支援・相談は働き方改革特設サイト

ホーム > YAMAKIN株式会社

YAMAKIN株式会社

業種

製造業

地域

近畿

従業員数

100〜300人

File.96

ユースエール認定取得を起点に、労働環境改善に取り組む 「YAMAKINのものづくり」を通して、企業から業界全体の働き方改革へ-YAMAKINの場合-

時間外労働の削減

2022.01.24

YAMAKIN株式会社

 YAMAKIN株式会社は、1957年貴金属地金の売買・製造加工会社として創業。1976年に山本貴金属地金株式会社に改組、2017年の創業60周年を機に、山本樹育さんが4代目社長に就任。社名も、顧客から親しみを込めて呼ばれていたという愛称の「ヤマキン」に改めた。

 現在は、歯科用材料や工業用貴金属材料の開発・製造を中心とした研究開発型メーカーとして、4つの貴金属関連事業を柱とする。なかでも歯科材料部門は売上高の80%を占め、セラミックスの土台となる貴金属合金分野は国内シェア25年連続1位の実績を誇る。

「歯科医療、特に歯科修復物の分野は、アナログからデジタル化への移行が急速に進んでいる」と山本社長。同社もそれらの新技術に対応した製品を上市するなど、さまざまな角度から歯科医療業界を支えている。

 アナログからの脱却は、働き方改革にも置き換えられる。時流に乗った労働環境改善の取組を、現在も継続中だ。

「ユースエール」の最短取得を目指し、大号令

 同社は、本社機能を大阪府に置き、製造を含む研究開発や企画戦略といった主力部門を高知県に集約している。

「製造原価低減の観点から、高知工場の内勤職については、先に残業削減の取組を始め、当時すでに成果も上がっていた」と山本社長。

 同社が労働環境に取り組む転機となった2018年7月の月平均時間外労働時間は、営業系職種で44時間(全社では18時間)、年次有給休暇の年平均取得日数は5日(全社では8日)。内勤職の残業削減は達成したが、営業系などの外勤職が平均値を押し上げていた。

 同社の営業部門は、歯科技工所や歯科医院、歯科材料などを販売する歯科商店が主な取引先だ。歯科医院などへの訪問は、夜の診療終了後にアポイントメントを取ることも多い、特殊な労働環境だった。その後、日報業務で会社に戻るサイクルだったため、長時間労働が常態化していたという。

 山本社長は「営業は取引先あっての仕事。先方が希望する時間に合わせるのは、業界的に当然という風潮もあった」と同社での営業経験を踏まえて語る。

 社員に「利益を上げるために、残業は当然」の意識がある中で、外勤職の時間外労働時間の削減を目指したことは、強い反発を招く結果となった。

「社員からは『お客様を回りきれない』『利益が出せない』『仕事にならない』など、できない理由ばかりが挙がり、始める前から諦めている雰囲気だった」と山本社長は当時を振り返る。

「旧態依然のままでは、いつまで経っても労働環境は変わらない」(山本社長)、そんな想いから改善案を模索していた時に知ったのが、「ユースエール」だったという。

 ユースエールとは、「若者雇用促進法」に基づき、若年層の採用・育成に積極的かつ雇用状況が優良な中小企業に対する厚生労働省の認定制度だ。

 認定されると、「ユースエール認定企業」としてハローワークなどで自社のアピールが可能になる他、「若者雇用促進総合サイト」に認定企業として掲載されるといった、さまざまなメリットがある。

 ユースエールの認定取得には、さまざまな基準・要件をクリアする必要があり、年次有給休暇の取得は10日以上、時間外労働時間は月平均20時間以下といった具体的な数値目標も明示されている。

「まさにこの要件が、自社が目指す労働環境改善の方向性と一致していた」と山本社長。

 またユースエールの認定を通して、「これからを担う若者を積極的に採用して、社員教育を充実させ、次世代のキャリア形成を構築することがYAMAKINの発展にも繋がる」として、「トップダウンを有効に活用する形で『ユースエールを最短で取得する』という大号令をかけた」と話す。

 これを契機に、社内における働き方改革の取組が一気に加速していった。

「時には自身が旗振り役となり、取り組む姿勢を見せることが大切」と山本 樹育代表取締役社長

勤怠管理の知識を浸透させ、社員の意識を改革

「まず、長時間労働は美徳ではなく、時代に逆行していることを社内に向けて、徹底的に周知しました」と話すのは、管理部 部長の清水 悟さんだ。

 2000年に入社後、製造から管理部門に異動し、主に労務管理に携わる。山本社長からユースエール認定の命を受け、時間外労働時間の削減など、さまざまな取り組みを進めてきた実働部隊の一人だ。

 それまで外勤職については、労働時間の管理を本人に任せている部分があったという。当時は、全員の時間外労働時間が月60時間以上という営業拠点も存在していた。

 勤怠管理における知識の土台がないまま、長時間労働ありきで働いていたため、清水さんは「『これぐらいならいいだろう』という感覚で、業務時間に対する意識が緩くなる傾向があった」と話す。

 現状の労働時間を正確に把握するため、全社員の時間外労働時間をリスト化。毎月の取締役会ですべてチェックし、残業が続いている社員については「所属の部門長を交え、原因の追及と業務の洗い出しを行った」と山本社長。

「そもそも社員の間で、通勤時間と労働時間の区別、時間外労働時間の正確な意味といった、勤怠管理の基本的な知識の理解が不十分だったことがわかり、社内向けに説明会を実施しました」と清水さん。社員が納得するまで何度も質疑を重ね、蓄積した内容は『質疑応答集』として社内で共有。会社全体で勤怠管理の理解を深めていった。

 また「社員に協力を求めるだけでは、実際の削減に繋げるのは難しい」(清水さん)として、これまで各拠点の全員参加が慣例だったデンタルショー(展示会)を、必要最低限の人員で運用するよう方針を転換した。

 清水さんは「展示会の全員参加は、総出で来場者をもてなすという気持ち的な部分も大きかった。また多くは休日開催のため、長時間労働の原因にもなっていました」とルール変更の理由を語る。

「製造部門での長時間労働の経験が、労務管理を考える上で基本になっている」と話す、管理部 部長の清水 悟さん

 さらに改善取組において、最大のネックでもあった歯科医院や歯科商店への夜間の訪問を見直し「できる限り朝、歯科医院であれば昼休みの訪問を先方に提案するなど、1日の営業サイクルを改めた」と山本社長。現在は、顧客側の指定がない限り、夜間の訪問はほぼないという。

「当初『ユースエールの認定を受ければ、会社の利益が下がる』とまで言っていた社員たちも、取組を始めて半年を過ぎた頃には『この部分を変えたいが、労務的に問題はないか』など、前向きな意見が増えていきました」と清水さん。

 山本社長や役職者、また管理部門が現場と丁寧な対話を重ね、できることを一つずつクリアしていった結果、最短の1年でユースエール認定取得にこぎつけた。

「時間外労働時間が減ることで、年次有給休暇の取得日数が減ってしまうなら意味がない」(清水さん)と、年次有給休暇取得の推進、営業部門のフレックスタイム制の導入など、現在も労働環境改善に日々取り組む。

 2021年の月平均時間外労働時間は、外勤職で16時間(全体で10時間)、年次有給休暇の取得平均日数は全体で13日を達成している。

 技術・情報マーケティング本部に所属する大川愛美さんは、同社がユースエール認定に向けて動き出した2018年の入社だ。

「前職の歯科衛生士の知識と経験を活かせる『メディカルアテンダント』という職種があると知り、やりがいがありそうだと志望しました」と話す。

 現在は、歯科医療機関のニーズを聞き取りながら、社内で共有、製品の開発や改良に繋げていく業務に携わる。

「体調不良以外で、年次有給休暇を取得する概念がなかった」と大川さん。入社後、上司から年次有給休暇の取得を勧められ、驚いたという。「当初は自身のプライベートを理由に、休むことにためらいがありました」と話すが、上司の積極的な声掛けや周りの手厚いフォローに「今では、進んで年次有給休暇を取得しています」と笑う。

 また、残業の有無は「移動時間や顧客の都合で左右される」としながらも、「社内全体の長時間労働を抑えようという空気が逆にプレッシャーにもなり、常に業務の効率を考えて仕事に取り組む習慣が身に付いています」と話す。

メディカルアテンダントの大川愛美さんは「前職と比較しても、公私のメリハリが保てていると感じます」と話す

自社開発システムで、業務効率化をさらにサポート

 ユースエールの認定を目標に掲げ、時間外労働時間の削減を始めとする業務効率化の取組により、生産性が向上したことは、同社にとって大きな収穫となった。

 山本社長は「決めたルールの中で、社員が努力してくれたことが良い結果となった」と喜ぶ。社員の意識の変化が会社の利益に繋がる好循環が生まれつつある。

 かつて同社では、2年に1度、社員に特別の有給休暇を連続で取得させ、見聞を広める目的で、研修会旅行が開催されていた。

 時代に合わせ、発展的に役割を終えた研修会旅行に代わり、今年度からリフレッシュ休暇として、全社的に5日連続での年次有給休暇の取得を推奨している。「BCP(事業継続計画)の観点から見た、属人的な業務を他の社員も携われるようにするためという狙いもある」と山本社長。休暇中の社員の業務をどのように部門内でカバーするか、自分たちで考える機会にするという位置づけだ。

「できることは、自分たちでやる」。YAMAKINの創業時から受け継がれる企業風土だ。

 貴金属に端を発し、セラミックスやレジンといった歯科材料を自社で研究開発・製造、システムデザイン部門や広報マーケティング部門の設置など、すべてはこの企業風土がベースにある。

 社内にこれらの部門を設けているメリットについて、山本社長は「スピード感」を挙げる。「できるだけ社内で完結させることで意図が伝わりやすく、顧客からの提案に対して臨機応変な対応も可能になる」と説明する。

 なかでも5年以上運用されている「営業支援システム」や「勤怠管理システム」は、システムデザイン部門のSEがゼロから自社開発、デジタル技術による業務効率化を形にしたものだ。現在も、社員のニーズや時代に合わせて改良をくり返している。

 時間外労働の一因にもなっていた帰社後の日報業務の省力化もその一つだ。キーボード入力が苦手な社員向けに、プルダウンリストから選択する方式に日報をテンプレート化。さらに社外から日報を入力できないというハード面の問題に対しては、外出先で作成した日報をインポートできるようシステム自体を改修した。「担当SEが、社員に丹念に聞き取り調査を行えるので、よりニーズに沿った改良ができます」と清水さん。

 今年度からは給与明細の電子化も実現。ペーパーレス化や業務の削減にも繋がっている。

 また、社内外のコミュニケーションの最適化を目指し、大阪本社と高知工場に、テレビ局並みの機材が揃う「YAMAKIN放送スタジオ」を新設した。デジタル機器に強い社員を選抜し、メディアコンテンツの制作技術者として養成している。「当社は営業拠点が全国にあるため、デジタルによるコミュニケーション手段の整備は、長く課題としてあった」と山本社長。

 コロナ禍により中止・延期が続く展示会に代わるものとして、歯科技工所や歯科医院向けの製品の説明や使用方法のデモンストレーションもスタジオから発信するなど用途は広がっている。

放送スタジオは、大阪と高知の2拠点。ミーティングやオンライン商談など、さまざまな場面で活用されている

 今、歯科医療業界では、歯科用CAD/CAMシステムの保険適用に伴い、従来の歯科技工士による手作業からデジタル加工技術を用いた制作方法に置き換わりつつある。

「デジタル技術の追求が、業界的に大きなウエイトを占めている」(山本社長)という。

 同社では、それら新技術に対応した歯科材料製品の販売に留まらず、研究開発で得た技術的情報やノウハウを広く提供する取組を進めている。「業界を挙げて、デジタル技術の向上を目指せば、業界全体の働き方改革にも繋がる」と山本社長。そのためにも労働環境の改善をさらに推進し、社員一人一人の成長に期待を掛ける。

 YAMAKINのものづくりとは、「製品・技術・情報・サービスを有機的に組み合わせ、市場におけるすべての顧客に価値を提供する」こと。さらに「IT・デザイン技術を使い、顧客間のコミュニケーションをデザインする」ことと定義している。

「YAMAKINのものづくり」精神で、会社の枠を越え、業界の発展を見据えた働き方改革を推し進めていく。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

ユースエールの認定取得で社員の意識改革へ

効果
営業系職種は、歯科技工所や歯科医院、歯科商店といった特殊な業態への夜間訪問などを当然とする風潮があり、長時間労働が常態化。社員の意識を改革し、スムーズな労働環境改善のため、トップダウンで「ユースエール」の最短取得を目指す大号令をかけた。
取組2

勤怠管理の知識の浸透と会社の方針を転換

効果
説明会の実施と『質疑応答集』で、会社全体で勤怠管理の理解を深める。さらに必要人員のみの展示会参加、営業系職種の夜間訪問を見直し、1日の営業サイクルを改める。外勤職の月平均時間外労働時間は、2018年の44時間から2021年は16時間に削減。
取組3

デジタル技術を活用した業務効率化を図る

効果
「営業支援システム」「勤怠管理システム」を自社開発するシステムソリューション、パンフレットや製品パッケージ制作を手掛けるデザインコンテンツ、映像制作を担うメディアコンテンツなど、デジタル技術を活用。アナログからデジタル化への転換で業務を効率化。

COMPANY DATA企業データ

匠の技術力をコアに、先端技術の総合歯科材料メーカーへ

YAMAKIN株式会社

代表取締役社長:山本 樹育

本社:大阪府大阪市(2022年7月高知県香南市に移転予定)
従業員数:285名(2021年6月現在)
設立:1976年7月
資本金:5000万円
事業内容:金・銀・白金・パラジウム及び各種貴金属地金の売買、貴金属地金の加工、貴金属の精製及び分析、歯科材料の開発・製造及び販売

経営者略歴

山本 樹育(やまもと・しげなり)
1977年生まれ。2000年慶應義塾大学経済学部卒業後、山本貴金属地金株式会社(現・YAMAKIN株式会社)入社。研究開発センター、国際事業部、経営企画室勤務を経て、2007年取締役(経営企画担当)に就任。2017年より代表取締役社長。座右の銘は「It's up to me(すべて、自分次第)」