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日高工業株式会社

業種

製造業

地域

中部

従業員数

100〜300人

File.39

技術伝承を目指したダイバーシティ経営 ―外国人や高齢者も活躍「日高工業」の場合―

幅広い人材活用

2020.10.29

日高工業株式会社

 日本の産業をけん引してきた自動車業界。世界に誇る日本車の品質は、優れた技術力を持つ工場によって支えられている。1965年の創業以来、自動車部品の高強度化や軽量化を実現する「熱処理加工」を手掛け続けている「日高工業」(愛知県刈谷市)も、そんな工場の一つだ。

 部品を加熱する温度は700度以上。歩くだけで汗ばむような厳しい現場だ。そのため従業員の採用や定着が難しく、技術伝承に課題があった。自動車産業が盛んな地域性もあり、競合が多いことも採用難に拍車をかけた。
 そんな課題解決のため、20年以上前から改革に取り組んできたのが、「性別や年齢、国籍に関係なく誰もが活躍できる職場環境づくり」だ。当時はまだ、「ダイバーシティ」という言葉が一般的ではなく、時代を先取る形になった日高工業の歩みに迫った。

技術伝承のため外国人を正社員採用

作業の合間にはアイスが配られるなど、工場内はアットホームな雰囲気にあふれている

 「熱処理加工は製品の良し悪しが一目では分かりにくい。だからこそ、会社の信用が大切なのです」。今村順会長は社是「安定 正確 親切」について、その思いを語る。「プロ」として確かな技術が求められる厳格な仕事だが、作業の合間にはアイスが配られ、従業員が笑顔で語り合うなど、工場内は和気あいあいとした雰囲気が漂う。

社是に込められた思いについて語る今村順会長

 従業員数は156名。そのうち、女性は約3分の1の49名、外国人は31名だ。従業員の最年少は19歳、最高齢は76歳、60歳以上は30名と、まさにダイバーシティ経営を体現している。今や経済産業省から「新・ダイバーシティ経営企業100選」に選ばれるほど、国籍を問わず老若男女が活躍するが、今村会長は「意識してきたわけではなく、技術を伝承し、安定して仕事を続けていくために行ってきた」と説明する。

 初めて日系外国人を採用したのは1995年ごろ。当時、日本の工場で働く外国人労働者は派遣社員として勤務しているケースがほとんどだった。
 「生活を安定させるために正社員で働きたい」
 当時、社長を務めていた今村会長は外国人労働者のニーズをつかみ、正社員として日本人と同じ条件で外国人を採用していった。「時間がかかってもいい。技術の伝承者として定年まで働いてほしい」との思いから、同社では技能実習生の形での採用は行っていない。

本社製造課の班長を務める新垣ヘルマンさん

 アルゼンチン国籍の新垣ヘルマンさんは、今年で入社23年になり、本社製造部門の班長を務める。もともとは通訳の仕事をしていたが、正社員として勤務できる企業を探し、日高工業に入社した。
 班長になったのは入社して5年目。コミュニケーションの壁はあったが「扱う機械について勉強するなど、努力を続けてきた」と胸を張る。班長として部下を引っ張る立場だが、「仕事にプライドを持って悔いのない一日を過ごしたい」と意気込んでいる。

作業の分散化で女性も活躍

 次に着手したのは女性従業員の活躍だ。2004年ごろから高校を卒業した女性の採用を本格化させた。工場の仕事は力仕事が多く、採用数は男性に偏りがちだ。どこの工場も男性の働き手を求めるため、採用の競争率は高くなる。今村会長は発想を逆転させ、女性も活躍できる環境を整え、女性従業員にも技術の伝承者として長く働いてもらおうと考えた。

 外部の専門家に頼み、作業中の従業員に装置を付け、作業の様子を撮影するなどして、作業工程を分析した。その後、「技術が求められる作業」「機械化が難しく肉体労働の必要な作業」「機械化が可能な作業」などに作業を分散化することで、作業工程の見直しを図った。その結果、これまで負担が集中していた従業員の作業量を減らすことができ、女性でも活躍できる職場環境を整えられた。その効果は、女性が活躍できる職場をつくっただけではなかった。各作業の効率化が図られ、2009年と比較すると年間残業時間は5,092時間削減された。売上は33億 3100万円から、2019年には52億7300万円に増加。売上増加に伴い、従業員を増やしているが、効率化により総労働時間の短縮が進む。

退職の7年後に復帰した中村妙子さん

 品質部門で製品の検査を行っている中村妙子さんは、高校卒業後、日高工業に入社。将来を見つめ直そうと結婚を機に退職したが、4年前にパート従業員として復帰し、昨年末からは正社員として勤務している。「会長からは『いつでも戻ってきていいよ』と声をかけてもらっていた。もしまた働き始めるならば日高工業と決めていた」と話す。その理由について「どこの部署であれ責任を持たせてもらえる。また、人間関係が良い意味で『近い』ことも良かった」と笑顔で語る。3人の子どもの母親でもあるが、「母親としては『半日有給休暇制度』がありがたい」と力説する。

社長就任後、社員と面談し「半日有給休暇制度」を導入した坂野善洋社長

 この半日有給休暇制度について、坂野善洋社長は「社員の声を受けて導入されたもの」と説明する。坂野社長は一昨年に社長に就任。その後、社員一人ひとりと面談を行い、子育て中の従業員から「学校行事に参加するためには一日の休暇よりも半日の休暇のほうがありがたい」という要望を受けた。従業員の声を受けてすぐに制度が実現するということから、中村さんの言う「良い意味の近さ」が表れている。

 中村さんは「家庭と両立しながら会社に貢献していきたい。今や日高工業は人生の一部。定年まで長く働き続けていくつもりです」と力を込めた。

シニア世代から若手への技術伝承

 日高工業は40代後半の社員が少ない。技術が身につき、後進の育成に取り組んでいく世代だが、最も採用に苦労した世代でもある。そんななか、作業の分散化は、高齢者が働きやすい職場づくりにも良い効果をもたらした。多くのシニア世代が現場を巡回し、若手の育成に寄与している。日高工業で長年働いている生え抜きの社員だけでなく、他社を退職したシニアも積極的に受け入れ、会社の戦力としている。

技術の伝承者として後進の育成に力を入れる田中豊隆参与

 54年間勤務している田中豊隆参与は、熱処理加工の品質向上に貢献したとして2018年度の秋の褒章で黄綬褒章を受章した。「熱処理加工は技術を磨けば磨くほど製品に味が出てくる」と技術継承の意義について語る。若手と積極的にコミュニケーションを取ることを心がけているといい、「若い従業員には自分で気づき、自分から疑問を投げかけてくるような姿勢を持ってほしい」と、技術の担い手になる世代の成長を願う。「まだまだ会社への恩返しを続けていくつもりだ」と笑顔で意気込んだ。

慰安旅行の様子。さまざまな年代、国籍の社員が交流を深めている

従業員一人ひとりのニーズをつかむ

 今年、新型コロナウイルス感染症の影響により、一時的に仕事量が減少した。その減少幅は前期比で4~7月に25~60%。その影響により、5~7月は金~日曜日の週休3日制を取らざるを得なかった。8月からは仕事量も元に戻り、現在は週休2日制での稼働を続けている。「仕事量もそうだが、技術講習など対面型の若手教育がしづらくなったのが痛いところ」と今村会長は語る。実験的に3人の管理監督者に階層別の通信教育講座を受講させるなど、試行錯誤が続く。

 そんななか、今年5月には新工場を竣工。本社工場には新たに空調設備を設けるなど、事業拡大と生産性向上に向けた設備投資を行っている。今村会長は今後の改革について「働き方のニーズは人によって違う。希望の最大公約数をかなえていく形になるが、一人一人の希望に耳を傾け実行していきたい」と前を見据えている。

 日高工業は社内事情、周辺事情から改革を迫られた。その時々で一番良い形を選んだ結果が、ダイバーシティ経営の実現に結び付いた。今後も予想できない環境変化に対応していきながら、変化を続けていくことだろう。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

技術の担い手として外国人を原則正社員で採用

効果
「正社員として勤務したい」という外国人のニーズを捉え、原則正社員として外国人を積極的に採用。現場で班長を務めるなど、日本人と同条件で勤務している。
取組2

作業の分散化で女性や高齢者が働きやすい職場へ

効果
「技術が求められる作業」「機械化が難しく肉体労働の必要な作業」「機械化が可能な作業」などに作業を分散化することで作業工程の見直しを図り、従業員の負担を減らした。その結果、女性や高齢者が活躍できる職場を実現し、年間残業時間も削減できた。
取組3

シニア世代の従業員が若手社員の育成に貢献

効果
シニア世代が働きやすい職場となった結果、若手へ技術伝承できる体制を整えた。

COMPANY DATA企業データ

DO THE BEST JOB! –最高の技術で、最高の製品を-

日高工業株式会社

代表取締役会長:今村順 / 代表取締役社長:坂野善洋
本社:愛知県刈谷市
従業員数:156名(2020年7月現在)
設立(創業):1965年
資本金:1,000万円
事業内容:自動車部品の熱処理加工

経営者略歴

今村順(いまむら・すなお) 1955年生まれ。愛知学院大学卒業後、1983年に日高工業入社。今岡工場長、常務、専務などを経て、1993年に社長就任。2018年から会長。

坂野善洋(ばんの・よしひろ) 1967年生まれ。愛知大学卒業後、1997年に日高工業入社。営業部長、常務、専務などを経て、2018年に社長就任。