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株式会社i-plug

業種

情報通信業

地域

近畿

従業員数

100〜300人

File.46

目指すは「場所や時間にとらわれない働き方」 ―逆求人サービス運営「i-plug」の場合―

テレワークの推進

2020.12.16

株式会社i-plug

「社員の満足度が上がれば、提供する価値も上がる」という観点で働き方をとらえている

 より働きやすい職場にと、さまざまな企業が働き方改革に取り組んでいるなか、斬新な取り組みが目を引くのが、企業が興味を持った学生にオファーする新卒逆求人サイト「OfferBox(オファーボックス)」を運営する「i-plug(アイプラグ)」(大阪市淀川区)だ。同社の働き方改革の取り組みを取材した。

在宅勤務がごく通常の勤務形態として定着している。新型コロナウイルス感染症の影響が顕在化した後は、さらに在宅勤務を選択する社員が増えた

「給与はアウトプットの対価」が基本的な考え方

 同社を率いる中野智哉・代表取締役兼CEO(最高経営責任者)は、人材派遣業界で10年間サラリーマンをした後、2012年に仲間3人で会社を立ち上げた。新卒社員が入社数年で退職する現実を目の当たりにした中野さんは、雇用のミスマッチの原因は「学生と大学、企業の『つながり』にある」と考え、逆求人サイト「オファーボックス」をつくり、運営に乗り出した。サイトでは学生が企業にアプローチする従来の採用スタイルではなく、構築している学生のデータベースから企業側が会いたい学生にアプローチするシステムを構築している。同年に運営開始後、登録学生数は増え続け、2020年8月時点で14万人を超えている。

 中野CEOはこの間、働き方改革も進めてきた。取り組みに大きな影響を与えているのは、「会社と社員の関係の考え方」だ。前職時代に子育てをしながら勤務する女性がいた。ある時、子供が発熱して急きょ保育所に迎えに行く必要に迫られた。その時の会社の対応と彼女の困惑ぶりを目の当たりにして強烈な違和感を覚え、「なぜ仕事はオフィスでないといけないのか」と疑問を持った。

 会社は顧客に価値を提供するために存在している。そして、その価値を生み出すのが社員であるがゆえ、社員の満足度が上がれば提供する価値も上がる。働いた時間内にきちんとアウトプットを出しさえすれば、どの場所で仕事をするのか、一日何時間働くのか、どの時間帯に働くのかといったことは関係ない――。中野CEOはそう考えた。

 「出したアウトプットの対価として給与をもらう。私も社員も、会社とそういう契約をして働いている。会社が私のものだという考えは持っていません。これが私たちのスタンスです」

給与は雇用形態で差をつけない

 では、具体的にどのような働き方改革が進められているのか。

 まず、従業員にとって大切な給与だが、雇用形態で差をつけるのではなく、同じ条件で算出される。「同じ仕事をしているのに雇用の形態によって賃金が違うのはおかしい。同じであるべき」と中野CEOは強調する。

 同社の給与形態を詳しく見てみると、社員は月間の所定労働時間について会社と契約を結ぶ。社員の年収(能力や成果などに応じてベースとなる額を設定)を1920時間(1日8時間×月20日×12カ月)で割って時給を算出。この時給に、契約した所定労働時間を掛ける。残業代については「みなし労働手当」を20時間に設定。20時間を超えた分は、通常の残業代として支給される。

 同社には賞与がない。「賞与というのは、言ってみれば給与の後払いシステム。社員に支払われないリスクを負わせるものであり、社員にとっては不利になる」と中野CEOは説明する。「例えば、想定年収を15で割り、そのうちの12を毎月の給与で、3を夏と冬の賞与で支払うという考え方をとる日本企業は多い。つまり3は支払いを待ってもらっている。キャッシュフローの点からしても社員に不利。こうした社員にリスクや不利を負わせるようなことはしない。これが基本的な考え方です」(中野CEO)。

「社員にリスクや不利を負わせるようなことはしない、というのが経営の基本的な考え方です」と話す中野智哉CEO

柔軟な働き方ができる「短時間正社員制度」

 同社の勤務形態は非常に多様である。例えば、同社には「短時間正社員」という制度がある。その言葉通り、短時間の勤務形態だ。子育てや介護など、なんらかの事情で一定期間、フルタイム(8時間)の勤務が難しい場合、この働き方を選択できる。

 給与が時給制のため、勤務時間が短くなれば、その分収入が減ることになるが、期間や勤務時間について話し合いを常に行い、本人の意見を尊重しながら事情が変われば、その時々に伸ばしたり短縮したりできる。

 オンラインセールスチームでマネージャーを務める篠原萌さんは、この制度を利用した一人だ。篠原さんは、2年前に中途採用で入社した。当時、子供が1歳と3歳だった。「フルタイムで働きたかったのですが、子育てもあり難しかった」といい、入社と同時に6時間勤務を選択した。1年半経ったタイミングで7時間とし、その半年後にフルタイム(8時間)とした。「子供が小学校高学年くらいにフルタイムに戻せたらいいと思っていたが、こんなに早く戻せるとは思ってもみなかった。この会社でなかったら実現できなかったと思う」と率直な思いを口にする。在宅勤務が可能なことから、通勤時間も勤務時間に充てられることも、フルタイムに戻せることができた背景だという。

「出社は月に1~2回程度です」と語る篠原萌さん。勤務時間のうち在宅勤務が95%を占めるという
社員のワーク・ライフ・バランス実現を支援する同社。在宅勤務や時短勤務などに加え、子育て支援策も充実させている(写真は篠原さん親子)

上司に伝えるだけで在宅勤務OK

 同社では、在宅やサテライトオフィスで勤務する社員も多い。とはいえ「制度」として定着したのは比較的最近だ。在宅勤務する社員が増え、あとから制度を整備したという。「何時から何時まで会社にいないと仕事ができないといった考えがないので、制度を整備しようという考えが当初はなかった」と中野CEOは説明する。

 在宅勤務をするのに特別な申請なども必要ない。それぞれのチームで定めた出社ルールの範囲内で、「明日は在宅勤務します」と上司に伝えれば、それでOKだ。先ほど登場した篠原さんは現在、月間の勤務時間のうち95%が在宅勤務。「めったに出社しない」という。

 新型コロナウイルス感染症の影響により、在宅勤務を選択する社員が増えつつある。以前は、同社全体の在宅勤務比率が50%弱だった。感染状況でフェーズを分けて対応し、緊急事態宣言が出されている間は原則、全社員に在宅勤務を指示。宣言解除後は緩和したが、それでも2020年6月の在宅勤務比率は約90%に達する。「完全在宅勤務」となった社員も珍しくないそうだ。

 それでも、中野CEOは社員の管理面で一切心配していないと語る。顧客に価値を提供する。その意識さえきちんと持っていれば、結果は変わらない。「管理コストを省けるだけ生産性が上がる」と現在の状況を冷静に分析している。

 また、同社には残業がほとんど存在しない。「残業が発生するのは人が足りないから。これは採用で補充すべきで、会社の責任。会社が対処すべき問題を先送りし、社員に負担をかけさせている状態だ」と中野CEOは言い切る。

オフィスの一角にはカウンター式のテーブルもある

充実した子育て支援

 同社の社員は146人で、男性の方が若干多い。平均年齢が32.4歳と若いこともあって、特に子育て支援制度は充実している。育休・産休制度はもちろんだが、時短制度や在宅勤務を活用することで、状況に合わせて自由度の高い働き方ができる。例えば、「育休中に週1日だけ出勤する」ということも可能だ。

 育休から復帰した社員の時短勤務は、法律では子供が3歳になるまでとなっている。しかし、同社では何歳であろうが時短勤務が可能だ。女性社員の産休育休の取得率は100%で、職場復帰率も100%となっている。

 出産予定日の6週間前から取得できる産前休業期間において、法定上は会社に賃金の支払い義務はないが、同社では有給にしている。また、小学校就学前の子どもを持つ社員が5日間を限度に取得できる看護休暇についても、有給にしている。

 社員のワーク・ライフ・バランスを支援する同社だが、働き方改革推進の手を緩めてはいない。中野CEOが追求したのが、「場所や時間にとらわれない働き方」だ。社員による自己管理こそが組織の究極形態。そんな思いから、同社では2020年9月から、場所や時間にとらわれない働き方を推進するため、「あいはた」制度を導入した。「i-plug(アイプラグ)の働き方」を略した言葉を使った、この制度はコアタイムを設けない「スーパーフレックス制度」、働く場所をオフィスに限定せず、自分で決めることができる「フリーロケーション制度」、それに伴う諸経費を賄う「ニューノーマル支援金制度」の3本柱で構築されている。

 「仕事をする時間も場所も、全部社員が自分で決める。会社が管理するのでなく、社員が自分で管理する。結果、チームのパフォーマンスが上がっていく。そんな分散型の仕組みです」。同社の改革の歩みは、これからも続いていきそうだ。

 

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

雇用形態にとらわれない賃金体系

効果
同社では雇用形態にとらわれない賃金体系をとっている。フルタイムで働く社員も短時間勤務社員も、同じ支給条件で、基本給の算出を行い、また手当を支給している。
取組2

柔軟な勤務形態

効果
月の勤務時間を自由に決められる「短時間正社員」制度。子育てや介護など、フルタイムの勤務が難しい場合、その期間だけ勤務時間を短縮でき、勤務時間や期間に制限はない。また、「仕事をするのに場所、時間は関係ない」という考え方から、在宅勤務やサテライトオフィスの利用がかなり浸透しており、特別な申請などは必要ない。ほとんど出社しない社員も珍しくない。
取組3

充実した子育て支援

効果
産休・育休制度はあるが、短時間勤務や在宅勤務を組み合わることで、あえて休職しない選択肢もある。法律の規定の枠を越え、育休からの復帰者は子供が何歳でも短時間勤務ができ、出産前の保健指導や健康診査のための時間、復帰後の看護休暇はすべて有給にしている。男性、女性にかかわらずワーク・ライフ・バランス実現を手厚く支援している。

COMPANY DATA企業データ

つながりで世界をワクワクさせる。

株式会社i-plug

代表取締役CEO:中野智哉
本社:大阪市淀川区
従業員数:146人(2020年7月現在)
設立:2012年4月
資本金:2億1,500万円
事業内容:新卒逆求人サイト「OfferBox(オファーボックス)」シリーズの運営など

経営者略歴

中野智哉(なかの・ともや)
1978年兵庫県生まれ。2001年中京大経営学部卒。求人広告業界で10年間勤務後、2012年i-plugを設立しCEOに就任。2012年グロービス経営大学院大学経営研究科経営専攻修了(MBA)。