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株式会社トーリツ
医療・福祉
関東
100〜300人
File.126
働く人の声を真摯に聞いて実現してきた働きやすさ -介護・看護・福祉サービス事業を展開する「株式会社トーリツ」の場合-
2022.01.24
東京都の葛飾区と江戸川区で、12カ所の事業所を運営する株式会社トーリツ(東京都葛飾区)。「この地域の人々を大切に」「一人ひとりを大事にする」「その人らしい生活・人生を大切にする」という企業理念を掲げて1985年に創業した。当初は居宅介護中心だったが、高齢化社会に伴い、自宅での生活が困難な利用者が増大したこともあり、さまざまなサービスを提供する事業を拡大してきた。
働き方改革関連法施行前から進めてきた職場環境作り
事業の性質上、約230人の社員の約8割を女性が占める。そのため、結婚・家事・出産・育児など、家庭と仕事の両立は避けて通ることはできない。働く環境が整備されないと、働きたい意欲がありながらやむなく離職を余儀なくされてしまう。それでは介護や看護の適切なサービスは提供できなくなるし、経営への影響も出てくる。そこで、鈴木恵里子社長は社員の声に耳を傾け、柔軟な対応を続けてきた。
「産休後や育児中の社員が仕事を続けられるよう、相談を受けて個別に対応してきたのですが、特別扱いしているのではないかという不満の声が上がりました。不公平感を解消するため、可能なものから制度化、規則化を進めました」と鈴木社長。
そうしてできた同社のユニークな勤務シフト制度は現在8つにも及ぶが、鈴木社長は「働き方改革を意識したわけではなく、社員の声を聞きながら普通のこととして対応を続けてきただけ」と語る。同社の社員の雇用形態は、正社員・契約社員・パート社員・マスター社員・登録型ヘルパーと5形態。それぞれに勤務や仕事内容に差があり、働き方もさまざまで、多様な勤務シフトは働きやすい環境作りのためには不可欠だという。
社員の声を反映したユニークな勤務シフト制度
そのきっかけは20年以上も前。熱を出した子どもを保育園が預かってくれないが利用者宅へ訪問したいという相談に応えて、子どもを事業所で預かることにしたのだという。これが、やむを得ない事情があるときは子連れ・孫連れでの出社を許可する「子連れ・孫連れ出勤制度」に発展し、多様なシフト制度の先駆けとなった。
続いて制度化したのが、子連れ・孫連れに対応した「社内保育制度」。葛飾区の本社に隣接して保育ルームを開設し、子育て経験者を雇用して1歳から6歳までの子どもを受け入れている。子どもの学校の長期休業や社員自身の時間外研修時などでも利用できるため利用頻度は高い。公平となるよう有料で運営している。
「中抜け制度」は、銀行や役所へちょっと出かけたいなど、短時間の私用で外出する際に利用されている。午前中に1時間中抜けする場合、退社時間を1時間遅らせるなどという使い方をする。遠方からの通勤者なら年次有給休暇を取得するようなケースでも、社員の多くは地元に住んでいるため使い勝手がよいという。
「代休貯金制度」は休日出勤をした場合、休日出勤手当が支給されたうえで、更に休日出勤分の時間を貯めて別の日に15分刻みで使うことができる。始業と終業時間を繰り上げ・繰り下げできる「スライド出勤制度」は、2時間の残業があると分かっている日はその時間分だけ始業時間を繰り下げて出社できるし、子どもの用事で朝から1時間だけ学校へ行かなければならない人はその時間だけ退社時間を繰り下げることができる。また、家族の入院などで定期的に病院へ赴かなければならない場合などには「期間限定シフト制度」があり、一定期間、希望したシフト勤務や休日を特定することができる
「雇用形態転換制度」はマスター社員以外で雇用形態の転換ができる制度。例えば、子育てが一段落したパート社員の正社員への移行、契約社員から正社員に、登録ヘルパーから契約社員へなど、それぞれの事情や希望に応じて新しいステップが踏める。さらにキャリアを積みたいなど、モチベーションを高めるためにも適した制度だ。また、妊娠中の女性正社員が希望した場合に職種転換ができる「妊娠中の職種転換制度」も整っている。
サービス提供責任者で2歳と4歳を子育て中の福田久子さんは、シフト制度とは別に短時間勤務制度を利用している。「まだ子どもが小さいので保育園の迎えがあり、フルタイムで働けないことを理解していただき、無理なく仕事と子育てができています」。子どもの急な体調不良でも、会社の柔軟な対応と共感してくれる人が周りにいることが心強い。「逆に残業をしていると、今日は迎えに行かなくて大丈夫なの?と声をかけてくれるんですよ」と働きやすい環境を語ってくれた。
ワーク・ライフ・バランスで仕事と家庭を両立
こうしたさまざまな制度を導入した成果として、出産・育児休業後の女性の職場復帰率はほぼ100%。男性社員の育児休業取得も出始めている。職場や雇用形態が異なる中での調整は大変だったが、仕事とプライベートを両立させるワーク・ライフ・バランスは大きく前進した。
年齢層を問わず働きやすい環境が整備されたため、離職率は低下し、2016年4月に
6年2カ月だった平均勤続年数が2021年4月には8年8カ月と伸びた。柔軟な働き方ができることが周知されると入社希望者も増えた。他の企業を退職または早期退職した人が介護の資格を取得し、65歳でキャリアチェンジを希望して応募する場合もあるという。
テレワークや社内のIT化も推進中
介護業界ではテレワークは難しいという先入観があったという。しかし、コロナ禍を逆にチャンスと考えて2021年2月から取り組み始めた。業務集中、時間の有効活用などに成果が出ている。また、社内のIT化も推進中だ。電話以外の社内コミュニケーション構築のほか、介護に必要なデータ入力をタブレットで行ったり給与明細の電子化など、効率化が進んでいる。
主任ケアマネジャーの資格を持つ中村眞弓さんはテレワークでケアプランの作成を行っている。「ケアプランの作成は内容が非常に細かく、時間や手間がかかります。出社しての業務と違って自宅でのテレワークは集中できるので作業の効率は大幅にアップしました」。ほかの4人のケアマネジャーもテレワークを行っており、情報はネットワークで繋がっているので「お互いのテレワークの日程や業務計画だけでなく、プライベートの休日の予定も調整しやすくなりました」。コロナで急に会社が休みになったときも、テレワークのおかげで慌てることなく仕事ができたと言う。
これから取り組みたい課題として鈴木社長は「人材育成のプロジェクトチームを整えたい。介護や会社の未来のために若い人の力は欠かせない。かといって若い人だけでは回らない。うまく循環させるためにも人材育成は重要課題」と語る。また、社員の高齢化も進みベテランの就業継続も大きな課題だが65歳の定年後も本人の希望に応じて再雇用に応じ、現在70代なかばの社員も第一線で働いている。
働き方改革に先駆けて、とくに女性が働きやすい職場作りを目指してきた同社の評価は、2009年度、2013年度、2016年度と、ワーク・ライフ・バランス3部門初認定に表れている。
CASE STUDY働き方改革のポイント
8つの勤務シフト制度
- 効果
- きめ細かなシフトを設定することで、出産・育児・家事などで生じる、働く人の事情に柔軟に応じることができた。とくに、子連れ・孫連れ出勤に伴う社内保育ルームは利用者も多く好評だ。
テレワーク導入
- 効果
- 介護業界ではあまり進んでいないテレワークの導入で効率よいケアプラン作成が実現した。また、ケアマネジャー同士のコミュニケーションや業務管理もスムーズになった。
雇用形態転換制度
- 効果
- 8つの勤務シフト制度の中の一つだが、社員本人からの希望または会社からの推薦による正社員移行は、働く意欲を高めた。2015年以降に、12名が非正規社員から正社員になった実績がある。
COMPANY DATA企業データ
地域の人々を大切に、やさしさと温かさをあなたに
株式会社トーリツ
代表取締役:鈴木恵里子
本社:東京都葛飾区
社員数:231名(2021年8月現在)
設立:1987年
資本金:1,000万円
事業内容:居宅介護支援、訪問介護、訪問看護、通所介護(デイサービス)、福祉用具販売・貸与、住宅改修、有料職業紹介、障害福祉サービス、教育・研修「かいごの学び舎」、介護予防、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、サービス付き高齢者向け住宅、地域コミュニティサロン「みんなの駅」
経営者略歴
鈴木恵里子(すずき・えりこ) 1966年葛飾区生まれ。大手企業勤務の後、地域の高齢者を元気にしたいとの思いから、葛飾区・江戸川区で地域に根差した介護サービスを展開する株式会社トーリツに入社。現場経験を経て、2011年8月代表取締役に就任。自らも子育てと仕事を両立させながら、社員が働きやすい職場づくりに取り組んでいる。趣味は読書。