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社会福祉法人海望福祉会

業種

医療・福祉

地域

中部

従業員数

100〜300人

File.115

最新の福祉機器導入、ICT化の推進で介護のイメージを変える -複合型福祉施設を展開する「社会福祉法人海望福祉会」の場合-

生産性の向上による処遇改善

2022.01.24

社会福祉法人海望福祉会

 社会福祉法人海望福祉会(富山県魚津市)は2001年に開設。魚津市と富山市に、特別養護老人ホーム、デイサービスセンターを始め、デイサービス併設の有料老人ホーム、障害者支援施設、さらには全国でも少ない高齢者と障害者が利用する共生型の施設を展開する。また、生活困窮や障害・病気などで就労意欲はあるが働きづらい人に対して、社会参画や中間的就労の機会を提供する「ユニバーサル就労(法人雇用)」を実施するなど、地域に根ざした事業を積極的に推進している。

働きやすい環境作りのためにワーク・ライフ・バランスの実現を

 「開設当初は感じなかったのですが、2006年に共生型施設を開業した頃から人材不足が見えてきました。人材を確保できないままでは、福祉・介護の良質なサービスを提供できなくなるだけでなく、経営の最大のリスクになると受け止めました」と、大﨑利明理事長は語る。「人材確保・育成・定着の確立は当初から試行錯誤を続けてきましたが、これを機に働き方を改革しようと取り組みました」。

働き方改革を機に本格的な人材確保に取り組んだ大﨑利明理事長

 そこで大切にしたことは、働く人の年代、生活、価値観に応じて、仕事とプライベートが両立できるワーク・ライフ・バランスの取れた働き方。企業の一方的な論理だけではなく、働きやすくて長期間勤務できる環境だ。

職員のライフスタイルの変化などを考慮した、柔軟な制度や働き方の選択肢

 同法人の職員は6対4で女性が多い。それだけに女性への支援も大切だ。育児休業からの復帰後、ライフスタイルの変化や家庭の変化などによって働き方を変える必要のある職員には、その希望に応じて、正職員、短時間正職員、パート職員への「勤務形態変更」を採用するなど、一人ひとりに柔軟な選択肢で対応している。

 短時間正職員とは、8時間の所定労働時間が最大2時間短縮されるもので、勤務時間が短いだけで、待遇は正職員と同じ。保育園児の送迎や行事参加など、フルタイムでの勤務が難しい子育てと仕事を両立している職員の働き続けたいという意欲を支援している。また、時間外労働などで超過勤務になった場合の保育園の延長保育料は全額補助。職員の家族ごとに異なる実情に応えている。

一人ひとりに応じた働き方は、職員のモチベーションを高めてくれる

 こうした施策もあって、女性職員の育児休業からの復帰率は、正職員、パート職員に関わらず100%となっている。また、男性職員が妻の出産時に育児のサポートができるよう勤務時間帯や休日を考慮したり、男性職員の育児休業取得も推進している。

 同法人の「デイサービス花みずき」に勤務する小川愛さんは創業時からの職員。介護業務全般に携わる。3人の子どもを出産したが、2回目の育休復帰後は家庭と仕事の間で退職を考えるほど悩んだ。「上司に相談したところ、短時間正職員として勤務ができるよう配慮していただけたのが大きかったです。自分に可能な範囲で仕事ができることで効率を考えるようになり、心にもゆとりが生まれるようになりましたから。職場のみなさんからのフォローもやさしく、仕事へも以前より前向きになれました」。仕事で心配事があると、ご主人は上司に相談してみればと言うほど職場を信頼しているとか。自身が受けたサポートの経験から「仲間に何かあれば、次は自分がサポートしたいと思うようになった」と笑う。

子育て中の職員への柔軟な対応がうれしいと語る小川愛さん

最新福祉機器導入、ICT化でより働きやすく

 大﨑雅子施設長は「介護の意義は分かるが、介護現場の仕事は腰痛になるというイメージもあって人材確保にも影響がある。介護職員の腰痛は長期休暇や離職に繋がる重要な問題」と語る。そこで同法人では積極的に福祉機器を導入して腰痛予防に取り組んできた。

職員の身体的な負担は人材確保や定着にも影響すると語る大﨑雅子施設長

 例えば、ベッドから車椅子への移乗や室内移動を楽にする電動式の「移動式リフト」、入浴介助回数を6回から3回に半減できる「座位式リフト」、寝たままの姿勢で入浴できる「臥床式特殊機械浴槽」、車椅子からのトイレ介助などを容易にする「スタンディングリフト」など10種類の最新機器や用具を整えている。介護者が抱き起こす際のリスクや体力的な負担を軽減し、利用者にとっても安心で安全な環境だ。同法人の「あんどの里」が富山県の「腰痛予防対策推進福祉施設」に指定されている。

 また、ICT化も推進してきた。介護の現場で職員の負担になっているのが「記録業務」。とくに、デイサービスでは限られた時間内で同じ内容を何度も手書きで記録しなければならず、介護に専念できないという声が多かった。これを解消するためにタブレットを導入し、システムと連動させた。これで、いつでもどこでもデータの入力が行えるだけでなく結果がすぐに反映されるため、記録業務の大幅な効率アップが実現できた。データの蓄積は次世代にも受け継がれるというメリットがある。

 さらに、記録業務をそれぞれの事業所にとって使いやすくするために、オリジナル介護ソフトをシステム会社と共同開発して運用している。「日々の業務で改善要望が出ればすぐに対応できる体制があり、業務の効率化もさることながら、職員の精神的な負担も減って業務に専念できるようになり、気持ちが前向きになった」と大﨑施設長。

不要な負担軽減によって、職員の業務への専念度が向上

さまざまな側面から働きやすい職場作りをサポート

 同法人は地域における公益的な取り組みとして「ユニバーサル就労(法人雇用)」にも取り組んでいる。これは、生活困窮、障害、病弱など、働く意欲はあるが働きづらい状況にある人に働く場を提供するもの。また、一般就労と福祉的就労によって自立を進める「中間的就労」も行っている。こうした取り組みによって、生活保護から離れたり、ユニバーサル就労者への業務指導をする人も生み出している。

地域で働きたい人の支援にも積極的に取り組む

 もうひとつ、ユニークな取り組みに「イクボス宣言」がある。富山県が設立した「イクボス企業同盟とやま」の活動で、企業のトップが率先してワーク・ライフ・バランスを考え、働く人のキャリアと人生を応援しつつ、自らも仕事とプライベートを楽しもうという宣言。同法人には30~40代の子育て中の職員の割合が60%と多く、働きざかりの職員を積極的にサポートしたいという企業姿勢が表れている。

 大﨑施設長は「永く働きやすい職場の環境作りは、多様な人材の確保には欠かせません。ワーク・ライフ・バランスを生かしながら仕事もプライベートも生き生きと過ごして欲しい。普段の会話の中で、あそこなら働きやすそうだね、と言われる会社になるといいなと願っています」と語る。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

勤務形態の変更、短時間正職員の設定

効果
育児休業後の子育て世代の職員が、ライフスタイルの変化によって働き方を変える必要がある場合、職員の希望に応じて、正職員→短時間正職員→パート職員への勤務形態変更などで柔軟に対応できるようになった。これによって育休からの復帰率は、正職員、短時間正職員、パート職員に関わらず100%を達成。仕事と生活を両立させるワーク・ライフ・バランスの充実にも貢献している。
取組2

最新福祉機器の導入

効果
腰痛が離職にも繋がるとの危惧から導入してきた福祉機器によって職員の身体的負担が軽減できた。同時に、体を動かしにくい利用者への負担も軽減され、介護の安全性が向上し、スピードアップに繋がった。
取組3

独自の介護システムを開発

効果
記録業務の時間短縮と効率化を実現するため、職員の声を反映した独自の介護システムを開発した。介護業務そのものに専念できるようになり、職員の業務への取り組み意欲を高めている。

COMPANY DATA企業データ

良質な福祉サービスで地域貢献に取り組む

社会福祉法人海望福祉会

理事長:大﨑利明
本社:富山県魚津市
従業員数:183名(2021年7月現在)
設立:2001年
資本金:5,600万円
事事内容:特別養護老人ホーム、デイサービス、有料老人ホーム、障害者支援施設など、高齢者および障害者への多様な福祉サービス

経営者略歴

大﨑利明(おおさき・としあき) 1941年生まれ。2001年社会福祉法人海望福祉会理事長、2020年株式会社丸八取締役相談役(1977年入社)、2020年株式会社天空代表取締役会長。2007年魚津商工会議所会頭、2007年魚津市観光協会会長、2015年富山県人事委員会委員長を歴任。