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山形陸運株式会社

業種

運輸業,郵便業

地域

北海道・東北

従業員数

100〜300人

File.112

全社員が健やかに働ける会社を目指し「健康経営」を実践 【動画あり】 ー運送業で地域社会へ貢献する「山形陸運」の場合ー

時間外労働の削減

2022.01.24

山形陸運株式会社

山形陸運株式会社の取り組みを動画で見る
(以下のURLのリンクからご覧いただけます)
https://www.youtube.com/watch?v=WwM5EP4HHJw

 

 山形市の中心部から車で15分ほどの流通業務団地に本社を置く山形陸運株式会社。今年創業71年を迎えた同社は、地元では「山形のマルウンさん」と呼ばれ親しまれてきた。人々の生活に不可欠な「物を運ぶ」事業。社会の基盤を支えるエッセンシャルワーカーとして貢献してきたことに対する、地域社会の評価の現れかもしれない。

社員が安全安心に働けるために

 いくつかの全く異なる業界で専門的な職歴を持つ佐藤公啓社長は、2001年に経営後継者として入社。様々な職場経験と多才な能力をバックグラウンドに、それまでにはなかった独自の目線で社内環境を分析。信念を持って働き方改革を重ねてきた。

現職就任直後から働き方改革に取り組んできた佐藤公啓社長

 かつては3K(きつい、汚い、危険)と思われがちだった業界。業務とは直接関係がなかったものの、実際に関連会社の社員で突然死した方もいた。「ショックでした。会社として社員を守ってあげられなかった後悔があります。会社の指導が十分とは言えず、社員が自身の健康管理をおろそかにし、病気の存在を軽く考えたことが残念でなりませんでした。社員が安心安全に働いて生活を支えられる体制を整えなくてはならないと思ったのです」と佐藤公啓社長。

 加えて、ドライバー不足という慢性的な問題もあった。社員の健康を維持し将来に向けて長く働ける環境を作り、定着率を上げ離職者を減らす。ドライバーの高齢化が進む中、魅力的な働き方に改革し若者の雇用にもつなげたい。このための差別化として注目し、2005年から続けているのが「健康経営」だ。

健康経営の様々な施策

 社員の健康のために会社は何ができるかという視点から、施策が徐々に進められてきた。まずは印字タイプのアーム式血圧計を置き、仕事前に測定・記録を続けた。さらには、全営業所にAEDを設置し、いまでは新入社員を除くほとんどの社員が研修を受けている。

 現場スタッフの熱中症予防のために、通気孔付きで熱吸収の少ない白色のヘルメット、エアリージャケット(ファン付き)を配付。非常時用として全車両に非常食、経口補水液、簡易トイレなどを常備するなどきめ細かい。

熱中症対策のヘルメットとジャケットを着ての倉庫作業

 事務職のデスクワークによる疲労軽減のため、ハイバックタイプの椅子に交換。腰痛予防のため全社員に腰部骨盤ベルトを配付した。

ハイバックチェアと腰部骨盤ベルト

 健康管理面でも徹底している。定期健康診断の他、オプションとして35歳以上の全社員に胃ガン・大腸ガン検診を実施。精密検査が必要とされた社員に受診を促すなどして100%検査が実施されている。ほかに睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査を実施。インフルエンザ予防接種は全額会社負担で行っている。ドライバーを対象に、トラック協会の助成金制度を活用したMRIによる脳検診などもしている。

禁煙運動と健康ウオーキング

 社長のトップダウンで進められているのは禁煙運動だ。受動喫煙防止対策として、建物内と運転席内を全面禁煙としている。禁煙セミナーをこれまで4回開催し、それにより自発的に禁煙外来へ通った社員もいる。12年前は60%台だった喫煙率が現在は45%まで減った。最終的には喫煙者ゼロを目指す。

 「ドライバーの生活は不規則になりがちです。食事の内容や時間、タバコなどプライベートな部分が健康に関わります。呼びかけには反発があったり理解が得られないこともありますが、禁煙セミナーや健康講習会の開催により、健康は自分でしか守れないところに気づいてもらえるようにしています」と佐藤社長。

 

 2017年から全社的に力を入れている取り組みに「健康ウォーキング」がある。これは健康習慣の定着と適正体重の維持を目的としたものだ。全社員にスマートウォッチ(活動量計)を配付し3ヵ月ごとに歩数を集計、個人の1日平均歩数を競い合い、褒賞金などを授与している。全員の歩数の集計は2019年で地球12周(48万km、6億8422万歩)に達成。参加は強制ではなく全体の5割程度だが、やらないよりやってくれる人がいて健康につながればという考え方だ。

残業削減と休日増加の取り組み

 健康を守るためには時間外労働の削減も大切。12年前に運転日報や基幹業務のオリジナル入力システムを構築し、各営業所に端末を置き自己申告をしてもらうようにした。しかし、慣れないドライバーにとっては逆にひと仕事になってしまったという。そこで5年前、本社に事務センターを作り、各営業所の事務処理を本社で一括処理する方法に転換。事務スタッフの業務も数人に集中しないよう全員でシェアし、現場・本社ともに全社的な効率アップにつなげたという。また、手書きだった配車表を大型ディスプレイに表示する方式に切り替え、配車担当者の事務負担を減らした。

 年間休日の増加も図り、2005年には89日だったものを少しずつ増やし、現在は110日に。当時は毎週土曜日を出勤日としていたが、現在は社内カレンダーに沿って月に2〜3日休日になるという。休みやすい環境作りを進めることで、年次有給休暇取得率は2015年の6.6日から2020年には14.8日と大幅アップとなっている。また、年次有給休暇を1時間単位で取得できるようにしており、使い勝手の良さから社員には好評という。

 こうした様々な取り組みによってドライバーの離職率は低下した。経済産業省が実施する「健康経営優良法人」に2018年から4年連続で認定。2021年には新設された「ブライト500」にも認定されている。他にも「令和2年度やまがた健康づくり大賞<健康経営部門>」を受賞、「働きやすい職場認証制度<1つ星認証>」を受けるなど取り組みの成果は目に見えた形で現れている。

ドライバーから事務職へ抜擢

 入社20年目・本社営業所の金田康弘さんは運行管理や配車業務、時間管理表の作成などに従事している。16年間ドライバーとして活躍していたが、4年前に事務職に抜擢された。ドライバーの仕事内容を細かく把握しており、現場を経験した人だけが知る効率の良い配車ができるはずと、社長から直々に白羽の矢が立った。

 

労働組合の執行委員長でもある金田康広さん

 「入社したころは有無を言わさず現場へ行けという風潮でしたが、今は事務職が現場の状況を下調べし、どのサイズのトラックなら入るかなど細かく荷主とやり取りしながら計算し、ドライバーの仕事を決めていきます」と金田さん。

 適材適所の人事が功を奏し、こうした細やかな作業も効率良く進む。それまで配車係は月100時間の残業も当たり前と思われていたが、金田さんが抜擢されてからは月30〜40時間まで削減されたという。

 労働組合の執行委員長でもある金田さんは「会社側が1日の最大の拘束時間や労働時間の管理を適切にしてくれているので、現場も残業時間が減ってきています。配車係として見ても、労働組合の人間として見ても、よく整った会社だと思っています」と語る。

社長以下、社員全員が同じベクトルを向いている

 入社17年目・営業開発部の軽部明宗さんは、車両運行計画と配車指示、保険に関する業務などに携わっている。22歳の時に転職で入社した当時、仕事は見て覚えるという荒っぽさがあったという。現代の若者には1から10まで丁寧に教えることが大切。全社をあげて人手不足・人材不足を改善するため取り組んでいる。

この会社で働くのが楽しいと語る軽部明宗さん

 「社内報やHPで社長の考えがわかります。上司は、現状はこうでこういったところに力を入れていこうと話してくれます。社長以下、社員全員が同じベクトルを向いていると感じます。風通し良く何でも言える環境で、笑顔や笑い声が絶えない職場。人がいい仲間の中で楽しく働かせてもらっています」と軽部さん。

 健康ウォーキングにも積極的に取り組み、食事に関する講習会を受講した後からはコンビニでの食事の選び方が変わり、野菜から食べるなども実践している。「会社が何を目的に健康経営を始めたのか、最初はわかりませんでした。今では健康あっての生活ということが理解でき、浸透していけばいいのかなと思っています」。

 働き方改革に加えて、運送業界における時間管理も厳しくなったことにより、休日に対する意識が高くなったことも感じている。以前は自己都合の休み=悪のような風潮があったが、今はなくなっている。共有ファイルに予定や計画を明確にすることで、育児や通院等のための休暇取得も容易になったという。

 社員を大切に様々な健康経営を進めたことで、社員自身が会社の良さを感じ、そこで働くことの意義を見出す。働き方改革の好例といえそうだ。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

健康的な職場づくり

効果
血圧計、AEDの完備。ヘルメット・ジャケット・腰部骨盤ベルトなどの配布。車内搭載品整備、オフィス家具の交換など物品面から健康的な環境を整え、働きやすい職場を創出。
取組2

健康診断・各種検査などの徹底 

効果
定期検診とオプション・睡眠時無呼吸症候群(SAS)検査・MRIによる脳検診などにより社員の身体の状態を把握することは、早期発見・早期治療につながる。
取組3

セミナーや社内ムーブメントの実施

効果
禁煙セミナーや健康講習会を開催し、「健康ウォーキング」に取り組んだ。禁煙・食事改善・運動などに社員が自発的に取り組むようになり、健康意識が向上した。

COMPANY DATA企業データ

山形陸運株式会社

代表取締役社長:佐藤公啓
本社:山形県山形市
従業員数:162名
設立:1950年
資本金:9000万円
事業内容:貨物自動車運送業、倉庫業、JRコンテナ取扱業、不動産賃貸業、産業廃棄物収集運搬業

経営者略歴

佐藤公啓(さとう・きみひら) 埼玉県出身。1986年日本大学文理学部卒業。システム開発営業職、印刷プロダクション勤務、個人事業などを経て、2001年経営後継者として山形陸運株式会社に入社。2001年同社・取締役、2004年常務取締役に就任。2009年より取締役社長に現任。趣味は写真。学生時代はスーパーカブで東北地方を巡り各所を撮影。写真展も開催した腕前。