ホーム > ヤマグチ株式会社
ヤマグチ株式会社
建設業
九州・沖縄
50〜99人
File.146
人間尊重の精神とICT化で次世代型の建設業を体現 ―磨き上げられた技術と人間力で地域を支える「ヤマグチ株式会社」の場合―
2022.02.01
『ヤマグチ株式会社』の創業は1950年。土木事業、建築事業、リフォーム事業、解体事業、造園業、上下水道事業など幅広い工事を担う総合建設業として地域の礎を築いていた。自然環境の保全に配慮しながら、快適な生活環境を創造する確かな技術は、2017年、2018年に国土交通省の「工事成績優秀企業」に認定を受け、経済産業省の「地域未来牽引企業」にも選出されるなど、その勢いは増すばかりだ。近年は、働き方改革にも力を注ぐなど、鹿児島の建設業界に新風を巻き起こす『ヤマグチ株式会社』の現在地とは。
規模拡大よりも“和”の精神を尊重
『ヤマグチ株式会社』の創業は、戦後間もない1950年。その後、高度経済成長期を経て徐々に業績を伸ばし、現在は大規模公共工事から個別の小規模工事まで網羅。年間売上高は20億円を超え、建築土木を中心に、造園、解体事業など幅広く手がけ、鹿児島県内でもトップの実績を誇る。代表的な施工実績は「しらさぎ橋」や南九州西回り自動車道、霧島市の砂防工事など。交通渋滞の緩和や災害対策など、地域住民の暮らしと密接にかかわるインフラを手掛けてきた。「戦後の焼け野原からの復興を志し、創業した祖父の代から変わらず、私たちの一番の使命は、地域の安全と安心を守りつづけることだと感じています」と話すのは、山口秀典副社長。創業者の想いを引き継ぎ、地域社会への貢献を志す中で、大切にしてきたものは“和”の精神、つまり、チームワークだ。大規模な建設事業をやり遂げるためには、現場に立つ個々の技術と人間力がものを言う。そうした背景があるからこそ、同社は事業の規模拡大よりも“人”を育てることに注力してきた。
地域のために尽力する一方で、建設業は昔から3K(きつい、危険、汚い)とネガティブなイメージを持たれてきたのも事実。そこを払拭し、足元からイメージを変えていかなければならない、そう覚悟を決めたのは山口副社長だ。山口副社長は、東京の大学を卒業後、22歳で仲間と広告代理店を起業。国会議員の秘書を経て、30歳で同社に入社した異例の経歴の持ち主だ。「自分たちで起業し、企業というものを育てていく中で、改めて自社の素晴らしさを認識しました。故郷に戻り、これまでの経験を通じて自社を見ると、さまざまな課題が見えてきたんです」。
まず初めに取り組んだのは、週休2日制を確実なものにすること。働き詰めだった社員からは、休むこと自体に抵抗があるとの声も少なからずあった。そこで、休むことに段階的に慣れてもらうために、まずは隔週週休2日制を導入。3年後に、週休2日制に完全移行した。子育て世代からは、子供の行事などに参加もしやすくなったと好評を得ている。
さらに、残業時間にもテコ入れをした。以前は、1ヶ月の残業時間が40時間を超えていたものの、今では定時から1時間以内に帰宅することが定着しているのだという。ここに至るまでには、まず、それぞれの現場に対してどのような進行管理が望ましいか、人数や工事の内容などを議論することからはじめた。現場で仕事の見直しも重要だが、もっと大切なことは社員間での質の高いコミュニケーションだという答えに至る。県内各地に現場を持つ同社の本社は、霧島市。仕事が終わって現場から帰社するまでの時間と帰社してから行う事務作業を考えると、残業は必須だ。しかし、スマホで使うビジネスチャットツールを導入すれば、一度で全員に情報を共有できるほか、現場の進捗状況や進め方に困った際にも必要に応じて熟練の技術者からスムーズにアドバイスを受ける事ができる。スマホの操作が苦手な社員には、社員教育として工夫を加え、段階的に導入を進めてきた。
担当者が現場の写真を投稿すると、コメント欄には安全対策や施工方法のアドバイス、現場付近の交通情報や、天候など社員間での交流も活発に。また、納期が迫っている現場には、近隣の担当者が自分の仕事を終えた後、自発的に応援に駆け付けるなど、よい循環が生まれている。クライアントからの問い合わせにもすぐに応えることができるようになるなど、今や欠かせないツールとなっている。
また、人材不足が懸念される中で、熟練の技術者がいなくても業務ができる環境を整えるために、現場の技術革新を実施。ドローン撮影や3次元測量による3次元設計データ作成を導入。現在は土木部に「IT推進課」を設け、精密で高品質な施工を実現している。最新型のドローンは姿勢制御機能や飛行ルートを設定すれば、誰でも簡単に飛行させることができる。またレーザースキャナで地形のデータ化を進めるなど、危険から身を守り、作業効率も大幅にアップした。
同社の経営理念の一つに「人間尊重」とある。笑顔で挨拶できること、周囲への気遣いある行動など、些細な積み重ねが個々の行動指針となっている。チームワークと思いやりを忘れない組織であり続けることは、地道な社員教育の賜物なのだ。創業以来続いている、無借金経営と離職率約1%という数字は、有川さんだけでなく、多くの社員の働きやすさを代弁していると言っても過言ではないだろう。今後も人材育成を軸に、優れた技術と働きやすい環境の両立に励んでいく。
1人の声が組織を変えていく実感
2016年に入社した有川奈緒(ありかわなお)さんは、営業部に所属。現在は、「建設ディレクター」として、依頼に対する見積書の作成や積算、入札などの業務を行なっている。実は、短大では建設業とは無縁の学科で学んでいたという有川さん。就職説明会で出会った山口副社長の熱いプレゼンに魅かれて、入社を希望したのだという。2021年2月には、先輩のサポートを得ながら勉強に励み、「土木施工管理技士」の資格を取得するなど、仕事に対するモチベーションは人一倍高い。「建設ディレクター」もリモートで8回の研修を経て取得したものだ。書類作業や現場の品質チェック、ICTの分野において建設業の知識がなくても活躍できるポジションとして、今後ニーズも期待される役割だ。未経験から始めた建設業界で6年。有川さんに仕事へのモチベーションを保つ秘訣を尋ねると「社内の空気感がとてもいいんです。上司は些細なことでも褒めてくれるし、社内にはいつもはつらつとした挨拶や“ありがとう”の言葉が飛び交っています。女性の少ない職場ですが、耳を傾けてもらえる環境があるので、女性が少なくても働きやすさは抜群です。このユニフォームも私が選ばせてもらったものなんですよ」とほほ笑む。入社2年目からは、「パトロール隊」と称して、現場の整理整頓状況などをチェックする試みもスタート。普段現場に出ない有川さんをはじめとする女性スタッフが周り、現場とのコミュニケーションも大切にしている。
現在も定時から1時間以内には帰宅するという有川さん。新卒時代も残業はゼロだったという。「学生から社会人に変わること、業界の空気感に慣れることなど、目には見えないけれど精神的な負担が大きいから、という細やかな心遣いが何より有り難いですよね」と有川さん。今の目標は「業務の精度を上げることと、今より現場に近い仕事をしてみたいです。今後、ライフステージが変わっても、ずっと続けて行きたいですね」と話す。同社は、これまで圧倒的に男性が多い職場だったため、育休・産休などの具体的な事例はない。しかし、今後ライフスタイルが変わっていくであろう社員がいてもどのような体制であれば続けやすいのか。職場環境を共に考え、体制を整えていくという意思は固い。
かつては働き方に関してネガティブなイメージの強かった建設業界だが、「給料がよい」、「休暇がとれる」、「希望がある」という新たな3Kの創造を進める「ヤマグチ株式会社」。社員間の連携を深め、地域の課題解決に対する最善の策を見出す姿勢は、地域に求め続けられる存在を目指す中で、組織として更なる成長を遂げていくことだろう。
CASE STUDY働き方改革のポイント
現場のICT化を推進し、高度な施工を実現
- 効果
- 土木部に「IT推進課」を立ち上げ、熟練技能者減少を補うべく先端技術の研究を進めてきた。ドローンやレーザースキャナ計測の導入で現場の3次元形状の計測が可能に。最新型のドローンは姿勢制御機能があり、操作も簡単。飛行ルートを設定すれば、誰でも操作ができる。将来的な人材不足解消や、社員の安全確保、作業効率の大幅アップも叶えた。
ビジネスチャットツールの導入で情報共有とスピードディな進行が可能に
- 効果
- スマホアプリのビジネスチャットツールをいち早く導入した同社。1度の投稿で社員全員が情報を共有できるほか、本社を離れ現場で個々に働く社員同士の連携強化にも貢献。チームワーク強化のメリットも生まれた。 施工方法のアドバイスや現場付近の交通情報、自主的に現場を手伝いに行く者など、社員間での温かな交流も活発に。
たった1人の声に耳を傾ける柔軟性が組織を育む
- 効果
- とにかく柔軟に周囲の声に耳を傾ける姿勢で組織を育む同社。例えば就職説明会の学生の声や数少ない女性社員の声、地域住民の声。どれも納得がいくものであれば、取り入れる柔軟性が魅力だ。ドローンを使った小学校への出前授業や、山口副社長のユニークな経歴に基づく講演会など地域に根ざした活動も積極的に行い、業界のイメージ刷新にも寄与している。
COMPANY DATA企業データ
優れた生産性と豊かな人間性で地域に愛される総合建設業
ヤマグチ株式会社
代表取締役社長:山口克典
本社: 鹿児島県霧島市
従業員数:81名
設立:1950年
資本金5,000万円
事業内容:土木事業、建築事業、リフォーム事業、解体事業、造園事業、上下水道事業
経営者略歴
山口秀典(やまぐち・ひでのり)
鹿児島県霧島市出身。大学卒業後、広告代理店を起業。その後、国会議員の秘書を務め、30歳の時に故郷へ戻り専務取締役に就任。現在は副社長として、手腕を振う。「人間尊重」の企業姿勢に最先端技術を融合させ、次世代を見据えた組織づくりに奔走している。