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宮田織物株式会社
製造業
九州・沖縄
50〜99人
File.145
人材の多能工化で、しなやかでたくましい組織を育む ー普遍的なものづくりを継承し、次の100年を紡ぐ「宮田織物」の場合ー
2022.02.01
創業大正2年、繊維業の盛んな福岡県八女市に拠点を構える「宮田織物」。昔ながらの手法と最新テクノロジーを掛け合わせたジャパンメイドのはんてんが、国内外で高く評価されている。近年は、販路の大部分をネット通販にシフトした結果、はんてんの売り上げは過去最高益を記録。全国各地のセレクトショップでも取り扱いが増え、注目を集めている。創業から100年以上経ち、次なる100年の創造のために、止まることなく歩み続ける同社の働き方改革に迫る。
産休・育休の代替に、正規従業員を採用
デザインから縫製まで一貫生産を行う和木綿素材を使った、高品質な綿入れはんてんにファンの多い『宮田織物』。繊細できめ細やかな技術の重なりがそのクオリティを保持する一方で、女性従業員が全体の80%を占める職場環境は、結婚・出産・育児などのライフステージの変化が付きものだ。一方で現場は、経験と技術の蓄積が要となる。退職の流れを食い止める方法を模索する中で、就業規則の見直しや制度の刷新を図ってきた。
そこで、同社が取り組んだのは、産休・育休制度や短時間勤務制度の充実と利用促進だった。産休や育休の期間に仕事の代替を担う人材は、新たに正規従業員として雇用することとした。通常、期限付きの産休や育休の代替として新規採用を行うことは、一見思い切った判断にも思えるが、技術と経験の蓄積がものを言う手作業の工程が多い同社では、あえて正規での採用を選択。そこには、どんな状況下においても、社員に安定した雇用形態で、技術が習得できる環境を提供したいという想いがある。短時間勤務制度の利用は、育児に関しては子どもが小学校まで、介護に関しては無期限の利用が可能だ。社員にとって働き続けやすさを第一に考えることが、従業員にとっても、企業にとっても望ましい結果につながるというスタンスだ。
一方で、休職した社員には、復職後も元の部署に戻って勤務できることを約束する。復職への心理的・体力的な負担を軽減し、長く働き続けやすい職場環境を整えることに成功した。社員のライフステージの変化に対応することで、自ずと人材の多能工化が促進され、全体的な技術レベルが上がるという思わぬ相乗効果も生まれた。
個々の自由意思を尊重する短時間勤務で業績アップ
復職後の社員の短時間勤務は、就労時間9時から16時の間の5時間から選択できる。短時間勤務の期間は、本人が希望する時期まで延長が可能だ。短時間勤務の社員が所属する部署は、短時間の業務に集中して取り組むため、効率性が上がり、業績が上がっているという。
また、パートから正社員に採用されるケースが多いのも特長。周囲からの信頼を得て、正社員として新たなステージに挑戦できることで、個々のモチベーションを上げ、会社全体にいい流れを生み出している。さらに、縫製などの資格を取得したら評価に取り入れる取組みも実施。個々のスキルアップにつながる資格を取得している者を評価に反映することで、社員のモチベーションや能力の向上を後押しする。評価の対象となる資格を随時見直しながら、個々の可能性を育む方針だ。
2021年にパートから正社員になり、1年目を迎えた山口真里(やまぐちまり)さん。「自分の中で、子育てを優先したいという強い希望があったので、正社員のお声がけをいただきながらも、長らくパートとして勤務してきました。今は正社員として新しい挑戦をしています」と笑顔で話す。現在は、総務から実務までこなすマルチプレーヤーで、会社からの信頼も厚い山口さん。目下の課題は、社員一人ひとりが、より働きやすい環境を整えるために、会社として、これまで何度も挫折を繰り返してきたという5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)運動のプロジェクトの推進だ。山口さんは、リーダーとして、会社の在庫整理や工場内の整理整頓など、ものづくりの現場の刷新を進めている。「製造業として、モノへの思い入れは格別です。ただ、時には思い切らなければ次に進めませんよね」。在庫や古い設備の整理を徹底することで、現場の作業効率もアップ。山口さんを筆頭に、10名のスタッフ編成で改革を進めた結果、社員それぞれが会社全体の流れを知るきっかけにもなったという。新たなステージで奮闘する山口さんの挑戦は、今後も続いていきそうだ。
こうした社員一丸となって折れない組織を育む企業風土の根底にあるものは何だろう。それは、吉開社長の父であり、代表取締役会長宮田 智氏の「一遇を照らす」という経営理念がある。その言葉には、企業側から見ると、“一人一人を照らす”という意味があり、働く側にとっては、“自分の人生を主体的に生きること”を意味する。
「日本は、食品自給率が40%と言われる中、繊維類の自給率は2%ほどです。多能工化が欠かせない中で、やらされていると思うか、自分の成長と受け取るかで、会社としてだけでなく、日本のものづくりの未来も左右すると思います」と吉開社長。両者のバランスを取りながら、常に風通しのいい組織であり続けることこそ、次世代へつなぐ一歩だと信じている。
CASE STUDY働き方改革のポイント
多能工化で不測の事態も柔軟に対応
- 効果
- 裁断・縫製・アイロン等、それぞれセクションごとに役割分担を行っているが、自分の担当外であっても、業務を行うことができるよう社員の「多能工化」を推進。突発的な事態にも、しなやかに対応することができる環境を整え、互いにフォローし合える環境を整えた。
産休・育休の代替には正規従業員を雇用
- 効果
- 育休・産休の間の代替を担う社員が、継続的に雇用できるように、正規従業員として採用をしている。安定した雇用形態で、集中して業務に取り組むことができるため、結果的に従業員のモチベーションが上がり、組織への定着率が向上している。
短時間勤務制度の拡充
- 効果
- 通常8時~17時勤務だが、育休から復帰した社員は、9時~16時の間で1日5時間からの、短時間勤務ができる制度を導入。集中して業務に取り組むことで、短時間勤務制度を利用する社員が所属する部署では、前年度比の売上げが大幅にアップしたところも。介護に関しては利用期限を設けず、育児に関しては子どもが小学6年生になるまでは短時間勤務制度が利用できるなど、個々の希望やライフスタイルの変化に応じて勤務形態の見直しを図っている。
COMPANY DATA企業データ
世界に誇るジャパンクオリティを次世代へ
宮田織物株式会社
代表取締役社長:吉開ひとみ
本社:福岡県筑後市
従業員数:75名
設立:1913年
資本金:1,000万円
事業内容:繊維業
経営者略歴
吉開 ひとみ(よしがい・ひとみ)
筑後市生まれ。香蘭デザインファッション専門学校を卒業後、1981年『宮田織物株式会社』に入社。3代目社長の父親が導入した、当時は珍しかったシミュレーションコンピューターで生地のデザインや商品企画などを担当。2009年常務となり、2013年から現職。自営業の夫と子どもが2人いる。