有休促進で“足場”を固め 若手人材を次々に獲得
―建設現場機材レンタル 拓新産業の場合―

残業削減・有休促進

2019.11.01

新卒採用を狙って企業説明会に参加したところ、学生が1人も来なかった。そんな30年前の経験がスタートだった。その後「一流の中小企業を目指そう」を合言葉に、魅力のある職場作りを進めてきたのが福岡市の拓新産業だ。今では、採用枠を大きく超える応募が集まる。昨年7月に社長に就任した宮里誠社長は、先代社長が築き上げた職場環境を守りつつも、経営の安定化とのバランスに苦心している。

モーレツ社員の反発を乗り越え「仕事も雇用も一流の中小」へ

「なんで売り上げを伸ばしてはいけないのですか」

二十数年前、営業担当だった宮里社長は、上司に食らいついた。会社が週休2日の実施に踏み切ったことに強く反発した。「土日に働けば確実に営業成績を伸ばせる」との自信があったからだ。しかし創業者で当時の社長、藤河次宏会長は、週休2日を断行した。土曜に業務が必要な場合は、平日に代休を取得させ、週休2日を実現させた。

こ業績維持と労働環境維持のバランスに苦心する宮里社長

業績維持と労働環境維持のバランスに苦心する宮里社長

拓新産業の事業は、建設現場で必要な足場やプレハブ事務所などを貸し出す事業だ。当時の日本経済はまだ力強く成長を続け、建設業も拡大を続けており、世の中では猛烈社員が良しとされていた時代だった。営業成績で社内1番を目指していた宮里社長は「他の会社でやっていないことをすることで、一流の中小企業を目指すということを理解するのに時間がかかった」という。

しかしまもなく拓新産業の「働き方改革」は、確実に成果をあげ始めた。若い人材の志望者が目に見えて増えてきた。19年前に入社した小金丸正人さんは、「働きやすさ、仕事とプライベートを分けられる環境を探した結果、入社を決めました」という。小学5年生の時から続けている空手道で今でも週2回、汗を流している。「週末には県外遠征とかもありますので、有休を合わせて、3~4日会社を休んで出かけています」という。

最近の採用枠は3~4人だが、60~70人の応募があるという。人材不足が深刻化する中小企業が増えている中、拓新産業の公式サイトに採用日程を掲示すれば、人が次々と集まる人気ぶりだ。企業合同説明会にはほとんど参加しないことから、採用コストはほぼゼロだという。

顧客にも理念を説明、有休中の業務を職場全体でサポート

拓新産業の休みの取得促進は徹底している。有給休暇の取得が進まない人は、社内の掲示板に名前を張り出したり、呼び出して直接注意をしたりする。残業も基本的に認めない。たとえば、定時以外に顧客が、取引の相談に来ても「今は業務外ですので、明日来てください」と、出直してもらうという。宮里社長は「『客が来ているのにどういうことだ』と文句を言われることも多かったが、今では次第に理解されている」と話す。

総務部の溝口有希さんは、これまで2回、産休・育休を取得した。「秋からは3人目の出産のために産休に入ります」と笑顔で話してくれた。

この秋には3人目となる産休に入るという溝口さん

この秋には3人目となる産休に入るという溝口さん

就職活動をしていた時から、結婚・出産をしても働ける職場環境に惹かれていたという。育休明けの時は、時短勤務で、家庭との両立を図るなど、無理なく仕事を続けられたという。もちろん、産休育休をとれば、仕事を周囲に任せることになる。「それでも同僚が出産を喜んで励ましてくれるくらい、環境がいいです」と話す。

拓新産業の事務職は、産休育休に備え、空いた仕事を誰でも埋められるように、能力開発と人事配置をしている。こうした工夫なしに、優良な職場環境は守れない。

小金丸正人さんは、19年前に、仕事とプライベートをしっかりと分ける社風を重視して入社したという。帰宅後には週2回空手道場に通うなど、業務を終えたら自分の時間をしっかり楽しんでいる。会社では足場材の積み下ろしや検品作業を担当しているが、同僚らの休暇も管理しており、仕事の進展に支障のないように休暇を割り振りすることで、会社の理念を支えている。

仕事とプライベートを分ける社風を重視して入社した小金丸さん

仕事とプライベートを分ける社風を重視して入社した小金丸さん

家族で余暇を楽しむ溝口さん。これまでも産休取得などで育児と仕事の両立を続けている

家族で余暇を楽しむ溝口さん。これまでも産休取得などで育児と仕事の両立を続けている

農園でブドウ狩りを家族で楽しむ小金丸さん(左)

農園でブドウ狩りを家族で楽しむ小金丸さん(左)

業績維持に欠かせない社員同士のコミュニケーション

長い時間をかけて作り上げた職場環境だが、宮里社長は課題も感じているという。事業環境の変化への対応だ。最近まで拡大を続けてきた建設業界も、次第に頭打ちになってきたという。ライバル社との競争も激しくなり、売り上げも右肩上がりとはいかない時代に入りつつある。

宮里社長は「この先、事業が厳しくなれば、オンとオフのバランス重視とばかりは言っていられなくなる。社員には『ぬるま湯につかっていてはいけない』と常々言っている」と話す。今後の事業環境を考えると、社員が更に効率的に仕事に取り組むことが求められる。

また、働き方改革を一歩進める必要性も感じているという。社員間のコミュニケーションの促進だ。宮里社長は「社員に『伝える力』が不足していることを感じる」と指摘する。良好な職場環境は確保したいが、社員同士で意見を戦わせたり、上司を説得させて新たなアイデアを提案したりする積極性が少し足りないと感じている。安定した業績維持を伴わないと、これまでの職場改善が無に帰してしまうことへの危機感を、社員と共有したいと考えている。

30年前から始めていた拓新産業の「働き方改革」。時代の流れで注目されるようになったが、事業環境の変化への対応もあり、社員の幸せと仕事のバランスの維持は、簡単ではなさそうだ。

case study拓新産業 働き方改革のポイント

  • 01休暇取得の徹底

    有給休暇の取得率が低い社員は、社内で名前を掲示したり、呼び出したりして、取得をうながす。土曜勤務の場合は、平日に代休を取得させる。

  • 02仕事の属人化防止

    出産や育児などの休暇取得で業務に支障が出ないようにするため、職場全体で業務を補完する体制を整える。特定の人に仕事のノウハウが集中しないように、能力開発や人事配置を行う。

  • 03顧客に経営方針への理解を求める

    休暇取得推進や残業なしの経営方針を顧客にも理解してもらうために、営業マンが直接出向いて、業務時間についての基本的な考えを説明する。

company data企業データ

拓新産業株式会社

  • 社長 宮里誠
  • 本社・福岡市早良区
  • 従業員数約65人
  • 創業1977年
  • 資本金4500万円
  • 建設現場で使う足場材やプレハブ事務所などを貸し出す事業を、福岡市内を中心に展開。2017年に福岡県雇用管理改善企業・職場表彰(よか・ろう・もん表彰)受賞。

経営者略歴

宮里誠(みやざと・まこと) 1972年沖縄県南城市佐敷に生まれる。97年に九州国際大学経済学部卒業。97年4月、拓新産業に入社し営業担当となる。2015年4月取締役に就任、専務を経て18年7月に社長就任。新入社員だったころは、営業成績にこだわる熱血社員だったが、今は就業時間が終わる17時半になると率先して退社し、週2回はテニスを楽しむ。昨年は福岡マラソンにも出場したスポーツマン。