支援・相談は働き方改革特設サイト

ホーム > ディンク株式会社

ディンク株式会社

業種

製造業

地域

近畿

従業員数

10〜29人

File.84

適材適所を見出し、社員がいきいき活躍できる職場へ -ITツールの活用で情報共有・連携強化-ディンクの場合-

時間外労働の削減

2021.11.11

ディンク株式会社

 大阪の東部に位置する八尾市は、ものづくりが盛んな街のひとつだ。ディンク株式会社は、ゼネラル・アビエーションの拠点として活用されている八尾空港の滑走路に隣接。1993年に創業した同社は、段ボール用インキを製造する会社としてスタートし、お客様のニーズに応える形で、排水処理設備の設計から施工、販売にシフト。排水処理専門業者として、業界をリードする。

 2代目として会社を継いだ礒部 薫代表取締役社長は、3人の子どもを育てながら社長業に奮闘。先代から続いてきた同社の労働環境に疑問を持ち、自分らしく納得のいく働き方改革に取り組んでいる。

「平日も休める会社」を社員に意識付ける

 「ディンクへの入社が、人生の転機のひとつとなった」と話す礒部社長は、大学の船舶工学科を卒業後、広告代理店などに勤務。結婚・出産を機に家庭に入り、3人の子育ての最中だった2005年、父親が創業した同社に後継者がいないことから、将来は2代目となる覚悟で取締役として入社した。「機械設計の会社は、設置後のアフターフォローなどを考えると、後継者がいるといないでは信用度が大きく変わってくる」と礒部社長。父親の昔ながらの経営に戸惑いながらも、子育てと仕事を両立させてきた。

 「先代社長の頃は、休まず働くことが当たり前で、それが美徳とされた時代。どれだけ朝まで仕事をしたか、いかに遠くまで車を運転し現場を訪れたか、そんな過重労働が社員たちの自慢だった」と、礒部社長は当時を振り返る。また業務上、休日に出勤しなければならない部署はあったものの、その他の部署でも当然のように休日出勤を課し、残業も多いなど、会社側の労働環境も決して良いとは言えなかった。

 「頭は、常に『ハテナ』でいっぱいだった」と礒部社長。「この労働条件はおかしい」と感じながらも、それを改善できるのは社長しかいない。「取締役の立場では決定権がなく、労働環境や条件の疑問点を声には出せても、実際に変えることはできなかった」と話す。2013年に代表取締役社長に就任しても、先代はまだ現役。3、4年はもどかしい状態が続いたという。

 ようやく改革を推し進める環境が整い、まず取り組んだのは、労働基準法などさまざまな法令を遵守し、同社の働き方に沿った就業規則を明文化することだった。他の会社で働いた経験を持ち、家庭を持つ母親として客観的に同社を見た時に、会社と社員の間にルールを設け、それをお互いに遵守してこそ、仕事とプライベート両方の豊かさを追求できると感じていたからだ。「経営者には、社員の人生を守る責任がある。より良く働いてもらえる会社にすることが社長の役目。就業規則は、会社と社員の間で交わす約束だと捉えている」と、礒部社長はその意義を説明する。

 次に取り組んだのは、休日に対する社員の意識改革だ。同社はこれまで休日出勤に対して、休日手当を支給していたが、礒部社長はそれに代えて、振替休日を積極的に取得するよう奨励した。同社は、第1・第5土曜日を出勤日とする独自の勤務体制を取る。機械器具の設置工事などを業務として請け負うことから、部署によってはお客様の工場が稼働しない土曜・日曜に出勤する社員も多くいるためだ。また事務方にとっては、請求書発行といった伝票業務の対応がしやすいという側面もある。「基本は週休2日制だが、フレキシブルに対応できるように、あえて土曜日を月に2度、出勤日として残している」と礒部社長は話す。

 礒部社長が狙ったのは、「平日に休むなんてとんでもない」という社員の意識を改革することだった。当初は、平日に休むことに罪悪感を覚える社員もいたという。しかし、振替休日の取得を推し進めたことに加え、礒部社長が粘り強く説得を重ねた結果、社員の「平日に休むこと」に対する意識が少しずつ変化していった。

 礒部社長は「以前の、休日は設置工事で出勤して休日手当が支給されてきた『休みがないのは当たり前』の感覚をなくし、『振替休日を利用して平日に休む』という企業風土を根付かせるのが狙いだった」と真意を語る。現在では、社員の間に「振替休日で平日に休むことは当たり前」の意識が浸透し、仕事とプライベートの両立にも繋がっている。

「遅い時間まで仕事をすること=頑張って働いていることではない」と話す、礒部 薫代表取締役社長

デジタル化を進め、時間配分を意識する働き方で業務を効率化

 週休2日制や振替休日の取得などで年間休日を確保し、平日も休める会社にするには、さまざまな観点からの業務の効率化が欠かせない。そのための施策のひとつにデジタルシステム化がある。厚生労働省の「職場意識改善助成金」(現在は「働き方改革推進支援助成金」に改称)を活用し、勤怠管理システムを導入。紙ベースからクラウド型の出退勤打刻に切り替えた。社員は、スマホやパソコンでの出退勤時間の入力が可能になり、出張先からでも上司が部下の勤怠状況を確認することも容易になった。

 さらに、年次有給休暇や振替休日の取得申請などもすべてオンライン化。申請忘れが減り、時間短縮、効率化に繋がったという。社員の勤怠情報も一元管理できるようになり、「残業時間も1分単位で的確にカウントされるため、これまで人の手で行っていた給与計算が格段に楽になった」と笑う礒部社長。

 それにも増して、大きな成果に繋がったのが、業務の進め方を社員自身でコントロールする意識の向上だという。仕事量からそれにかかる時間を計画的に見積もることは、社会人として必須の能力だ。特に現場などで、終了時間の目処を付けて作業を進めることは、効率アップの鍵となる。先代の頃は「この仕事が終わるまで帰れない」と、その日、その場の成り行きで定時を越えても作業を続けていた。そんな現場意識を改善するため、礒部社長はこれまでの現場監督の作業の進め方にNGを出した。そして、毎日作業を始める前に現場全員でミーティングをして、段取りや分担、目指す終了時間を全員で共有することを習慣づけた。

 礒部社長は、自身がオフィスを飛び出し、現場社員に混じって作業を始めた当時を振り返る。「時間内に作業を終えれば帰宅し、もし終わらなければ自身の時間見積もりが甘かったので残業をさせてほしいと、現場監督に頭を下げた。現場の人間は居心地が悪そうにしていたが、言葉よりも行動で見せれば理解も早いという意図もあった」と礒部社長は笑う。次第に、社員一人ひとりが目標を立て、時計を見ながら作業を進めるようになったという。ミーティングなどで「集中して、時間内に作業を終わらせよう」といった意識の共有が生まれ、現場の結束も強まっていった。

 時間をコントロールする意識は、現場だけに留まらず、事務や営業にも浸透しつつある。
「例えば営業なら、出張時に何時から何時までを勤務時間とするかを自分で決める。時間配分を考え、業務を無駄なくスムーズに進めるスキルを向上させるには、自分で意識し実行するのを習慣にするしかない」と礒部社長は話す。

 2019年に入社した関岡直樹さんは、就職活動中から志望していた営業職で奮闘中だ。自らを「成長欲求が人一倍強い」と話すように、早く一人前の営業として認められたいと、積極的に業務に取り組んだという。

 関岡さんが入社した当時は、営業部長が退職した時期と重なり、礒部社長が自ら営業に飛び回っていた。関岡さんはそれに同行し、礒部社長流の営業を直々に学んだ。出張の移動中でも、ディンクの商品の開発背景や特長、性能などのレクチャーを受け、商品知識を深めていった。「営業とはどういう仕事で、どう振る舞えばいいのかを社長に同行しながら学びました」と関岡さん。

 現在では、排水処理設備や周辺設備のメンテナンス、使用薬品の提案を行うなど、任される仕事も増えてきた。経験を重ね、業務の時間配分や効率的な働き方を工夫し、残業をすることはあっても月10時間ほどだという。入社3年目を迎え、営業職として独り立ちする時と自覚し、「自身で売り上げを立てることを目標に置いています」と話す。

「週休2日制だったことも入社を決めた要因」と話す関岡直樹さん。仕事も趣味も本気で取り組める日々にやりがいを感じている

社員一人ひとりの能力を活かす、究極の適材適所を目指す

 さらなる業務の効率化を目指し、ビジネスチャットツールの導入や、日報のデジタル化も進める。特にビジネスチャットツールは「社内の情報共有やコミュニケーションの向上に欠かせない」(礒部社長)という。「チャットツールにアップされた作業の進捗に対して、周りの社員が自発的にフォローするなど、部署を越えた連携が生まれつつある」と礒部社長。チャットツールを通して、「ひとつの物事を見た時に、自分にできることは何かを考え、行動に移すという『気づき』が社員の中に醸成できれば」と語る。

 礒部社長は、社員の適材適所を考え、配置を適宜入れ替えているという。「得意・不得意は人それぞれ。パズルのピースのように、社員たちが調和して個々の能力が発揮できる形になれば一番良いこと」と話す。新たな商品開発のためにラボも設置し、苦手なコミュニケーションよりも研究に集中したいという社員を配置。実績を上げ、かつ社内の人間関係にもプラスをもたらした。配置換えやチームの組み合わせを変えることで、社員の意外な才能が判明したり、生産性の向上に繋がったりする効果は決して小さなものではない。

 あわせて、社員にヒアリングを重ねながら業務を洗い出し、作業システムの変更など無駄な手順の見直しも進めた。例えば、起こったミスの対策として増えすぎた過剰なチェックを廃止してスリムに。また製造指示書を作業のたびに転記するという「洗い出せば必要のない」(礒部社長)無駄も省き、最初に出力したものを最後まで使用するという体制を整えた。

 総務部の杉本亜希さんは、先代社長時代のディンクを知る社員の一人だ。2010年の入社時は、営業事務としての採用。結婚して3人の子どもに恵まれ、復帰と育休をくり返しながら、6年ぶりに時短勤務で本格的に職場復帰を果たした。子どもが小さいうちは、急な体調の変化で会社を休んだり、早退したりすることも多く、周りの社員に対して心苦しく感じることもあるという。「そんな時でも社長は『気にしないで休んで』と、明るく受け入れてくださっています」と杉本さん。

 礒部社長は、自身も子育てをしてきた経験から「子どもがいると、突発的に休まざるを得ないことも多いのに、休むと『社会人としての責任感がない』と取られがちな風潮もなくしたかった」と話す。

 また、会社のサポート体制の充実も実感しているという。例えば、時短勤務の身では、日報を書くためだけに会社に残る時間は取れない。そこで日報をデジタル化して、スマホで記入できる環境も整備されている。現在は、時短勤務中の業務の負担を軽減するため、納期にあまり縛られない総務職を中心に、かつての営業事務の仕事にも少しずつ取り組む。「時短勤務のため、総務に異動してもらったが、適材適所を見極め、その都度配置を見ていきたい」と礒部社長は話す。杉本さんは、今後は外部研修に参加するなど、自身のスキルを高めていきたいと考えている。「育休から復帰して、働きやすさを実感しています。これからは業務に必要なスキルを磨いて、ディンクになくてはならない存在になることを目指します」と上昇志向をのぞかせた。

時短勤務中の杉本亜希さんは、子どもの成長とともに自身のスキル習得にも意欲的だ
現在はコロナ禍で中止しているが、会社主催のイベントにも親子で参加。子ども好きの礒部社長とも仲良しだという

礒部社長が、現場業務にも携わるようになったのは3年前のことだ。大学でも船舶工学を専攻するほど、ものづくりが好きだった。しかし「女性が現場に出る必要はない」「社長が現場に出たら皆が困る」と言われ続け、長らく許されなかったという。「現場を知れば、若い人を育てることもできる、社長であっても現場を知らないとできないこともあると、かなり社員を説得した」と礒部社長。「純粋に自分がやりたかったこと」と笑うが、これからは「現場にも女性が進出して、仕事上の男女差をなくしていきたいという想いもある」と、意図を説明する。

「当社の人員で利益を出し、強い会社にするなら、技術力など付加価値を高めて、会社のレベルを上げる必要がある」と礒部社長。効率よく仕事をすることで、自分の時間はもちろん、他の仲間の時間も大切にすることができる。互いに連携し、助け合うことで、短い時間で結果を出すことを目指している。

 社員に一番求めたいのは「相手に対して『寛容』になること」という。これからの時代、働き方は画一的でなくなる。相手を思いやって仕事をすることで「みんなでレベルアップして、みんなで稼いで、みんなで楽しく仕事ができる会社にしていきたい」と礒部社長。

 ディンクの働き方改革は今なお進行中だ。

案件はチーム制。「男性・女性関係なく、個人として能力を発揮してもらいたい」と礒部社長は願っている

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

振替休日取得を奨励「平日に休む」を企業風土に

効果
機械器具を設置する業務が伴うこともあり、部署によってはお客様の工場が稼働していない土曜日・日曜日に出勤する社員も多い。振替休日の取得を奨励し、粘り強く説得を重ねたことで、平日に休みを取り、自分自身や家族との時間を持つことが当たり前の企業風土を根付かせた。
取組2

勤怠管理や申請などにクラウドシステムを導入

効果
紙ベースのタイムカードを廃し、クラウド型のシステム導入で、出張先や作業現場からも勤怠の入力ができ、社員も会社も勤務時間の管理や残業の把握がスムーズになった。その結果、業務の進め方を社員自身でコントロールする意識の向上にも繋がった。
取組3

ITツール活用や配置換えで社員間の人間関係を活性化

効果
ビジネスチャットツールの導入や、日報のデジタル化により、社内の情報共有やコミュニケーションの向上、部署を超えた連携が高まった。また、社員の適材適所を考えて配置を適宜入れ替え、男性・女性の区別のない誰もが働きやすい環境づくりへの取り組みを進めている。

COMPANY DATA企業データ

汚れた水をきれいにして自然に返す。それが私たちの使命。

ディンク株式会社

代表取締役社長:磯部 薫
本社:大阪府八尾市
従業員数:10名(2021年8月現在)
設立:1993年11月
資本金:1000万円
事業内容:段ボール工場に特化した排水処理設備の設計・施行・販売、各種薬品類等消耗品の提案・販売、設備メンテナンス業務、ろ布のリユースクリーニング事業など、排水処理に関わるさまざまなサービスを展開

経営者略歴

礒部 薫(いそべ・かおる)
大阪府立高津高校、大阪府立大学工学部船舶工学科卒業。株式会社地域計画研究所(シンクタンク)、株式会社エルネット(大阪ガス子会社・広告関連業)勤務後、出産を機に家庭に入る。2005年父の経営するディンク株式会社に取締役として入社。2013年代表取締役社長就任。現在に至る。