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株式会社クオレ
医療・福祉
近畿
301人〜
File.150
コロナ禍でのICT活用による生産性向上・勤務環境改善と価値ある会社に向けて -コロナ禍でICT機器の導入、勤務環境・人事評価制度の改善を進める「株式会社クオレ」の場合-
2023.03.24
介護付き有料老人ホームクオレ西淀川と(左)とクオレ門真(右)の外観
株式会社クオレは設立者で会長である辻本厚生氏が病院の事務長時代に、多くの高齢者と接した。戦中戦後日本が大変だった時代、「精一杯頑張ってこられた高齢者の方々が加齢による身体の不自由さや認知症があっても残った人生を笑顔で過ごして欲しい」という思いを持ち病院の介護事業を継承した。
介護は専門知識や技術は必要ではあるが、相手に愛や熱意・志を持ち向き合うことが必要である。スタッフや会社は利用者本人やその家族を理解し、寄り添う介護を行うことが必要である。社是を「真心」とし、「目にきづきと温かさを 指先に優しさと真心」をスローガンとした。2022年6月、創業25周年に新しい企業理念等を制定した。
ビジョン委員会を立ち上げ、コロナ感染防止も視野にICT化推進
少子高齢化が進み、介護ニーズは増大するものの、介護事業は報酬改定や人材不足の問題など、事業運営は厳しくなっている。国は介護にロボットの活用や情報のシステム化を奨励したが、多くの費用かかり中小事業者にはハードルが高い。
前社長(現会長)の辻本氏は株式会社クオレの生き残りをかけて、①利用者を知り優しく寄り添いささえる。介護の原点を極めること。②AIシステムなどはできる範囲で導入をしていくこと。を創業25周年にむける課題とした。
そんな中、コロナ禍に直面した。今まで以上に介護・看護は高齢者の生活・健康を担う必要が求められた。同時に、スタッフの健康を守り、安定した生活・安心できる職場環境の整備が必須である。
鈴木社長は、個々のスタッフが、日々の仕事が貴重な自分の時間を費やすだけの価値と働きがいを実感できるような会社を創ることでスタッフがやりがいを感じ、幸せで安心した未来を描くことができ、スタッフがよい医療や介護サービスをすることで、利用者や地域に信頼され必要されると考えた。
ビジョン委員会を立ち上げ、経営理念の変更をはじめ、助成金活用、情報共有、業務効率化やコロナ感染防止をも視野に入れたICT推進を行った。
取締役社長/鈴木裕子 氏
コロナ対策による助成金を活用し、コロナ特別休暇の創設およびICT機器導入
新型コロナ感染が原因で子供の学校や保育所が休業・濃厚接触者になり、予定外の休暇をとる必要がでてきた。
そのため新型コロナ対応特別休暇を創設した。就業規則に定めて働き方改革推進支援助成金(コロナ対応)を利用した。給与明細書の電子化システムを導入し、今まで紙の明細を個別封入していたものを個人のスマホ等で閲覧できるようになった。給与明細の印刷や封入業務の効率化ができ経費削減ができた。加えて、個人配布時の接触防止ができ、配布時の紛失等のリスクがなくなり個人情報保護の強化ができた。
働き方改革推進支援助成金を活用し、時間単位の有給休暇制度を創設およびICT機器導入
新型コロナ感染拡大により、スタッフの子供の学校からの呼び出しや通院が増えた。
今までは、半日有給休暇しか取得できず、用事が終わっても出社できなかった。半日休暇を取得すると現場の人員が欠けることになり人員配置基準の遵守が困難になった。そこで短時間の休暇がとれるように時間単位の有給休暇制度を導入した。こちらも働き方改革推進支援助成金が受給できるので、勤怠システムの自動管理(タッチオンタイム)を29事業所に設置した。
その結果、柔軟な有給取得ができた。時間単位の有給休暇はスタッフ100%が利用した。
助成金を利用した勤怠システムの自動管理により正確な労働時間管理が可能となり、勤怠処理の合理化と給与計算業務の簡素化ができた。給与計算担当者は毎月時間外労働が発生していたが、導入後時間外労働はほぼなくなった。
現場では時間単位の有給休暇制度の導入で、柔軟なシフト調整が可能となり時間外労働の削減になった。(コロナ感染など突発的事項がない限り、現場の時間外労働は0となった。)
導入した勤怠管理システム
新型コロナ対策にむけてのICT活用
株式会社クオレは大阪市西淀川区を中心に門真市、堺市と29の事業所がある。会議は各事業所の管理者が定期的に集まり事業報告会等の会議を行っていた。しかし新型コロナウイルスが拡大し大規模な会議開催ができなくなった。訪問看護や訪問介護は利用者宅に行きその記録を事業所に戻ってから紙に記録して配布する等の作業を行っていた。施設は1人で夜勤をするので疲労が蓄積していたため、感染対策や業務効率化が求められた。
全事業所にネットワークシステムを導入し、リモート会議を行った。リモートを使いケアプランは在宅でできるようにした。訪問系はタブレット・スマホを配布した。施設の利用者のベッドには見守りセンサーを設置し、夜勤など人数が少ない場合でも機械が利用者の状況を把握した。情報はクラウド管理し共有することが可能になった。
その結果、人的接触を最小限に抑えることができた。(コロナ感染対策)さらに情報の共有化・電子化をすることで業務の効率化・高度化が進んだ。医療連携が迅速に行うことができた。情報のクラウド管理のおかげで、BCP災害時も有効活用することができるようになった。
導入した見守り管理システム
36協定届の改定と周知
今までは時間外労働・休日労働に関する協定(36協定)を月45時間の時間外労働や特別条項(月60時間の時間外労働)で提出していたが、2022年は月30時間、年間360時間で届出をし、時間外労働削減の意義を周知した。
ICT機器の導入等の効果もあり時間外労働がほぼ0となった。
「キャリアをあきらめることなく仕事を続けられる」と語る経営本部課長(本部長代行)石川みゆきさん/2006年入社
経営本部課長石川みゆきさんは、2006年訪問介護事業所のパート事務員としてクオレに入社した。その後社員となり、現社長の鈴木所長(当時)の部下となった。「訪問介護事業は利用者宅に行き生活や身体の介護を行う事業である。一人暮しの方も多くスタッフの訪問がないと命の危険につながる事もある。嵐や夜中でも訪問したこともある。子育てや介護が理由で辞めたスタッフも多い」と今回、ビジョン委員会のメンバーの一人として働き方改革やICT推進のプロジェクトに参画した石川さん。
「上記取組みで、子供がいてもリモートワークができ、時間有休で行事に参加でき、コロナで休校になっても対応できる。家庭での役割が大きい女性がキャリアをあきらめることなく仕事も続けられると感じる。自分自身も0歳の娘を働きながら育てた。鈴木社長の背中を見ながら頑張った結果、多くの改革ができたと思う。今後もスタッフがキャリアをあきらめない職場を作りたい」と話している。
価値と働きがいを実感できるようなしくみ<人事評価制度>と<面談システム>の導入
介護・看護業界の担い手は女性である。女性は仕事だけでなく出産・育児・介護の中心的な担い手となる。ライフイベントでキャリアを中断せざるを得ないこともある。介護・看護は専門的な技術だけでなく、利用者の心にいかに寄り添うことができるか。勤続年数や資格だけでは評価できない部分がある。
そのため、「役割等級制度」を導入した。評価基準は「チャレンジすること、そして人間力を評価すること」である。チャレンジは行動すること。行動し成功がなくてもやり遂げるための工夫や努力を評価する。人間力は「真っすぐで正直」であること。「寄り添いのサービス提供」は「作業」ではなく「愛」の提供であることを人事評価に組み込んだ。
責任に応じ役割を設け、役割に応じた業務や責任を明確にする。役割に応じた資格取得を目指し自分の目標と人間力UPをめざしていく。役割に応じた報酬を支給することになる。
人事制度にはチェックポイントがあり、日ごろの面談に加え評価時に上司は個々のスタッフに対し職場にとって大切な役割を担っていて欠かせないことを伝え、スタッフの夢を聴く。必要に応じて役員との面談を行う。
その結果、スタッフそれぞれ責任とやりがいを感じ、信頼されるサービスの提供につながった。外部の各種メディアで高い評価をうけている(三ツ星コンシェルジュや週刊ダイヤモンド誌で4位)。
女性が活躍できる職場
鈴木社長は、「この度、ICTを活用し情報の共有化や業務の効率化を行うことができた。繰り返しの業務が減り、時間の短縮だけでなくデータを使い科学的な判断・連携が可能になった。機械にできることは機械に任せ、その時間をスタッフは利用者を知り優しく寄り添い支えることができる。それが介護事業者としての信頼につながると思う。その結果、外部から一定の評価をうけることができた。
そして、これは、利用者に対してだけでなく、スタッフに対しても同じことがいえる。ICTを推進し、報酬を上げ、有給休暇を増やし時間外労働を削減することも必要だ。しかしそれだけでなく、スタッフを知り優しく(時には厳しく)寄り添い支えることがスタッフの幸せになり、スタッフの成長につながると考える。そして、信頼される医療・介護サービスにつながっていく。クオレの未来を切り広げどんな時でも、お互いに寄り添い強い団結心で会社を継続していきたい」と語った。
取組みを支援した 小林湖美 社会保険労務士(大阪府会。右から1人目。)各事業所の代表者にリモートで36協定を説明している様子。
取組みを支援した小林湖美社会保険労務士は、「マニュアルどおりにいかない子育て等の対応は仕事で生きるし、段取りをつけて行う仕事は家事に生かされる。多様なスタッフが尊重されて挑戦でき、認められる職場を作りたい」と語っている。
介護事業所は、女性が8割を占める。多くの女性が結婚・出産・育児・介護などで、キャリアを中断又はあきらめざるを得ない状況が多い。同社では、上記の働き方改革に加え、育児休業制度や短時間正社員制度、パートの社会保険加入等を導入し、キャリアをあきらめない環境整備に取り組んできた。
鈴木社長は「自分が役職に就いた時、幼い子供と一緒にいる時間が少なくなったことに対して心残りがあった」と語っている。そのため新しい人事制度は役割を重視し、仕事を柔軟に変更できる、子育てをしっかり経験し、復帰後余裕ができれば自分の力を発揮できるしくみにした。したいことはして、仕事で挑戦し頑張れば、見える景色が変わってくる。スタッフが今大切なことをあきらめず、将来につなげて欲しい。男性も女性も輝く職場でありたいと願っている。
現在、辻本会長を除き、社長・役員は女性が就任している。もちろん男性も大いに頑張ってもらいたい。
クオレ創業25周年&鈴木社長就任パーティー
支援社会保険労務士:小林湖美氏(大阪府)
CASE STUDY働き方改革のポイント
ICT活用(労務管理、利用者利用、コロナ対策)
- 効果
- ICT化を推進した。働き方改革等の助成金を利用し、給与明細や勤怠管理を電子化した。在宅勤務を導入。利用者においては施設のベッドに見守りセンサーを設置、訪問系の常勤と全パートスタッフにタブレットやスマホを配布した。コロナ対策においてはリモート会議システムを導入した。情報共有ができ業務の効率化が推進され時間外労働が削減された(介護事業所でほぼ0時間)
労働環境整備(コロナ特別休暇、時間単位の有給休暇)
- 効果
- 新型コロナの感染拡大により、休校した子供の世話や濃厚接触者になった場合、休業をするための有給休暇とは別に特別休暇が取得できるので安心して働くことができる。柔軟に取得できる時間単位の有給休暇のおかげで子育てや学校行事、短時間の用事をすますことができるようになった。現場もシフトを調整しやすくなり人員配置体制の維持ができるようになった
価値と働きがいを実感できる人事評価制度
- 効果
- 経験や年齢ではなく「チャレンジ・実行・人間力」を評価する制度を導入した。一人一人の役割(責任)を明確にし、頑張りを評価、やりがいにつなげることができた。仕事は作業ではなく、愛が必要であることを伝え、仕事を通じて人が育つ現場を作っていく。スタッフ自身が認められ、責任とやりがいを感じることで利用者に信頼される医療・介護サービスが提供できる。その結果、外部評価として各種メディアで高い評価をうけている
COMPANY DATA企業データ
1. スタッフの幸せを追求する会社を創る
2. 地域の福祉に貢献し、地域で必要とされる会社を創る
株式会社クオレ
取締役社長:鈴木裕子
所在地:大阪府大阪市西淀川区
従業員数:432 名(2022年11月現在)
設立:1997年4月
資本金:3,300万円
事業内容:居宅介護支援事業(ケアプランセンター)、居宅サービス事業(訪問介護、訪問看護、デイサービス、有料老人ホーム)、地域密着型サービス事業(グループホーム、小規模多機能型居宅介護) 、調剤薬局・配食サービス等の経営
経営者略歴
鈴木裕子(すずき・ひろこ)
略歴:2004年、訪問介護ステーションにパートの登録ヘルパーとして入職、2007年フルタイム勤務に変更、2011年ヘルパーステーション所長、此花区統括エリアマネージャーを経て、2019年経営本部本部長、取締役に就任。2022年6月1日 (株)クオレ25周年を機に、取締役社長に就任 。