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新雪運輸株式会社

業種

運輸業,郵便業

地域

関東

従業員数

301人〜

File.118

業務のデジタル化により、時間外労働を削減 ―法令遵守の徹底化を図った新雪運輸の場合―

時間外労働の削減

2022.01.24

新雪運輸株式会社

 新雪運輸は1970年の設立以来、低温食品物流を中心にした運送事業、サードパーティロジスティック事業を行っている。厚生労働省ではトラックドライバーの拘束時間を原則として1ヵ月293時間とする告示(改善基準告示)を定めている。かつて、同社ではこの拘束時間を上回る労働が少なからずあった。そのため、長時間労働が一因と思われる事故も少なくなかった。瀧澤裕司社長は事故を無くし、ドライバーの安全を確保するためには法令遵守の徹底が急務であると考えた。瀧澤社長が行った働き方改革はデジタル化による業務の効率化だった。

セーフティーレコーダーを導入、業務を可視化する

 かつて、新雪運輸ではトラックドライバーの時間外労働が100時間を超えることも珍しくなかった。10数年前のことである。当時は長時間労働による過労死事件が話題になり、社会問題にもなっていた。

瀧澤裕司社長は「残業時間減少と休日の増加で従業員に身体的・精神的に余裕が生まれた」という

 瀧澤裕司社長はそのころを振り返り、こう話す。

 「1か月の拘束時間である293時間を守らない働き方や休日を取らずに働き続けることに危機感を抱いていました」

 長時間労働は会社が課したのではなく、ドライバー自身が望む働き方だったという。「働けば働くほど収入が増える。ドライバーの多くは残業代を稼ぐために長時間労働も厭わなかったのです。とはいえ、ドライバーだけの問題ではありません。そのような長時間労働を見過ごしていた会社の責任もあります。」

 しかし、その働き方は事故という弊害を伴うものだった。過労が原因と思われる事故はかなりあり、同業他社の大事故も起こっていた。過労はドライバー自身の健康を害する働き方でもある。瀧澤社長は全社を挙げて時間外労働を減らし、法令遵守の働き方を徹底する必要があると痛感した。

 そこで行ったのが、業務を可視化することだった。2008年、ドライブレコーダー機能とデジタルタコグラフ(デジタコ)機能が一体になったセーフティーレコーダー(SR)を全車に導入した。SRでは運転中の映像が記録でき、車両の速度、走行時間、走行距離などが自動的に記録できる。

 SRの記録を分析して見えてきたのは長時間労働の原因のひとつが、荷物の積み下ろしが終了するまでドライバーが待機する、いわゆる「荷待ち」による停車時間の長さだった。長時間労働削減のためには停車時間を短くしなくてはならない。そのためには顧客の協力も必要である。そこで、詳細なデータを見せながら、顧客に荷待ち時間短縮の協力を仰ぎ、また、配送ルートの見直しなども行い、徐々に時間外労働を削減していった。ところが、もっと仕事がしたい、残業したいというドライバーも少なくなかった。

 「そういうドライバーには安全や自分自身の健康を守るためにも残業削減が必要なことを根気よく丁寧に説明しました。お客様、ドライバーに納得してもらうには3年はかかりました」。

 休むより稼ぎたいとの考えから、休日をほとんど取らない社員も多かった。しかし、安全運転のためには体を休める必要もある。以前は週休1日がほとんどだったが、週休2日制と4週6休制の選択制にした。4週6休制では週休2日制に比べ労働時間が長いため、その分給与が2万円ほど高くなる。

 「残業削減や休日が増えることには若手社員が歓迎してくれました。年次有給休暇に関しても若手のほうが、関心が高く、選択制を作ったきっかけも若い男性ドライバーからの問合せでした」

ロボット点呼、日報の自動化、リモート会議の推進

 安全運転にはドライバーの出発前、帰社後の健康状態や呼気中のアルコール濃度チェックは欠かせない。新雪運輸ではこのチェックを「ロボット点呼」で行っている。各営業所に設置したロボットがチェックして、運行管理拠点にデータを送るのだ。この点呼では運行管理者がドライバーと対面でチェックし、記録を記入する必要がない。そこで運行管理者の負担が軽減され、作業時間も大幅に削減することができる。

 SRやロボット点呼といったデジタル化の推進で日々の業務は効率化が進み、事務職の残業も削減できた。その結果、時間外労働は2018年と比べ約39%(2020年比)の削減を達成。ドライバーが身体的にも、精神的にも余裕ができたことで事故は減少した。

デジタル化すると時間短縮が顕著になるというシステム課主任の末永宏二さん

 末永宏二さんは管理部システム課主任として業務のデジタル化を進めている。

 「デジタル化できるところはデジタル化して、いかにムダを無くすか、ゴールを常に考えています。たとえば日報。ドライバーは手書きが当たり前と思っていますが、デジタル化すれば手書きする時間が削減できます。デジタコの導入で運行日報を自動化、そのデータを使って勤怠管理も容易になりました。給与明細もデジタル化しています。以前は給与計算に3、4日かかっていたのが、デジタル化によって1日で終了しています」

 営業所長が本社に集まり月1回行う全体会議も3年前からリモート会議にした。新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、政府がテレワーク推奨を掲げる前から、すでに導入していたのだ。リモート会議により本社までの移動時間が無くなり、各所長からは「助かる」と好評を得ている。

 「今は新入社員の社会保険などの申請や車検の申請、車検の進捗状況などが、担当者でなくても、誰もがわかるようなシステムを考案中です。デジタル化の仕事は成果が目に見えてわかります。そこがこの仕事の面白味です」と末永さん。

従業員の交流を促進、改善点も話し合う「向上委員会」

 社団法人日本自動車工業会が2020年9月17日に発表した「物流を支える大型車の現状と今後について~トラック運転手の就業状況」によると国内輸送量からドライバーの需給を算出すると「2020年度においては約14万人、2030年度においては約27万8000人」のドライバーが不足すると予測している。物流・運送業は恒常的な人手不足と言えるだろう。

向上委員会発足に尽力した人事担当の石田英昭さん。会合では職場の問題点について活発な意見が交わされている

 管理部人事担当の石田英昭さんも、いかに採用に力を入れるかを考えていた

 「ところが……」と前置きして石田さんは以下のように話す。

 「同業他社、異業種の人事担当者が集まる研修会があったんです。そこで、採用だけでなく〝定着″に注力する必要性を学びました。定着させるためには働きやすい環境づくり、従業員様の満足度を高めることが重要と感じたのです」。

 石田さんは2017年、各営業所の従業員代表が集まり、仕事時間の改善点やどのような福利厚生施設が必要か、仕事に対する不安などを話し合い、解決策を探る「向上委員会」を立ち上げた。

 「ドライバーの仕事はまさに〝一人の世界″です。営業所に所属していても、出勤時間はまばらで従業員様同士の交流はほとんどありません。問題点や不満があっても、なかなか相談できない。それが原因で辞めてしまうこともあります」。

 石田さんは自身がドライバーだった経験を持つ。それだけにドライバーの気持ちや時には孤独感を抱え込んでしまう精神状態もよく理解できた。

 「ですから、従業員様同士が集まり、意見を出し合い、改善点を会社に要求できる環境の必要性を感じたのです。そこでまず、交流目的のイベントを実施しようと思い、レクリエーション委員会という名称で各営業所から、ドライバーに集まってもらいました」

 その集まりは「イベントの企画だけでなく、職場環境をよくする意見交換の場にもしたい」という要望から、「向上委員会」という名称になったという。委員会では年に2回『Shinsetsu通信』というA4版見開き4pのパンフレットを発行。福利厚生制度の紹介やイベント告知・報告、営業所の紹介などの情報発信を行っている。

 「この冊子はDMとして従業員様の自宅に送付しています。家族に読んでもらうことで家族に職場や福利厚生制度を理解してもらえます。定着には家族の満足度も大きな要素になるのです。イベントはボウリング大会、屋形船、工場見学などさまざま、家族の参加も歓迎しています」。


本社と各営業所をつなぐコミュニケーションツールの役割も果たしている
向上委員会では家族と一緒に参加できるイベントを実施。交流を深めている

 こうした向上委員会の活動で従業員同士の交流が保てるようになった。

 新雪運輸のスローガンは「コンプライアンスと働き方改革の達成でCS・ES・FSの実現を目指そう」だ。CSは顧客満足、ESは従業員の満足だが、FSは家族の満足を指す。

 デジタル化や向上委員会の発足は事故のない安全運転の実現に大きく貢献している。さらに家族の満足や幸福にも繋がっていると断言してもいいだろう。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

全車両にセーフティーレコーダーを設置

効果
業務を可視化。ドライバーの長時間労働の原因のひとつが荷待ちであることがわかった。データを示し、顧客にも協力を仰ぐなどの対策で2020年には前年と比べ、約39%の残業削減を達成した。
取組2

リモート会議などデジタル化を推進

効果
リモート会議、運行日報の自動化、給与明細のデジタル化、デジタコによる勤怠管理、ロボット点呼などで業務を効率化。ムダが削減され事務職の残業も減少。
取組3

社員の交流を図る向上委員会設置

効果
ドライバーの孤立を防ぎ、職場の問題点を話し合うことで働きやすい環境づくりをサポート。イベントでは家族参加もあり、従業員同士の交流が深まる。人材の定着に結びついている。

COMPANY DATA企業データ

「愛和」の精神で企業の繁栄と社員の幸福を目指す

新雪運輸株式会社

代表取締役社長 瀧澤裕司
本社 埼玉県川口市
従業員数 400名
設立 1970年10月
資本金 6000万円
事業内容 一般貨物自動車運送業務、貨物運送取扱事業、サードパーティロジスティック事業、損害保険代理店業務

経営者略歴

瀧澤裕司(たきざわ・ゆうじ)
1994年4月、新雪運輸株式会社入社 1996年同社取締役就任、2002年同社専務取締役就任、2006年同社代表取締役就任