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秩父テック株式会社

業種

製造業

地域

関東

従業員数

50〜99人

File.119

従業員の目線で考える社風が、働きやすい職場を築く -従業員の約9割を女性が占める「秩父テック」の場合-

幅広い人材活用

2022.01.24

秩父テック株式会社

 秩父テック株式会社(埼玉県秩父市)は、「ボールペンなど筆記具の組み立て」「鍵・錠前の組み立て」「化粧品の充填から仕上げ」という3本の柱を市内2カ所の拠点で事業展開している。従業員は53人。10人の正社員以外はパートタイマーが占め、男性はわずか7人のみという構成。それだけに女性が働きやすい環境作りに努めてきた。

一人ひとりに対応した柔軟な就業時間を導入

会社でも家でも働きづめの毎日が変わっていったと振り返る新井ひろみ社長

 同社の設立は2007年3月。女性ばかり20名ほどの従業員でスタートした。新井ひろみ社長は振り返る。「当時は携帯電話の液晶画面の組み立てなども手がけていましたが、とにかく忙しくて、昼は会社で働いて、夜はそれぞれが家庭に持ち帰って睡眠時間を削ってまで内職で作業を続け、朝になると出社するという毎日でした」。

 これが会社の業績を大きく前進させることになったのだが、とても働きやすい職場環境とはいえなかった。採用に当たっての条件も厳しく、人材確保もままならない。それを変えるきっかけになったのが「加藤勇貴取締役常務の入社だった」(新井社長)。そもそも、新井社長は従業員と一緒に作業や納品を行うだけでなく、経理まで一人で切り盛りしていた。職場環境の整備まではとても目が行き届かない。仕事の配分も含め、加藤常務が仕切り始めることで、働き方への改革が始まったといえる。

 加藤常務は、まず就業条件を見直した。子育て中の女性は、朝は子どもを保育園に送ってから出勤、夕方には子どもを迎えるために早めに退社したいと願う。子育てしながらでも働く意欲はある。そういう人たちを、会社の就業条件と合わないからと門前払いしてしまうと採用の門戸は閉ざされてしまう。

 それでは人は来ない。一人ひとりの条件に応じた個別での契約を始めたことが、人材確保と同時に働きやすい職場へと変わるきっかけとなった。

 具体的には、勤務時間帯の相談に応じた。同社の通常勤務時間は午前9時から午後4時までだが、従業員から「小学校へ上がった子どもがいるので1カ月間は午前中だけの半日勤務、落ち着いてきたら午後3時もしくは4時まで勤務したい」という相談があれば、それに柔軟に対応した。年次有給休暇は半日単位で取得できるようにし、通院や介護・介助、授業参観などに使い勝手が良くなった。育児・介護休暇は無給だが、独自に3年という長期間取得できるように出産休暇という制度を設けている。これは、法定の最長2歳までだと幼稚園、保育園などに子どもを預ける年齢が家庭によってばらつきが出ることを考慮したもので、ここでも働く人への配慮が垣間見える。

働きたい人の条件に合った契約について語る加藤常務

 加藤常務は「午後5時には全員が退社できるような体制を作っています。納期限が迫っているときなど以外は午後5時を過ぎると場内はガラガラで、6時以降に人がいることはまずありません。従業員を増やして一人当たりの勤務時間を減らしてきたことがノー残業に繋がっているのだと思います」。

健康にも配慮した200円のランチが大好評!

 同社の働きやすい環境の具現化は寺尾工場で見ることができる。同工場は2020年4月に稼働を開始し、鍵・錠前の組み立て、化粧品の充填を行い、本社機能も備えている。外観こそよく見かける工場だが一歩足を踏み入れると、らしからぬ雰囲気に戸惑う。ホテルの廊下かと思うような洒落た壁紙の明るい廊下が続き、作業ルームごとに異なった壁紙が貼られている。作業用スペースはゆとりがあり、男女別のトイレには凝ったインテリアが施されている。

壁紙のデザインにもこだわった廊下。掲示板もカラフルで目を引く工夫が

 寺尾工場でもっとも人気のあるスペースが食堂。レストランといってもいいインテリアもさることながら、日替わりメニューが一食200円という破格の値段。野菜は地元産、肉は前橋、魚介は網代から取り寄せるなど健康にも配慮した本格派。ソフトドリンクは月500円で飲み放題。新井社長は「周囲には店もないところなので、会社を立ち上げるなら、みんながお昼ご飯を楽しみに出社できるような食堂を作りたいと思っていました。その夢がここでようやく叶いました」。

新井社長の夢が実現した、喫茶店かレストランのような食堂(左)従業員に大人気の日替わり200円ランチメニュー(右)

(従業員/宮原萌さん)

 こうした寺尾工場で働く女性たちはどのような思いで日々を過ごしているのだろう。生産管理部の宮原萌さん(パートタイマー)は、3歳の保育園児の母親。「子どもが保育園に慣れるまで時間がかかるだろうと思っていましたが、半日だけでも仕事ができると聞いてすぐにこちらに決めました」。今は午前9時から午後4時の勤務。

 おいしいランチが毎日楽しみと喜ぶ。管理の仕事は現場とのコミュニケーションが大切だが、風通しのよい社風なので互いによい関係が築かれ「結果として製品の完成度に反映されているのでは」と語ってくれた。

風通しのよい社風が働きやすさに繋がると宮原萌さん

(従業員/江畑友紀さん)

 創業当時、新井社長と苦楽を共にしながら同社を築いてきた女性たちのうち10人ほどが現在でも勤務している。その一人、江畑友紀さんは、パートタイマーから社員になった18年勤続の叩き上げだ。化粧品製造のリーダーの一人として多くの従業員の指導・指示を行っている。

 「パートタイマーの頃から休みは電話1本の連絡ですむ会社です。子育て中の人にはとても働きやすい環境が整っています。社長がとても明るくて、常務は何でも相談できる、これも働き続けられた理由です」。社長の座右の銘「初心忘れるべからず」がお気に入り。従業員同士が本当に仲良しだから楽しく働ける。働きがいはあるし、もっと忙しくてもいいと思えるくらいです、と笑う。

初心を忘れずに、楽しく働いていると語る江畑友紀さん

地域の将来を見据えた持続性のある企業へ

 子育て世代の従業員を数多く抱える秩父テック株式会社。女性が働きやすい環境を求めるうち、埼玉県が女性活躍の取り組みをサポートする「埼玉県版ウーマノミクスサイト」では最高ランクのプラチナ認定企業に選定された。これは、9つの認定項目すべてに該当し、仕事と家庭の両立支援や女性の活躍推進に積極的に取り組んでいる企業を認定するもの。

 加藤常務は言う。「秩父地域は高齢化が進んでいます。若い人は働く場がないので外へ出てしまう。40代、50代の女性、母子家庭の子どもたちに働く場所を残すという意味からも会社を継続していきたい。外へ出た従業員の子どもや孫が、いつか戻ってくるかも知れません。そのためにも、現状維持ではなくさらに未来に繋がる会社にしたい」と、地域に根ざした持続性のある企業としての思いを語ってくれた。最後に、新井社長が創業時からの従業員にかけた「ここまで大きくなるとは思わなかったよねえ」という言葉が印象的だった。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

従業員一人ひとりの生活状況に対応した勤務時間の設定

効果
子育て中の女性が多い職場だけに、それぞれの条件に応じた柔軟な勤務時間帯で契約をすることで雇用が安定した。会社の就業条件と合わないからと採用を限定していては働く意欲のある人は集まらない。会社の独自制度として出産休暇を3年という長期に設けたしたことも、長く働ける環境作りの一環となっている。
取組2

風通しのよい社風

効果
従業員とともに働きながら立ち上げた会社らしく、新井社長は現場の苦労を熟知している。創業時の従業員が10名も残っていることは当時の従業員を大切に思う絆の強さだろう。そうした空気が互いに気軽に意見を語り合える社風に引き継がれている。従業員全員が地元の人だという「距離」の近さもあるのかもしれない。
取組3

女性の目線を意識した、食堂を始めとした福利厚生

効果
健康に配慮した確かな食材を使用した日替わりランチが大好評。一食200円という低価格だけでも驚きだが、そのために3人の調理師の雇用と業務用の機材を導入し、食材保管庫も備えた。月500円のフリードリンク、清潔でインテリアにも凝ったトイレ、明るい作業所、事務所内など、工場の概念を変えている。

COMPANY DATA企業データ

手作業とマンパワーで要望に応える「組み立て仕上げ屋」

秩父テック株式会社

代表取締役:新井ひろみ
本社:埼玉県秩父市
従業員数:52名(2021年9月現在)
設立:2007年
資本金:300万円
事業内容:組み立て、包装、仕上げ

経営者略歴

新井ひろみ(あらい・ひろみ) 1969年埼玉県秩父市生まれ。
2007年、秩父テック株式会社に屋号変更、代表取締役に就任。2tトラックで納品や引き取りを行いながら販路を広げ業績を拡大した。現在は代表職として工場運営を行う。座右の銘は「初心忘るべからず」。仕事が激減したリーマンショックなどを経て、仕事を依頼される喜びと仕事ができる喜びを忘れないよう、年明けの所信表明で語り続ける。