ホーム > 株式会社サタケ
株式会社サタケ
製造業
中国・四国
301人〜
File.71
進取の気性で施策を打ち出す。常に一歩先の“サタケ流”改革 会社を取り巻くすべての人々を幸せにする-サタケの場合-
2021.10.29
株式会社サタケが本社を置く西条(東広島市)は、兵庫の灘、京都の伏見と並ぶ銘醸地。吟醸酒発祥の地としても知られる。銘酒はいい米から作られる。創業者・佐竹利市が、この地で日本初の動力式精米機を開発したのは1896年のことだ。歴史的発明により、これまで人力での過酷な精米作業の能率が飛躍的にアップ。農業・酒造業の分野に大きく貢献した。
世のため人のためという「常に一歩先」の姿勢は、新しい技術を追い求めるだけに留まらない。社員の働き方においても、進取の改革を続けている。
基本方針を定め、段階的にノー残業デーを推進
2011年、サタケは自社の綱領(経営理念)を実現するため、「会社を取り巻くすべての人々を幸せにする」を経営基本方針に掲げた。それまで売り上げや利益といった会社の発展に根ざしていた方針を一新。創業者の理念や実践をまとめ、脈々と受け継がれてきた綱領の一つ、「我等には総親和の下、会社と従業員の繁栄を図る義務がある」を第一義に掲げ、実現するという原点に立ち返ったことを示す基本方針だ。若干の変更を加えながら、2021年度の現在に至るまで毎年度掲げられている。
「この基本方針をもとに、社員のワーク・ライフ・バランスを継続して追求している」と話すのは、経営本部 人事部兼情報システム部 部長の小林照幸さんだ。 2010年度より「ノー残業デー」の取組がスタート。当初、水曜日と給与・賞与の支給日のみだったが、金曜日、月曜日と段階的に増やしていった。
2011年の東日本大震災も、ノー残業デーが増えたきっかけの一つだ。当時、計画停電が叫ばれ、全国的に電力消費を控える機運が高まっていた。東京や大阪に比べ、広島の電力事情は悪くなかったが、同社は残業削減という形で、すでにノー残業デーだった水曜、金曜のほか月曜を加え、節電に協力する体制を整えた。2014年度からは、原則毎日定時退社とするオールノー残業デーに移行している。
段階的な時間外労働の削減には理由がある。「一気に導入すると、そのひずみが他で噴出することの懸念があった」と小林さん。定時で退社しても、積み残した業務があれば、別の日にしわ寄せとなって残業が発生する。それではノー残業デーを設定した意味がない。 この取組は「会社を取り巻くすべての人々を幸せにする」という基本方針にも繋がる。小林さんは「並行して業務の見直しを進めることで、実(じつ)のある制度になることを目指した」と話す。
業務の見直しを通して、社員の意識改革も
同社は、業種の特性上、米が収穫される8~10月が繁忙期となる。その時期にだけ発生する業務に追われ、普段の業務を後回しにする社員も多かったという。「実際、後回しにした業務をやるかと言えば、そうでないことも多かった」(小林さん)。仕事に励んでいるつもりでも、そこに元々行う必要のない業務が隠れているのではないか。時間外労働の削減を目標に、不要な仕事や、行わなくてもいい仕事を棚卸しする取組が定期的に進められた。
業務の見直しに先駆け、副社長(現・代表取締役会長)が社員の4割にあたる400人近い社員を対象に、1対1でヒアリングを実施した。執行役員 経営本部広報部長の宗貞 毅さんは、当時実際に面談を受けた一人だ。 面談では、それぞれの担当業務について、内容や時間など業務のワークフローを含めてひとつずつ洗い出し、会社全体の状況を分析。その結果、平均すると約3~4割、無駄な業務や何年も見直していない業務があることが判明した。
宗貞さんは「これらを削減すれば効率化を図れる。時間に余力ができれば残業の削減になり、休日数の増加にも繋がる」と感じたと話す。 業務削減のプロセスは、本部長クラスの役職者が細分化し、各課やチーム単位でブラッシュアップして目標を設定。最終的に無駄を省き、仕事のやり方を見直すといった社員個人の取組として落とし込まれた。
効率が悪くても、自身は一生懸命仕事をしているという意識が多くの社員にあったという。客観的な視点で見直されることで「社員が自分はなぜ働くのかを見つめ直す意識改革にもなった」と宗貞さん。業務の見直しと改善は時間を掛けて段階的に行われ、業務効率の意識も向上。2009年月平均で23.5時間だった時間外労働時間が、2019年には月平均6.8時間まで減少した。
時間外労働の削減は、同時に給与も減ることを意味する。そのため、同社はさまざまな手当の他に、業績に連動した特別ボーナスを支給するなど、社員に還元している。宗貞さんは「基本方針をしっかりと掲げたことで、会社もやるべき施策が見えた」と語る。国や多くの企業が容認する以前より副業を認め、多様な働き方も推奨している。
ノー残業デーがさらに進歩。週休3日制の導入
2017年度からは、7月から8月までの夏季限定で週休3日制を試験的に導入。全社一斉で土日祝に加え、2017年度は月曜、2018年度は金曜を公休とした。2019年度からはチームを2つに分ける交替制を導入し、水曜休となった。昨年はコロナ禍の緊急事態宣言で休日を前倒しにし、大型連休に組み込む対応としたが、今年度からは再び水曜を公休とした週休3日制の取組を実施している。 週休3日制は、閑散期となる夏季のみの導入であり、全営業日ノー残業の同社が、さらなる労働時間の削減を目指して導入した取組だ。営業日の労働時間はこれまでとほぼ変わらず、また賃金も以前と同水準をキープしている。
経営本部 経営企画室主査の平松真次さんは、同社がノー残業デーの取組を本格化させ始めた頃の入社だ。無駄な業務を洗い出す中で、自身の仕事に対する意識の低さに気付かされたという。 「自分の業務が会社でどのように活かされているのかがわからないまま、ただ忙しくしていた」と平松さん。実際、一生懸命取り組んだ仕事が活かされていないとわかった時はショックを受けたという。上司と話し合い、業務内容をクリアにした結果、「集中して働けるようになった」と話す。
平松さんは、夫婦ともにサタケの社員だ。ノー残業デーや週休3日制といった会社の取組を有効活用して、家事を分担しながら、仕事と家庭を無理なく両立している。 「小学生と保育園児の子どもが2人いますが、夫婦とも原則、毎日定時終業なので、手分けして子どもを迎えに行くことができ、スケジュールも立てやすくなりました」と話す。 平松家には、先に帰宅した方が夕食を作るというルールがあり「料理の腕もかなり上がりました」と笑う。
週休3日制についても、営業日が一日短いことで、リフレッシュできると同時に、より計画性を持って業務に取り組む意識が身についたと歓迎する。 また、夫婦とも資格取得に向けた勉強を始めるきっかけにもなり、スキルアップにも繋がっていると話す。
現在同社では、DX(デジタルトランスフォーメーション)の社内プロジェクトを立ち上げ、3ヵ年計画で業務システムを刷新している。これも業務改善の一環だ。 孫が産まれた時に育児のための休暇が取れる「イクじい・イクばあ休暇」の他、労働組合との協定で年2~3日の「一斉有給休暇」の設定と、年3日の個人別「計画有給休暇」取得も推進している。いずれも2019年4月の年次有給休暇、年5日間の取得義務化が始まる前から、取組をスタートさせた。
サタケ流の働き方改革は、「業務や職場環境の改善」と「社員の意識改革」、どちらが優先ではなく両輪として進められている。 特に社員の意識改革は、一朝一夕では難しい。その先見の明とも言える取組のひとつが、社内大学「サタケカレッジ」の設置だ。業務に必要な穀物加工学、財務や法務学のほか、会社に必要な人材、能力を学ぶ人間学の講座が設けられている。トップの言葉や想いを、社員が直接聴ける貴重な機会でもある。
「綱領が存在するのは、まだ実現できていないことの表れ」と宗貞さん。毎年の基本方針は、それを確認するためのものだ。常に一歩先の改革に取り組みながら、改善の余地はあると、サタケは前進を止めない。その先にはすべての人々を幸せにし、「社員に愛される会社にしていきたい」との想いがある。
CASE STUDY働き方改革のポイント
ノー残業デーを段階的に整備
- 効果
- 2010年度より段階的にノー残業デーの曜日を増やした。2011年から継続中の経営基本方針に「会社を取り巻くすべての人々を幸せにする」を掲げ、2014年度より、基本全営業日で残業が原則禁止に。2009年月平均で23.5時間だった残業時間が、2019年には月平均6.8時間まで減少。
業務の棚卸しを実施し、無駄な業務を削減
- 効果
- 時間外労働の削減を目指し、これまでの業務内容をすべて洗い出し、会社全体の状況を分析。約3~4割に及ぶ無駄な業務があることが判明し、定期的な見直しと削減に取り組む。業務の必要性の有無から「なぜ働くのか」を見つめ直し、社員の意識改革にも繋げる。
夏季限定で週休3日制を試験的に導入
- 効果
- 2017年度は月曜、2018年度は金曜を公休とする週休3日制を夏季限定で試験的に導入。2019年度以降は、実施初年度からの公休数はキープした上で交替制とし、水曜休を実施。営業日を1日削減することで、より計画的に業務に取り組む姿勢の醸成と、社員のリフレッシュを兼ねる。
COMPANY DATA企業データ
食を通してもっと元気な人をつくり、持続可能な農業を実現
株式会社サタケ
代表取締役社長:松本和久
本社:広島県東広島市
従業員数:1,100名(2021年6月現在)
設立:1939年12月(創業1896年3月)
資本金:2億8000万円
事業内容:食品産業総合機械・プラント設備及び食品の製造販売
経営者略歴
松本和久(まつもと・かずひさ)
1965年広島県生まれ。1991年東京経済大学経営学部卒業、株式会社佐竹製作所(現・株式会社サタケ)入社。2010年経営企画室長。2020年取締役副社長を経て、同社初となるプロパー出身として、2021年代表取締役社長就任。