と語る。

社員の大友真美さんは2人の子どもを育てながら働いている。下の子は現在、保育園に通っており、「いつも職場の人からは『お子さんが待っているから早く帰りなさい』と声をかけてもらっている」という。「申し訳ないという思いもあるが、職場の人の温かさに感謝している」と大友さん。

2人の子育てをしながら勤務する大友真美さん

2人の子育てをしながら勤務する大友真美さん

「治療をしながら、仕事も職場の笑顔で続けることができている」と高折さん

「治療をしながら、仕事も職場の笑顔で続けることができている」と高折さん

「仕事と2児の子育て、どちらの時間も大切」と大友さん

「仕事と2児の子育て、どちらの時間も大切」と大友さん

「社員のモチベーション」
が会社を成長させる

横引シャッターの「働き方改革」の底流にあるのは、市川さんが経営で大切にしている「お互い様の精神」だ。「困った時はお互い様。これまで培ってきた人と人とのつながりを大事にする」との思いだ。

オーダーメイドで製造する同社のシャッター。社員の働き方も一人ひとりの事情に応じて異なる

オーダーメイドで製造する同社のシャッター。社員の働き方も一人ひとりの事情に応じて異なる

同社のシャッターはすべてオーダーメイドで製作している。大規模な製造ラインは使用せず、社員一人ひとりの仕事、作業がそのまま、会社の経営に直結する。社員のモチベーションによって仕事や作業の能率、効率が大きく変わるといえる。そのため、社員のモチベーションを上げることが、会社全体の仕事、作業効率を上げて利益を生み出すことにつながる。

市川さんは、社員一人ひとりに目を配り、一人ひとりに合った働き方ができるようにすることの大切さをだれよりも感じている。「シャッターもオーダーメイドだが、社員の働き方についても、一人ひとりの事情に応じてカスタマイズしている」と市川さん。

「日本には仕事を通して成長し、自分の夢をかなえようとする文化がある。人生のある時期、仕事に集中して打ち込める時間があってもいい。仕事を楽しいと感じる時期があっていい」。このために「働き方改革」を生かしながら、社員が仕事のやりがいを持って楽しいと感じることができる環境を作っていきたいとの思いがある。

働き方改革について、市川さんは、「日本企業の大部分は中小企業。日本の中小企業が黒字になればもっと日本はいい国になる」。そんな期待を寄せている。現在、市川さんは同社の成長戦略で新たに「山賊から武士へ」というテーマを掲げている。「昔から『衣食足りて礼節を知る』と言われるが、業容が整ってきたので、礼節にかかわる部分を少しずつ磨いて周りの人が憧れる会社を目指す」という。

case study横引シャッター 働き方改革のポイント

  • 01高齢者雇用

    事実上、定年を設けず60歳を超えた社員を雇用、実績に応じて昇給も行っている。 70歳超の社員も活躍し最高齢は91歳。

  • 02社員1人ひとりに合った働き方を実践

    小さい子供のいる社員は、勤務時間を通常より2時間短縮したり、病気で治療を必要とする社員には体調に応じた働き方を個別に提示し、仕事との両立ができるようにしている。

company data企業データ

株式会社横引シャッター

  • 市川慎次郎・代表取締役社長
  • 本社・東京都足立区
  • 従業員数28名(2018年7月現在)
  • 創業1986年
  • 資本金1000万円
  • 特殊シャッターなどの設計、部品製作、製造、取り付けなど。

経営者略歴

市川慎次郎(いちかわ・しんじろう)1976年生まれ。国士舘高等学校卒業後、中国・北京へ留学。清華大学、北京語言文化大学の漢語学部・経済貿易学科を卒業。帰国後、横引シャッターに入社し、総務部部長・経理部部長兼務を経て2012年から社長。