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ライオンパワー株式会社
製造業
中部
100〜300人
File.128
ポイント制導入、多能工化で残業時間を削減 -最先端技術を駆使する電子機器製造・開発メーカー「ライオンパワー株式会社」の場合-
2022.02.01
ライオンパワー株式会社(石川県小松市)は1971年の創業。プリント基板、医療機器、制御盤、FA・LAロボットシステム、ソフトウェア開発など、電気機械・機具の設計・製造を一貫して手がける。一般消費者向けではなく、企業向けの製品を提供しているが、最先端領域でのオリジナル製品の数々は業界で高い評価を受けている。
離職者をなくしたい思いから行き着いたポイント制
高瀬敬士朗社長の経歴はユニークかもしれない。神奈川工科大学を卒業後、現J1リーグの前身チームでコーチを務め、サッカー留学でイングランド公認コーチライセンスを取得。帰国後はJ1リーグチームのユースコーチ、監督、1軍のヘッドコーチを歴任したが、2002年に父親が経営していた同社に入社した。「もともとマネジメントが自分には合っているし、好きだった。コーチも会社経営も共通するところがあるだろうと”転職”しました」。
2007年には代表取締役に就任。新工場増築や工場拡張などを進めてきたが、2014年の年末から年度末にかけて仕事が集中し、残業時間は社員の半数以上が月80時間超え。そのうちの半数が月100時間を超えるようになった。「年度末の春先になると若い離職者が増えるようになって、これはどうにかしないといけない、まずは残業を減らすにはどうしたらいいかを考えたのですが、これが当社の働き方改革のきっかけとなりました」(高瀬社長)。
そこで導入したのが退勤時間を賞与に反映するポイント制だった。午後5時の定時退社はプラス10ポイント。午後5時以降は30分ごとにマイナス1ポイント。午後8時以降はマイナス3ポイント。徹夜しても合計マイナス9ポイントとなる。月の合計がマイナスだと賞与がマイナス査定となるが、翌日に定時退社なら必ずプラス1ポイントとなる。「ポイント制を実施してから1年で残業が半分に減った」と高瀬社長。
当初、ポイントに組織業績が反映されており、組織業績が悪い部署ではあまり取り組みが進まなかった。そのため、実施翌年からは個人の残業時間のみをポイントに反映することにした。これにより取り組みが進まなかった部署でも残業が減ったという。
コロナ禍以前から続けてきた健康増進活動
このポイント制の背景には社員の健康管理の狙いもあった。残業時間を減らすことでプライベートな時間を増やし、健康管理と共にワーク・ライフ・バランスを実現して欲しいという考えだ。「好きなことに一生懸命になれる人は、仕事にも真面目に取り組めると考える。仕事以外の時間にやりたいことがあるかないか、その差は大きい」と高瀬社長は語る。
健康面への配慮では、食堂の一角にランニングマシンや筋トレマシンを設置して誰でも使えるようにした。コロナの影響で休止中だった定期的にインストラクターを招いての健康増進活動(ダイエットクラブ)も2021年11月から再開し、ヨガやエアロビクス、シェイプアップボクシングなどを開催している。また、定期健診で「要注意」の診断が出た社員は残業の上限時間を3時間としている。
健康への取り組みはコロナ禍以前から重視してきた。「社員が健康であることは会社にとってもよいこと。安定した生産能力を発揮できるはず」と高瀬社長。
多能工化で残業時間をさらに削減
残業時間削減の試行錯誤はポイント制だけにとどまらない。2019年頃からは製造部門での「多能工化」に取り組んだ。ひとつの機械を1人が操作するシステムから、その部門の全員が複数の機械を操作できるシステムへの転換を行ったのだ。中核的な社員は多種の装置を操作できるが、1機種しか操作できない社員は手伝うことができない。そのため、仕事が増えれば中核社員のみ残業時間が増えるという悪循環が生じていた。
これを解決しようと社長直轄の1部門をモデルケースとして、中核的な社員が他の社員に仕事を教え、1人ができる仕事の量を増やす取り組みを行った。当然ながらいきなり2人分の仕事を覚えることは無理があるので、1.4人分程度の仕事量を覚えることを目指した。当初は慣れない仕事のため残業時間に変化はなかった。ミスによる顧客からのクレームも増加したが、高瀬社長がすべて対応し、社員へ余分な負担をかけないようにしたという。
このような取り組みを進めていくと、新しい機械への習熟度が高まり、半年ほどでその部門の生産装置のほとんどを全員が操作できるようになった。特定の社員への残業時間も減り、1年間取り組んだ成果を受けて翌年からは他の部門でも多能工化を取り入れ、現在ではほぼすべての部門で多能工化が採用されている。
ポイント制、多能工化の推進で月平均の残業時間が約60時間(2014年)から約30時間(2019年)に減少。年次有給休暇の取得日数も約6日(2014年)から約10日(2019年)と増加した。働き方改革に取り組む前は年間4、5人だった離職者は、現在1名程度と大きく改善し、目的を達成したといえるだろう。
企業文化向上と働きやすい環境への配慮
同社は2010年頃から「未来へのハーモニー活動」というものに取り組んでいる。これは、社員みんなで企業文化を高めようという高瀬社長直属のプロジェクト。社長が選抜した数人がひとつのチームを作り、ホームページや会社案内の制作、社内外清掃、花壇の手入れ、新人歓迎会、部門ごとに改善や新技術を披露する社内発表会やその後の懇親会など、社員同士のコミュニケーションにも力を入れている。
「未来へのハーモニー活動」は「会社にいる時間は人生のうちでとても長いから、少しでも楽しい時間であってほしい」と考える高瀬社長がこだわる活動だ。その一環で、釣りのサークル活動も活発だ。日本海まで車で10分ちょっとと近いこともあってサークルメンバーも多く、女性社員も参加する。また、高瀬社長が主催するサッカークラブに所属してプライベートタイムを楽しむ社員もいる。
総務課の中村勝人さんは入社7年目。始めの2年は製造部門に所属していた。「総務課に配属された当初は残業が多かったですね。今でも残業ゼロということはありませんが、忙しいときとそうでないときのバランスを取りながら仕事をしています」。同社は初代の頃から年次有給休暇の申請許可率は100%だが、取得日数が少ない人には声かけする立場だ。自身は2人の女の子の子育て中。学校の行事や通院などに半日の年次有給休暇も利用しているという。終業後、週に1回は高瀬社長のサッカーチームで汗を流す。「仕事とプライベート、オンとオフをはっきりと分けて働ける環境ができています」と語ってくれた。
同社は、約100人の社員のうち約半数が女性だ。創業時から、事務系だけでなく製造や設計、営業など、ほぼすべての部門で女性が活躍している。そのため、例えば女性労働者が不安なく育児休業を取得して円滑に復職できるために、会社と個別に相談する機会を設けたり、家庭の事情で年次有給休暇を突然取得しなければならない場合には休暇を取得しやすい環境づくりを進めるなど、柔軟に対応している。また、センサーやカメラを活用した生産効率化システムを導入し、女性が長く、無理なく働き続けられる環境づくりも推進している。
「ビジネスでもサッカーでも、戦略を成功させるにはしっかりとした基本は欠かせない。中小企業が大きな意思決定を行うには社員の意思統一がもっとも大切」と語る高瀬社長。現在、グローバルな展開を目指し、JETROを通じて技術開発部門での外国人採用を模索している。
CASE STUDY働き方改革のポイント
残業時間のポイント制導入
- 効果
- 1日の残業時間が長くなるほどマイナスポイントが累積するが、翌日に定時退社するとプラスになるという分かりやすいポイント制で残業時間が1年で半分になった。かけた費用はゼロだった。
多能工化の推進
- 効果
- 同一部門の社員が操作できる機械が多くなり、仕事が特定社員に集中することがなくなった。同時に特定社員に偏っていた残業時間も減った。ポイント制と多能工化によって年次有給休暇取得日数も増え、離職者もほぼなくなり、働き方改革の成果が実った。
健康活動への取り組み
- 効果
- 2018年に「いしかわ健康宣言企業」認定など、健康はコロナ禍以前から重視してきた。社内で行ってきた健康活動でダイエットに成功した社員も出た。何よりも残業を減らす施策が成功し、社員のプライベートタイムが増加。メリハリのある暮らしが健康にも貢献している。
COMPANY DATA企業データ
技術を楽しむメーカー
ライオンパワー株式会社
代表取締役社長:高瀬敬士朗
本社:石川県小松市
従業員数:102名(2021年9月現在)
設立:1973年
資本金:4,156万円
事事内容:プリント基板の設計製造、制御盤の設計製造、科学分析装置の組立、医療機器の設計製造、制御盤自動配線支援システム等の製造
経営者略歴
高瀬敬士朗(たかせ・けいしろう) 1970年石川県生まれ。星稜高校(石川県)卒業、1993年神奈川工科大学電気科卒業、同年フジタスポーツクラブ(現Jリーグ湘南ベルマーレ)U-12チームコーチ、1994年イギリス留学(Liverpool John Moores University=Human Science)、イングランド公認コーチライセンス取得、帰国後現Jリーグ湘南ベルマーレU-15コーチ、U-18監督、トップコーチ歴任、2002年父親が経営していたライオンパワー株式会社入社、2007年代表取締役社長に就任。座右の銘は「迷ったら基本にもどる」。