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鈴木建設工業株式会社
建設業
北海道・東北
10〜29人
File.37
若手が働きやすい環境をつくる ―就業規則を見直した 鈴木建設工業の場合―
2020.10.21
「若い人たちの声をちゃんと聞ける組織になったと思う」と話す花田仁社長(写真右)。現場の雰囲気も明るい
人口約4万人の青森県三沢市は、在日米軍と航空自衛隊が拠点を置く基地の街である。市内には基地関連の工事を請け負う事業者が多く、鈴木建設工業も1968年の創業から、米軍や自衛隊施設の建築、改修を中心とした事業に従事する。
のどかな住宅地にある本社を訪ね、まず目についたのが若い社員の多さだ。従業員26人はすべて正社員で、30代以下が約4割を占める。女性社員も9人と、地域の同業と比較して多い。
若者の県外流出による人手不足という地方の中小企業が抱える課題は同社も同じ。中小企業家同友会が取り組む共同求人に参加した2012年度から、新卒採用を本格的に始めたのを機に、働く環境を見直し、若手社員の定着に努めてきた。
「若い人を受け入れるには、いろんな意味で会社を変えていかなきゃならない。良い人材は入ってきても、俺の仕事を見て覚えろ、では定着しません。きちんと教えることや、休みたい、残業はしたくないという声に対応すること。しばらく手を付けていなかった就業規則も見直しました」と、花田仁社長(65)は振り返る。
8年前からノー残業デーを実施
まず取り組んだのが、毎週水曜日と、出勤日の第1、第3土曜日のノー残業デーだ。就業時間は午前8時から午後5時(うち80分休憩)。午後5時きっちりは難しくても、同6時には帰るよう上司が促している。
職場でのセクハラが世間で話題になり、女性社員が増えてきたことも受けて、2013年度にはセクシャルハラスメントの禁止について、「相手が返答に窮するような性的な冗談やからかい等をすること」など、セクハラ行為6項目を就業規則の服務規律の中に盛り込んだ。
「こういうものを見過ごしていたと改めて思い知らされました。私たちも勉強しながら、社会保険労務士と一緒につくりました」(花田社長)
社員の提案で「休暇カード」導入
昨年度、総務の若手社員からの提案で、年次有給休暇の申請方法を見直した。社員一人ひとりの「休暇カード」を作成し、年度始めに各人の年休の総日数を総務がカードに記入。使うたびに残りの日数が分かるように「見える化」した。上司の承認を得た後は、グループウエアのスケジュール機能で休みの日を全員に共有する。
それまでは、押印した休暇願を総務に毎回提出していた。年5日の年休取得義務化に合わせ、年休を何日取ったかが一目でわかるようにし、押印廃止で手続きを簡略にして、計画的に取りやすい環境をつくった。
「小さなことかもしれませんが、現場から出る業務の改善や工夫の声はとても大事だと思っています」と、取締役総務部長の附田郁子さんは話す。
子育て中の社員が働き方の見本
働く環境を制度面で整えてきたが、ノー残業デーも「なかなか時間通りに帰れない日もあります」(花田社長)。
そうしたなかで、働き方の「見本」を示してくれるのが、子育て中の女性社員だと花田社長は話す。
4歳の長男がいる営業部主任の佐藤弥生さんは、米軍発注工事の入札書類の翻訳や通訳業務を担当している。仕事で心掛けているのは、作業の前倒しだ。
先々の工事の入札日を個人のスケジュール帳に書き止め、入札に必要な翻訳書類の準備を先行して進めている。「一つの仕事を3日以内に済ませたいと思ったら、今日は5時の終業までにここまでは終わらせようと、毎朝決めています」
自分が和訳した資料で下請け会社が見積もりを作成する。その作業に余裕をもって渡せるようにした。「子どものことで、いつ何時休まなきゃいけないこともあるから」と、「前倒し」と「段取り」を常に意識するようになったという。終業時間には退社し、保育園に長男を迎えに行く。
同社には通訳業務の社員が4人いる。米軍の仕事を請け負うには通常、通訳を付けることが条件とされているからだ。同業には派遣社員で補うケースもあるが、「縁あって一緒に働くのなら、きちんとした雇用を」(附田取締役)と正規雇用を続けてきた。
その通訳の社員に、国家資格である2級建築施工管理技士の取得を促している。資格を取ると中小規模の建設現場で、発注者との打ち合わせや工事全体の進行の管理・監督ができる。英語の話せる現場責任者として一人二役がこなせ、「人手不足解消と、仕事のやりがいにつなげられれば」と花田社長。資格手当を支給し、社員の定着にも期待する。
9月に第2子の出産を控える佐藤さんも「今年6月の検定試験が新型コロナウイルスの感染拡大で延期になったので、来年の受験を目指します」と話す。
外国人を含め全員が正社員
2年前には初めて、外国人を正社員として採用した。建設部で通訳・翻訳業務にあたる米国出身のライランド・デビッドさんは、三沢基地内のホテルに勤めていた時、外装工事をしていた同社を知り、求人に応募した。「日本で暮らし続けたくて、健康保険やボーナスのある日本の会社で働こうと思いました」。入社の動機をそう話す。
日本人の妻との間に2歳になる長男がいる。かわいい盛りの息子とは「公園に行ったり、買い物に出かけたり。ノー残業デーで平日も一緒に過ごす時間があるのでうれしいです」。
10代から日本語を勉強してきたが、建築関係の用語は働きながら学んだ。日本語能力試験に向けた勉強でさらに語学力を磨き、来年には、2級建築施工管理技士の検定試験を受けたいという。
「困ったことやわからないことがあれば、だれでも相談できるし、応援してくれる社員ばかり。働き続けられるよう資格を取りたい」と意欲をみせる。
花田社長が経営理念の中で、特に大切にしている言葉がある。
<私たちは、共に力を合わせ幸せの和創りをする集団を目指します>という一文だ。「人の和や人間性を大事にする会社でありたいです」
社員が伸び伸びと働ける環境づくりに、これからも取り組んでいきたいという。
CASE STUDY働き方改革のポイント
水曜と隔週土曜をノー残業デーに
- 効果
- 午後5時の終業時間に上司が帰宅を促す声かけをし、6時までには帰るよう取り組む。新卒採用を始めた2012年度からスタート。
「休暇カード」で年休取得を見える化
- 効果
- 年度始めに年休の総日数を記し、使うごとに残日数がわかる社員別カードを19年度から作成。年休が取りやすいように工夫した。
従業員全員を正規雇用に
- 効果
- 通訳・翻訳業務も含めて従業員全員を正規雇用に。人材定着も期待し、資格手当を支給することで、資格取得を促している。
COMPANY DATA企業データ
私たちは、技術と英知でお客様に感動を頂ける企業を目指します。
鈴木建設工業株式会社
代表取締役社長:花田仁
本社:青森県三沢市
従業員数:26名(正社員26名=2020年7月末現在)
設立(創業):1968年
資本金:3,000万円
事業内容:三沢基地の在日米軍や航空自衛隊施設の建築・土木工事を中心とした総合建設業。
経営者略歴
花田仁(はなだ・ひとし)1955年生まれ。青森県立十和田工業高校卒業。1975年鈴木建設工業に入社。1992年取締役、2009年11月に社長就任。三沢建設業協会理事、三沢市防衛協会理事。好きな言葉は「仁」。