「パソコン18時シャットダウン」残業減への秘策
―食品スーパー フレスタの場合―

残業削減・有休促進

2019.09.20

広島・横川の本部。午後6時になると業務系パソコンの電源が一斉に落ちる。

「急ぎの仕事がなければ帰ってほしい」という無言のメッセージだ。3年前から始めた仕組みで、今も続いている。残業を減らそうとする試みだが、この仕組みは社員の意識を変えつつあるという。

「社員は午後6時間際に大事な仕事をしなくなりました」とフレスタホールディングスのグループ人事総務部の渡辺裕治部長は説明してくれた。朝、社員は出勤してくると、重要度の高い業務から手を着け始める。日中、予想外の仕事が飛び込んできても、大切な仕事が夕方へ後回しにならないようにするためだ。大事な仕事をしている途中で電源が切れたら、努力が水の泡になってしまう。そんな意識が、社員の仕事の段取りに変化を与えている。

フレスタは広島を中心として、岡山、山口の計3県に61店舗の食品スーパーを展開している。主力のスーパーをはじめとしてグループ全体を統括するのは、持ち株会社「フレスタホールディングス」で、創業家が経営する地元密着型の中小企業だ。

フレスタが従業員の働き方を重視するようになったのは、事業環境の変化が背景にある。安定した需要に支えられた食品スーパーは、「不況に強い業種」と言われ続けてきた。しかし10年ぐらい前から、変調が目立ち始めた。人口減少、高齢化などから、肝心の需要が減退し始めたのだ。経営上の数値が下降を示すようになってきた。ネット通販の台頭などによる消費者の買い物スタイルも変化し、健康食品に強いドラッグストアの人気もスーパーには脅威となってきた。フレスタホールディングスの宗兼邦生社長は「こうやったらうまくいくという絵が描けなくなった」と危機感を募らせた。

更に会社経営に追い打ちをかけるような出来事が起きた。2013年。60歳の定年間際の社員が、相次いで脳梗塞(こうそく)などで倒れた。「長年働いた疲労の蓄積だろうか」。社内で重い空気が広がった。

子どもの頃住み込みの従業員と一緒に暮らした経験があり、「従業員は家族と同じ」と話す宗兼社長

子どもの頃住み込みの従業員と一緒に暮らした経験があり、「従業員は家族と同じ」と話す宗兼社長

今の時代、退職後の人生は長い。後遺症を残したまま余生を過ごすのは、あまりに残念だ。宗兼社長は「まずは健康経営を進めなくては」と、全社的に働き方改革への第一歩を踏み出すことになった。

上司が率先して有休取得  残業減らせば賞与に上乗せ

他企業の先進事例などを集め、自社に適用できる施策の検討が始まった。そのうちの一つがパソコンの「18時シャットダウン」だ。17時の段階で、パソコンの画面に、「今日も1日頑張ったね」という社長メッセージが現れる。いきなり「仕事をやめて帰ってくれ」というと、社員の士気に影響するので、社長からのお礼メッセージで気持ちよく帰ってもらおうとする工夫だ。仕掛け人はグループ人事総務部長の渡辺裕治さんだ。この施策は話題を呼び、テレビでも紹介され、社員の気持ちも切り替わり始めた。

健康経営の観点から従業員の「働き方改革」へ。フレスタの「働き方改革」を主導する人事総務部長の渡辺さん

健康経営の観点から従業員の「働き方改革」へ。フレスタの「働き方改革」を主導する人事総務部長の渡辺さん

有休の取得も推進した。かけ声だけでは取得は進まない。そこで上司の立場にある人から率先して取得することを促した。有休を取得した上司は、社内ネットで報告される。この報告を通じ「うちの上司は休暇でこんな過ごし方をしたんだ」と、部下やパート社員が知るようになる。結果、有給休暇の取得が一気に増えた。「上司が有休をとれば、部下も取得しやすくなる」という心理を利用した。

また残業削減も難しい課題だった。社員の中には残業代を確保したいがために、残業をする人もいた。そこで、残業を減らしたら、その分を報酬として、賞与に上乗せする制度を導入した。これにより残業は1年で3割減ったという。

しかし、仕事時間を減らしても、仕事量が減るわけではない。店長や副店長は、現場の状況を見ながら、業務の優先順位をつけ、省く作業を決めねばならない。店舗では、セルフレジや、食器洗い機を導入し、省人化も同時に進めた。さらに、グループ内での分担を再考し、負担を平準化する動きへと進んでいった。

宗兼社長は「お客さんとリアルに接する割合はパートさんが圧倒的に多い。パートのパフォーマンスが大事なのはいうまでもない」と、その働きに見合った処遇を目指した改革を進めた。パート社員は従業員の8割を占めるが、能力があり、責任を負担できれば、正社員または同等の処遇に道を開いた。

病児保育費を社が全額負担、子育て世代をバックアップ

広島市安佐南区の店舗で、副店長を務める藤永めぐみさんは、今年4月に産休・育休から職務に復帰した。「働くのは楽しいです」と、やりがいを感じている。フルタイムで復帰したことから、今の生活は、きついことも多いという。朝5時に起きて、7時15分に子供を保育園に送り、8時に出勤。店では店長の下、あらゆる業務への目配りをしながら、売り上げ目標などを管理する毎日だ。17時に退社しても一息つくことはない。子供を保育園に迎えに行き、自宅で食事を作る「過酷な日々」でもあるという。

勤務時間が短い「時短社員」での復帰という道もあったが、自分はフルタイムの社員の道を選んだ。キツイのは会社のせいではないと分かっている。両親は島根県にいるので、助力は望めない。

産休・育休をへて今年4月にフルタイムで職場復帰した副店長の藤永さん

産休・育休をへて今年4月にフルタイムで職場復帰した副店長の藤永さん

フルタイム社員として働くために、役立つ会社の制度があるという。一つは病児保育費用の全額会社負担だ。「子供が風邪やインフルエンザなどの病気になると通常の保育費に加えて、別施設で預かってもらうための費用がかかる。自腹で負担するのはきつかった。助かっている」と言う。病気がちな子供がいても働ける制度が、藤永さんを支えている。

人事総務部長の渡辺さんは「子供の看病で親が欠勤すれば、その仕事を埋めなくてはならなくなります。そのために、他の社員が残業したり、欠勤した社員が負い目を感じたりすることにもなります」と、制度導入の理由を説明する。

病児保育費用の負担に加え、出産後の社員は、管理職でも3年間は現自宅から通える店舗で仕事をするという制度も、藤永さんに適用されている。本来管理職なら、岡山や山口をはじめ、広島市内からは通えない店舗への配属も想定しなくてはならない。引っ越しを伴う異動を回避するためには、「地域限定社員」の申請をすればいいが、収入は減少する。藤永さんは、遠隔地への引っ越しをせずに、日々、仕事と家庭に全力で取り組んでいる。

若い社員にとって、子育てと仕事の両立は、切実な課題だ。広島市内の上天満店で食肉を担当している西川惇さんは、今年4月半ばから2か月間、育休を取得した。3月に2人目となる長男が生まれたことがきっかけだ。「男性では4人の前例があったようですが、将来の後輩たちも働きやすいような職場になるために、私も取得しました」と話す。

「家族の絆を深めることができた」と話す西川さん。第2子の誕生にあわせて、2か月間の育休をとった

「家族の絆を深めることができた」と話す西川さん。第2子の誕生にあわせて、2か月間の育休をとった

妻の家事を支援するつもりで育休に臨んだ。しかし大変なのは家事ではなく、3歳の長女の世話だった。「かまってほしい」と愛情を求める長女に対応することが、乳児の世話で振り回される妻を精神的に追い詰めていることに気づいた。そこで、西川さんは育休の大半を長女とともに遊ぶ時間にあてた。

親子で外出を楽しむ藤永さん。会社の支援制度を利用しながら、仕事との両立を続けている

親子で外出を楽しむ藤永さん。会社の支援制度を利用しながら、仕事との両立を続けている

長女と公園で遊ぶ西川さん。育休を通して長女との時間を楽しみ、家族の絆を深めることができた

長女と公園で遊ぶ西川さん。育休を通して長女との時間を楽しみ、家族の絆を深めることができた

日本社会では1か月以上の育休を取得する男性社員はまだまだごく少数だ。しかしフレスタでは育休も、「サービス向上につながる」と前向きにとらえている。子育てが理解できる社員は、子育て世代のニーズにあった店舗作りに貢献するという。品ぞろえやサービスに配慮できるようになり、実際、子供向け健康食品が充実するなどの効果が表れてきているという。

フレスタの試行錯誤は「道半ば」(宗兼社長)だという。従業員には、今まで通り働きたい、慣れている通りに働きたい、人が足りなければ補充したい、という基本的な心理が働くという。でもそれでは会社の将来がない。「こうすれば安心ということはない。常に社会の変化に気を配りながら、道を探りつつ、変化をしていくことの連続だ」と働き方改革の重要性を強調する。

かつては「時間をかければ商売はうまくいく」と考え、休日出勤も辞さなかったという宗兼社長も、今は、午後6時になると娘さんが会社に迎えに来て、帰宅するという。改革は簡単ではないが、自ら実践することで、課題に向き合っている。

case studyフレスタ 働き方改革のポイント

  • 0118時に本部業務系PCのシャットダウンで、時間管理

    残業をしないで仕事を進めるように社員の意識改革を進める。

  • 02管理職の有休取得を推進

    有給休暇を管理職が率先して取得することで、社員全体が休みやすくなる雰囲気ができる。

  • 03病児保育費の会社全額負担など子育て支援

    子供が風邪などにかかっても、安心して出勤できるようにし、通常業務を維持する

company data企業データ

株式会社フレスタ

  • 宗兼邦生・代表取締役社長
  • 本社・広島市西区
  • 従業員数約5000人(中核会社の「フレスタ」、パートを含む)
  • 創業1887年
  • 資本金3000万円
  • 食品スーパーチェーンの展開

経営者略歴

宗兼邦生(むねかね・くにお) 1953年広島市生まれ。77年神戸大学経済学部卒。ヨークマートを経て、79年に主婦の店(現フレスタ)に入社。90年に社長就任。広島商工会議所常議員、広島経済同友会常任幹事。海外のワイナリーや美術館・博物館を訪れるのが趣味。座右の銘は「正直な商売」。