「つくるひとをつくる」モットーに安定採用を実現
―社員第一主義 三和建設の場合―

柔軟な勤務形態

2019.09.20

建設業は今、東北の震災復興や、東京五輪など大型イベント開催を控えた大型施設の建設ラッシュなどが追い風となって、全般的に各社とも好調な業績を享受している。しかし同時に、「旧態依然」「談合」「過酷な労働環境」などのイメージが障害となって、人材が集まりにくい業者も少なくない。三和建設は、「つくるひとをつくる」を社是として、社員第一主義を掲げた経営を展開し、人材を確保に成果を挙げている。

治療・復帰に手厚い支援、保育園を新設、社内大学も

JR新大阪駅から南西に約1キロ半の場所に位置する三和建設。経営のかじ取りをするのは、創業家・4代目トップの森本尚孝社長だ。2008年に社長に就任した。中小建設会社だが、今年4月、14人の新入社員を迎え入れた。新卒採用は、学生優位の売り手市場と言われ、中小企業では人材不足が深刻だ。人不足を理由に事業が行き詰まる企業も少なくない。そんなご時世で、安定採用を続ける三和建設が、関係者の間で注目されている。

三和建設には、社員が長期間病気で休まざるを得ない時、自動的に有給の休暇を2か月付与する制度がある。病となった理由は問わない。そして本人の働く意思次第では、更に延長することもあるという。既に1年間取得して、復帰した社員もいるという。高度な先進医療を必要とする治療に対しては、最高300万円を支給する。社員の働く意思に対しては、手厚い支援で、復帰を支える。

社内の女性社員比率は27%と、建設業界では高い水準だ。建築現場に女性社員が配属されることも日常的にあり、もちろん、女性専用トイレは現場に完備される。今年9月から本社北側に、企業主導型の社内保育所を新設する。子育てを理由に退職せず、働ける環境を整備している。

昨年には、新入社員用に寮を作った。近年、仕事のミスマッチなどを理由に退職する新入社員が増えている。そこで、1年目社員は全員この寮で生活させることにした。交流を密にして、仕事への理解を深めることが狙いだ。

「今どき?」と思われそうだが、会社が決めた寮内ルールは特にないという。会社勤務が始まると、社員は毎日同じ職場に顔を出すわけではなく、任された建設現場に直行・直帰ということが多い。同じ現場にいる先輩らの指導のもとで経験を積むが、同期入社同士が顔を合わせる機会は少ない。そこで、入社1年目の社員は、仕事から帰ると寮の共同スペースで、遠慮なくそれぞれの経験や悩みを語り合うことができる。自分の仕事を見つめ直し、仕事への理解を深める環境作りが狙いだ。

また、社員の向上心に応えるため、「SANWAアカデミー」と称した社内大学が毎月開かれる。テーマに応じて研さんを積むチャンスが用意されている。

「社員の充実感」こそが「顧客の満足感」につながる

建築業や製造業では、一般的に「物作りの技術」「お客様第一」といった社是が目立つ中、三和建設はあえて「社員第一」を掲げる。森本社長は「外的な環境によってそうせざるをえなかった」と、その背景を振り返る。

創業家出身で4代目社長を務める森本氏

創業家出身で4代目社長を務める森本氏

あまり多くを語らないが、バブル時代に抱えた不動産の含み損が発生したり、仕事が減少したり、経営が厳しい時代があった。経営を維持するための早期退職募集もせざるをえず、「未来へ向かっている感じは社内になかった」と振り返る。

森本社長はその時、「資産もない会社に残るのは社員だけだ」という結論になったという。「少なくとも、社員が会社に誇りや愛着がないと、お客さまを満足させることもできない」として、2013年に「つくるひとをつくる」という言葉に結実させ、基軸を「社員第一」に据えた経営を強化した。

「周囲に助けてもらえない」「成長できない」「楽しく大きな仕事ができない」などと社員が思いついたときに、退職を考えるようになる。継続して働ける環境を作るには、会社にいることの充実感を見いだせる仕掛け作りが必要だ。そこで、森本社長は、業務の半分以上を人材確保・環境改善に費やすことにした。

福利厚生は重要だ。「できる策はすべてする」との考えから次々と制度を整えた。しかし、福利厚生はあくまで環境作りで、仕事の本筋は「やりがい」にあるとの考えも貫いた。自ら大学の教壇に立って、出張講義を展開し、必要であれば自ら学生たちとの対話に臨み、建設業の面白さ、重要性を訴えた。だが、熱意を示した学生にすぐに入社を促したりはしないのが三和建設流の人材確保の肝だ。学生に担当社員を配置し、対話を繰り返す。「うちは仕事が楽だよ。残業もないし」とも言わない。ムダな残業や出勤は排除するが、事業の成長に必要な残業があることは、むしろしっかりと説明する。納期が迫れば、会社の信頼をかけて残業することだってある。納得して入社するように、学生と対話を繰り返していく。こうして入社した社員は、簡単にやめたりせずに、仕事に自分の居場所を見つけようと、じっくり取り組んでいくという。

社員みんなが“主役”の意識、プライベートも充実

昨年8月、途中入社した中嶋佳子さんは、三和建設の理念に関心をもって、入社した。「建設業っぽくない『つくるひとをつくる』という言葉に強烈にひかれました」と笑顔をみせる。それまでは5000人規模の大手建材会社で、現場監督として働いていたが、働く人による気持ちのバラツキがあると感じていた。しかし社員百数十人の三和建設では、「全員主役で、情熱的な人が多い。女性も現場に多い」と、入社して予想以上に満足感が高かった。

同社の社風について「全員主役で、情熱的な人が多い」と話す中嶋さん

同社の社風について「全員主役で、情熱的な人が多い」と話す中嶋さん

毎朝、現場に本社から健康管理のための電話がある。「今日も元気ですか?」と。日々自己管理が求められることを自覚する瞬間だ。そして「今日は残業を予定していますか?」と質問される。1日の仕事をイメージし、効率的に日程を組み立てる習慣作りの意味がある。こうした仕組みから、中嶋さんは計画的に仕事を進めるようになった。

土日に予定していない仕事が入ることも、ほとんどない。週末は、趣味のサイクリングやマラソンを楽しむこともできるようになった。前の職場では、週末の予定も立てにくく、プライベートの時間確保が難しかった。最近は、京都府京丹後市で開催された自転車ツーリングの競技会に仲間と参加した。生活の楽しさが以前よりも増したという。

今年4月に入社した鎌田凌さんは、入社間もない。「初給料では、高級牛肉を買って両親と実家で焼いて食べました」と話す。経験は浅いが、現場では監督として、職人さんたちとのコミュニケーションをとりながら、工事を管理する役割だ。

新入社員用の寮で生活する鎌田さん。同期同士で悩みを共有し励まし合いながら、現場監督として奮闘している

新入社員用の寮で生活する鎌田さん。同期同士で悩みを共有し励まし合いながら、現場監督として奮闘している

今は神戸市の臨海部で進む倉庫建設を担当している。「夏は熱中症にならないように、働く人の健康管理に気をつけています」と話す。仕事に不安なことがあれば、担当の先輩社員に相談する。そのために必要な会食費は月に1度、会社から支給される。無駄な残業はほとんどないので、週末は好きなサーフィンなどを楽しむこともできる。本音を言うと、新入社員をここまで大切にしてくれることに、負い目すら感じることもあるという。「自分は高校まで野球をしていて、厳しい上下関係の中で生きてきたので、大事にされると少し居心地がわるい」と話す。現状に甘えてしまわないように、仕事が終わった後に、月1回の社内大学「SANWAアカデミー」には必ず参加し、知識を吸収しようと努力は怠らないという。

寿司店で余暇を楽しむ中嶋さん(中)。仕事の時間管理を徹底することで、プライベートの生活も計画が立てやすくなった

寿司店で余暇を楽しむ中嶋さん(中)。仕事の時間管理を徹底することで、プライベートの生活も計画が立てやすくなった

新入社員向けの寮で、同期と団らんを楽しむ鎌田さん(中央)

新入社員向けの寮で、同期と団らんを楽しむ鎌田さん(中央)

日々課題ばかりを意識するという森本社長だが、若い社員が、仕事を通じて責任感を自覚するようになる姿を見ると、社員第一の理念経営の大切さを再認識するという。「一緒に成長していけることが何より大事です」と、言葉に力がこもる。

case study三和建設 働き方改革のポイント

  • 01長期治療の際の有給休暇拡大

    働く意欲の高い社員の仕事復帰を支援する。

  • 02社内保育所の新設など女性の雇用環境の改善

    出産や育児などの事情で、女性が退職しないで済む職場作りの促進。

  • 03新入社員定着のための寮新設や、相談できる社員の配置

    社員が仕事の悩みを軽減する環境を作り、業務への理解を深める。

company data企業データ

三和建設株式会社

  • 森本尚孝・代表取締役社長
  • 本社・大阪市淀川区
  • 従業員数139人(2019年6月末現在)
  • 創業1947年
  • 資本金1億円
  • 建設工事・開発・環境整備・その他建設に関する企画・設計・コンサルティング他

経営者略歴

森本尚孝(もりもと・ひさのり) 一級建築士。京都市生まれ。大手ゼネコン勤務を経て、2001年に入社。08年に4代目社長に就任。サントリー山崎蒸溜所をはじめ、食品業界向けの建築物に定評がある。「働きがいのある会社」として注目され、著書に「人に困らない経営」(あさ出版)などがある。