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株式会社てしお夢ふぁーむ
農業,林業
近畿
10〜29人
File.127
農福連携に取り組み、働く喜びを実感できる継続的な障がい者雇用を創出 「現場力」の推進で、障がい者の自立を支援 -てしお夢ふぁーむの場合-
2022.02.01
働く障がい者自身が、改善を重ねて整備した水耕栽培のハウスは、働きやすさの工夫が随所に光る
多様性を意味するダイバーシティ。企業においては、多様な人材を雇用し、積極的に活用していく考え方を指す。ダイバーシティ経営は、雇用創出に貢献するだけでなく、人材の能力を適材適所で最大限活かし、企業価値を高め、経営上の成果に繋げることを目的としている。
株式会社てしお夢ふぁーむは、給食サービスや子育て支援、運行管理・移動サービスといった、地域社会の発展に貢献する事業を数多く展開するソシオークグループが、グループ全体の障がい者雇用を底上げするために立ち上げた就労継続支援A型事業所だ。 障がい者が農業分野での就労を通して、自立と社会参画を実現する“農福連携”に取り組む農場でもあり、農林水産省「ノウフク・アワード2020優良事例」にも取り上げられている。
「農福連携」の取組で、障がい者雇用を推進
てしお夢ふぁーむ設立の原点には、「障がいの有無、性別、年齢などに関わらず、すべての人が尊重される社会・会社を、ビジネスを通して創造する」という下肢障がい者でもあった創業者・大隈敏史の志がある。 「障害者雇用促進法」では、民間企業の規模に応じて、障がい者の雇用が義務づけられている。てしお夢ふぁーむ設立前後の2014年当時は、法定雇用率2%(2021年3月より2.3%)に対し、グループ全体で1.6%の雇用率に留まっていたという(現在の雇用率はグループ全体で3.2%)。
ソシオークグループは、人々の地域生活をサポートするソーシャル事業を数多く請け負う。そのため「請負業務の仕様によっては制約があり、障がい者雇用の促進が難しい環境下にあった」と話すのは、株式会社てしお夢ふぁーむ代表取締役社長の佐藤憲英さんだ。 創業者の志と、業態により障がい者雇用が難しい現状のジレンマを打破するべく、目指したのが農福連携による就労継続支援A型事業所(A型事業所)の設置と、企業グループ算定特例(関係子会社特例)の認定だった。
A型事業所は「障害者総合支援法」に基づく就労支援事業のひとつ。一般企業への就労が困難な障がい者に向けて、一定の支援がある職場で就労機会を提供するもので、事業者と障がい者が雇用関係を結ぶのが特徴だ。
栽培から販売まで一貫して体験できる「農業」と、障がい者が自信や生きがいを持って社会参画を実現する「福祉」を組み合わせた農福連携の考え方は、「当社が掲げる社会使命にもフィットしていた」と語る。
「雇用する障がい者には、自分が作った農作物で、自らの給与を得るという、一般就労者同様の自覚とやりがいを持ち、障がい者枠ではなく、グループの一員という責任と自立心を持って働いてもらいたいと考えている」と佐藤社長。
さらに育てた農作物を、グループが手掛ける学校や病院、高齢者施設、企業の社員食堂といった給食事業などに提供して、グループ会社で循環させることも狙いのひとつだったという。
農場の開設にあたっては、農福連携を実践導入していた、三重県伊賀市の就労継続支援B型事業所にグループの社員を派遣。実際に農作業に携わることになる障がい者の目線を意識しつつ、ビニールハウスでの小松菜・リーフレタス・フリルレタスといった葉物野菜を水耕栽培するノウハウを学んだ。
それが縁となり、2014年、三重県木曽岬(きそさき)町にソシオークグループ初となるA型事業所、てしお夢ふぁーむ桑名木曽岬農場を設立。「障がい者の方にも働く喜び、生産する喜び、社会から必要とされる幸せを知ってもらいたい」(佐藤社長)という想いで、障がい者の自立支援と農業による地域振興の取組をスタートさせた。
障がいというハンディキャップも「個性」である
季節や天候といった自然に左右され、体力的にも厳しいイメージがある農業は、障がいを持つ人にとって、適応が難しい仕事と考えられがちだ。そこで農場では、ビニールハウスでの水耕栽培を導入。佐藤社長は「露地栽培などとは異なり、建物内のため、ある程度働く環境を整えることができる上、天候に関係なく通年での作業も可能」と、そのメリットを挙げる。
しかし、スタートした当初は、計画した収穫量に満たないことが続いたという。その原因の多くは、気候変動によるハウスの水没などハード面の不備だったが、試行錯誤しながら改善をくり返し、徐々に生産性が向上していった。
ところが、この生産体制を継続しても、葉物野菜のみでは、自ら生産したもので自分の給料を稼ぐレベルまで収益をカバーしきれないと判断。新たな農作物の栽培を模索する中で、木曽岬町がトマトの産地として適していたことから、2017年に第二農場を建設。比較的安定した収穫量が期待できる、ミニトマトのハウス栽培に着手した。
「近隣農家は高齢化と人手不足のため、収穫しやすい大玉トマトの生産が主体。しかし当事業所は、育てやすさや、継続的な収穫作業に向いた人の手が多くあるという利点を活かし、ミニトマトを選んだ。結果的に先住農家と生産領域が重複しない点でも、地域農業に貢献できている」と話す。
現在では、小松菜などの葉物野菜は年間16万袋以上、ミニトマトは年間6万パック以上の生産を誇り、出荷先も地元農協の直売所から、営業による地道な開拓を重ね、地元レストランやスーパーなど、約107店舗まで拡大。2020年には、事業所自体の収益も黒字に転換した。
てしお夢ふぁーむでは、管理者や生活支援員といった社員と共に働く障がい者を「パートナー」と呼ぶ。「共に働く仲間としての位置づけです」と話すのは、てしお夢ふぁーむ取締役で、現地で管理者として携わる谷口丈仁さんだ。
現在、桑名木曽岬農場では、19名のパートナーと谷口さんを含めた現地採用の社員4名が働く。谷口さんは現場のトップであり、労務や人事を含む業務管理全般に加え、農作業の質の維持や向上など、業務は多岐に渡り、充実した毎日を過ごす。
天候に左右されないビニールハウスでの栽培と、冷暖房完備の出荷作業場により、年間平均259日の農作業と出荷を実現。そのため、雇用契約を結ぶパートナーの就業形態は、基本1日6時間勤務で残業なし、土曜・日曜・祝日の完全週休2日制だ。さらに厚生年金や社会保険の加入といった福利厚生も充実している。
実作業においても、障がいを「個性」と捉え、適性に応じて単一業務や複数業務などの業務を分担。得意分野に応じて業務を振り分けることで、パートナーのポテンシャルを発揮させ、個々人に合わせた働きやすい環境づくりを常に意識しているという。
谷口さんは「私たちにとっては単調と思える作業でも、そのスキルがずば抜けている障がい者も多い。特に適材適所の見極めに注力し、臨機応変に対応しています」と力を込める。
コロナ禍以前は、社員にパートナーが同行し、各店舗への配達業務も実施。育てた野菜を自分たちで陳列することで、「野菜がキレイに見える袋の詰め方や、手に取りやすい並べ方を、自身で考えるきっかけにしてもらうため」と、その意図を説明する。
野菜を手にしたお客様から「おいしかったよ」と、声を掛けられることもあり、パートナーたちの励みになっているという。
さらにソシオークグループが給食を提供する障がい者入所支援施設や高齢者入居施設で、生産した野菜が食事メニューに活用される様子や喜びの声を、メッセージ動画として伝える取組も行い、生産者としての自信や働きがいにも繋げている。
「障がいのマイナス面がクローズアップされて、褒められた経験が少ないパートナーさんがほとんどです。人は誰しも得意な分野があり、褒められるとうれしいもの。自分たちで種から育てる野菜づくりの達成感と、食べてくれた人から感謝される喜びを体感してもらいたい。障がいを個性として、胸を張って働ける作業を探し、作るのが、私たち社員の仕事です」と谷口さんは語る。
自分たちで課題を見つけ、解決する「現場力」
ソシオークホールディングス株式会社は、本部を含むすべてのグループ会社で、徹底した「現場第一主義」を掲げる。A型事業所である、てしお夢ふぁーむもハウスの増設といったハード面を整備しつつ、現場で働く人材を育成するための「現場力」の取組を推進している。
ポイントは、現場の社員やパートナーが、「自分で」働き方に関わる課題を見つけ、工夫によりチームで解決・改善を重ねていくことだ。「自分たちで改善点を考え、皆で解決に動くことで、結果的に生産性やモチベーションの向上にも繋がる」と佐藤社長。
谷口さんも「パートナーさんの自立を見据えた働き方改革の主軸として、本部は現場の声に耳を傾けるだけでなく、取り入れ、評価してくれるので、やりがいがある」と、現場力の取組を歓迎する。
その取組のひとつが「現場力レポート」の作成だ。自身の職場環境における気付きから、改善の実践、成果までを報告書にまとめていく。2021年の上半期は、グループ全体で約3000件ものレポートが本部に集まったという。なかでも特に素晴らしい取組は、年2回開催される「現場力アワード」において、500名ものグループ社員の前で発表、表彰されることも現場のモチベーションアップに繋がっている。
谷口さんが「この改善アイデア自体にも賞をいただいた」という、同事業所ならではの現場力の取組が、パートナーによる「現場力レポートを作る会」の創設だ。「書くことは、今後一般企業で就労した際に必ず役立つスキル」(谷口さん)としてスタート。自分の考えを文字で見える化し、周りに伝える力が身につくだけでなく、「働きやすい環境を自分たちで作っているという自覚を持ってもらうことを目指しています」と語る。
新井亮祐さんは、マネージャーとして東京の本部から農場をバックアップする。「行政とのやり取りや、現場で起こった問題について解決方法を一緒に探っていく、裏方的なポジションです」と新井さん。
それまで、障がい者中心の事業に携わった経験はなかったが、「私たちにとっては何でもないことも、障がいを持つ方たちには負荷になることが多い。どうしたらストレスなく働けるか、改善を積み重ねることの大切さを実感しています」と話す。現場の谷口さんとは密に連絡を取り合い、より良い職場環境づくりに日々取り組んでいる。
「現場力レポート」についても、「時間がある時にという雰囲気だったのが“作る会”を通して、自発的に時間を見つけて書く習慣が生まれ、風通しもより良くなってきました」と喜ぶ。
「本部での働き方や人員も整理し、現場へのフォロー体制が整った。一方、現場でも“現場力”を活用して、発信する・気付くといった動きで、双方向から良くしようという形になってきている」と佐藤社長。
新井さんも「てしお(夢ふぁーむ)は三重県にあり、他のグループ会社は関東にあるので、てしおで働くパートナーさんもグループの仲間だという一体感を、今後より一層強く推していきたい」と話す。
A型事業所の本質は、障がい者の自立支援だ。そこで、てしお夢ふぁーむで働く優秀なパートナーに、より責任のある業務を任せるという新たなキャリアパスの仕組みも構築し、グループ内雇用を実施。責任に応じて給与もアップすることで、より働きがいを感じられる取組も進める。
創業の理念から、障がい者雇用を推進するため誕生した、てしお夢ふぁーむは、徐々に規模を拡大。グループの目標でもあった、障がい者雇用率のアップにも大きな役割を果たした。今後は、継続的な障がい者雇用の機会を設けるため、第三農場の増設も予定しているという。
「障がい者が社会に必要であるという認識を、障がい者を含め、社会に認知させていきたい」と佐藤社長。
障がいというハンディキャップも「個性」であるという想いで、社会人として活躍できる企業を目指していく。
CASE STUDY働き方改革のポイント
「農福連携」を通して
障がい者雇用を推進
- 効果
- 農業×福祉の取組で、持続可能な共生社会を生み出す「農福連携」を実践するため、就労継続支援A型事業所の農場を立ち上げる。「障害者雇用促進法」で定められた法定雇用率に対し、障がい者雇用率は、2014年の1.6%から2020年には3.2%に大幅アップ。幅広い人材の雇用を創出。
生産者としての自信と
やりがいを育てる
- 効果
- 障がい者にとっての働きやすさを第一に考え、葉物野菜の水耕栽培とミニトマトのハウス栽培を2本柱に。植え付けから収穫までサイクルを設け、通年での作業を可能にした。障がいを「個性」と捉え、得意分野に応じて業務を振り分けることで、より働きがいを実感できる工夫も。
自分たちで課題を見つけ
チームで解決する「現場力」
- 効果
- 自身が働く職場環境の改善は、自分たちで行う。現場力を養う取組の一環として作成する「現場力レポート」は、改善点の気づき・実践・成果までを報告書にまとめる。作業を円滑にし、働きやすい環境は自分たちで作り出すものという自覚を持ってもらうことを目指す。
COMPANY DATA企業データ
農業と社会の架け橋になる
株式会社てしお夢ふぁーむ
代表取締役社長:佐藤 憲英
本社:三重県桑名市
従業員数:23名(障がい者19名・社員4名)(2021年11月現在)
設立:2014年12月
資本金:100万円
事業内容:障がい者 就労継続支援A型事業所・水耕栽培による葉物野菜の生産・ハウストマト栽培・農産物の販売
経営者略歴
経営者略歴
佐藤 憲英 (さとう・のりひで)
1970年生まれ。神奈川県横須賀市出身。大学卒業後、10年間営業職に就くが、担当した新規事業からの撤退を経験、社会保険労務士をめざす。社労士事務所勤務を経て、事業会社にて東証一部上場までの人事労務責任者(人事系執行役員)を担う。2016年ソシオークグループ人事部長着任。2021年4月より、ソシオークホールディングス株式会社執行役員及び株式会社てしお夢ふぁーむ代表取締役社長執行役員。