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株式会社荒木組

業種

建設業

地域

中国・四国

従業員数

100〜300人

File.129

早期から建設現場の労働環境の改善に取り組む ー世界一働きやすい会社を目指す「荒木組」の場合ー

時間外労働の削減

2022.02.01

株式会社荒木組

本社内には壁面緑化や畳敷きのリフレッシュルームなどを完備

 2021年4月に創業100周年を迎えた株式会社荒木組(岡山県岡山市)。岡山県内を中心に、建築・土木工事の設計・施工を手がける総合建設会社だ。技術力・品質・現場力を重視した経営方針で、学校から庁舎、共同住宅、医療・福祉施設、寺社仏閣、道路、河川まで、県下トップクラスの幅広い施工実績を持つ。また、設計・施工のみならず、土地探しやメンテナンスに至るお客様の困りごとを解消するプロパティマネジメントなど、独自の発想で事業を展開している。建設現場ではICT技術を導入する一方、協力会社と一体となって安全確保・品質向上を図る協力業者職長管理能力向上制度「アラキ・アカデミー」も実施している。

3K職場の改善に3カ年計画をスタート

 「建設業界は長い間3K(きつい・汚い・危険)職種と呼ばれています。作業環境や体力面から離職率も高い職場環境を改善して古いイメージから脱却し、”世界一働きやすい会社”を目指そうと計画を立てました。それが「大心(たいしん)」です」と語る荒木雷太社長。「大心」とは2013年7月から2016年6月までの3カ年計画で、形だけでなく、社員の気持ちに着目した温かい労務管理を定め、時間外労働の削減を始めとした働きやすい職場環境を目指そうという取り組みだ。

建設業界になかった働きやすい環境作りを目指したと語る荒木社長

 「大心」で実際に取り組んだことは、内勤者だけでなく現場で働く社員への徹底したヒアリングだ。施策を立ち上げるだけでなく、何をどのように思って働いているのかというナマの声を聞くことから始めた。すると、休みが少ない、勤務時間が長いという声が多く聞かれた。そうした気持ちの受け皿がなかったという基本的なことにも気付き、時間をかけてさまざまな環境整備に取りかかった。

 まず時間外労働削減のために、現場担当者全員に配布されているパソコンを活用し、どこからでも品質管理、人員配置、進捗状況などの情報を共有できる環境を整えた。作業指示はもちろん、それぞれに関わる連絡や報告のタイムラグが解消され、無駄な作業時間が減るだけでなく、不具合事例の共有化、トラブル防止などへも大きな効果をもたらした。

働きやすい環境の醸成で時間外労働も削減された

 また、現場と本社、営業所間でweb会議を行う環境を整備したことで移動時間を削減できた。過去の事例をネット上で検索できるため、現場からでもすぐに情報が収集できる。これも労働時間の削減に繋がり、2016年度に約263時間だった一人あたりの平均年間時間外労働時間が2018年度には約220時間に削減できた(ひと月あたり約21時間から約18時間へ削減)。

 同社の現場には男女別の温水洗浄洋式仮設トイレや休憩所が設置されている。これも、快適で働きやすい環境の一環であり、3Kのイメージを払拭する施策だ。

「見える化」やIT技術の導入で生産性と作業効率をアップ

 年次有給休暇取得促進にも力を入れた。完全週休2日制を導入した時、出勤日となった祝祭日の日数分を有給の「家族休暇」として有給休暇に上乗せして付与している。その結果、一人あたりの平均年次有給休暇取得日数は、2016年度が6.3日だったのに対し、2019年度は15.6日に増加した。また、現場では4週8休を実現するため、営業と連携して受注段階で発注者に適正な工期設定の理解・合意を得られるよう働きかけている。このほか、手戻りのない品質管理、徹底した工程管理を行い、交代で休める体制も整えている。

 年休取得率が大幅に向上した背景に「いきいきWORKボードの効果が大きかった」と荒木社長。ボードには現場で働く社員の、その日と翌日のスケジュールが時間ごとに記入され、誰がいつどこで何をして何時に退社予定かといったことや、振替休日の取得なども分かる。この「見える化」によって互いの行動が共有できるので、そのたびに責任者に確認したり報告する手間が省ける上、退社予定を明確にしておけば帰りやすい。「ボードの効果は時間外労働削減に役立った」と荒木社長は振り返る。

社員の行動がひと目で分かる「いきいきWORKボード」

 さらに、現場ではDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する取り組みも始めている。例えば、ヘルメットに装着して常時録画・録音できる小型カメラ「ワーキングレコーダー」を開発した。ワーキングレコーダーを装着することにより、作業員本人の意識改革を促し、不安全行動を撲滅させることで、事故の予防・抑止につなげようというものだ。将来的には、録画データをAI分析するソフトウェアの開発も視野に入れているという。

 また、ICTを積極的に導入し、ドローンによる測量や工事の進捗状況確認も早くから手がけてきた。2021年11月には「建設機械を動かす基となる3次元設計データを簡単に作るソフトウエアを導入し、外注費の削減などに努めている」として令和3年度「おかやまIT経営力大賞」優秀賞を受賞。「作業速度と生産性が大幅に向上した。ノウハウは公開し、建設業界の発展にも役立てたい」と荒木社長。

コミュニケーションの活性化

 働きやすい職場作りの一環として「ありがとうカード」がある。仕事上で気付いた感謝の気持ちを社員間で伝え合うツールで、お互いを尊重できる社風が根付いたという。カードは2枚綴りで1枚は相手に、1枚は会社に。カードを多く書いた社員には粗品が進呈される。「部下との会話が弾み、チームワークが強化された」など現場担当者からの評判は上々で、年間約3,000枚のカードが飛び交うそうだ。

感謝の気持ちを伝え合う「ありがとうカード」

 また、新入社員が抱える悩みや心配事に対して2018年度から「メンター制度」を導入した。先輩社員がメンター(支援・助言者)となり、メンティ(支援を受ける後輩)の業務や精神面をフォローする。月1回の面談で交流を築くことで社員同士に新たな繋がりが生まれ、それが働きやすい職場を形成しているという。

 現場でのコミュニケーションを円滑にし、連携を高めるための取り組みで特徴的なのが「アラキ・アカデミー」。協力会社の職長を対象とした、少人数で具体的なカリキュラムによる独自の実践的教育制度だ。近年、建設業界は慢性的な人材不足、職人の高齢化や若年者の経験不足への対応が急務となっている。お客様が期待する品質を確保するため、協力会社と連携を強化し、安全確保・品質向上を図っている。また、今後は協力会社に対し、人材採用や離職防止などをテーマにした支援も予定しているという。

現場では協力会社と良好な関係を築いている

これからは、仕事の質を向上させてAIに対応したい

 さまざまな取り組みによって、2019年には、社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業として「第5回ホワイト企業大賞」大賞を受賞。同年、生産性向上と魅力ある職場づくりの両立に取り組んでいる企業として「第3回働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」の中小企業部門で最優秀賞(厚生労働大臣賞)を受賞。2021年には「岡山市女性が輝く男女共同参画推進事業所」として認証された。

見通しのよい本社執務室はL字型デスクで作業効率をアップ

 現場ではIT技術を活用したシステムが活躍しているが、内勤でも同様だ。本社と全営業所を結ぶ共通のサーバーを設置して業務の効率化を図り、定時になるとパソコンは自動終了するシステムを導入している。

 荒木社長は「AIはオフィスや現場にどんどん導入されています。極端に言えば、多くの作業をAIがこなす時代が来ます。AI対応は当社の大きなテーマとなっています。AIでも可能な仕事に満足するのではなく、より高度な仕事に目を向けて、仕事の質とスキルを高められるよう、これからも多様な取り組みを推進します」と語ってくれた。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

時間外労働削減、年休取得促進

効果
現場担当者全員に配布されているパソコンを活用し、品質管理、人員配置、進捗状況などの情報を共有する環境を整えてタイムラグを解消。一人あたりの平均年間時間外労働時間を、2016年度の約263時間から2018年度には約220時間に削減できた。また、祝祭日の労働日を有給の「家族休暇」として有給休暇に上乗せしたことで、一人あたりの平均年次有給休暇取得日数は、2016年度が6.3日だったのに対し、2019年度は15.6日に増加した。また、現場では4週8休を実現するため、発注者に適正な工期となるよう働きかけている。
取組2

IT技術を導入して作業の生産性と効率をアップ

効果
web会議、ヘルメットに装着する小型カメラ「ワーキングレコーダー」の開発・導入や、ドローンによる測量や工事の進捗状況確認によって、作業速度と生産性が大幅に向上した。また、定時のパソコンシャットダウンが自動でできるシステムなど、IT技術の導入に積極的に取り組んでいる。
取組3

コミュニケーションの活性化

効果
社員間で感謝を伝え合う「ありがとうカード」、新入社員への精神的なサポートを行う「メンター制度」、協力会社の職長向けの実践的教育制度「アラキ・アカデミー」など、社内外でのコミュニケーション活動が、働きやすい職場作りに繋がっている。

COMPANY DATA企業データ

世界一働きやすい会社を目指す

株式会社荒木組

代表取締役社長:荒木雷太
本社:岡山県岡山市
従業員数:209名(2021年11月現在)
設立:1960年12月
資本金:2億円
事業内容:総合建設業(特定建設業)

経営者略歴

荒木 雷太(あらき・らいた) 1961年岡山市生まれ。大阪大学法学部卒業後、鹿島建設勤務を経て、1989年荒木組入社。専務、取締役副社長を経て、1998年代表取締役就任。2018年一般社団法人岡山県建設業協会会長就任。2020年一般社団法人全国建設業協会副会長就任。趣味は茶道(裏千家)で師範資格を持つ。