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株式会社中田商事

業種

その他

地域

近畿

従業員数

50〜99人

File.74

ドライバーの給与を歩合給制から時間給制へ。
多様な就業形態で女性にも活躍の場を「当たり前のことを、当たり前にする」-中田商事の場合-

時間外労働の削減

2021.10.29

株式会社中田商事

 中田純一社長は、若い頃「経営者になること」を目標に掲げていた。2005年に株式会社中田商事を創業。さまざまな事業を興す中で、自分ならもっといい会社が作れるとの想いが、起業の原動力だったという。 しかし、気付けば売り上げだけを追う経営で「会社もドライバーも利益が出ればいいという発想だった」と中田社長は当時を振り返る。これまでの経営は、自身の肌感覚やひらめきに頼ってきたため、経営は次第に「八方ふさがり」(中田社長)となっていく。
 このままでは会社経営を続ける価値がないと変革を決意。キーワードは「実行と改善」。まずはやってみる、そして改善をくり返していくうち、次第に自社のあるべき将来像が見えてきたという。

運送業界の慣習、歩合給を時間給へ完全移行

 中田社長が変革を決意した時、当時自身の会社にもあった運送業界の慣習や先入観といったイメージを変えることを考えたという。それには何より知識が必要と、愛知県トラック協会主催の物流大学校に入学。物流・運送業について学び直し、修了時には物流経営士の資格も取得した。 「起業してから今も、実行・修正が習慣づいている」と中田社長。物流大学校での学びを、自社で即実践。テコ入れして初めてわかることもあり、その都度改善していくことを毎月くり返していたという。「毎月何かが変わるので、当時の従業員は大変だったと思う」と中田社長は笑う。

 多くのトラック運送会社におけるドライバーの給与のほとんどが歩合給だ。特に中小物流企業にその傾向が強い。歩合給の基準は会社によって異なるが、共通しているのは、走った分の売り上げに応じて給料がもらえるという、ドライバーの働きぶりが反映されることにある。 しかし、仕事の減少による価格競争、安全性の向上に向けた管理体制を整備していく中で、中田社長は歩合給制の弊害を感じていたという。「改善基準告示でドライバーの拘束時間に上限が決められているため、これまでの働き方では売り上げを伸ばすことが難しかった」と話す。
 そこに押し寄せたのが、リーマンショックによる世界経済の落ち込みだ。同社も経営の存続を賭け、燃料サーチャージやキャンセル料の徴収といった、これまでの物流・運送業界の常識を覆す施策を打ち出し、変革を継続。2010年には同社の「大転換期」(中田社長)となる、歩合給制から完全時間給制への移行を果たした。

大転換期の当時を振り返り「会社存続の瀬戸際。逆に業界の常識を覆すチャンスだと思った」と中田純一社長

客観的な「データ武装」で、従業員を説得

時間給制導入のおよそ半年前、中田社長は従業員に向け、説明会を開いた。「現在は、給与が安定する時給制にしてよかったという声が圧倒的。しかし当時は、給与が下がるのだろうと、どう説明しても腑に落ちないドライバーがほとんどだった」という。

 そこで中田社長が活用したのが、さまざまなデータだった。同社は創業時から、ドライブレコーダーやデジタルタコメーター(デジタコ)などのIT化を推進。中小物流業界の中でも、いち早くデータの重要性に気付き、蓄積を進めてきた。「ただしどのように活用するかは決めず、データだけを取ってきた形」と中田社長。 これらの各種データを基に、これまでの歩合給を時間給に置き換えた場合のシミュレーションを作成したのが、情報管理室 室長の藤森純子さんだ。

「ITを活用して業務の効率化を含め、会社の役に立ちたい」と話す、情報管理室 室長の藤森純子さん

「私が入社する以前から蓄積されてきた膨大なデータは、業務、労務、安全管理すべてのベースとなります。それらのデータを収集し、乗務員の業務別に半年分のシミュレーションを算出しました」と藤森さん。 改善基準告示により、ドライバーの拘束時間には上限が設けられている。しかしドライバーは、働いた分だけ稼げる歩合給制で、長時間労働が当然と考えている者がほとんどだった。「まず、この部分について納得してもらうための根拠が必要だった」と中田社長は説明する。

 その根拠となったのが「客観的で嘘がない」(中田社長)数値データだ。「これまで給与に直結する労働時間の算出は、ドライバーの申告がベースだった。ここで初めて、蓄積してきたデータが役立った」と中田社長。 藤森さんは、ITを活用してデータを基に業務を数値化。従業員には、半年分のシミュレーションを提示し、給与の波が大きい歩合給制よりも、安定する時間給制のメリットを丁寧に説いていった。
 中田社長は「歩合給は、将来的に仕事が右肩上がりで増えていくことが前提。リーマンショックで仕事が減り、売り上げが落ちたことで、歩合給を維持するのは難しいと気付いた」と振り返る。 「給与が下がる」といった不安の声には、中田社長に指示されていた「給与を今と同等、若しくは必要に応じてプラス5%までなら許容範囲」(藤森さん)と説明。どうしても理解が得られず、会社を去った者もいたというが、最終的には中田社長の決断で完全時間給制に移行した。

 同時に改革を進めたのが、人事査定の高度化だ。元々あった勤怠管理システムを、藤森さんら管理部が中心となって中田商事独自のものとして作り上げた。 デジタコと連動しているのが特徴で、安全面、車両整備、モラル、エコドライブなどを数値化して人事査定できる仕組みだ。藤森さんは「評価基準が公平になったことと、従業員が今の自分に不足しているもの、時給アップのための課題も理解しやすくなりました」とその効果を話す。
 時間給制の導入で、労働時間の管理が格段に向上。また、走った分だけ給料がもらえる歩合給制の廃止でドライバーの拘束時間も減少したことから、年次有給休暇の取得促進にも繋がった。コロナ禍の影響で若干の変動は出ているものの、直近の数年間で年次有給休暇の取得率は70%を達成。働き方に合わせてシフトを組むローテーション制も整備し、無駄な残業も年々減少している。 「いずれも働く上で、当たり前のこと。『運送業だからできない』ことをなくしてきた」と中田社長は胸を張る。

当たり前のことを、当たり前にする

 運送業界の常識について「他の業界では通用しないと感じることも多く、業界そのもののマイナスイメージも先入観としてある」と中田社長。そんな想いから、広い視野で「当たり前のことを当たり前にできる」環境づくりを推し進めている。 人材の確保においても、同社は試行錯誤を重ね、その結果、採用基準を即戦力ではなく、同社で働きたいという意欲と企業風土になじめるかどうかにシフトさせた。すると、次第に入社を希望する人材の層に変化が現れたという。 高給を望むベテランドライバーから、未経験者や育児・介護といったさまざまな理由で働き方に制限を抱える女性の割合が増加。中田社長は「素直で積極的な人が応募してくれるようになった」と喜ぶ。

 ドライバー未経験の採用者が増えたことで、2ヵ月間、先輩ドライバーからマンツーマンで添乗指導を受ける独自の教育プログラムも充実させた。指導者も研修センターで学んでもらうなど、教える側の意識改革にも努め、会社全体で新人を育てる雰囲気を高めていった。 その結果、定着率が増し、「安定して働ける会社」の認識が徐々に浸透。従業員や取引先から、大学卒や若年層の入社希望者を紹介されるといった雇用ケースが増大し、人材の好循環も生まれている。

 四日市営業所に勤務する運営管理マネージャーの鈴木ゆりさんは、1日4時間のパートタイマー契約で入社。「子どもの成長に合わせて、就業時間のスライドを相談したら、柔軟に対応してくれました」と話す。 同社は「今ある仕事に従業員を当てはめるのではなく、それぞれの働き方に合わせて仕事を作る、配置するというイメージ」(中田社長)で、従業員に寄り添ったフレキシブルな働き方ができることが強みでもある。

 鈴木さんは、子どもが中学に上がるタイミングで正社員となった。運送会社などで配置が義務づけられている国家資格「運行管理者」の資格も取得。現在は、運行管理全般はもちろん、営業所内での人事や配車、顧客対応など、さまざまな業務を担う。 「パートタイマーで入ったにも関わらず、本当によくしていただいた。愛着もあり、恩返しも込めて長く働いていきたい」と感謝する。

「運送業は男社会というイメージが、いい意味で今はまったくありません」と笑顔の鈴木さん

 2018年には、内閣府主導の企業主導型保育施設「どんぐり保育園」を開設。子どもを預けて働けるという、従業員の福利厚生の一環としてスタートした。 しかし、事業を進める中で、保育業界全体の保育士に対する労働環境を知り、外部に委託していた運営を自社で行うことに決めたという。 「運送業で取り組んできた、労働時間や環境改善のノウハウを保育園事業にも導入して、働き方に悩む女性などの雇用が新たに生み出せた」と中田社長。

 中でもローテーション制の導入は、保育士の労働環境改善に劇的な効果をもたらした。朝は保育園で勤務、昼から物流業務に携わるといった働き方を希望する人材を多く確保できたことで、保育士の負担軽減が実現。「さまざまな事業を手掛けたことが、就業環境の選択肢を増やすことに繋がった」と話す。 2020年には、女性活躍推進法に基づく厚生労働省の認定制度「えるぼし」の二つ星を獲得。女性が働きやすい職場づくりに配慮を重ねている。

物流業、保育園事業の他、NPO法人「スポーツクラブどんぐり」、倉庫業なども展開している

 先入観を持たれがちなトラックドライバーのマイナスイメージは、中田商事にはない。同社で働くドライバーの働き方や仕事に対する意識が「偏りのない、より当たり前の感覚」(中田社長)になっているからだという。「最近は特に、仕事も趣味も両立させたいパラレルキャリア重視の人材が増えている」と語る。就業形態の多様化は、より良い人材の確保と利益を生み出す基礎にもなっている。

 同業者からは「中田商事は、次に一体何を始めるのか」と、期待を込めて注目されているという。「当たり前のことを当たり前にすれば、経営者の負担は軽くなる」とは、中田社長の持論だ。取組と改善を続け、運送業のイメージを変えていけば、会社や業界の成長にも繋がると考えている。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

ドライバーの歩合給制を時間給制に完全移行

効果
「走った分だけ給料がもらえる」ドライバーの歩合給制を時間給制へ。デジタルタコメーターなどを基に蓄積してきたデータを収集。乗務員の業務別に算出した半年分のシミュレーションを示しながら、説明を重ねた。労働時間の管理がしやすくなり、残業削減、年次有給休暇の取得率もアップ。
取組2

管理システムをIT化し公平な人事査定を実現

効果
データに現れる数字から、改善の答えが導き出せるという考え方の基、自社独自の勤怠管理システムを構築。デジタルタコメーターと連動。安全面、車両整備、モラル、エコドライブなどを数値化した人事査定が可能に。評価基準の公平化で、従業員の就労意欲の向上を促進。
取組3

就業形態の多様化で働きやすい環境を構築

効果
運送業や倉庫業、保育園事業といった事業展開を進め、従業員のライフスタイルに合わせた就業形態を数多く設定。今ある業務に従業員を当てはめるのではなく、働き方に合わせた業務に配置することで、安定して働ける会社である意識が浸透。新卒や未経験者、女性の比率が上がり、定着率も高くなっている。

COMPANY DATA企業データ

物流・運送業の枠にとらわれない事業展開で、多様な働き方を提案

株式会社中田商事

代表取締役社長:中田純一
本社:三重県伊賀市
従業員数:66名(2021年7月現在)
設立:2000年4月
資本金:800万円
事業内容:一般貨物運送事業・軽貨物運送事業・貨物取扱事業・倉庫業・産業廃棄物収集運搬業・特別管理産業廃棄物収集運搬業・中古車販売業・企業主導型保育事業

経営者略歴

中田純一(なかた・じゅんいち) 
1963年三重県生まれ。1995年創業、2000年に法人設立。同時期からITを活用した経営術を展開。積極的な設備投資(デジタルタコメーター、ドライブレコーダー、IT点呼等)、データ分析を基に、2010年に乗務員の「完全時間給制及び人事考課制度」を施行。経営理念に基づき、業界の慣習にとらわれない、革新的な経営手法を行っている。物流経営士第525号取得。