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有限会社キャニオンワークス
製造業
北海道・東北
50〜99人
File.16
3.11乗り越えた「浪江の高品質アウトドアブランド」 ―縫製メーカー キャニオンワークスの場合―
2020.02.07
「福島から国産の高品質アウトドアブランドを世界に発信したい」。そう語るのは、福島県いわき市を拠点とする縫製メーカー、キャニオンワークスの半谷正彦代表取締役社長だ。キャニオンワークスは、スポーツバッグなどアウトドア用品とダイビングスーツ、自動車のシートカバーなどを約40年にわたって製造し、2018年から自社のアウトドアブランドを立ち上げた。
避難先で事業再開→「福島への思い」実り3年後に工場復活
現在、アウトドアの愛好家を中心に注目を集めているキャニオンワークスだが、2011年3月の東日本大震災の影響で創業の地、福島県浪江町からの移転を余儀なくされた。現在は同県いわき市での生産で売り上げを伸ばすと同時に、雇用も拡大しながら「子育て世代」の従業員が働きやすい職場づくりを進めている。
キャニオンワークスは、福島県浪江町で1976年からアウトドア用バッグや官公庁向けの災害対策用品を製造してきた。
東日本大震災の発生時、半谷社長は浪江町の本社にいた。最初の揺れの後に社屋の外に出て以降、同社の経営環境は大きく変わった。東京電力福島第一原発事故の影響で、浪江町は避難指示区域となり、半谷社長らの避難生活が始まったのだ。当時50人ほど在籍していた従業員は離れ離れになり、本社での操業再開のメドは全く見えなかった。半谷社長はいったん、全従業員に退職してもらうことを決め、福島県内の避難所を回り従業員に給料を手渡した。
半谷社長自身も何か所か避難場所を変え、取引先を頼って群馬県に落ち着いた。大震災から1か月後の11年4月、半谷社長1人で群馬県の避難先で事業を再開した。3か月後の同年7月には設備が整い、本格的な事業再開にこぎつけた。退職した従業員の約半数が戻ってきた。
「いつかは福島に戻りたい」。群馬県での事業再開が軌道に乗ってきたものの、半谷社長は福島への思いが消えなかった。福島県内で工場の新設場所を探すことを決意し、地域のあぶくま信用金庫と公益財団法人三菱商事復興支援財団から支援を受けて、14年4月、いわき市内に縫製工場を建設した。工場の新設場所をめぐっては「福島県内で浪江町と同じ太平洋岸、浜通りがいいと考え、いわき市に決めた」という。いわき工場が稼働して5年が経過し、いわき市内向けの製品も受注し、売り上げを伸ばした。17年に避難指示が解除になったことで、18年に浪江町の本社も再開させた。
生産拠点となる、いわき工場では、最新の機械を導入することで、縫製の経験がない人でも作業ができるようにしている。全長14mの大型の裁断機「NC自動裁断機」は、コンピューター制御によって短時間で正確なカッティングを実現する。半谷社長は「機械導入の総投資額の規模は、会社の決断としては勇気がいるものだった」とするが、人手不足を解消するとともに、さまざまな受注に対応できるようになったという。売り上げを伸ばし、現在、従業員数も64人と震災前より増えた。
「子育てに軸足」の職場づくり、パートは土・日・祝「完全休日」
キャニオンワークスは、縫製メーカーという性格もあり、パートタイマーを中心に従業員の女性比率が高い。特に20代から40代の女性従業員が多く、仕事と子育ての両立がしやすいよう働き方に配慮している。
いわき工場は、工業団地の一角にあり、周囲の工場を含めてマイカー通勤が圧倒的に多く、朝の通勤時間帯は渋滞する。このため、近隣の他社より仕事の始業時間を遅くしている。現在、始業を午前9時とし、「自宅で洗濯物を干してから出勤できる」と半谷社長は笑顔を見せる。また、家族との時間を大切にできるよう、パート従業員は、完全に土日祝日を休日としている。
今夏に入社した柴田あかねさんもキャニオンワークスの子育て世代の一人だ。6歳と3歳の2人の子どもを保育園に預けて働いている。現在は、注文を受けた商品の発送業務などを担当する。もともと、別の企業で正社員として働いていたが、仕事と子育てのバランスがとりにくく、「子育てに軸足を置いて働きたい」と転職活動を始めた。県内のハローワークで、「子育てに理解のある社長」と紹介され、応募したという。
実際に入社し、柴田さんは「職場全体が子育てに理解があり働きやすい」と語る。子育て中の従業員が多いことも、働きやすさにつながっているようだ。子どもが熱を出した時などは、「周りの人から、『すぐに帰って』と声をかけてもらえるのもありがたい」という。土日は完全に休日となるため、家族とレジャーを楽しむ時間も増えたという。
このほかにも、従業員の残業時間の削減に向けて、毎週水曜日は「ノー残業デー」としている。長く働いている高い縫製スキルを持った従業員も多く、2年前には65歳だった定年を66歳とした。
若い世代の誇りとなる「福島発のブランド」に育てたい
いわき工場は、鮮やかなブルーに塗られた建物がひと際目を引き、中には、さまざまな試作品が並んでいる。半谷社長は、自社ブランドについて「創業から40年以上を経て自分たちの仕事の価値が集約されている」と力を込める。OEM(相手先ブランドによる生産)などを通じて長年培ってきた縫製技術を生かした品質の良さが自慢だ。自社ブランドはすべて、企画からデザイン、素材調達、裁断、縫製まで全てをいわき工場で完結させている。
日本人による、日本人のためのアウトドアブランドとして立ち上げたのが、「Canyonworks」と「NEL EPIC」。トレッキングやクライミング、スポーツフィッシングなどで利用される商品を経験豊富な職人の手で仕上げている。ファクトリーブランド「CWF」 は、丈夫で長く使える設計で、キャンプや登山などの際に利用できる商品が多い。2019年秋冬シーズンには、アウトドアの要素を取り込んだライフスタイルブランド「macole」を送り出した。
半谷社長は、「若い世代に『このブランドを作っている会社で働きたい』と思ってもらえるブランドを福島で育てたい」と語る。
CASE STUDY働き方改革のポイント
残業時間削減
- 効果
- 毎週水曜日に「ノー残業デー」を実施している
子育て世代が働きやすい環境づくり
- 効果
- 通勤ラッシュを避けるため近隣企業より出勤時間を繰り下げる
定年の延長
- 効果
- 2017年度から定年を66歳に。高度な縫製技術を持つ従業員らが長く働けるようにしている
COMPANY DATA企業データ
有限会社キャニオンワークス
代表取締役社長:半谷正彦
本社:福島県浪江町
従業員数:64名(2019年9月現在)
設立:1976年
資本金:300万円
事業内容:アウトドア用品をはじめ帆布製品、ウェットスーツなどの製造
経営者略歴
半谷正彦(はんがい・まさひこ) 2001年4月にキャニオンワークス入社。2012年11月からキャニオンワークス代表取締役社長。