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田代珈琲株式会社

業種

製造業

地域

近畿

従業員数

10〜29人

File.82

労働環境の適正化を通して、仕事に「付加価値」を生み出す 【動画あり】 同一労働同一賃金に向けた取組を実施-田代珈琲の場合-

同一労働同一賃金の実現

2021.11.04

田代珈琲株式会社

田代珈琲株式会社の取り組みを動画で見る
(以下のURLのリンクからご覧いただけます)
https://www.youtube.com/watch?v=RVOpKvBQXO8

 

 2021年4月、同一労働同一賃金を定める「パートタイム・有期雇用労働法」が中小企業に適用された(大企業は2020年4月施行)。パートタイマーやアルバイト、契約社員などの、パートタイム労働者や有期雇用労働者を雇用するすべての企業が取り組まなければならない法律だ。同法の目的は、雇用形態にかかわらず、働きや貢献に見合った待遇の確保であり、各企業において自社の待遇の点検や見直しといった対応が求められている。

 田代珈琲株式会社は、同法が中小企業に適用される以前より、労働の内容に見合った給与体系の構築を模索し続けてきた。その原点は、田代和弘社長が3代目として「当時完全に行き詰まっていた経営」を引き継いだことにあった。

労働基準法に真正面から向き合う「覚悟の経営姿勢」

 同社は1933年、ミカン水など清涼飲料水の原料となるシロップの製造卸売業として創業。戦後の1948年に大阪の地でコーヒー卸会社を興し、1985年の本社移転を機に小売へと業態を転換。現在は貿易やインターネット事業も加わり、本社に併設された実店舗や大阪の老舗百貨店にも店を構える。しかし「決して順風満帆とは言えず、経営は復活と挫折のくり返しだった」と話す。

 田代社長が入社した当時は「労働環境は悪く、大手に比べれば知名度もない、商品の品質も高くなかった」、悪い意味で三拍子の経営状態だった。時代もあったのだろう。適当に仕事をこなしても経営がなんとか成り立っていたため、父である2代目社長をはじめ、社員の危機感は皆無だったという。 その頃、同社は1970年代の喫茶店ブームに乗って、順調に業績を伸ばしてきた卸売業に陰りが見え始めたことをきっかけに、小売業に転換したばかり。販売など社員スタッフの増員、労働環境の改善が優先課題との認識はあったが、まずは小売業として会社を成り立たせ、土台を整えることに注力した。

 実店舗と並行して、2000年にスタートしたオンライン販売事業の売り上げが倍々で推移し始めたのを機に、採用活動を本格化させる。しかし採用しても労働環境という働く土台部分の不備を理由に退職が相次いだ。その都度環境改善に努めていく中で「人が働き続けるには、何よりも仕事に対するモチベーションが重要」と気づいたという。 社員が働くモチベーションを保ち続けるために会社ができること。それは「公私の時間」「職場の人間関係」「仕事のやりがい」の構築だという。これらを一つずつ、試行錯誤をくり返しながらじっくり時間を掛けて解決してきた。企業の規模は関係なく、そのすべての根幹となる労働基準法にしっかりと向き合う、覚悟の経営姿勢を持つことこそが働き方改革の出発点になったと田代社長は断言する。

毎朝6時30分に出社して、焙煎を担当する田代和弘社長。南米・ニカラグアのコーヒーとの出会いで、価値観が激変したと語る

労働環境の適正化を通して、付加価値を生み出す

 労働環境改善の具体的な取り組みとして、「残業ゼロ」「完全週休2日」「年次有給休暇取得」「業務マニュアルの確立」「1分単位の仕事計画」を挙げる。これらの課題が少しずつ明確になってきたのが2013年頃。さらにブラッシュアップを進め、現在を取り組みの最終段階と位置づける。

 「1日8時間労働に完全にコミットしたので、労働時間内でいかに成果を出しつつ付加価値を生み出すかという視点が社内に浸透してきた」という。社員スタッフの定着率も伸びてきた。以前は中途採用の応募者が多く「高嶺の花」(田代社長)だった新卒の採用も行うことができている。

 なかでも「業務マニュアルの確立」は、同一労働同一賃金に向けた取組を推進する上で、大きな役割を果たしている。社員にキャリアを身につけさせる教育の一環として、現場改善プラットフォームのクラウドサービスを活用。同社の業務内容に沿ったマニュアル作成を進めているところだ。教育システムはおろか、業務マニュアルすらなかった時代を思い返すと隔世の感があると田代社長は笑う。

「人財の質が上がってきた」と田代社長。ダイバーシティにも力を入れている

 経験年数に関係なく、業務品質を保てるマニュアルに加え、社員それぞれのリードタイム(工程の所要時間)を階層化し、さらに毎日の業務計画を1分単位で区切る、スケジューリングミーティングの導入は「同一労働同一賃金」に向けた取組を推進する同社にとって欠かせない。同一労働同一賃金は、正規と非正規の間の不合理な待遇差や賃金格差の解消を目指すものだ。田代社長は「企業はこの同一労働同一賃金の考え方をポジティブに捉え、自社の労働環境を整備するべき」という考えだ。

 同社は、社員とパートスタッフといった正規・非正規の雇用形態で業務を区別していない。あるのは業務に見合った同社独自の給与体系により、業務ごとに異なる時間給の差だ。個人の能力や経験、業績、成果の違いによって、それに応じた給与を支払わなければならないというパートタイム・有期雇用労働法の考え方に沿っている。 「仕事の能力に応じて時給が上がっていく。逆に言えば、能力がなければ時給は変わらないということ」(田代社長)。社員スタッフが、仕事に付加価値を生み出せるような成長を期待しているという。

 付加価値について田代社長は、「現場に立って仕事をする以外のこと」と位置づける。昨年入社した田代 彩(ひかる)さんは、同じ業態だった前職と一概に比較はできないとしつつも、付加価値を求められることを「自身の能力を磨き、スキルアップできるチャンス」と受け止める。 周りの社員スタッフはコーヒーの知識が豊富で、切磋琢磨しながら日々新しいことを吸収できているという。ラテアートの練習など、自身のスキルを磨く環境も提供されている。ビジネスチャットなどITツールの導入も進む。1分単位の仕事の計画を可視化することで優先順位を持って取り組めるようになり、1人1人の仕事に対する意識の高さを感じている。「幼い頃から身近に見てきた会社で実際に働き始めると、働き方が一番変わったと感じます」。

コロナ禍となってからは「姉に自社の豆で淹れたコーヒーを飲んでもらうのが楽しみ」と田代 彩(ひかる)さん

 業務の付加価値が高まると、優良顧客が増え、会社の利益も上がる。それこそが生産性の向上に繋がると田代社長。「法律を遵守し、会社が労働環境をきっちりと整えること。会社の質的レベルが上がると、うちで働きたいという人のレベルも上がる」という信念を持つ。

 2017年には、個人の成長が事業の付加価値や業績向上につながる仕組みを実践していることが評価され、経済産業省中小企業庁の「はばたく中小企業・小企業事業者300社」にも選定された。田代珈琲の、そして社員スタッフの可能性を花開かせるための「継続性」が実を結びつつある。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

モチベーションを保ち続けられる労働環境の構築

効果
労働環境の不備による退職者が相次ぎ、その都度、環境の改善に努める。「公私の時間」「職場の人間関係」「仕事のやりがい」の構築を3本柱に、試行錯誤をくり返しながら時間を掛けて解決。「モチベーションを下げる原因を作らない」労働環境づくりに注力した。
取組2

法適用前より同一労働同一賃金に向けた取り組みを実施

効果
社員・パートスタッフという正規・非正規の雇用形態で区別せず、業務に見合った給与体系に。個人の能力に応じた業務を割り振る仕組みを作り、社員スタッフの成長と能力アップを促す。働き方の選択肢も増加し、正社員を目指すパートスタッフが増え、社員の質も向上。
取組3

業務の付加価値を高めて、生産性を向上

効果
「付加価値とは、会社の利益を上げること」の意識を社員スタッフへ浸透させることからスタート。広告・広報活動を通してお客様満足度を高めながら企業の認知度やリピーターを増やすことも付加価値のひとつと捉える。リモート営業など、新たなビジネスモデルも模索。

COMPANY DATA企業データ

働く「幸せ」を追求し、お客様に満足と感動を提供

田代珈琲株式会社

代表取締役社長:田代和弘
本社:大阪府東大阪市
従業員数:18名(正社員8名・パートアルバイト10名)(2021年7月現在)
設立:1953年1月
資本金:1000万円
事業内容:スペシャルティコーヒーの直輸入・コーヒーの焙煎製造・カフェ関連事業経営に至るまでのコーヒーに関する総合企業

経営者略歴

田代和弘(たしろ・かずひろ) 
1987年神戸学院大学卒業。日本食研株式会社を経て、1989年田代珈琲株式会社入社。3代目として現場に立ち、1994年代表取締役社長に就任。その年に収穫されたコーヒー豆の中から最高品質のものに与えられる称号「カップ・オブ・エクセレンス」の国際審査員も務める。