ホーム > 株式会社グローバル・クリーン
株式会社グローバル・クリーン
宿泊業,飲食サービス業
九州・沖縄
50〜99人
File.57
働きづらさを抱える人が活躍できる職場へ ―採用難から改革を進めたビルメンテナンス会社「グローバル・クリーン」の場合―
2021.01.15
ビルメンテナンス事業などを展開するグローバル・クリーン(宮崎県日向市)は、2000年に設立された企業だ。当時の売り上げは1,100万円。20年が経過した今では同2億7,000万円と劇的な成長を遂げている。9人だった社員数は66人となり、2021年には初めて大卒新卒採用者が入社してくる予定だ。しかし、かつては採用難に苦しんだという。「働きづらさを抱える人が活躍できる職場へ」。同社の改革の思いが採用成功や人材の定着、事業の成長に結び付いた。
逆境から改革を決意
設立以来、成長を続けている同社だが、これまでの歩みは逆境の連続だった。税田和彦社長は、ビルメンテナンス事業を展開していた父の会社に入社したものの、入社後1カ月で事業が立ちゆかなくなった。そんななか事業を引き継ぎ、2000年5月に個人事業として事業を再開。取引先はほとんどが離れてしまったが、3社が引き続き関係を継続してくれた。「3社のお客様に助けられた。恩返しをしなければという思いで、丁寧に仕事に取り組んできた」と税田社長は説明する。
立て直しは順調に進み、2008年に法人化。さらなる成長を目指し、求人募集をかけた。ところが、募集を開始して半年たっても、オフィスの電話が鳴ることはなかった。当時はリーマン・ショックの影響もあり、多くの人が仕事を求めていた時代。税田社長は「ハローワークに出向くと人がたくさんいる。しかし、応募は来ない。どうすればよいか、ということばかり考えていた」と振り返る。清掃関係の仕事につきまとう「きつい」「給料が低い」といったイメージも採用難に影響を与えていたという。
そんななか、子育て中の知り合いの女性と話したことが一つの転機となった。離職中だった女性に、なぜ働くことができないのかを尋ねた。「子どもが急に熱を出す。そんな状況ではなかなか働けない」。当時、まだ子どものいなかった税田社長は、女性の言葉から大きな気づきを得た。「給料は急には上げられない。だが、働きやすい職場は知恵を絞れば作れるのではないか」。改革に踏み出すことを決意した。
カバーしあえる体制づくり
まず、子どもがいる社員が学校などから急に呼び出された際は、いつでも退社できることにした。それまでは、一人が一つの現場を担当する専属制となっていたため仕事が属人化していたが、一人が複数の現場を担当することで、急な欠員が出ても現場が回るよう、カバー体制を充実させた。
同時期の2010年に子育て支援策として、有料保育施設を利用する際の費用の半額補助制度を導入した。現在は制度の対象となる社員の子どもが成長したため撤去されているが、社内にベビーベッドを設置するなど保育スペースを確保し、子連れ出勤を可能にする取り組みも行った。
カバー体制の充実は、実際に現場で清掃業務に当たる社員はもちろん、総務業務などを担う管理部の社員にも広げられている。パート社員として勤務する黒木梨沙さんは、同社に勤務していた母親から「働きやすい職場」と紹介され、医療事務職から転職した。2020年3月に1年間の育休から復帰。「もっと早く復帰したいと思っていたが、会社から『子どもと一緒にいてあげなさい』という言葉をもらい、長めの休暇をいただいた」と説明する。「働きやすい職場」という言葉にギャップはなかったといい、休暇申請の手続きは社内の連絡ツールで申告するのみ。現在、2人の母親でもある黒木さんは「子どもがしたいと思うことを全部してあげられる母親になりたい」と意気込んでいる。
女性が働きやすい職場を実現したことで、今や社員の半数以上、そして管理職も6割が女性だ。育休取得率については女性社員だけでなく、男性社員も100%を達成している。
求人よりも人材育成に手間をかける
黒木さんのケースのように、働きやすい職場という評判が口コミによって伝わり、採用の応募が増えていった。応募は子育て中の母親だけにとどまらず、高齢者や障害者などにも広がっていった。「他の職場で働きづらさを感じていた方が応募してくれるようになった。応募してくれるだけでありがたい」と税田社長は笑顔で話す。現在はアルバイト・パートを含め、65歳以上の社員は14人、障害者は6人が活躍。アルバイト・パート社員も社会保険を完備している。
働きづらさを感じない職場を実現しているのが、「求人よりも人材育成に手間をかける」という同社の姿勢だ。新入社員に対する現場での教育には、特に時間をかけているという。また、契約社員から正社員登用する際には、半年間のキャリアアップ研修を実施。プログラムは個人のキャリアイメージをヒアリングした上で、個別に設定している。「パソコンスキルを伸ばしたい」と希望した契約社員のために、社内にパソコンの講師を招き、個別レッスンを実施したこともあるという。現在いる正社員7人は、いずれも契約社員からの登用だ。
業務管理営業部の山本瑞貴さんは、パート、契約社員を経て、2020年10月から正社員として勤務している。「最初は『パートで5時間ぐらい働ければいいかな』と思っていたが、毎日違う現場に行く仕事は楽しい。もっと仕事を覚えたいと考えた」と、正社員を希望した理由について説明する。
山本さんは、清掃業務だけでなく営業も担っており、「営業に関して『絶対一人では無理』と自信が持てない時期もあったが、半年で成長を実感できて考え方が変わっていった」と、キャリアアップ研修の意義について語る。今後については「営業力をもっと身につけていきたい」と意気込む。中学1年の長女、小学6年の長男を持つ母親でもあるが、「子どもの行事には参加できている。かなり自由度は高い職場だと思う」とし、「子どもが成人するまで全ての行事に関わっていきたい」と笑顔で話す。
社員の可能性を伸ばす風土を醸成
「クリーンの力で社会の課題に挑戦し続ける」。同社の経営理念に表れている社会課題を解決する姿勢が、さまざまな事情を抱える社員の働きやすさに結び付いている。「ほかの職場では能力を生かせなかった社員の可能性を伸ばしてあげる。それぞれ強み弱みは違う。強みは伸ばし、弱みについてはその分野が強みである人がカバーしていけばいい」と税田社長は力を込める。同社の事業は労働集約型であるため、十分な人材を確保することで業績は伸びていく。働きやすい職場を実現することで人材が集まり、結果的に業績を伸ばせたと言えるだろう。
今後目指していくのは、工場や福祉施設などを対象に清掃のノウハウなどを伝える独自の事業「クリーンコンサル事業」の成長、そして個人の強みを活かした新規事業創出だ。2015年には不動産業務の経験がある人材が入社したことから、不動産事業部を立ち上げた。新しい可能性を見出すため、これからも一人一人が働きやすい職場を追求し続けていく。「制度にこだわる必要はない。働きやすさの根本は制度よりも風土だ」と、税田社長は強調する。
思い描いているのは、誰もが働きやすい職場づくりの輪を広げることだ。「うちのような会社がほかにもあれば、働きづらさを感じる人は減るのではないか」と社会に課題を投げかける。働きづらさを感じることのない社会の実現のため、積み上げたノウハウを可能な限り伝えていきたいと考えている。
CASE STUDY働き方改革のポイント
カバー体制の充実
- 効果
- 一人が一つの現場を担当する専属制だったが、一人が複数の現場を担当することで急な欠員にも対応できるようになった。カバー体制が充実したことにより、勤務の柔軟性が増した。
子育て支援を拡充
- 効果
- 2010年に有料保育施設を利用する際の費用の半額補助制度を導入。育休取得率は女性社員だけでなく、男性社員も100%を達成している。
正社員登用の際に半年間のキャリアアップ研修を実施
- 効果
- 正社員登用の際に個別にキャリアイメージをヒアリングし、個別ブログラムのキャリアアップ研修を半年間実施。教育体制を充実させることで、さまざまな事情を抱える社員が働きやすい職場を実現させた。
COMPANY DATA企業データ
すべては「きれい」のために。
株式会社グローバル・クリーン
代表取締役社長:税田和久
本社:宮崎県日向市
従業員数:66名(アルバイト・パート56名、正社員7名、契約社員3名。うち65歳以上14名、障害者6名、外国人1名)(2020年11月現在)
設立:2008年(創業2000年)
資本金:900万円
事業内容:ビルメンテナンス、清掃に関するコンサルティング、清掃・衛生管理関連商品の販売、不動産事業など
経営者略歴
税田和久(さいた・かずひさ) 1973年1月、宮崎県生まれ。1995年、滋賀大学経済短期大学部経営学科経営管理専攻を卒業、1996年、立教大学観光研究所を修了。サービス業を経て2000年、個人事業としてグローバル・クリーンを設立。2008年に法人化。趣味は映画鑑賞、スポーツ観戦、子どもと遊ぶこと。