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株式会社アルタ

業種

情報通信業

地域

中部

従業員数

50〜99人

File.58

仕事や業務を通じての自己実現のために改革を推進 ―多様な働き方に対応するIT企業「アルタ」の場合―

テレワークの推進

2021.01.15

株式会社アルタ

 愛知県名古屋市の中心部に、社員の一人一人に対し、「多様な働き方のニーズに対応できるようにしよう」との考え方の下、積極的な取り組みをしている企業がある。ホームページやポータルサイトの制作、Webを利用してのプロモーション、広告などを行うIT企業のアルタだ。

テレワーク制度は3年前の社員の申告をきっかけにスタート

 社員が働きやすく充実した職場環境を整えるのを目的とした改革への取り組みは、3年前のあることがきっかけだった。病気がちだったある社員が、会社側にこう申告してきた。

 「通院などで会社を休むことが多くなり迷惑をかけしてしまうので、退職したい」

 加藤千雄社長は、「在宅ワークで仕事を続けてみてはどうか?」と、即座に提案した。出社しなくても自宅でできる業務があり、そうした勤務形態であれば、仕事と治療の両立が可能になる。

健康面の不安から退職を申し出た神谷樹さん。テレワークの導入により通院しながらの勤務ができたという。現在は体調も回復し、総務部で元気に働いている

 そんなやりとりから、テレワーク勤務制度の導入が始まった。会社へ申し出たのは、総務部の神谷樹さんだ。当時はメディア営業部で営業の仕事を担当していた。現在は健康を取り戻し、元気に働く神谷さんは「柔軟に対応してくれた会社にとても感謝しています」と当時を振り返る。加藤社長は、「今の時代、テレワークは確実にやり続けなければいけないと思います。ただ問題もあります。社内に社員がいると、働いているプロセスや仕事に取り組む姿勢に評価の軸をつけられますが、テレワークだと基本的に結果のみを見ることになる。評価制度をしっかりしないといけないと考えています」と説明する。

 これまでの広告業界の悪しき慣習として、長時間労働、残業を助長するような働き方が少なくなかった。これを改善するために、さまざまな取り組みが、ほぼ同時にスタートした。

「仕事や業務を通じて自己実現できると考えたとき、働き方改革に取り組もうと思った」と話す加藤千雄社長

リファーラル制度で仕事の一極集中を回避

 まず、社員一人一人の仕事量や密度を情報共有するため、月2回、全体ミーティングを実施することにした。各部署・個人の仕事の状況を会社全体で把握することで、部署を超えた協力体制の構築を図った。ミーティング後は、参加者が他の人の仕事で手伝える内容について立候補(リファーラル)し、それをきっかけに部署に関係なく皆で協力して仕事を進める。このリファーラル制度は、社員一人一人が余裕をもって仕事に取り組める職場づくりに寄与することになり、仕事の一極集中を防ぐことにつながった。

 「私たちの業界は、数年前まで23時くらいまで仕事することは当たり前でした。それが、今では別の会社なのでは、というくらい変わってきています。現在の残業は、1日平均1時間ほどになりました」(加藤社長)

 同社は勤務形態の改善にも取り組んでいる。「定時変更制度」は、9時から18時の勤務時間を、30分単位でずらすことができる制度。「営業先が遅い時間の始業なので10時出社にする」「8時から出社しプライベートを充実させる」といった社員が増えている。業務の効率化を図るシステムの導入を工夫しながら実践している。

産休・育休を経て、現在は在宅勤務をしながらWebデザインの仕事をする尾関里美さん

 産休や育休の取得率は、現在100%。育休明けの社員は、小さい子どもにまだ手がかかる。そこでテレワークも併用する。そうした取り組みは時短にもつながり、休みも取りやすくなった。開発部のWebデザイナー、尾関里美さんは産休・育休を経て、現在はテレワークをしている。「子どもが小さいため、テレワークを始めました。仕事と育児を両立することができ、プライベートも充実し助かっています」と、尾関さんは笑顔で話す。

 リファーラル制度、定時変更制度、テレワークが、同社の働き方改革の3本柱だが、こうした積極的な取り組みが進んだきっかけには、社長自らの体験によるところも大きい。加藤社長が振り返る。

 「2015年の元旦、交通事故に遭って入院しました。そのとき、病室で仕事をしているうちに、働くスタイルや生きることの意義について、強く考えさせられたのです。人は仕事や業務を通じて、ありたい自分を実現する、自己実現できると考えたとき、働き方改革に取り組もうと思いました」

 部署を超えた協力体制を構築したり、定時を変更したり、在宅での業務を取り入れたり、実際のアクションを起こすための風土づくりには苦労した。しかし、その甲斐あって改革は奏功し、着実な成果を上げている。コロナ禍以前は増収増益で、売上、利益とも115~120%。2019年度前期の売上高は4億2000万円。労働時間が減っても、業績は右肩上がりで推移してきた。

 プライベートの充実も見逃せない。多くの社員は、ワーク・ライフ・バランスを実感しているという。

 「以前は、仕事がメインという価値観が主流の位置づけでしたが、それが大きく変化しています。上司も早い時間に業務を終えるので、みんな帰りやすい雰囲気が出来上がっています」(加藤社長)

社員の勤怠を「在籍ボード」で見える化し時短

 社内では「在籍ボード」というシステムを開発・導入し、各人の勤務形態を管理している。その画面を各部屋にある大型テレビモニターなどに映し出し、社員の勤怠を見える化。出社すると「出社ボタン」を押し、業務を終えると「退勤ボタン」を押す。「定時変更制度」により一人一人の勤務時間が異なることから、誰がいつ出社していつ退勤したかが、モニターを見れば一目でわかる。

「他の部署の人が忙しくて困っていたら、積極的に協力し手伝うという社風がある」と話す総務部の伊吹香野子さん

 一定の残業時間を超えると、モニターの色が変わる仕組みで、視覚的に誰が多忙なのかもわかる。総務部の伊吹香野子さんは「他の部署の人が忙しくて困っていたら、積極的に協力し手伝うという社風があります。助け合うことで時短につながり、仕事が終わった後の時間や年次有給休暇などを活用してプライベートも充実させることができています」と言う。分業し時短につなげる。そうした組織作りは一朝一夕ではなかったが、アルタの強みであるチームワークを駆使し結果を出している。

 だが、さらなる飛躍を期していたとき、コロナ禍で事態は一変した。売上は一時期、大きく落ち込んだ。感染を防止するため、テレワークを拡充したが、朝の全体ミーティングや仕事上でのミーティングの時間以外は一人で業務をこなす時間が増え、人との接触がない。社員たちがストレスフルな状態になるなど、大きな影響を受けた。

 しかし、コロナ禍における影響は悪いことばかりではなかった。発想を逆転させ、この状況下での新商品開発を行っている。例えば、テレワーク向けの商品として、マニュアルを動画にして配信・管理できるシステムなどの販売を始めた。会社の存続に不安が募る中で、資格取得に関連する新サービスも構築する。

 「ウィズコロナ、ポストコロナ、両方の対策に取り組んでいる最中です」と加藤社長は言う。その成果が出て、売上は今、コロナ禍以前の状態に戻りつつある。コロナ禍に対応し、役立つサービスを開発するなどしている。

改革の取り組みで社員の業務が意欲的に

「テレワークで生産性が上がった」と語る制作部の宮田裕基さん

 働き方改革への取り組みによって、社員がより意欲的に業務に向き合えるようになっている。制作部のWebデザイナー、宮田裕基さんは「デザイン制作の私の業務は、テレワークによって一人で静かに作業できるようになり、生産性が上がりました。会社でしかできない仕事はほとんどなく、業務上支障はほとんどありません」と語る。

「グローバル実展開と新市場創造」を掲げ、働き方改革を進めながらICT総合商社への歩を進めるアルタの社内

 時代の流れとともに、働き方は変わっていく。業種を問わず、飛躍・発展していく企業には、移りゆく変化を十分に認識し、新しい働き方に取り組む姿勢がある。2013年からはフィリピンに支社を設立するなど、ICTの総合商社としての海外展開にも乗り出し、外国籍の社員を採用するなどダイバーシティも進めている。社名に「変化し続ける」という意味が込められている「アルタ」は、将来を見据えた改革に挑んでいる。

 働き方改革の今後の取り組みについて、加藤社長は「ゆくゆくは、1カ月休暇や社員全員がテレワークで業務を行う完全テレワーク制度を導入していきたい」と展望を語る。何のために働き、どう自己実現していくか。それは、アルタの風土と改革が自ずと示しているといえるだろう。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

社員からの申告をきっかけにテレワークにいち早く取り組む

効果
病気がちだった社員が通院などで会社に迷惑がかかるからと退職を申し出た際、仕事と治療の両立が可能なテレワークの導入を社長が打診し、本格的に導入を進めた。
取組2

月2回の全体ミーティングで社員一人一人の仕事量や密度を情報共有し、ほかの社員がサポートできる体制を構築

効果
各社員の仕事量や密度を共有しながら、参加者が他の人の仕事で手伝える内容について立候補する(リファーラル)制度に基づき、仕事が集中した社員を他の社員がサポート。社員一人一人が余裕を持って仕事に取り組める職場づくりに寄与するようになった。
取組3

定時変更制度によって柔軟な働き方を実現

効果
9時から18時の勤務時間を30分単位でずらすことができるようにして、業務の効率化を図っている。これにより、子育てや、プライベートを充実させることなどが可能になった。

COMPANY DATA企業データ

ITで世の中をまぁるく

株式会社アルタ

代表取締役:加藤千雄
本社:愛知県名古屋市
設立:2005年
従業員数:65名(正社員60名、非正規雇用労働者5名)(2020年12月現在)
資本金:1,500万円
事業内容:webマーケティング・コンサルティング

経営者略歴

加藤千雄(かとう・かずお) 1993年、明治大学卒業後、三和銀行(現・三菱UFJ銀行)入社。1997年、PC販売・インターネットプロバイダー創業。2005年、アルタ設立、社長に就任。現在、中小企業診断士およびITコーディネータとしても活動中。