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株式会社俳優座劇場

業種

学術研究,専門・技術サービス業

地域

関東

従業員数

100〜300人

File.121

長時間勤務の壁を克服して働きやすい環境へと脱皮 -テレビ、演劇、イベントの大道具を製作販売する「株式会社俳優座劇場」の場合-

多様な休暇制度

2022.01.24

株式会社俳優座劇場

 俳優座劇場は、東京都港区にある俳優座劇場の運営とプロデュース公演を手がける「劇場部」と、大道具を一貫して手がける「舞台美術部」の2部門で構成されている。舞台美術部は、1953年に大道具製作場として開設。以来、舞台美術というもの作りで華やかな舞台を裏で支え、数々の受賞歴を重ねてきた。スポットライトが当たることのないアーティスト集団ともいえるが、やりがいのあるクリエイティブな作業に従事したいと門を叩く人は多い。しかし、働く場の環境は、必ずしも良好とはいえなかった。それを変えるきっかけが、2019年に施行された働き方改革だった。

まず年次有給休暇の取得促進と時間外労働の削減に取り組んだと語る石元俊二代表取締役社長

業界の「慣例」ともいえる長時間労働を改善

 「この業界は長時間労働が当たり前だった」と石元俊二社長。舞台美術部は、大道具の製作、背景、造形、印刷、経師などを行う部門を「工場」と呼ぶ。また、テレビスタジオや劇場などでセットを搬入したり、建て込みを行ったりする仕事を「現場」と呼ぶ。「工場はともかく、現場はクライアントからOKが出るまでが仕事なので、いつ終わるか分かりません。今でこそ少なくなりましたが、徹夜ということもよくありました」。

 そうしたことを何十年も行ってきた業界だけに、働く環境の改善は急には進まなかった。これまでも現場での長時間労働時間の削減や年次有給休暇取得の推進には取り組んでいたが、なかなか実績をあげるまでには至っていなかった。そんな折り、働き方改革関連法が施行され、「法令遵守が基本と、そこから働き方を見直していきました」(石元社長)。

 まず取り組んだのが、年間5日の年次有給休暇の取得。すでに実施していた部門はあったものの、どうしても現場の社員が取りにくい。そして、時間外労働時間の削減。両方ともクライアントからの請負契約がネックとなり、現場での推進はスムーズには進まなかった。

工場と現場で異なる就業時間の調整を試行錯誤

 大道具の製作は毎回がオーダーメイドのようなものでほとんどが手作業。単純に作業を機械化することは難しく、製作の時間もかかる。年次有給休暇の取得や時間外労働の削減を推進するために、受注日を納品日から逆算して事前に設定。受注日から工場発注日の情報と作業内容を工場に事前共有を行った。社内ではリモートでの打ち合わせができる環境も整備するなど作業の効率化を図った。また、クライアントには、土日や夜間の受注を外してもらい、極力日中での発注ができるよう提案を繰り返した。時間外労働の上限規制は社則の見直しを含めて遵守するよう進めていったした。社内では、1回の打ち合わせでクライアントに納得してもらえるものを作るように努力を重ねていった。

現場の勤務時間調整は苦労したと総務本部副本部長の今泉寿浩さん

 同社の勤務時間帯は工場こそ2パターンだが、現場では30パターンもある。テレビ局関係の仕事がどれだけ複雑で、かつ管理が難しいかが窺える。総務本部副本部長の今泉寿浩さんは「勤務時間の管理は総務部の仕事です。一人ひとりの毎月の勤怠記録を見ながら、残業時間が計画よりオーバーしている社員と上司にメールで黄信号、赤信号を送って注意を喚起し、時間外労働時間の削減を推進してきました」と語る。

 また、総務部では年次有給休暇の管理も行い、取得日数の少ない社員に対してはこまめに取得を呼びかけた。こうした試行錯誤を重ねて1年。実質的な労働時間は減少。年次有給休暇の平均取得率は2018年度が13.2日、2019年度は12.4日、2020年度には14.9日。月平均時間外労働時間は2018年度が21.3時間、2019年度が17.2時間、2020年度は11.1時間という実績に結びついている。

作業効率をあげた短期実習制度

 一方、完全週休二日制の実現に向けて、2週間の「短期実習制度」を実施した。異なる部署の業務を体験する施策だったが、大きな効果があった。自分の仕事と他部署の仕事との関係が身をもって分かるようになったからだ。

 この制度での体験が「気付き」となって、例えば製作を担当する工場は、指示されたとおりのものを作るだけでなく、現場で扱いやすくする工夫や、3工程かかるものを1工程にしようといった配慮が生まれた。工場から現場へ、またその逆に現場から工場へとの協力体制が整うことで互いの仕事の理解度を深め、効率を高め、休みやすい働きの場を築いたことは間違いない。

女性が働きやすい環境づくり

 体力を要する仕事が多い同社だが、女性社員は145人中47人と約3分の1を占める。働き方改革を機にさらなる取り組みが進められた。例えば、産休・育休後の育児短時間勤務制度の利用対象はこれまで法定どおり3歳までの子だったが、小学校就学前の子まで利用できるように制度を拡充した。さらに、短縮できる勤務時間もそれぞれの社員のニーズに合わせて、1日6時間だけでなく1日5時間の勤務も選択できるようにした。子の看護休暇では、1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日の日数を有給休暇扱いとする制度に拡充した。

 総務部で働く菅田沢乃さんは、5年間の派遣社員を経て、会社から声をかけられ2014年に正社員になった。2018年には育休から復帰。「働き方改革を進める取り組みの中で育児短時間勤務制度が改定され、ゆとりができました。子の看護休暇が無給から有給になったことは大きいですし、完全週休2日制になって子どもと過ごす時間が増えたことは助かっています」。職場の風通しがよく、協力的なので急な休みも取りやすい。仕事、家庭、育児もバランスが取れていると語る。「働き方改革は、育児をしながら仕事を継続していこうという気持ちに繋がっています」。

子育て中の人にとって育児短時間勤務制度や子の看護休暇の有給はうれしいと語る菅田沢乃さん

 同じく総務部の青柳(あおやなぎ) 亨さんは8年間倉庫業務に従事していた。2020年に会社から総務部へ来ないかと声をかけられた。大学時代に経営学を学んでいたので、交通費などの精算や小口での出金業務もあるという総務部に異動した。「それまでは体力勝負の部署でしたので、初めのうちはデスクワークにちょっと戸惑いました」と笑う。主な仕事は就活サイトの編集・管理。経費精算、ビジネスセミナーの窓口などだ。

 「完全週休二日制になって休日の予定が立てやすくなったし、年次有給休暇の取得は会社が後押してくれるので取りやすい」。家族ぐるみで活動するフットサル部、野球部、フィットネスクラブに所属し、休日は2人の甥っ子の子守で忙しい。

週休2二日制、年次有給休暇をフル活用してワーク・ライフ・バランスを享受する青柳 亨さん
工場で働く女性は多く和気あいあいの空気が流れる

 働き方改革に着手し、さまざまな施策を推進している同社だが、その成果は、2017年度が66.6%だった従業員定着率が、2018年度から2020年度は100%という数字が物語っている。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

年次有給休暇の取得促進

効果
総務部が中心となって年次有給休暇取得状態を管理し、取得が足りない場合は本人や管理職へきめ細かく通知を行った。その結果、2020年度の平均取得率は14.9日を達成した。
取組2

時間外労働時間の削減

効果
クライアントからの請負契約という性質上、就業時間の調整は困難だったが、クライアントへの提案、社内での調整などを繰り返した。2019年度の月平均時間外労働時間は17.2時間と減少した。
取組3

短期実習制度

効果
他部署の仕事が経験できたことで相互理解が深まり、協力体制ができた。仕事の効率化だけでなく、完全週休2日制、年次有給休暇の取得促進にも繋がった。

COMPANY DATA企業データ

株式会社俳優座劇場

代表取締役:石元俊二
本社:埼玉県越谷市
社員数:145名(2021年8月現在)
設立:1953年5月
資本金:6,500万円
事業内容:演劇の制作及び興業、劇場の賃貸、舞台及びテレビ用道具の製作並びに賃貸販売、木製品製造及び販売、建築一式工事業、内装工事、大工工事業とび、土木工事業

経営者略歴

石元俊二(いしもと・しゅんじ) 1952年神奈川県生まれ。2007年7月営業本部副本部長就任、2012年5月営業本部本部長就任、2012年7月取締役営業本部長就任、2017年7月取締役副社長就任、2018年7月代表取締役社長就任。