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株式会社 社会起業家パートナーズ

業種

生活関連サービス業,娯楽業

地域

関東

従業員数

10人未満

File.114

これまでの常識を変え、笑顔あふれる職場環境へ ―美容業の働き方を改革する「コミュニティサロン と和 / 訪問美容 と和」の場合―

時間外労働の削減

2022.01.24

株式会社 社会起業家パートナーズ

 「おばあちゃんの原宿」としても知られる、東京の巣鴨地蔵通り商店街。ここを拠点に、美容サロンと訪問美容を展開するのが、「コミュニティサロン と和 / 訪問美容 と和」だ。離職率の高い美容業界にあって、個人の働き方に合わせたワークシフトなどユニークな試みで優秀な人材を確保。美容業界における働き方改革の先進企業として注目される同社の取り組みとは。

祖母の言葉と車いす生活から見つけた、美容の新たな可能性

 同社の母体は、取締役を務める小池由貴子さんが2011年に個人事業主として始めた訪問美容にある。

 祖母が原因不明の脱毛症に悩み、「孫の誰かが美容師になってくれたら、自宅で髪を切ってもらえるのに」と口癖のように言っていたのをきっかけに、小池さんはこの世界を目指した。東京の美容サロンに就職をして充実した毎日を送っていた28歳のとき、足の骨にできた腫瘍の治療のため、半年間の車いす生活を余儀なくされてしまう。自由に出歩くこともできず、群馬の実家で引きこもりがちな毎日を過ごしていたある日、遊びに来た美容師の後輩が5センチほど前髪を切ってくれた。それだけのことで、驚くほど晴れやかな気持ちになったという小池さんは「自分の積み重ねてきた美容師のスキルと、車いすでの経験を生かして、誰かの役に立つ仕事がしてみたい」と考えるようになった。

左から小池由貴子さん、中村大作社長、トップスタイリスト志田夏子さん

 高齢者施設や病院向けに訪問美容を行う会社でアルバイトをしながら、介護ヘルパーの資格を取るなどの準備を重ねて31歳で「訪問美容 と和」を開業。ぽつぽつと訪問美容の顧客も増え、事業としての手ごたえを感じた小池さんは、事業計画や経営を学ぶために通ったビジネススクールの学長として、現・代表取締役の中村大作社長と出会う。

 体が不自由であったり、大勢の人と接するのが苦手であったり、また小さい子どものいるママであったりと、従来の美容室は通いにくいと感じている人は多いだろう。そうした、いわば「美容室難民」に向けて、訪問美容に加え、街なかに誰もが通いやすいユニバーサルな美容サロンが必要ではないか。そう考えた小池さんと中村社長は2013年に会社を立ち上げ、翌2014年、巣鴨に「コミュニティサロン と和」をオープンする。

 出入り口から床、トイレにいたるまでがバリアフリー。鏡前の椅子は、取り外せば車いすでも使える。個室は子どもを遊ばせながら施術を受けたいママたちをはじめ、他の人の目が気になるLGBTの顧客にも好評という。またスタッフは美容師として10年以上のキャリアを持ち、さらに全員が介護ヘルパーの資格も取得している。

子連れでも安心して利用できる約12畳の個室。

スタッフの大量退職で、見つめ直した制度

 スタッフの労働環境については、「私自身が前職で店長を任されていたころ、あまりの忙しさにお客様一人ひとりと笑顔で向き合えていなかったことに後悔がある。今のサロンでは、スタッフが働きやすい環境をつくりたいと思っていた」と小池さんは語る。しかし美容業界の外から来た中村社長から見ると、「昼の休憩時間をきちんと取れていなかったり、年次有給休暇の取得者が少ないなど、『それは労働基準法違反なんだけど?』と驚くことが多かった」という。

 2015年からは、さらに本格的な働き方改革に取り組み始めた同社。
その一つが、同社が作成した「働き方フローチャートによる19種類の雇用形態・給与体系」だ。美容業界は、顧客のニーズに合わせて、長時間労働や土日出勤が常態化している。そのなかで特に女性美容師は、結婚・出産・育児・介護などライフサイクルの変化によって、仕事を中断したり、復職しても自分のライフスタイルに合った働き方ができないなどの問題を抱えがちだ。

 このフローチャートを使えば、たとえば「月4回、土日出勤ができる/できない」を選ぶと、次は「1週間の希望する出勤日数は、5日/4日/3日」から選び、さらに「希望する1日のうちの出勤時間は、残業可/8時間/7時間以下」とたどっていくと、その人に合った雇用形態と、その場合の給与にたどりつけるという仕組みになっている。「女性誌の占いページなどによくあるスタイルなので、初めて使う求職者にも分かりやすい」と好評だそうだ。

 ところが2年後の2017年、「コミュニティサロン と和」でスタッフ10名のうち7名という大量の退職者が出てしまう。「土日も休めるなど、美容業界では画期的な制度を作ったのになぜ?」とショックを受けた小池さん。何がいけなかったのかを中村社長とともに考えた結果、「半年に1度の見直し制度」がスタートする。求職時に選んだ条件が、だんだんと実情に合わなくなる人もいると分かってきたからだ。そこでスタッフ全員と半年ごとに面談を行い、「夫が子どもの面倒を見てくれるから、土日も出勤できる」「親の具合がよくないので残業できなくなった」といった事情をもとに、フローチャートをたどり直し、そのときどきの都合に合わせて働き方を柔軟に変えられるようにしたのだ。

働き方が自由に選べるフローチャート(左)と働き方のイメージがひと目でわかる働き方一覧表(右)

 他にも、繁忙期の土日祝を交代で「ノー残業デー」にして週1回は実施する。自分の仕事が終わったら、先輩や上司が残業していても「20分後には退社」。成人式や七五三など繁忙期での長時間労働を防ぐため、勤務終了時から次の勤務を始めるまで「12時間のインターバルを設ける」。講習会などに参加するための「教育訓練休暇」。育児・介護などを目的とする会社独自の休暇・・・といったさまざまな制度の導入・運用も進めていった。

子どもの成長に合わせて働き方を柔軟に変えられた

 トップスタイリストの志田夏子さんは、入社3年目。正社員として勤めていたサロンを、34歳で退職して結婚。1人目の子どもを育てながらパートで何軒かのサロンに勤め、2人目の出産で休職したとき、「40歳を前にして、このままの働き方でいいのか悩んだ」という。今後、教育費などがかかる時期に収入が不安定なパートのままでいいのか。「でも正社員として美容室で働くと、土日が休めないし、体力的にも難しい。いっそ美容師をやめて、事務職に転職しようかと考えたこともある」と振り返る。

小池さん(左)たちの取り組みに賛同し、入社を決めた志田さん(右)

 働き方の一つとして訪問美容を検討したときに、「コミュニティサロン と和」の取り組みについて知って入社を決意。「働き始めたときは、『1時間もお昼休み取っていいの?』『終業後にお洗濯する人がいない?』と、とまどうことばかりだった」と笑う。もちろんそうした働き方は快適だし、そのほうが、結局効率的に仕事が進むことも理解できたという。

 さらに翌年、下の子どもが1歳になって保育園で延長保育を使えるようになったことで、面談時にフローチャートを再試行。1日の出勤時間を6時間から7時間に増やし、土日も月に2回は出勤できるシフトに変更して、収入アップを実現したそうだ。

 こうした働き方改革の成果もあって、近年は雇用も安定。高いスキルを持ったベテランの美容師たちが、変わらぬサービスを提供してくれる美容室として、近隣はもとより離れた地域からも常連が集う店に成長している。

自分のスタイルで働いているスタッフの皆さん

 また美容業としては初めて東京都産業労働局による「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」に選定され、小池百合子都知事から認定証を受け取るなど高い注目を集めている。また中村社長は、同じ悩みを抱える美容業、理容業、ネイルサロンやエステサロンなどの経営者に向けた講演会、コンサルタント事業にも取り組んでいる。

 「私自身、20年以上この仕事を続けてやっと、お客様に安定した技術を提供できるようになったと感じる。美容業界では若い美容師たちが長時間労働やライフサイクルの変化で職場を去ってしまうのは、本当にもったいない。きれいになりたい、リフレッシュしたいというお客様のためにも、業界全体で今後も働き方・休み方の改革を進めていきたい」と語る小池さんたちの夢は、今後も大きく成長していきそうだ。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

19種類の多様な働き方を採用

効果
独身、結婚、妊娠、産休・育休、育児、介護など女性のライフステージに合わせ、多様な雇用形態・給与体系から自分に合った働き方が選択できる。6か月ごとの面談で変更も可能。ライフステージが変わっても無理なく仕事が続けられる。
取組2

働き方のフローチャート

効果
19種類の雇用形態・給与体系を分かりやすくフローチャートで提示。働き方が自分で決められるという意識が、従業員のモチベーションアップにつながっている。
取組3

残業を減らすための施策

効果
土日祝を交代で「ノー残業デー」にしたり、自分の仕事が終わったら他の人を待たずに帰る「施術後20分退社」の制度により、残業時間を大幅に短縮。また「12時間の勤務間インターバル制度」を設け、繁忙期での長時間労働を防ぐ。

COMPANY DATA企業データ

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株式会社 社会起業家パートナーズ

代表取締役社長:中村大作
本社:東京都豊島区
従業員数:7名
創業:2013年
事業内容:在宅の要介護者・障がい者への訪問美容事業、ヘアサロン運営事業、美容事業全般に関するコンサルティング事業

経営者略歴

中村大作(なかむら・だいさく)法政大学大学院経営学修士課程修了。2006年より、ソーシャルビジネスを専門に社会起業家への事業推進を行う。2009年、社会起業家育成のビジネススクール「社会企業大学」設立と共に初代学長に就任。2013年、㈱社会起業家パートナーズ設立、「訪問美容と和」「コミュニティサロンと和」、労働支援事業「Smart勤怠管理」など多事業を展開。著書に『ソーシャル・ビジネスの経営学―社会を救う変革と組織』『迷い続ける25歳の退職届』がある。