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株式会社 阪技

業種

情報通信業

地域

近畿

従業員数

100〜300人

File.66

女性の活躍をきっかけに働きやすい職場へ変化 ―総合技術サービス業「阪技」の場合―

時間外労働の削減

2021.02.04

株式会社 阪技

 全社員245人のうち約6割を女性で占める阪技(兵庫県高砂市)は、発電プラントや原動機(タービン)の設計、生産技術、品質技術、システム開発などの総合技術サービス業を手掛けている。女性社員のうち約8割がエンジニア。20~30代の若手エンジニアに限ると、約8割が女性となる。技術職は一般的に「男性の職種」というイメージがあるが、同社はその常識を覆しているといえるだろう。

女性社員の能力の高さから常識を覆される

 専門性が高い職種であるエンジニアは採用が難しく、中小企業となると人材難に陥りがち。30年ほど前、同様の課題を抱えていた同社に、専門学校を卒業した女性が面接のために訪れた。女性が志望したのは設計の仕事だった。最終的に採用を決めたが、当時は設計の仕事は業界では男性が担うケースがほとんどであったため、女性も活躍できるのか不安もあったという。

 ところが、心配は杞憂に終わる。後藤社長は「非常に仕事の把握力が高い。図面は緻密さが要求される0.01ミリの世界だが、彼女はきちんと見やすく描く。字も丁寧で読み間違いがない。当時の図面は手書きが主流だったが舌を巻いた」と述懐する。

 次第に仕事の成果も現れ、後藤社長はこう考えるようになった。「働く能力に性別は関係ない。その人が持っているものを引き出して伸ばすことが大切だ」。

「働く能力に性別は関係ない。人は育てるもの」が信念の後藤純次社長

 ここ十年ほどの間に、女性技術職は大きく増えた。結果、会社として「働きやすい職場へ」という方向に自然と向かっていった。

残業時間削減の意識が女性社員から広がる

 同社が考える働きやすさとは、まず「長く働ける環境である」ということだ。人材を育て、長く働いてもらい、会社が発展していく。そんな姿を目指し、十数年前に「教育センター」を設置した。ここを皮切りに、徐々に働き方改革を意識し始めたという。新入社員はセンターで半年間、文書やシステムなどの研修を受けた後、職場に配属される。そして、配属後は先輩社員が一人つき、メンター制度やOJT研修などフォロー体制も構築されている。

「教育センター」では、こまめなミーティングを開くなど、新入社員の育成やフォローを手厚くしている

 「教育センター」では、こまめなミーティングを開くなど、新入社員の育成やフォローを手厚くしている
教育体制は整ったが、現場では当たり前のように残業をする状況が続いていた。会社が現場を指導するも、残業はなくならない。後藤社長は8年前、思い切って新入社員の残業禁止令を出した。同時に「1日8時間の中で成果を出す」ことを意識するように説いた。

 残業に対する考えは男性と女性で異なり、「残業したくない」という考えは女性の方が強いという。女性社員が多数を占める環境下で、「やるべき仕事を時間内にすませ、定時で帰る」という意識が次第に浸透していき、今や風土と言えるまでに定着した。女性が働き方のスタイルを変え、それが男性社員にも波及していった。後藤社長は「社長がいくら旗を振ってもなかなか変えられないものが、女性が増えたことで自然に変わった」と話す。

 同社では個々の社員の残業時間をチェックし、「見える化」している。「かつては早く帰るのは気が引けたが、今では逆に遅くまで残っている者が居づらい雰囲気になっている」と後藤社長が話すように、残業を減らす意識を社員それぞれが持った結果、一人当たりの月間平均残業時間は2013年に20.4時間だったのが、2020年(1~10月)では11.1時間と、半分近くにまで減った。

女性が働きやすい職場に魅力を感じて入社した西井千春さん

 そうした職場に魅力を感じ、2020年5月に転職してきたのが西井千春さんだ。現在は人事採用業務を担当している。以前の仕事は人材系の営業職で、朝から夜遅くまで働くのが当たり前だった。全国転勤もあるなか、結婚を控えていたこともあり退職。再就職先を探すなかで最初に訪れた会社が阪技だった。「面接をしてくれた方が妊婦さんだった。この会社は女性が働きやすい会社なのだと思った」と入社を即決した。

 入社後もイメージとのギャップはなく、「残業している人はいないし、土日はしっかり休める」と笑顔を見せる。「私はまだ『残業体質』が抜け切れていない」と苦笑しながらも「早く仕事を進めるよう心がけている」と話す。

子どもの教育も重視した保育所を設立

 女性の働きやすさを追求した結果、子育て支援も充実していった。2016年、本社のすぐ近くに保育所をつくった。「仕事と子育ての両立というより、お母さんが子どものそばで働けるようにしたい」と後藤社長は保育所設立の思いについて語る。

 保育所の運営は専門の会社に委託しているが、単純に「預けるための場所」ではなく、子どもの成長を願い、教育面を充実させた。保育所で現在預けられている子どもは、0歳児から2歳児までの9人。専属の栄養士がいて、食事はすべて手作りだ。庭の菜園で園児といっしょに野菜作りをするなど食育に力を入れているほか、週に1回、外国人の英語教師による英語のレッスンもあるという。

保育所は子どもが3歳になるまで預けられる。その間、1日5~7時間の時短勤務を選択できる

 人事採用のリーダー・本郷温子さんは、2歳半になる子どもを預けている。1年余りの産休・育休を経て2019年春に復職。育休明けの社員は1日5~7時間の短時間勤務を選択でき、本郷さんは復職後、5時間勤務を選択した。現在は午前9時半からの6時間勤務で、子どもを預けて出社し、帰りに迎えに行く毎日だ。

 「食事のことも安心していられるし、一人一人、丁寧にみてもらえるのがとてもありがたい」と話す。保育所には、子どもが3歳になった年の年度末まで預けられる。「その後も小学6年生まで7時間勤務を選択できる。私もそうするつもりです」。

子どもを預けて時短勤務をしている本郷温子さん。子どもを預けて出社、帰りに迎えに行く毎日

場所を問わない働き方を推進

 同社では勤務時間とともに、場所を選ばない柔軟な働き方も追求している。全国8か所の拠点を設けているが、東京のサテライトオフィス、神戸市と那覇市のイノベーションオフィスには社員が常駐していない。サテライトオフィスとイノベーションオフィスはレンタルオフィスとして常時開設されており、社員は自由に出入りできる。出張時の利用だけでなく、例えば本社のある高砂市から都心へ引っ越したケースで、社員常駐の横浜市の事務所への通勤が難しい場合、東京のサテライトオフィスを利用するという働き方が可能だ。社員一人一人の事情に合わせる形で複数の働くスペースを設けることで、配偶者の転勤に伴う離職を防ぐ効果も期待できる。

神戸市の三宮イノベーションオフィス。都心部にあり、学生や大学と交流する重要な拠点だ

 イノベーションオフィスは次代を担う人材、事業を掘り起こす場所としても活用されている。運営を担当する黒崎充香子さんは「ここで学生と交流する機会を設けたり、それが縁で大学と関係ができたりと有効に活用している」と説明する。

 後藤社長は沖縄オフィスについて「IT関連技術に関して、沖縄は非常に関心が高い」と話す。「アジア各国との交流も活発で、ほかの都市ではできない活動ができる。いずれ沖縄で仕事をする人材を育成し、そこでイノベーションを起こし、アジアでの事業展開につなげたい」と未来を見据える。

 同社は女性社員の活躍がきっかけに多様な働き方を採り入れており、今も社員と足並みをそろえながら改革を進めている。社会の変革期を迎える中、その取り組みは注目を集めている。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

教育体制の充実と残業時間削減で長く働き続けられる環境をつくる

効果
新入社員は半年間、教育センターでさまざまな研修を受け、職場に配属される。配属後は先輩社員が一人つき、メンター制度やOJT研修などその後のフォロー体制も構築している。個々の社員の残業状況をチェックするなど、社をあげて残業時間の短縮に取り組み、月間平均残業時間は2013年の20.4時間から2020年に約11.1時間と7年間で半分近くに減らすなど、長く働ける環境を作った。
取組2

安心して働ける社内保育所と時短勤務

効果
本社近くに保育所があり、専属の栄養士による食育や英会話レッスンなど、子どもも成長できる保育環境を整えている。子どもが3歳になった年の年度末まで預けられる。その間、1日の勤務時間は5~8時間の間で選択可能。その後も、子どもが小学6年生になるまで7時間勤務を選択できる。
取組3

働く場所を選ばない柔軟な働き方

効果
社員常駐ではないサテライトオフィスを含め、全国8か所に拠点を設置。仮に配偶者が転勤になったような場合、離職せずに近くの拠点で働き続けることができるよう配慮している。

COMPANY DATA企業データ

技術と製品・サービスをもってお客様に貢献し、共生をはかる

株式会社 阪技

代表取締役社長:後藤純次
本社:兵庫県高砂市
従業員数:245人(2020年10月現在)
設立:1981年1月
資本金:1,000万円
事業内容:設計、生産技術、品質技術、システム開発など

経営者略歴

後藤純次(ごとう・じゅんじ)
工業高校を卒業後、1983年阪急技術工業(現阪技)入社。取締役、常務、専務を経て2009年社長。兵庫県出身。58歳。