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Global Mobility Service 株式会社

業種

情報通信業

地域

関東

従業員数

100〜300人

File.24

柔軟な働き方で社会課題を解決 ―IoTとFinTechで事業展開「Global Mobility Service」の場合―

テレワークの推進

2020.09.10

Global Mobility Service 株式会社

3年間で車のローンを完済したタクシードライバーを祝うGMS主催のパーティ。家族も壇上に上がり、中島徳至社長(右端)が表彰した=2020年1月、フィリピンの首都マニラで

 東京都港区の増上寺近くの本社オフィス入り口に、ずらりと飾られた賞状や盾の数々。Global Mobility Service(GMS)の独創的な技術とビジネスモデルは、経済産業大臣賞、中小企業庁長官賞などを受賞している。アジア諸国で展開する事業への注目度の高さ、将来性への大きな期待がうかがえた。
 GMSは、車を買いたくてもローンを利用できなかった低所得者向けにサービスを提供する。GPS機能がついた「MCCS」(遠隔起動制御装置)を独自に開発。この端末を車に搭載することを条件に、提携する金融機関から融資が受けられる仕組みをつくった。
 ローンの支払いが滞ると装置を起動させ、遠隔操作により、安全な場所で車が止まっている時にエンジンがかからないようにする。入金が確認されると再び作動するので、利用者は滞納しないよう心掛けるようになる。
 このIoT端末と金融機関をつなぐFinTechサービスで、低所得者は仕事に必要な車が所有でき、銀行は貸し倒れを防ぎながら融資先が増やせ、中古車から新車への切り替えが進めば大気汚染の解消にもつながるという、社会課題解決型のビジネスに取り組んでいる。

 きっかけはフィリピンだった。タクシードライバーの多くは、車をオーナーから借りて仕事を始めていた。レンタル料が高く、その支払いで生活苦から抜け出せない。そうした実情を知った中島徳至社長(53)が2013年に同国で事業を開始。カンボジア、インドネシア、日本へと広げてきた。
 「はたらけど、はたらけど猶わが生活楽にならざり、という状況は、世界にはまだたくさんあります。まじめに働く人が正しく評価される仕組みをつくりたいと思いました」。創業の志をそう語る。

「社内のリーダーよりも、社会のリーダーに育ってほしい」と社員への期待を話す中島徳至社長

全社員の勤務状況を役員会で共有

 設立7年で従業員数は世界で約270名。そのうち日本人は約50名で転職者が6割を占める。「いろんなバックグラウンドを持たれた方が集まる組織なので、働き方への取り組みも柔軟さが重要になってくる」と取締役執行役員で管理本部長兼CFOの大島麿礼さん(44)。「年次有給休暇の取得も積極的に進めています」と話す。
 勤務は11時から16時までの5時間をコアタイムとするフレックスタイム制度を導入している。出勤、退勤時に打刻ボタンをクリックする勤怠管理ツールで、労働時間や休日の取得状況などを把握する。その全社員の勤務状況を、2018年度から毎月、各部門トップが集まる執行役員会で共有している。45時間を超えて残業した社員を黄色に色づけした前月の勤務記録を、会議室のスクリーンに映し出す。義務化された年5日の年休取得が進んでいない社員も共有。当該役員は社員に行動計画の提出を促し、完全消化を進めた。
 「この社員は残業が多いから減らせという近視眼的な議論ではなくて、社員をどうサポートするかを役員全体で考えるのが目的です」と大島さん。事業本部の開発担当者の残業が多ければ他部門の技術者がサポートに入る。そうした助け合いで一体感も生まれ、業務効率が上がり、結果、45時間超の残業を2か月続ける社員はいないという。
 事業本部長の長澤亮さん(35)は昨年2月、約10年間勤めた大手金融機関から転入した。最初に戸惑ったのは服装だ。紺のスーツにネクタイで出勤していたのが、ジーパン、Tシャツにパソコンを持ち歩くスタイルに。勤務時間の融通が利くため、前職では難しいとあきらめていた長男の小学校の入学式に夫婦で参加できた。「ワーク・ライフ・バランスの視点から勤務や休みを考えられるという変化は大きかったです」

働き方では「社員のニーズをしっかりと受け止められる組織でありたい」と語る取締役の大島麿礼さん

スウェーデンでリモート勤務

 働き方の柔軟さは、新型コロナウイルス感染症の対応にもつながった。
 高下巧磨さん(33)は妻の転職に同行し、昨年12月からスウェーデンの首都ストックホルムに移り住んで完全リモートで働いている。GMSのサービスの基礎となるプラットフォーム開発を担当するチームの責任者だ。
 日本とストックホルムの時差は夏場で7時間。朝7時に起床し、週2、3日は9時から3時間ほどリモート会議。その後、ランチなどの休憩をはさんで午後7時ごろまで仕事をする。必要な時は同僚とチャットツールで会話。時差の関係で互いの作業確認が翌日になる不便さはあるが、リモートだからこその良さも感じている。
 「リモートだとオンライン上に伝えたことの証跡が残るので、口頭でよくある、言った、言わない、聞いていないが起きません」 大手IT企業から3年前にGMSに転職した。妻の着任が決まった昨年夏、働き続けたいと思い、「リモートで仕事ができませんか」と上司に相談した。開発力を認める人材からの申し出に、会社側は「働ける仕組みをつくろう」と動き、インフラ整備やセキュリティ環境を整えた。

ストックホルムで勤務する高下巧磨さん。「辞めてもらったら困ると言ってもらえて有難かったです」

 年が明け、新型コロナウイルス感染症の影響で3月末から技術部門は全員在宅勤務に。高下さんをきっかけにした体制整備が結果的に、リモート勤務のスムーズな移行につながった。「社員からの働き方のニーズを受け止めて対応したが、これは将来の体制づくりにつながるという思いもあった。それが、コロナの状況で活かされました」(大島さん)

コロナ禍で社内での食事代補助

 外食を控えてオフィス内で食事をするなら、ランチは千円、夕食は2千円まで会社が負担する。電車から車通勤に切り替えたい人には、会社近くの駐車場代を全額補助する━━。新型コロナウイルス感染症対策ではユニークな感染防止策を社員に提案してきた。また、5月半ばには、緊急事態宣言解除後の働き方について、全社員にアンケートした。「出社にストレスを感じるか」「リモートワークの課題と利点は」などの質問に返ってきた声を、今後の働き方に活かそうとしている。
 大島さんは「働く環境の満足度が高くなかったら、お客様を満足させる仕事はできないと思います。社員が会社に期待することと、会社が許容できる範囲をすり合わせながら、働き方の制度を作っていきたい」と話す。

一部在宅勤務続行中。部門の垣根なく同じフロアで仕事をする
表彰状の多さが事業の注目度の高さを象徴

多様な人材が働ける場に

 GMSは上場企業15社以上と資本業務提携を結んでいる。それらの企業から出向者を受け入れたり、専門性の高い退職者と週1日勤務のアドバイザリー契約を結んだりして、知見やネットワークを取り込んでいる。
 大学生のインターンの受け入れも積極的だ。フィリピンには常時3、4人派遣、長い学生は1年間駐在する。その滞在費はすべて会社負担だ。
 柔軟な働き方と多様な人材が、グローバルな事業展開の原動力になっている。

フィリピンでインターンシップ中の女子大学生。新卒採用のエントリー数は年々増えている

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

役員会で全社員の勤務実態を共有

効果
2018年度から毎月の執行役員会で、社員全員の残業時間や有休消化状況などを報告。仕事の割り振りや人員の再配置を考える場に。
取組2

コロナ禍前にリモート勤務の整備完了

効果
海外に移住する社員からの要望をきっかけに昨年、リモート勤務に対応するインフラ整備を終えた。多様な働き方への取り組みが、コロナ禍で活かされた。
取組3

社員の「働く環境の満足度」を高める

効果
新型コロナウイルス感染症対策として、社内で昼食や夕食をとる人に食事代を補助、電車から車通勤に替えた人は駐車料金を会社が負担。緊急事態宣言解除後の働き方の要望を全社員にアンケートし、対応を検討。

COMPANY DATA企業データ

「真面目に働く人が正しく評価される仕組み」を創造する

Global Mobility Service 株式会社

代表取締役 社長執行役員/CEO:中島徳至
本社:東京都港区
従業員数:約270名(正社員251名、非正規雇用労働者約20名=2020年5月末現在)
設立(創業):2013年
資本金:28億1,122万円
事業内容:独自に開発したIoT端末を活用し、金融機関と連携して新興国の貧困層・低所得者などに、ローンを組んで車が購入できるFinTechサービスを提供。

経営者略歴

中島徳至(なかしま・とくし)1967年生まれ。
東京理科大学大学院修了。1994年に創業した電気自動車メーカー「ゼロスポーツ」をはじめ、これまで3社を起業。世界最大のグローバル起業家コミュニティであるエンデバーから、日本人6人目の「アントレプレナー」に選出される。岐阜大学大学院工学研究科客員教授。