休眠美容師を復活させた「染髪専門」の新発想
―美容室 ウノプリールの場合―

柔軟な勤務形態

2019.09.20

かつて美容師は、「カリスマ美容師」ブームであこがれの職業だった。しかし最近では、その労働環境の過酷さから、なり手不足が深刻化している。人口減少による市場縮小も始まっているが、大阪市都島区に本社を置く「ウノプリール」は、試行錯誤を繰り返しながら、多様な働き方を取り入れた雇用創出と事業拡大で成果を上げつつある。

過酷な労働環境で離職、悩める「元美容師」応募続々

「美容師になったばかりの5年間は、毎日早く辞めたいと思いながら生活していました」と、ウノプリールの伊勢地亮社長兼グループCEOは、自分自身の美容師時代の経験を振り返る。

美容師は、将来的な職業計画を描きにくい職業と言われている。男性美容師なら、経験を積むと独立、女性なら結婚・出産を契機に退職というコースが、ぼんやりとあるだけだった。若いうちのサービス残業は当たり前。多くは土日も無給の研修があるうえ、社会保険がないなど、過酷な労働環境が常態化していた。

カラーリング専門の美容室を展開するウノプリールの伊勢地亮社長

カラーリング専門の美容室を展開するウノプリールの伊勢地亮社長

こうした事情から、カリスマ美容師ブームが終わると、美容師になりたいという若い人が減少し、さらに資格をもっていながら職場を去って行く「休眠美容師」と呼ばれる約75万人の人材が滞留しており、将来がみえにくい職業となっていった。

このような状況を打開しようと伊勢地社長が挑戦したのは、染髪専門業態の開発だった。カットもブローもなし、シャンプーとカラーリングにサービスを特化した。店舗で働くスタッフには、休眠美容師を積極的に採用した。美容師は一度現場を離れてしまうと技術力に不安が出てしまう。「最近の流行のセンスについていけない」「厳しい業務に耐えられない」などの不安から、復職を尻込みする人が多い。伊勢地社長は「染髪は難しい作業ではない。有資格者なら簡単に習得できる」と考え、休眠美容師を雇用したカラーリング新業態を2013年2月に開業した。すると1店舗で60人の採用応募が集まるなど、予想を超えた反響があった。60歳代、70歳代の有資格者もいたという。

さらに、中高年女性からは「買い物ついでに短時間で仕上がる」として評判となり、一部店舗では開店前に500件あまりの予約が集まるなど人気を集め、今では22店舗まで拡大して展開している。

子育て・介護…スタッフが相互に応援、副業にも対応

染髪専門店では、1日3時間や週1回という働き方も容認して女性の多様な働き方に対応した。これが的中し「資格を生かしたい」と考えていた休眠美容師のニーズの掘り起こしに成功した。さらに今年、深夜11時半まで営業する店舗を開業。「夜だけなら働ける」という美容師の副業ニーズをも見込んでいる。

この事業の責任者を務めるのは、34歳の豊島あすかさんだ。自らも美容師だが、結婚・出産などで美容師業を退職した経験をもつ。豊島さんは「女性が美容師として働き続けられるための土台作りが私の役目」と話す。染髪業態店舗を回って業務指導を行う日々だ。「女性美容師が結婚や出産を経ても、キラキラと輝いて仕事ができる環境作りをしたい」と意気込む。2人の小学生の子供を育てながら働く豊島さんの経験が、生かされている。

「女性美容師が働き続けやすい環境作りをしたい」と話す豊島あすかさん。自身も休眠美容師だった経験を持つ

「女性美容師が働き続けやすい環境作りをしたい」と話す豊島あすかさん。自身も休眠美容師だった経験を持つ

地域に集中して店舗展開し、スタッフの欠勤時に、近隣の店舗を相互に助け合える体制を整えるなど、工夫を凝らした。豊島さんは「子育てや介護など、様々な事情を抱えた美容師が、気兼ねなく働き、休める職場作りをしている」と力を込める。

接客、出店場所、広告の出し方、求人、カラー剤の使い方、店のレイアウト。すべて失敗の繰り返しだったが、ようやく利益が出るようになったという。こうしたノウハウを、今後は同業他社にも提供していく考えだ。日本中で経営に行き詰まる美容室に、ノウハウを有料で提供し、広げる戦略だ。伊勢地社長は「2年で300店舗までは拡大できる」と自信を深めている。

ブランク18年、44歳で現場復帰 パートから正社員に

兵庫県・西宮地区で働く水谷未樹さんは、元休眠美容師で、今は複数の店舗の応援をしながら美容師経験を生かしている。「接客が好きなので、ブランクが18年ありましたが、4年前の44歳の時に仕事を始めました」と話す。カラーリングのほか、店員の出勤計画の立案や、売り上げ管理など責任のある仕事を任され、今年1月にはパートから正社員になった。休日はしっかり気持ちを切り替え、趣味の旅行や友人との会食を楽しんでおり、オンとオフで充実した日々を過ごしている。

休眠美容師を経て、44歳で職場復帰した水谷未樹さん

休眠美容師を経て、44歳で職場復帰した水谷未樹さん

4月に「美容師として活躍したい」との志でウノプリールに入社した小野田悠希さんは、前の職場では入社まもなく体調を崩し、美容室での業務を続けられなくなった。小学校時代から抱き続けていた美容師の夢を捨てたくない、との熱い思いから、無理なく仕事を続けるためにカラーリング専門業態での今の仕事を選んだ。平日は5時間半、店舗でシャンプーなどを担当している。

夢だった美容師の仕事を「無理なく続けられる」と話す小野田悠希さん

夢だった美容師の仕事を「無理なく続けられる」と話す小野田悠希さん

「仕事が終わると達成感しか残りません」とにっこり。いつかはフルタイムの美容師への復活も視野に、やりがいを感じているという。休日は郊外へドライブするなど、リフレッシュする時間もしっかり楽しんでいる。

イチゴ農園で余暇を楽しむ水谷さん。カラーリング業態では複数店舗の管理を任されている

イチゴ農園で余暇を楽しむ水谷さん。カラーリング業態では複数店舗の管理を任されている

ドライブを楽しむ小野田さん。仕事の段取りにも慣れつつあり、充実感のある毎日を過ごしている

ドライブを楽しむ小野田さん。仕事の段取りにも慣れつつあり、充実感のある毎日を過ごしている

「まだ大手企業なみの雇用環境には至っていない」と話す伊勢地社長だが「問題点、課題点に向き合えばできないことはない。小さな穴でもこじ開けられるのが中小企業の強み」と強調する。ただ、単なる負担軽減に終わるような職場改革には慎重だ。「楽な職場だと思って入社してくるような人はほしくないが、主体的にお客さんの満足度最大化に取り組む人には、どんどん会社として環境を整備したい」と話す。

伊勢地社長の目標は、自社を日本一の美容業にすることだ。「何でもやってみよう、というのが我が社の社風です。日本一の美容業になりたい。考え抜けばできないことはない」と、新たな可能性に挑戦している。

case studyウノプリール 働き方改革のポイント

  • 01染髪業態を開発し、美容師の有資格者の復職ニーズに対応

    カラーリングに特化した美容室を展開することで、休眠美容師の職場復帰を後押し。

  • 02夜間業態を開発し、有資格者の副業にも対応

    夜間働きたいという美容師のニーズに応え、多様な働き方を実現。

  • 03美容師の業務に耐えられない社員の受け皿としても染髪業態を活用

    美容師の業務内容を一部に限定することで、働きやすい環境を作り、雇用拡大を図る。

company data企業データ

株式会社ウノプリール

  • 伊勢地亮・代表取締役社長兼グループCEO
  • 本社・大阪市都島区
  • 従業員数約300人(パートを含む)
  • 創業2008年
  • 資本金1000万円
  • 美容室「ウノプリール」の展開のほか、カラーリング専門店やジム、エステなども経営

経営者略歴

伊勢地亮(いせじ・りょう) 1999年、高津理容美容専門学校卒業後、東大阪市の美容室に就職、1年後に退職。フリーター半年間を経て2001年22歳で東大阪市の別の美容室に就職。2003年24歳でスタイリストデビューし、2005年26歳で店長に就任、2007年28歳で独立、2008年、30歳で株式会社ウノプリールを創業。