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駿河重機建設株式会社
建設業
中部
30〜49人
File.116
建設業のイメージを覆す改革で100年企業への成長を図る ―重機土工事のプロフェッショナル集団~駿河重機建設の場合―
2022.01.24
駿河重機建設は1981年、土木工事請負、解体業等を事業内容として創業した。同社はこれまで、公共インフラを手掛けるなどして、地域の再生に貢献してきたが、2020年に創業60周年を迎えたのを機に建設業から「まちづくり企業」への転身・発展を図っている。「地域に貢献する100年企業を目指して建設業から”まちづくり企業”へ」をスローガンに耕作放棄地や荒廃森林の再生、様々な新規事業を展開している。
社長就任と同時に働き方を変革
駿河重機建設の働き方改革は栗山勝訓さんが父の跡を継ぎ、社長に就任した2011年6月から始まったと言ってもいいだろう。東日本大震災が起き、民主党が政権を取っていた時代である。
「公共事業の予算が大幅に削られ、大震災もあり、景気は悪化。当社の経営も厳しく、倒産の危機に瀕していました。父は解散すると言ったのですが、私が絶対にダメだと言って、半ば強引に会社を引き継いだようなものです」
32歳の時だった。社長就任と同時に3名の新規雇用を行った。それは一歩も引けない状況を作りたかったからという。給料を払うためには新規顧客を開拓しなければならない。そこで営業に全力を注入した。銀行からの融資、同業者のサポートも得て徐々に業績は回復していく。
事業の再構築と並行して就業規則の見直しも行った。これまで就業規則などろくに見直しも行ってきておらず、賃金計算は月給制、日給月給制など社員ごとにバラバラ、労働日についても雨天は休むが、それ以外は日曜・祝日でも働くというあいまいな状況だった。とはいえ、この働き方は同社に限ったことではなく、建設業者では珍しくなかった。それを改めたのだ。
「きちんとした会社組織にしたかったのです。月給制に統一し、労働時間、年次有給休暇など諸規則を決めていきました。建設業につきまとう〝きつい・きたない・危険″という3Kの概念を覆して、かっこよくて、生き生きと働ける職場にしたかったのです」
新たに見直した就業規則では女性は当然、男性の育児休業の取得、さらに時間単位の年休の取得も認めた。「完璧とはいかないまでも、想定しうるあらゆるケースに対応できる規則を目指しました」。
見直した就業規則に従い、徐々に職場改革を進めていった。子供の学校行事などに参加しやすいよう半日年休の推進、残業削減により労働者が子供との交流の時間を確保できるようにするなどの結果、2014年には仕事と子育ての両立を図る職場環境の整備を推進し、男女共同参画に積極的に取り組む企業を認定する「静岡県次世代育成支援企業(こうのとりカンパニー)」に認定されるまでに至った。また、作業に潜む危険を報告し改善策を話し合う協議会を立ち上げ、働きやすい環境を作り上げた結果、2015年には静岡県内で初めて「安全衛生優良企業」に認定された。
では、実際に職場ではどのような取り組みが行われたのだろうか。まず、現場では5人のグループを組み、作業を実施。一人が年休を取得する際には必要に応じて他の現場から応援人員が行くという体制を取った。
「この体制から、自分が年休を取得したときには他の現場からフォローがあり、他の現場で応援な必要になったら、自分が行くという、いわゆる〝お互いさま″の良好な循環ができあがっていきました。年休が取りやすくなったのです」
作業の見積書を作成する際には就業規則に記された所定時間内での作業を前提に時間数を計上している。見積書の計画通りに作業を進めれば大幅な残業は発生しない。事務職も終業時刻がきたら、全員が帰途に着く。現在、残業時間はゼロに近いといっていい。
「極論すれば残業は〝悪″という考えが浸透しているんです」
ICT建機で仕事を効率化する
建設業は人手不足に悩まされている。厚生労働省が発表している一般職業紹介状況によると2021年5月(取材当時)「建設の職業(除パート)」における有効求人倍率は4.33倍、全産業の数値が1.04倍(実数・除パート)であるの対し、高い数値を示している。また、建設業就業者の年齢だが、取材当時最新の調査としては総務省「労働力調査」をもとにした社団法人日本建設業連合会『建設業ハンドブック 2020』(2020年11月発行)がある。このなかの「建設業の現状」によると2019年は29歳以下の就業者は全産業が約17%に対し、建設業は約12%、55歳以上は全産業が約31%に対し、約35%と高齢化が進み、「若年者の入職促進と定着」が不可欠という。
栗山社長は人材不足の悩みはないと話す。人材不足の解決策には充実した休暇制度や労働時間の削減、安定した賃金など整った労働条件の完備が大きいが、それだけではない。3Kを払拭し、〝きれい、かっこいい、安全″を具体化した環境を整備しているのも大きな要因だ。
現場に導入されているのは最新鋭のICT建機、掘削から整地までのブレード操作を自動化した情報通信技術建機である。オペレーターが運転席のモニターを見ながら、コントロールボックスを操作すれば自動的に作業が進む。その状況は現場から離れたインターネットでも確認可能だ。操作を習得すれば経験が浅い若手でも、女性でも対応でき、少ない人数で効率よく作業がはかどる。それは作業時間の短縮と安全性にも繋がっている。
「ICT建機による先端技術の採用は技術の底上げになっています。そして、もうひとつ、狙いがあります。当社は最新の重機を使い〝かっこよく″作業していると周囲の人たちに認識してもらうことです。実際に近くの現場で作業している他社の若手が興味を示してよく見にきます。すると〝駿河重機に行くと最新鋭の建機が扱える″とクチコミで広がり、当社で働きたいという動機になるんです。ICT建機を操作したいからと他社から転職してきた社員もいます」
重機のオペレーター室は土足厳禁になっている。
「オペレーター室は8時間過ごす空間です。清掃が行き届いたオフィスが快適なのと同様、ほこりや泥汚れのないきれいな環境のほうが気持ちよく仕事ができるからです」
資格取得支援、テレワークで働き方をサポート
駿河重機建設では女性であれ、外国人であれ、性別、人種、国籍に関係なく同一条件で雇用している。外国人労働者には社宅を安価で提供、日本語学校に通学するための早退を認めるなどの便宜を図っている。
「2016年にニューヨークを訪れました。そのとき、多様な人々が仕事に就き、なかでも女性が生き生きと働いている姿を見て感銘を受けたのです」
同社では女性がダンプカーの運転手として働く。
「女性は安全運転を心がけていますから、向いているんです。それに女性が入ると場が和んで職場の雰囲気もよくなりました」
新入社員に対しては入社時から業務に必要な25の資格取得を資金面でサポートしている。「教習所の費用などを支給しています。資格を持つと社員が自信を持って仕事ができるようになるし、能力も向上する。すると短時間で質の高い仕事がこなせるようになります」。
現在、同社の売り上げは10億円を超えるまでになった。そこで駿河重機建設では企画開発室を立ち上げ、「まちづくり事業」として古民家再生、農林再生、さらにクラフトビール、ウィスキー造りなど様々な事業にチャレンジする体制を整えた。
「この町に無いものを創出し地域に賑わいを作ることにより、交流人口の増加そして定住人口の増加を図っていきたいのです」
企画開発室にデザイナーとして入社したのが諸星美里さんだ。諸星さんはポスター、パンフレット、チラシ等のデザイン、ゆくゆくはクラフトビールやウィスキーのラベルデザインも手掛ける。諸星さんは小学生2人の母親。その勤務形態は在宅テレワークである。
「在宅勤務なので家事や子育てをしながら、無理なく働いています。当社には転職で入社したのですが、前職では子供が夏休みになると児童クラブに預けていました。それが、今では自宅で一緒に過ごせます。デザインのアイデアが浮かばないときなど公園やカフェで作業すると気分転換にもなり、アイデアを思いつくこともあります。仕事の効率も上がったように感じます」。
働きやすい環境の創出には各々が持つポテンシャルを最大限に引き出す効果があると栗山社長は断言する。
「地域に貢献する企業へと昇華するためには新たな人材の発掘が課題であると考えています。そこで現在は全国各地から人材募集を行っています。広い視野を持つ、有望な人材が活躍できる職場を提供できるよう今後も働き方改革に励んでいきます」。
CASE STUDY働き方改革のポイント
社長就任と同時に就業規則を見直し
- 効果
- あらゆる事態に対応できる規則を目指し、時間単位の年休制度など充実した休暇制度を創設。現在では時間外労働はゼロ、年休取得率は100%近くになった。
ICT建機の導入による業務の効率化
- 効果
- コントロールボックスの操作により自動的に作業できるので経験の浅い社員、女性でも作業が可能。安全性が高まり、若手の入社動機にもなり、人手不足が解消。
資格取得の支援と柔軟な働き方
- 効果
- 資格取得により、技術が向上。短時間で質の高い仕事をこなしている。テレワークの導入で子育て中の女性も無理なく働け、全国からの人材募集が可能になった。
COMPANY DATA企業データ
地域に貢献する100年企業を目指す
駿河重機建設株式会社
代表取締役社長:栗山勝訓
本社:静岡県静岡市
従業員数:35名(2021年8月現在)
設立:1981年6月
資本金:2000万円
事業内容:建設業、解体業、林業、農業、酒類の製造・販売、アウトドア施設の企画・販売及び運営、各種イベントの企画・運営
経営者略歴
栗山勝訓(くりやま・かつのり)
2001年3月、東海大学工学部土木工学科卒業と同時に駿河重機建設(株)入社。同年、鈴与建設出向。2004年、出向解除。同年7月駿河重機建設(株)専務取締役就任、2011年6月、同社代表取締役就任