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株式会社ありがとうファーム

業種

医療・福祉

地域

中国・四国

従業員数

100〜300人

File.102

障がいや難病を持つ人の就労をバックアップ ―通勤困難を解消した「ありがとうファーム」の場合―

テレワークの推進

2022.01.24

株式会社ありがとうファーム

 多様な人々を雇用するダイバーシティは世界的な流れであり、日本でも障がいや病気を持つ人の就労のために、障害者雇用促進法などの法整備が進んでいる。しかし、何らかの障がいを持つ人は全国で約960万人、就労している人はそのうち約60万人と推計されているのが現状だ。

 そのようななかで、ありがとうファームは障がいを持つ人たちが働く就労継続支援A型事業所として初めてテレワークを導入し、大きな成果を上げ、総務省テレワーク100選企業にも選ばれた。

障がいがあっても、「自分たちで稼ぐ」ことを目指す

 同社は2014年から岡山県北区表町の商店街に本部を置く就労継続支援A型事業所だ。A型事業所とは、障がいを持つ方が雇用契約を結んだうえで、一定の支援がある職場で働くことができる福祉サービスのこと。企業理念は「生き生きと堂々と、人生を生きる」であり、「知ることは、障がいを無くす。」をスローガンに掲げている。同社では雇用契約を結んだ障がい者を「メンバー」と呼んでいるが、メンバーたちが地域と交流しつつ「自分たちで稼ぐ」ために、アート部門とサービス部門を展開している。

 アート部門では、アート制作、編み物、アクセサリー制作などを行う。例えばレンタルアートという取り組みでは、企業に絵1枚あたり月額10,000円で借上げてもらい、そのうちの7割つまり7,000円をアーティストの継続的な収入に。工事の仮囲いなどのアートウォール、自動販売機のラッピング、お菓子のパッケージなどにもアート作品が使用されており、地域の人たちに親しまれている。また、編み物作品としては、のぼりを製造する際に出る端切れを使って手編みした、傘の持ち手カバーやバッグなどがある。ユニークな色や柄と、廃材を雑貨に変えるSDGsな取り組みが好評だという。

のぼりの端切れを使った作品。編み物チームが発足した頃、のぼりの製造販売会社より、廃棄されるたくさんの端切れを活かせないかと持ち込まれたのが発端。

 サービス部門では、商店街の中で食堂やカフェを運営。食品関連の会社から食材を仕入れ、焼きうどん、カレー、唐揚げなどを提供している。これらの活動は、協賛企業とのコラボレーションであるというメッセージを提示することで企業のSDGs活動の推進にも役立っている。

テレワーク導入は、利用者に寄り添った選択

 通常、就労支援型事業所は利用者が通所することを基本としており、ありがとうファームも例外ではなかった。しかし、障がいや難病を抱える人の中には通所が困難な人も多い。身体的な障がいなら目に見えるが、精神的な病気はわかりにくく、周囲の理解やサポートを得るのは難しい。実際に同社の利用者たちも、込み合う電車やバスでの通勤に気力や体力を奪われてしまい、事業所に到着後は仕事もままならないという人もいた。時給制のため、遅刻欠勤が増えると収入減に直結することから、仕事に行けるだろうかという不安感に悩まされる悪循環だったという。

 そこで職員たちは、「自宅で仕事をしてもらえないか」と考え、2015年に岡山市事業者指導課にテレワーク化を相談。

 前例がないため、導入には慎重論が多かった。それを踏まえて厚生労働省とも相談し、岡山市事業者指導課との連携を図ることで、テレワーク導入のためのマニュアルや規約が整えられ、同年8月にテレワークを実現させることができた。

在宅勤務だからこそ、続けられる

 同社のテレワークは、「会社側にPC一台、利用者に携帯電話一台があれば成立する」と、極めてシンプルな仕組み。職員は利用者とビデオ通話やメールでやりとりして、仕事の開始と終了の際には必ず連絡をもらい、終業時には作品がどこまでできたかの成果の写真を送信してもらう。10時から15時が所定労働時間(うち、実働4時間)で、週に一度の達成評価日には出社して成果物を提出する。困ったときには、ビデオ通話で納得できるまで相談できる、その安心感が利用者を支えている。

 テレワークの成果は、制度を開始して数週間のうちに表れた。通勤の負担が軽減され、例えば今まで週2日の通所が精一杯だった人が、自宅で週5日の勤務ができるようになり、皆勤賞を取るまでに。これまではなかなか作品を完成できず、モチベーションを保てなかった人が、テレワークによって完成品を多く作れるようになり、作品が評価されることや、給与に反映されることで、自信と誇りを持てるようになった。

利用者がテレワーク中も、職員がリモートでサポート。テレワークの普及で、出勤できる利用者に負担が集中していた作業が分散でき、効率化も進んだ。

 さらに、今まで関われなかった仕事ができるようになった人もいる。知的障害を持つMさんは、大人数の通所者の中で感情のコントロールが難しく、情緒不安定になりがちだった。しかしテレワークで穏やかに働くことで才能を発揮し、Mさんが作成したアートは企業に買い上げられるほどに。やがて子どものためのワークショップの講師を勤められるようになり、今では週3回出勤できるまでに体調が整っているという。

ワークショップの講師として子どもたちとふれあうMさん。今後の目標は「週5日通勤して仕事を継続すること」と意欲を見せる。

 コロナ禍でテレワークの導入が推奨されるようになった際も、既にテレワークの体制が整っていた同社ではスムーズに移行でき、より多くの通所者がテレワークに転換することができた。2020年3月末時点でテレワーカーは15人だったが、同年4月緊急事態宣言発令を機に全メンバーの7割に相当する60人に達した。

「障がいを持つ人は働くことが困難」という思い込みを覆す

パートナーシップ推進室の馬場拓郎さん。最近設立した「就労特化コース」では、より多くの障がい者が社会で活躍できるよう尽力している。

 コロナ禍において、同社では蓄積してきたテレワークのノウハウを、他の就労継続支援事業所に無料で伝えるテレワーク導入支援ツールを開発。反響は大きく、約250の事業所がダウンロードを済ませており、そこからテレワーク導入に踏み切れた事例も増えてきたことで、他の事業所との交流のきっかけにもなっている。今後は他の事業所とネットワークを構築し、仕事の共同受注など、障がいを持つ人に仕事のチャンスを全国的に広げるプランニングを検討している。

職業指導員の荒谷桃子さん。現在は法律上、通所者7.5人に対して職員1人が付かなくてはならないが、いずれ職員もテレワークができるよう行政に働きかけたいと話す。

 「障がいを持つ人は働くことが困難なのではなく、少しの支援と職種のマッチングがあれば活躍でき、優れた才能を発揮する人も少なくないことを目の当たりにしてきました」と語るのは、指導員の荒谷さん。テレワークは、障がいがある人と社会との接点を確保し、長期的な支援として有効な手段の一つなのだ。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

全員通所勤務だったところにテレワークを導入。必要に応じた多様な働き方を実現。

効果
通勤の負担が軽減され、自宅で仕事に集中できるように。作品の質と量がアップし、パートナー企業とのコラボレーションも活発化。アーティストは作品への評価と給与アップによって、以前より自信と誇りが得られるようになった。
取組2

テレワークにビデオ通話やメールを活用。必要なものはオフィスにPC一台、利用者に携帯電話一台のみ。

効果
利用者は、困ったときや相談したいときに、テレビ画面を見ながら確認できる。職員は開始時間と終了時間を正確に記録し、その日の成果物を確認できる。
取組3

テレワーク導入支援ツールを開発し、相談やアドバイスなど親身に対応

効果
今までは難しいといわれてきた、障がいのある人へのテレワークによる就労支援が可能であることを実証し、他の就労継続支援事業所にノウハウを無料で共有。いまでは全国約250の就労継続支援事業所がダウンロード済み。事業者間のネットワークを構築し、共同受注など新しいビジネスモデルを検討中。

COMPANY DATA企業データ

障がいを持つ人たちの、生き生きと輝く毎日を応援

株式会社ありがとうファーム

代表取締役/木庭 康輔
本社:岡山県岡山市
従業員数:職員20人 通所利用者90人
設立:2014年
資本金:200万円
事業内容:障がいを持つ方の就労継続支援、企業の障がい者雇用の推進

経営者略歴

木庭 寛樹(きにわ・ひろき)
1961年岡山市生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、建設会社や企画・デザイン会社を経て1999年に37歳で独立。設計や広告デザイン、人材派遣事業、採用コンサル業などに携わり、2010年に会社を譲渡。2014年に株式会社ありがとうファームを設立。