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株式会社源
宿泊業,飲食サービス業
中部
50〜99人
File.192
職務の棚卸を断行し業務の平準化と処遇の適正化を実現 ―より良い村のはじまりを創り上げる会社を目指す「株式会社 源」の場合―
2025.03.25

「小菅村をもっと楽しくおもしろくする」を企業理念に掲げ、村の主要な観光施設である3つの施設が連携し1つの会社となって、地域活性化に貢献する株式会社 源。同社は地域の特性を生かした事業展開を行い、地元の魅力を再発見し、発信することに力を入れている。特に観光業や地元産品のプロモーションを通じて、村の魅力を広める取り組みを行っている。働き方改革においては、同一労働同一賃金や柔軟な労働時間の観点から業務の見直しを進め、従業員の労働環境の改善に努める。
※この事例は、過去に働き方改革推進支援センターの支援を受けて働き方改革に取り組んだ企業が、今回更なる働き方改革、働きやすい職場づくりに挑戦したその過程と成果を取りまとめたものである。
これまでの取り組みとその成果
【取り組み内容】
同一労働同一賃金の観点から、正規雇用者と非正規雇用者の待遇差の改善を行うべく、就業規則、賃金規程及び慶弔見舞金規程の見直しを行った。具体的には、非正規雇用者だからという理由で支給されていなかった扶養手当、年末年始手当を正規雇用者と同等とし、不公平な待遇差を見直した。
また併せて、非正規雇用者間においても、職務内容や範囲に応じてパートA、パートB、パートCと区分し時給額を差別化することで、職務内容と時給額を明確にした。
そして、非正規雇用者の賞与の支給基準についても職務や勤務時間に応じたものを設定した。
【成果】
これまでの取り組みにより、従業員から「以前よりは風通しの良い職場になった」という声が上がっており、同一労働同一賃金が従業員に浸透、定着してきた。その結果、従業員のモチベーションの維持や満足度に良い影響があったと考えている。
また、非正規雇用者の職務内容に応じた時給額を整備したことにより、賃金の合理性が高まり、労使双方が給与に納得できるようになった。さらに、従業員を募集する際に時給額の根拠を明示することで、労働日数、労働時間及び労働時間帯に柔軟に対応でき、新規募集に効果があったと考えている。
新たな課題
弊社の所在地が山間部であるということや、高齢化と人口減少が進んでいるという地域特性により、かねてより人手不足が生じており、さらにそれは新型コロナ終息後により顕著になった。例えば、人手不足により人気メニューの一部が提供できないといった事態が発生しており、経営に影響が生じていた。そうした状況は、他の部門でも同様に生じており、一部の従業員に部門間の兼務をさせる等、やむを得ず従業員に負荷を与えてしまう状況になっていた。
その一方で、従業員に対し同じ時給額が支給されているにもかかわらず、従業員個々に、やる業務とやらない業務が出始めて不公平感が生じていた。そのため、改めて時給額設定の再検討と業務プロセスの見直しの必要性を感じていた。
課題感を解決し、目標を達成するためのプロセス
具体的なアクションステップ、実施方法、プロセス等
▶ステップ1【PLan(計画)】
職務の棚卸を実施するため、全ての業務を「定期的に発生する業務」と「たまに発生する業務」とに整理し、その業務に要する時間や工数を可視化するために「業務内容確認シート」を作成した。また、このシートには自由記載欄(自分にしかできない業務、人手が足りないと思う業務、大変だと思う業務等を自由に記載)を設け、すべての従業員に現在の状況を記載してもらい、職務を全て洗い出し、確認を行った。
▶ステップ2[Do(実行)]
「業務内容確認シート」に記載された全ての業務内容について、「頻度が高いものと低いもの」、「優先順位が高いものと低いもの」、「誰でもできるものとできる人が限定的なもの」を、項目ごとに分類し、現在の業務内容を可視化した。その結果、誰でもできる簡易な業務を正規雇用者が行っていることや、重複している業務などがあることが判明した。
▶ステップ3[Check(評価)]
職務の棚卸の結果、特定の従業員への業務の集中および属人化が効率化や平準化の弊害となっていることが判明した。それを解消すべく人員配置を再検討した。その際、社内の人的資源には限りがあるため、働く意欲のある非正規雇用者の労働力を人員不足の業務に生かすこととし、細かな業務の内容に応じた時給額の設定を検討するとともに、いつどの部門の従業員が来ても業務がスムーズに遂行できるよう、部門ごとに業務マニュアルの整備を行った。
▶ステップ4[Action(対策・改善)]
まず非正規雇用者に最低限遂行してもらう「基礎業務」を会社の最低時給額とした。そしてそれをベースに、本人の意欲や職務能力に応じて時給額がUPされる「ステップアップ業務」を細かく区分した。それにより、非正規雇用者も正規雇用者の業務の一部を担うことができるようになり、非正規雇用者が、積極的にステップアップ業務に従事することで、特定の従業員に業務が集中することがなくなり、労働時間の削減および業務効率の向上が見込まれる状況になった。
業務マニュアルの整備と人財の有効活用
弊社は、多岐にわたる事業を展開しており、職種も多岐にわたる。そのため、画一的に人事管理を行うことが難しく、現場の責任者には、人事管理に関して柔軟な判断ができるよう一定の権限を与えている。その結果、良くも悪くも明文化されていない現場毎のルールが存在していたため部門をまたいだ異動や兼務を行った場合、曖昧で不公平と捉えられるケースがあり、必ずしも働きやすい環境とは言い切れない状況があった。そうしたことから異動や兼務を避けたがる従業員が少なからずおり、結果的に業務の集中化や属人化に起因する業務効率の低下が発生し、お客様に十分なサービスが提供できないことがあった。
今回、職務の棚卸を実施したことをきっかけとして、各部門において業務マニュアルを整備するとともに現場でのサポート体制を整えることができ、平準化できる業務はマニュアル化した。それにより、従業員が、異動や兼務で他部門の新しい業務に従事することになっても、当該マニュアルを用いてサポートし、スムーズに業務に適応できるようになった。これにより、人手不足になっている業務へ他部門から人材を補充することが可能になると同時に、新しい業務に従事する従業員への教育に要する時間も削減された。今後は、業務効率のさらなる向上が期待できると考えている。
職務内容の明確化とそれに応じた賃金制度の再構築
従業員にとって不公平のない賃金制度を検討するため、「業務内容確認シート」を用いて全従業員の職務の棚卸を実施した。これにより各部門で従業員が本来行うべき基本業務が明確になり、会社としての「業務の優先順位」や「必要な人員配置」を改めて検討することができた。それと並行して、職務の棚卸を基に各部門の「基礎業務」と「ステップアップ業務」の区別化を行った。特に、優先順位の高い業務や人員が不足しがちな業務、難易度の高い業務等を「ステップアップ業務」に設定することで、この業務を行う従業員には、業務に見合った時給額を支給することとした。また、意欲のある非正規雇用者の労働力を活用するとともに、従業員が各自のスキルアップについて自主的に捉え自己研鑽することができるよう、部門をまたぐ兼務業務に従事する従業員に対し、時給額がUPする仕組みも導入した。
従業員の更なるスキルアップとウェルビーイング
部門をまたいで非正規雇用者が活躍できるようになったことで、正規雇用者には、それぞれの役割に応じ、マネジメント業務や環境整備、CS向上、さらなる生産性向上等といった重要なタスクに集中してもらえるようになった。また、意欲のある者には、積極的に上位業務にチャレンジしてもらうことでスキルアップが図れるようになった。さらには、業務を平準化したことにより、特定の従業員に業務が集中することがなくなり、労働時間の適正化を図ることができ、従業員に自分自身の健康管理とウェルビーイングを意識してもらうことができるようになった。その結果、すべての従業員が各自のライフスタイルに合わせ、納得して働いてもらえることで生産性が向上する職場環境を整えることができた。
今後の展望
最近の人手不足の顕著な傾向は、事業運営に支障が出る事態ともなりかねません。今回の取り組みにより、従業員の新規募集の際に有効になると思いますし、他方では在籍している従業員についてもさらなる意欲をもって、半歩でも、一歩でも新たな職務を行っていくことを期待しています。自己研鑽、自己実現の目標をもって楽しく生き生きと働いてくれれば良いと思います。これからも、労働環境に不備や不具合があったときは速やかに改善して、働きやすい労働環境づくりを行っていきたいと考えています。
代表取締役の舩木直美氏
VOICE 従業員の声 業務マニュアルの作成と職務に応じた時給の細分化でモチベーションアップへ
2023年入社の「道の駅こすげ」のレストランで調理、シフト管理等の業務全般に従事する契約社員である 横澤 雄介 さんは、今回の取り組みを振り返って次のように話してくれた。
「現場の上司が令和6年6月に退職して、業務の負担が増大していました。現在は、従業員のスキルアップにより、負担は減少しましたが、料理の出来栄えに気を遣っています。今回の取組みで行った「マニュアルの作成」と「職務内容による時給額の細分化」は、従業員のマルチタスクやモチベーションアップにつながることと期待しています。あたりまえのことですが、これからもお客様目線で料理の提供や、サービスの向上に努めていきたいと思います。」
調理、シフト管理等の業務全般に従事する横澤雄介氏(2023年入社)
株式会社源の取り組みを支援した社会保険労務士の金井麻之美氏は次のように語っている。
「職務の棚卸は骨の折れる作業だったと思いますが、各部門の皆様のご協力あって全ての職務を整理し、賃金に紐づけることができました。場所柄、人員の確保にはご苦労されている事業所様だからこそ今回私が意識したことは、正規・非正規関わらず、今の限りある人財をいかに上手く活用していくか。意欲のある非正規雇用者が正規雇用へのキャリアが見えるような透明度の高い制度、また、ワークライフバランスを意識した職場環境の醸成、そして、更なる人材定着が進むようにという思いでアドバイスさせていただきました。」
取り組みを支援した社会保険労務士の金井麻之美氏
CASE STUDY働き方改革のポイント
業務内容に応じた不公平感のない賃金制度の再構築
- 効果
- 賃金と業務内容を連動させた制度の整備により、従業員が納得できる業務の量や質に応じた不公平感のないわかりやすい賃金体系を構築した。
人手不足の状況だからこその人財の有効活用
- 効果
- 新規の正規雇用が難しい今だからこそ、まずは今在籍している非正規雇用者の意欲を掘り起こして最大限活用する。
業務マニュアルの整備と業務の平準化
- 効果
- 簡易な業務はいつでも誰にでもできるよう業務をマニュアル化し、人手不足時は部門をまたいで協力ができるような体制を整備した。
COMPANY DATA企業データ
株式会社源
代表者:代表取締役 舩木 直美
所在地:山梨県北都留郡
従業員数:83名 ※2024年12月現在
設立:2017年3月
事業内容:日帰り入浴施設の「小菅の湯」、地元の特産品の販売とレストランの「道の駅こすげ」、渓流釣り場の「小菅フィッシングヴィレッジ」、ジップライン等アクティビティを楽しめる「フォレストアドベンチャーこすげ」、体験ツアー等を企画運営する「ディレクション事業部」等多岐に渡り、小菅村の観光産業の拠点及び推進力となっている。