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株式会社東洋ハウス工業
建設業
北海道・東北
10人未満
File.160
介護離職を防ぎ、仕事と介護を両立できる働き方の制度を構築 ―お客様の健康で豊かな暮らしを住環境からサポートする「株式会社東洋ハウス工業」の場合―
2023.03.24
戸建住宅の購入は人生の大きなポイントのひとつ。1993年創業の東洋ハウス工業は、自然の力を最大限に利用するパッシブデザインを採用し、安心安全な素材を多く使用した高性能な「パッシブ住宅」を提供することで、お客様の健康で豊かな暮らしを住環境からサポートしたいと考えている。また、地域密着型企業の利点を活かし、小さな工事でもきめ細やかな対応ができるよう、日々努力している。
介護と仕事の両立に奮闘している状況を何とかしたい
就業規則は整備されていたものの長らく見直しは行っていなかった中野渡修社長は、法改正への対応や制度の見直しを行い労務環境の整備を行いたいと思っていた。しかしながら、少数精鋭で事業運営しており労務管理を専門とする部門を置くことは難しく、専門家の力を借りたいと感じ、模索していた。管轄の監督署に手続きに行った際、窓口の方から青森働き方改革推進支援センターが行っている訪問コンサルティング支援を案内され、専門家の支援が無料で受けられることを知り、訪問支援を申し込んだ。それをきっかけに働き方改革が前進、専門家からの助言を受けながら就業規則と制度の見直しを行った。
制度面での大きな課題は、介護に直面している従業員に対する支援の在り方だった。従業員は2名とも身内の介護のキーパソン。介護と仕事の両立を支援する制度が整っていなかったため、業務のスケジュールを自ら調整し、年次有給休暇を消化しながら介護家族の病院付添いや入院対応を行っていたという。従業員自身のできる範囲でなんとか仕事と家庭生活での役割りバランスを図ってもらっていたが、限界に迫りつつあった。
介護の負担が増せば、離職にもつながりかねない。中野渡社長自身も介護を担った経験があるため、従業員が介護と仕事の両立に奮闘している状況を何とかしたいという想いは強く、仕事と家庭生活のバランスが取れるよう、会社として準備できる両立支援制度の構築と運用の必要性を痛感していたという。しかし、情報入手が難しく、何をどのように進めればよいかがわからず、柔軟な働き方の選択肢を置くという具体的な方法のイメージを持てず、もどかしさを感じている状態だった。
まずは、両立支援のベースとなる育児・介護休業制度を整備
中野渡社長を含む役員2名、営業を担当されている高橋さん、事務を担当されている田中さん4人体制の小規模な会社であるため、コミュニケーションを取りながらお互いの状況を確認し合い、それぞれの「思いやり」で仕事を進めてきたが、これまで会社としての両立支援ルールの明文化はされていなかった。
そこで、まずは両立支援のベースとなる「育児・介護休業規程」を整えることから始めた。今まで「思いやり」で行ってきたことをワークルールとして明文化することにより、どんな場合にどのような制度を利用できるのかといった共通認識を整えた。
次に、介護と仕事を両立しやすい制度構築に向けて検討を進めた。
子どもの成長により終わりがある育児と異なり、介護は先が見えない。そして、仕事の段取りを組む上でも介護ならではの課題がある。例えば、デイサービスには、保育園や学童のような延長預かりがないため、介護家族の帰宅時間までに必ず仕事を終わらせ家で待機しなければならない。そうなると、突発的なお客様対応や業務対応は難しい。また、地方の医療事情では片道100kmを超える遠方の病院での手術入院や定期受診への対応が加わる。すると、さらに仕事のやりくりの負担が増すのだ。
これまで半休制度はあった。しかし、定められた時間枠の中でのやりくり、枠にはまった働き方では限界がある。家族介護を担う従業員が今までどおり仕事を続けるには、自分で仕事時間を調整して無理なく業務をこなせるような環境整備が急務だった。
そこで、従業員が介護を担う期間は、「介護フレックスタイム」で働くことができるような選択肢を置くワークルールに改める方向で検討を進め、現在、制度と規則の整備を行っている。また、介護支援を行う対象従業員が介護フレックスタイムを使うことで、両立支援等助成金を受けられる可能性があるため、介護離職防止支援コースの活用に向けた準備も進めている。
定年を廃止して、会社立ち上げ当初からの従業員と共にゴールまで走りたい
定年制度の見直しも行った。
これまでの定年は65歳だった。定年に近づいた従業員は、これまで同様に会社に貢献してくれるパフォーマンスをキープし成果を見せてくれていた。「今後は、会社を大きくしていく方向ではなく、今いる従業員と共に、会社の最終ゴールに向かう方向に舵を切っていく」そう考えていた中野渡社長は、会社立ち上げ当初から尽力してくれている従業員を大切にして共にゴールまで走りたい、という想いが強まり、定年制度を見直すことを決断。定年の引き上げも考えたが、最終的に定年廃止を選択し、本人から申し出(卒業のイメージ)があるまでは、働き続けられる環境を整えた。
フレックスタイム制度や定年廃止により安心して仕事ができるように
会社創立から約30年勤務している高橋千恵さんは、フレックスタイム制導入や定年廃止について、どう感じているのか。今の気持ちをこう語ってくれた。
「今までは、家族の入居先施設やケアマネジャーとの打ち合わせ・手続き、通院や役所への届け出など短時間で済むけれど平日の営業時間内に済ませなくてはいけない用事がある時や施設からの急な呼び出しがあった場合は、有給休暇(半日休暇)を利用して対応していました。会社の理解もあり希望どおり休暇を取ることは出来たものの、自分の備えでもある有給休暇の日数がどんどん減っていくので不安もありました。
フレックスタイム制度を利用することで、有給休暇を使うことなく介護の対応ができる時間が増えるので、とても助かります。また、急な対応をしなくてはならない時も、制度があると思うと安心して仕事をすることができます。
また、定年も廃止となったことで、今まで培った長年の経験を活かしながら働き続けることができるようになったことはとても良かったと思います。年金だけではなく、安定した収入があることは日々の生活の安心にもつながりました」
定年の廃止で、より安心して働き続けられる環境が整い、65歳を迎えた従業員のモチベーション向上につながっている。好きな仕事を続けられるということは、幸福感情を高め、体と心の健康にもつながっているようだ。
高橋千恵さん。会社創立時より在籍するベテラン。営業担当として活躍中。
今後の運用についても軌道に乗せていきたい
今回、働き方改革を担当した田中由美子さんは、これまでの取り組みを次のように振り返る。
「介護はゴールの見えない長距離走のようなもので、介護を担う人の日常生活の広範囲に負担が生じます。介護時間捻出のやりくり等を家族内で行いながら、何とか対応している従業員を見て会社として働き方改革をすることにより、少しでも介護を担う従業員の負担を減らすことができたらと考えました。また、担当者の私自身が子育てと介護が同時進行のダブルケア当事者でもあるので、社内での支援制度の整備の必要性を強く感じていましたが、知識不足もあり対応ができないままとなっていました。
今回、専門家に支援に入っていただいたことで、今まであった問題を明確化でき支援制度作成の方向性をはっきりさせることができました。あまり時間をかけることなく制度を整備する事ができたことは、とても良かったと思います。今後の運用についても軌道に乗せていけたらと思います」
当初、介護を担う期間に限定した介護フレックスタイム制の導入で考えていたそうだが、介護フレックスタイムの運用が上手くいき、お客様に対するサービスの質と仕事の質が維持でき、自分のペースで仕事をすることによって仕事が効果的に行えるようであれば、介護期間が終わった後もフレックスタイムを選択できるよう規則見直しの検討も考えているそうだ。
「働きやすい会社へ」東洋ハウス工業の働き方改革は今も続いている。
働き方改革を担当した田中由美子さん
支援社会保険労務士:田村由理氏(青森県)
CASE STUDY働き方改革のポイント
介護フレックスタイムの導入
- 効果
- 今までは家族介護(通院付添い等)は年次有給休暇(半休)を当てて対応していたが、柔軟な勤務時間の設定により、ある程度仕事に支障なく対応できるようになった。また、家族が介護を分担する日は、長めの勤務時間を確保できるため、1ケ月の所定労働時間の中で、仕事を効果的に配分できる見通しが立つようになった
両立支援体制の構築
- 効果
- 少人数体制のため、普段からコミュニケーションは意識してきたが、ワークルールの基本事項を明文化したことにより、今までの「なんとなく」の認識が共通認識に変化した。さらに、もともとあった「お互い様精神」が活性化する職場となり、風通しの良い職場風土が定着した
定年の廃止
- 効果
- 定年廃止により、より安心して働き続けられる環境が整い、65歳を迎えた従業員のモチベーション向上につながっている。また、従業員のイキイキしたパフォーマンスは、お客様サービスの向上にも寄与し、「東洋ハウス工業さんに出会えて良かった」と感じていただけるサービスにつながっている
COMPANY DATA企業データ
幸せを創造します
株式会社東洋ハウス工業
代表取締役社長:中野渡修
所在地:青森県十和田市
従業員数:2 名(2023年1月現在)
設立:1993年2月
資本金:2,000万円
事業内容:一般建築工事業、新築住宅の設計・施工、
リフォーム工事など
経営者略歴
中野渡修(なかのわたり・おさむ)
略歴:高校卒業後、千葉県の会社にて一般住宅の施工管理者として従事。1982年に出身地の青森県十和田市に戻り、独立開業。1993年に法人化し、代表取締役に就任して現在に至る。