ホーム > 愛和食品株式会社
愛和食品株式会社
卸売業,小売業
関東
100〜300人
File.94
「みんなを元気に!」をビジョンに掲げ、働く環境を改善 ―食料品・日用品の卸売販売業「愛和食品」の場合―
2022.01.24
愛和食品は1963年、菓子問屋として創業した。現在は主に遊戯ホールを対象にした食料品・日用品の卸販売を業務としている。2006年7月、創業者である早川孔惟社長に代わり、代表取締役社長となったのが、息子の早川恭彦さんだった。社長就任当初、早川さんは業績を維持し、さらに上げるため、長時間残業やパワハラとも思われかねない言動を取るなど社員に過酷な働き方を強いていた。そのため社内の雰囲気は暗く、従業員にも活気がなかった。ある日、早川さんは自分自身の社長業に対する考え方の間違いに気づき、働き方改革を断行。その結果、今では社員は快適な環境の中、生き生きと仕事をするように変化した。
完璧な社長を目指すあまり、社員には高圧的に接していた
本社を訪ねると、その外観に目を奪われる。色鮮やかな色彩で大輪の花々が外壁に描かれているのだ。エントランスから社屋に入ると屋内には明るい日差しが差し込み、白や木目を基調とした室内はクリーンで居心地のいい空間を創出している。来客の応対やデスクワークをこなす社員の表情は明るい。
会社のビジョンは「みんなを元気に!」。
「みんな」には社員だけでなく、社会、地域も含まれる。このビジョンのもとで、障がい者や高齢者の雇用機会の創出、出産・育児の支援をはじめとする社員の活躍支援、再生可能エネルギー100%を社内電力として利用したり、社用車に電気自動車を導入したりと社員の働き方や環境に配慮したさまざまな試みに積極的に取り組んでいる。その結果、「横浜市健康経営クラスAAA」、「かながわSDGsパートナー」、ワーク・ライフ・バランス推進企業に贈られる「よこはまグッドバランス賞」を受賞した。
しかし、このような職場環境は一朝一夕に出来上がったものではない。早川さんの社長としてどうあるべきかという葛藤から生まれたものだ。
先代社長の時代には、社長は社員を大切にし、社内は活気に満ちていた。
ところが、早川さんが2代目社長に就任して数年経つと、社員は感情を封じ込め、業績を上げるためだけに働いているような暗い雰囲気の会社になっていたのだ。
その原因は自分自身にあったと早川社長は話す。
「父の跡を継いだからには業績を下げてはいけない、数字を上げなくてはというプレッシャーがあったんです。なんとしても事業を成功させ、業績を伸ばそうと必死でした。それが社員に対して、業績を伸ばせという態度になって表れていたのだと思います」
当時、早川さんは20代前半、社員は年上で、父の代から勤務しているベテランが多い。
「彼らに馬鹿にされたくない。社長は完璧な存在でなければいけない。そう思っていました。それまで経営や社長業を学んできましたから、社長がどうあるべきかはわかっていました。しかし、若すぎて経験が少ないから、何か決断するにしても自信がない。それを周囲に知られたくないので私は強い社長を装うようになりました」
早川さんは社員に対して高圧的な態度を取るようになる。意志疎通はなくなっていくが、業績は上がっていった。その裏には連日の接待と残業があったのだ。
大きな取引をまとめるため、取引先の信頼を得るため、誘いを受ければ断らない。仕事量が増え、月80時間の残業をする社員もいたほどだ。
常務執行役員小松昌弘さんは当時を知る一人だ。
「社長は業績が思わしくない社員を容赦なく叱責するし、ささいなことで声を荒らげる。ですから、社内の雰囲気は重く、社長と社員の間には溝も生まれていました。社長に環境の改善を訴えても、不満を言っても、取り上げてもらえない、何を言ってもムダという諦めの空気に覆われていたのです」
新入社員の多くが、3~4年経つと辞めていった。しかし、小松さんは社長の近くにいて、黙々と業務をこなしていく。
「社長が業績を上げようと必死になっているのは伝わってきましたから……」
社員の前での謝罪と宣言が、環境改善の起爆剤となる
社内のギスギスした空気や社員とのコミュニケーション不足は早川さんも感じていた。社長就任当初、社員を幸せにしたいとの理想を抱いていたのに、全くその反対になっていたのだ。このままではいけない、変えなくてはいけないと悩んでいるとき、中小企業の経営者が集まる勉強会に出合った。経営ビジョンや社内コミュニケーションの取り方など、勉強会が主催するセミナーや研修、社会貢献活動に参加するにつれ、早川さんは自分の考えが徐々に変化していくのを感じたという。
「2代目社長として完璧を目指すのではなく、自分らしい経営をしよう、社員一人ひとりときちんと向き合おうという考えに思い至ったのです」
まず、早川さんが行ったのは社員に謝ることだった。実際に早川さんは社員の前で頭を下げ、それまでの高圧的な姿勢を謝罪し、数字にしがみつかず、社員が疲弊しない経営を目指すと宣言した。2013年のことだ。
当然、社員は驚き、なかには「今さら何を」と早川さんの言葉を信じない社員もいた。
早川さんはまず接待を減らすことから始める。連日の接待で疲れ果て、翌日には社員の話を聞くのも面倒になり、話に耳を傾けないばかりか、イライラした態度を取ることがしばしばあったからだ。接待を減らし、体調を整え、社員の話を聞くようにした。
小松さんは「話しやすい環境を作るのも社長の役目と伝えると社長は徐々にですが、様子が気になる社員には声をかけ、相談事があれば聞くようになっていきました」
こうした社長の変化を社員は目の当たりすると、社長への反感は薄れていく。そして、社長と社員のコミュニケーションが深まるにつれ、社員の表情も次第に明るくなっていった。社長自身の変化が働き方改革の起爆剤となったのだ。
意志の疎通を図るのと同時に残業削減にも取り組んだ。定時になると社員同士が「明日できることは明日にしよう」と声を掛け合う。その結果、残業は毎年減っていき、2020年には月平均11.6時間までに削減できた。また、それまでは日々の業務に追われ、体調不良のときぐらいしか取得されていなかった年次有給休暇の取得率も年々上がり、2018年は約48%だったのが、翌年には約54%、そして2020年には約57%まで上がった。
社屋のリノベーションで壁を除去し社員食堂を開設
2020年、社屋の大規模リノベーションを決行する。その結果が、前述のクリーンで居心地のよいオフィスだ。
このリノベーションでは思い切って社長室の壁も取り去った。
「言葉では風通しがよく、オープンな社風といいながら、社長室に壁があることで社員全員には聞かれたくない話ができたり、社員の目から隠れたりできました。社長室の壁は私にとって都合のいい壁、そして社員との心の壁にもなっていたんです。〝オープン″というからには秘密があってはいけない、そこで壁をすべて除去しました」と早川さん。
小松さんは「社長の動きが社員全員から見えるようになって、話しかけやすくなりました。部署間の壁もなくしたんですが、その結果、部署を越えた連携が取りやすくなりました」という。
「みんなを元気に!」のビジョンをより具体化したのが社員食堂の開設だ。
早川さんは「食事は健康の原点です。ですから、社員が元気になれるよう、食材にこだわった食事を提供しています。1日1回は体に優しいものを食べて心身ともに元気になってほしいという思いを込めています」
食材には有機野菜や大豆ミートが使用され、ワンコインの500円で利用できる。
オフィスのリノベーションや社員食堂の開設について、お客様サポートカノープス部長村上伊織さんはこう語る。
「社内にいるときには社員食堂を必ず利用しています。オフィスや社員食堂もそうですが、残業もほとんどなくなり、毎日気持ちよく仕事ができる環境になりました。私には保育園に通う息子がいるのですが、会社帰りに迎えにいくこともあります。家族で過ごす時間が増えて平日も楽しく過ごしています。キラキラしたいい会社になったなあと思います」。
社長自身の改革から始まった、働き方改革は社員全員を元気にし、気持ちよく働ける環境を整えた。「みんなを元気に!」というビジョンが現実となったイノベーションと言えるだろう。
CASE STUDY働き方改革のポイント
社長自身の働き方を変え、定時退社を心がけた
- 効果
- 社長が高圧的な態度を改めたことで社員との意思疎通がスムーズになる。また、数字にしがみつかない経営方針に変えたことで残業時間は大幅に削減。年次有給休暇取得率も上がる
社屋を大規模リノベーション
- 効果
- 社長室、部署間の壁を除去するとコミュニケーションが取りやすくなる。オフィスが明るくなり、快適な環境で仕事がはかどる。社員の表情が明るくなった
食材にこだわった社員食堂を開設
- 効果
- 有機野菜など安全性にこだわった食材を使ったメニューを提供。社員が健康的な食事を取れるようになり、社員自身も自分の健康に気を遣うようになる
COMPANY DATA企業データ
愛和食品株式会社
代表取締役社長:早川恭彦
本社:横浜市
従業員数:144名
資本金:3800万円
事業内容:食品・日用雑貨を中心とした専門商社
経営者略歴
早川恭彦(はやかわ・やすひこ)
1970年、神奈川県横浜生まれ。アメリカの大学に留学中に、ファッション関連のビジネスをスタート。大学卒業後は家業を継ぐため、愛和食品株式会社に入社。約10年間の企画営業経験を経て2006年、代表取締役社長就任。