「男の仕事場」の労働環境 女性従業員の活躍が変えた
―4年連続女性採用 札幌高級鋳物の場合―

残業削減・有休促進

2019.11.01

音、熱、におい。札幌市郊外に位置する札幌高級鋳物の工場では、汗とほこりにまみれた従業員が黙々と製品を一つ一つ仕上げている。火花の散る工場では女性従業員の姿が目立つ。鋳物工場というと、体力勝負の男性の仕事場というイメージが強いが、同社では若い女性従業員の雇用に注力している。女性が工場で働き始め、職場の雰囲気も少しずつ変わってきているという。

道具の工夫で力仕事を軽減 → 男性も作業効率アップ

原材料のにおいが充満する工場で、4人の女性従業員が汗を流している。入社2年目の波多野桃子さんは、手際よく次から次へと製品の型作りを進めていた。いわゆる「4K」職場という言葉が浮かぶような工場だが、真剣な表情できびきびと作業をしていた。

昨年、地元の工業高校を卒業し、入社したばかりの波多野さんは19歳。「高校の在学中に、鋳造の実習がありました。その時に鉄が溶ける時の光が美しく感じ、将来の仕事にしたいと思いました」と話す。

「男性社員にも負けたくない」と技術習得に意欲的な波多野さん

「男性社員にも負けたくない」と技術習得に意欲的な波多野さん

体力的に男性従業員にかなわないこともある。そこで工具を軽いものに変更してもらうことなどはあるが、他の従業員と同じ任務をこなしている。「男性従業員にはとにかく負けたくない。やれるだけのことはとことんやり抜きたい」と話す。

札幌高級鋳物では、年々深刻になる人手不足に対応するため、2015年から工場で働く高卒の女性従業員の採用を始めた。4年連続で1人ずつ高卒女性を採用し、現在は4人を数える。奥田由利社長は「男にできて女にできないという作業は、減っている。力仕事は、道具を工夫することで軽減できるので、女性でも活躍できる。さらに負担軽減は、男性従業員にとっても作業改善につながり、結果として職場全体としてもいいことばかりだ」と強調する。

「溶接の世界で極めたい」と意気込みを話す前田さん

「溶接の世界で極めたい」と意気込みを話す前田さん

4年前に入社した前田空さんも、工業高校出身だ。「工場で働く私は少数派でした」と笑顔を見せる。工場では製品の凹凸部分を平らに仕上げるための溶接作業が担当だ。ガスの扱い次第で品質に差が出てしまう作業で、繊細さが求められる。「将来は寿退社などせずに、バリバリ仕事をして、技術的にも上を目指します」と力強い言葉で、目標を話してくれた。

女性の積極登用と職場環境の改善に取り組む奥田由利社長

女性の積極登用と職場環境の改善に取り組む奥田由利社長

工場内の雰囲気も変えた「やる気&感性」の女性従業員

社員60人の札幌高級鋳物を率いる奥田社長は、創業家の出身で6代目の社長だ。2010年に同社に入るまでは、千葉・成田で航空会社の地上職として働いていた。札幌高級鋳物で社長を務めていた弟が急逝後、後継者も体調不良で行き詰まったため、急きょ、社長就任を前提に入社することになったという。

製品はメーカーなどで使われる完全特注の部品ばかりで、技術的なことは専門の工員たちに及ばない。しかし、航空会社で学んだ人との関わり方、従業員の業務支援の経験を生かし、「自分にできることは一つずつ挑戦してみよう」と経営改革に取り組み始めた。その一環が女性従業員の採用だ。

「当初は10年働いてくれれば、という気持ちでした」と話す。しかし女性従業員の技量が男性従業員に劣らないことが分かってきた。さらに、男性職場では当たり前だった工場内の荒っぽい雰囲気も、女性らしい感性が入ることで、変化してくることも見えてきた。例えば、工場内の整理整頓や分煙の徹底など、雰囲気が変わったという。あえて工場の現場を志す若い女性従業員は意識も高く、「上手に支援していけば会社が良い方向にむかっていきそうだ」と2015年から4年連続で採用した。技術を磨きたいという前田さんには、溶接の専門学校への通学を支援した。

「たばこ休憩」返上で30分時短、有休消化率は98%に

奥田社長の進める働き方改革で、最近見直しの対象となったのは、毎日30分の「たばこ休憩」だ。たばこを吸う従業員にとっては良いが、たばこを吸わない女性従業員は、手持ちぶさたになってしまい、結局、働いていることが常態化していた。そこで奥田社長は、たばこ休憩を返上した非現業部門の社員対象に、30分早く帰れたり、30分遅く出勤できたりするなどの時短勤務制度を作った。「これは特に喫煙しない従業員にとって良いことですが、他の従業員もたばこを吸わなくなれば、健康にも良い」と話す。

また有休の完全取得を社内に徹底させた。当初は、有休の買い上げ制度があったことから積極的に休みをとらない人もいたが、買い上げ制度をやめ、有休を事前申請して消化した場合に報奨金を支給するなど、「休む」ということの意識付けを図った。

女性従業員の採用を契機に、今では有休消化率は98%。若い従業員を中心に、「子どものため」「妻のため」といって休暇を気兼ねなく取得するようになったという。仕事では、男性従業員の中で、負けまいと頑張っている前田さんも、週末になるとグルメを楽しみ、リラックスして過ごしているという。波多野さんは週末の休みを使って、友人と富良野や登別などにドライブに出かけ、遠出を楽しむという。残業などもほとんどなく、2人とも仕事と休暇の切り替えもできる職場に満足しているという。

奥田社長は、こうした女性従業員の働きぶりを見守りながら「働き方改革に背中を押されることはないです。一歩先を行っていますから」と、目を細めていた。

入社2年目の波多野さん。休みの日は友人と郊外へドライブをすることが多いという

入社2年目の波多野さん。休みの日は友人と郊外へドライブをすることが多いという

溶接担当の前田さん。週末は友達と街で食べ歩きをするのが楽しいという

溶接担当の前田さん。週末は友達と街で食べ歩きをするのが楽しいという

case study札幌高級鋳物株式会社 働き方改革のポイント

  • 01女性従業員を採用し、労働環境を整備

    2015年に高卒の女性の現業部門への採用開始。女性向けに軽量化した工具に切り替えるなど、職場改革を進める。これまで計4人の採用実績があり、今後も拡大予定。

  • 02「たばこ休憩」返上の社員に、遅出や早退を認める

    たばこを吸わない社員が「たばこ休憩」の30分を返上して、時短勤務をできるようにした。それまで、たばこを吸わない非現業部門の社員は、たばこ休憩時も、かわらず働いていたという。

  • 03有休消化率を98%に高める

    有休買い上げ制度を廃止し、有休消化を意識づけるために、消化状況に応じて、報奨金を支給するなどの施策を講じる。また、育児や介護に必要な短期有給休暇(最大5日)も設け、オフの時間をしっかりとるように奨励。

company data企業データ

札幌高級鋳物株式会社

  • 代表取締役社長 奥田由利
  • 本社・札幌市西区
  • 従業員数約60人
  • 創業1949年
  • 8,000万円
  • 主に生産機械などに使われるステンレス鋳鋼、耐熱鋳鋼、耐摩耗鋳鋼を生産。月800種類以上の製品を全国約150社の顧客に供給している。

経営者略歴

奥田由利(おくだ・ゆり)。1978年日本航空入社、国際旅客部に配属される。32年間勤めて、2010年に退社し、札幌高級鋳物へ入社。12年に6代目社長に就任。創業者は母方の祖父。