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本橋テープ株式会社
製造業
中部
30〜49人
File.86
ダイバーシティ経営推進で業績アップを実現 【動画あり】 ―細幅織物専門メーカー 本橋テープの場合―
2021.11.17
本橋テープ株式会社の取り組みを動画で見る
(以下のURLのリンクからご覧いただけます)
https://www.youtube.com/watch?v=EeyC7pl5POE
本橋テープは細幅織物の専門メーカーとして1986年に設立した。同社では人材を「人財」と書く。社内文書でも、社外文書でも「人財」の表記が使用される。それは、社員は会社の「財産」と位置づけ、人を大切にし、個々が能力を開花できる環境を整えるのが役割と考えているからだ。この考えのもと、本橋テープでは多様な人財を採用し、能力を活かすダイバーシティ経営を推進している。そのきっかけになったのはエンドユーザー向けの製品開発という新分野への進出だった。
女性・シニア層の積極採用により、生まれたヒット商品
JR東海道本線藤枝駅から車を走らせること30分、住宅街の一角に本社機能を有した2階建の工場が建つ。山小屋を思わせるウッディなショップも備え、店内にはカラフルなテープで編んだトートバッグやベルト、ポーチが並ぶ。同社の製品である細幅織物は幅13cm未満の織物を指し、バッグのショルダーベルトやストラップなどさまざまな日用品に使用されている。専門メーカーとして確固たる地位を築いてきた本橋テープだが、2007年、テープを利用した製品開発を行い、メーカー向けに完成品の提案やエンドユーザー向け製品販売を行う新分野への進出をスタートさせた。
「細幅織物は吉田町の地場産業で最盛期には150社ものメーカーがあったのですが、生産拠点が人件費など安価な海外へシフトするに従い、廃業する同業者も出てきました。当社としても何か手を打たなくてはいけない。それが完成品の提案、販売という事業でした」と本橋真也社長は話す。完成品の制作にはテープの裁断、縫製を行う加工作業に従事する社員、製品デザイナーといった人財の確保も必要になる。実際に人財確保を進めると、いつしか男性社員より女性社員が多くなっていった。
2010年には静岡県が取り組む「男女共同参画社会づくり宣言」に参加、これがダイバーシティ推進へのターニングポイントになった。2012年には静岡デザイン専門学校からデザイナーとして女性1名を新卒採用、翌年には女性やシニア層を積極的に雇用・登用する方針を打ち出すなど、着実に多様な人財確保を進めていく。その結果、生まれたのが、多機能細幅織物「ルーティ」や「拵(こしらえ)トート」といった斬新な製品だった。「裁断で余ったテープを再利用するという女性社員のアイデアから、バッグが完成しました」。
男女の仕事における違いを解消し、働きやすい環境を整備
2016年4月「女性活躍推進法」が施行されたが、本橋テープでは翌年、推進法に基づく行動計画を策定、静岡労働局に提出している。「会社の本気度を社員に示したのです。男女の仕事における違いを無くすことから始めました。製造現場では伝統的に糸を棚に載せるなど織る準備は女性の仕事、機械を使って織るのは男性の仕事となっていたんです。ところが、織る仕事は女性でも技術を習得すればできる仕事です。この違いを無くそうとしたのですが、社員の不慣れがありました。ですから、ゆっくり説得して徐々に違いをなくすようにしていきました。今では優秀な女性技術者が育っています」技術職として働く女性は「完成品を目の前にすると達成感がある」と言い、生き生きと仕事をしている。
女性が働きやすい職場環境も整えていった。年次有給休暇を1時間単位で取れるようにしたのだ。子供を持つ女性が授業参観など学校行事に参加しやすいようにとの配慮からである。また、パート社員に対しては正社員へのキャリアアップを進めた。子供が幼い頃には9時から15時までのパートタイムで働きたいが、手が離れたら正社員にキャリアアップしたいという希望に応えたのだ。その反対に正社員でも、社員の希望により、出産後はパートタイムで働き、数年後に子育てが一段落したら、また正社員に復帰する働き方も可能にした。
女性の管理職登用も積極的に行っている。佐藤昌代さんは2016年に入社、2019年にサブマネージャーに登用された。テープのカットや加工に関わる業務の割り振りや進捗状況の確認、人事管理などを任されている。佐藤さんは「先輩たちが築いた技術は大切に引き継いでいます。同時にメンバー一人ひとりが自由に意見を言え、新しいことに挑戦できる環境を作っていきたいと思っています」と意欲的に日々の業務をこなしている。
佐藤さんの役職名は〝サブマネージャー″だが、この役職は課長・主任に当たる。本橋テープでは従来、部長・課長・主任と称していた役職名を管理面はマネージャーとサブマネージャー、技術面はテクニカルリーダーとテクニカルサブリーダーという名称に2019年から変えている。「女性を技術職に就けるなど仕事における男女の違いの解消を進める上で社員全員の意識改革が必要だと思いました。また、勤続年数や性別に応じて昇進するといった昔ながらの考え方も変えたかったのです。そこで従来の役職名を変えたのです。役職名を変えたことで、専門性も明確になりました」と本橋社長はいう。
幅広い年齢層、障がい者が生き生きと働き、能力を開花させている
2021年6月現在、社員は45名。その年齢層は20歳代から70歳代までと幅広い。60歳代4名、70歳以上4名が働く。定年後の雇用延長は70歳。以前は60歳だったが、その後、65歳、さらに70歳にまで引き上げ、希望すればそれ以上の勤続も可能とした。
「60歳を過ぎると雇用が心配になってくるものです。まだ働けるのに会社の都合で退職してもらうのはおかしいと思ったのです。安心して働いてもらうために雇用を延長しました。雇用延長で製造現場にはベテランがいるという安心感が生まれています」
若手のアイデアがベテランの技術力で製品化に結実することも珍しくない。ベテランから若手への技術の継承がスムーズに行われているのだ。社員のなかには障がい者が1名在籍している。「近くに特別支援学校があり、高校3年生の職場実習生を受け入れているんです。その生徒が当社に就職を希望したので採用しました」と話す本橋社長。
しかし、障がい者を採用し、指導するのは簡単なことではなかった。一つの仕事を理解するまでに健常者以上に時間がかかる。「とにかく忍耐が必要なのです。年齢が近いと会話がかみあわないことにイライラして最悪の結果になってしまう恐れがある。そこで、指導は60代、70代の女性社員2人にお願いしました。その方々なら人生経験も豊富ですし、平常心を保って指導してくれると信頼していたからです。それでも、教えるほうも、指導を受けるほうも双方とも、かなり試行錯誤しながら仕事をしている姿を何度か見かけました。半年ほどはそんな状態でした」
それが、2年経った現在、検品の正確さでは誰にも負けない存在になっている。
「白いテープの検品では微細な汚れも見逃さない。彼女が一番です」
障がい者の採用で環境さえきちんと整えれば誰もが能力を発揮できることを証明し、周囲の障がい者に対する理解も深まった。「障がい者の受け入れは言葉では簡単ですが、実際はきれいごとでは済みません。受け入れ、対応できる態勢を会社が用意しなければ、会社にも、障がい者にも、良い結果にはならないでしょう」
社員全員が会社の経営方針・経営計画や業績を把握、共有するため、全社員出席のもと、毎年、「経営計画発表会」を開催している。1990年から続く発表会だが、それまで5月最終土曜日に開催していたのを2018年からは最終金曜日に変更した。土曜日は学校行事が多く子どもを持つ親に配慮した変更である。会は商工会館などを会場に借り、2時間かけて行われる。同会では業績など会社からの報告後、最後に社員が一人ひとり〝アクションプラン″と呼ばれる、自分自身の1年間の働き方・目標を発表していく。これにより社員全員に各人の目標が周知される。その結果、社員同士、互いの目標達成のために協力し合う社風が醸成され、自然にチームワークが生まれ、育つ。実際、商品開発から完成まで、技術者と加工グループは部署を越えたチームワークで業務をこなし、売上増という成果を上げている。
「今後も年齢、性別、ハンデのあるなしに関係なく、多様な人財を受け入れ、誰もが生きがいをもって働ける環境を整えていきます。そして就職活動中の友達に紹介できる職場、親が子に就職を勧められる職場にしたいと思っています」本橋社長は断言する。事実、紹介により入社した社員や親子での勤務など、誰もが働きやすい環境はすでに整っているのだ。経済産業省では、ダイバーシティ経営を「性別、年齢、人種や国籍、障がいの有無、性的志向、宗教・信条、価値観などの多様性だけでなく、キャリアや経験、働き方などの多様性」も含む経営と定義する。
本橋テープはまさにダイバーシティ経営に挑戦し、成功を収めている企業と言えるだろう。
CASE STUDY働き方改革のポイント
男女共同参画社会づくり宣言を行う
- 効果
- ダイバーシティ経営推進のきっかけとなり、男女とも幅広い年齢層を採用。若手のアイデアをベテランの技術者が補佐するなどして、エンドユーザー向け製品の開発に繋がった。
女性活躍推進法に基づく行動計画の策定
- 効果
- 仕事における男女の違いの解消、1時間単位の年次有給休暇を導入し、パートタイム社員を正社員に登用するなどの改革がスムーズに進められ、女性の働きやすい環境を構築している。
継続雇用を70歳にまで延長
- 効果
- ベテランから若手への技術の継承ができている。現場にはベテランがいるという安心感が生まれた。高齢者が定年を心配することなく生き生きと働いている。
COMPANY DATA企業データ
〝人財″を大切にするダイバーシティ経営の実践。
本橋テープ株式会社
代表取締役社長:本橋真也
本社:静岡県榛原郡吉田町
従業員数:45名
設立:1986年5月10日
資本金:1000万円
事業内容:細幅織物製造、細幅織物を素材にした各種商品製造
経営者略歴
本橋真也(もとはし・しんや) 1973年10月22日生まれ。いわき明星大学卒業。1996年3月28日入社、2014年2月代表取締役就任。2019年5月、「革新的な経営により斯業の発展に寄与した功績」をもって藍綬褒章受章