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株式会社 OZ Company

業種

医療・福祉

地域

九州・沖縄

従業員数

50〜99人

File.13

「保育士の笑顔あってこそ!」職場環境を徹底改善 ―企業内保育所運営 オズカンパニーの場合―

時間外労働の削減

2020.01.24

株式会社 OZ Company

 各職場で「働き方」を見直す動き、多様な働き方が実現しつつあるが、その流れを下支えしているのが、保育園(保育所)だ。子育て世代の母親・父親が働けるように子どもの世話をする。しかし、そこで働く保育士に対しても、労働環境整備が求められている。負担軽減と効率化に取り組むのが、企業内保育所を運営する「オズカンパニー」(本社・福岡市)だ。

1年以内の離職44%、「原因はストレス」→増員を決断

 「こんなはずではなかった」
2012年に長崎市内で受託した病院内保育園の運営で、次々と保育士が職場を去っていった。4年前に起業したばかりの小津智一社長は、初めて請け負った事業所内保育園で大きな問題に直面していた。1年働かずに辞めていくスタッフの割合は44%にもなり、問題が発生しているのは明らかだった。

 現場を見ていくうちに小津社長は、保育士の仕事の実態に気づいた。保育士は子どもを預かるだけが仕事ではなかった。保育計画を立案したり、行事の準備をしたり、日常の活動を支える仕事が大きな比率を占めていた。子どもたちが帰宅した後に、残業をしたり、自宅に持ち帰って作業をしたりする現実があった。

 現場で働く保育士の半数以上がパートタイム労働者だった。パートの保育士は時間契約なので保育が終わると帰宅する。残業は正社員の保育士に重く負担としてのしかかっていた。そのため、「なんで私ばかり仕事をさせられるのか」とグチが多くなり、保育士間の関係も悪化していった。そして子どもたちも居心地が悪くなるという悪循環が起こり、保育士が相次いで辞職していった。

保育スタッフが「笑顔」で働ける組織づくりを目指している小津社長

 「やはり増員しかない」と、小津社長はまず、スタッフを多めに雇用する決断をした。職員が定着しないことは、事業存亡の危機だったため、コスト増は覚悟の上での採用だった。すると、一時的に利益は減ったが、就業時間内で仕事が終わるようになり、残業も減り、離職率も下がった。子どもも表情が変わり、親の反応も改善したという。「よし、徹底的にやろう。保育士の笑顔があってこその事業だ」と、働き方改革へ大きく経営の重心を移していった。

時給を正社員と同一に修正、熟練パートの能力引き出す

 保育所では、一般的に、日々の保育のリーダーは正社員が務め、パートはリーダー保育士が決めた方針に従って動く。しかし、パート保育士は、育児や介護などの家庭の事情でパートで働いているが、実際は経験が豊富で能力が高いことが多い。「何とか、ベテランのパート保育士の能力を引き出せないか」と、小津社長が踏み切ったのが、パート社員にも日々の保育のリーダーを割り当てる「日替わりリーダー制度」だ。

 しかし、パート保育士には「パートの給与で、リーダーの責任を負うのはおかしい」という不満があった。そこで、リーダーを担っているパート保育士にもリーダー手当を支給したり、正社員の保育士と職務内容が同じパート保育士の時給は、正社員の保育士の基本給を月間就労時間で割った額にするなどの制度を導入した。これによりパート保育士の時給が2割近く上がったという。すると、これまで正社員のリーダー保育士に遠慮していたベテランのパート保育士が力を発揮し始め、職場全体が活気づき、負担も平準化していった。

熟練のパート社員が能力を発揮することで、職場が活気づいた

 また保育士以外の事務系職員には、自宅で業務をすることも認めた。家庭内の仕事と、保育園の業務を両立することが容易になり、負担感が低減していく効果が出てきた。
こうした働き方改革は、コストアップという問題点があった。しかし、サービスが改善したことで、園児が増え、更に評判が高まって事業依頼が舞い込むなどの効果が出て、経営が軌道に乗ってくる効果が表れてきた。「働き方改革は、福利厚生ではない。事業戦略です」と語る小津社長は、自らの経営方針に自信を深めている。

「ノー残業」でプライベート充実、仕事にも活気

 小津社長は、保育士の資格をもっていない。また、保育園の園長一家で育ったわけでもない。自分の子育て経験から起業を思い立って、保育業界に新規参入した。だからこそ、見えてくる問題点もあるという。自らの働き方にも理念を実践しており、定時で帰宅し、近くの海でサーフィンや地域活動での業界外の人との交流により、保育業界に埋没することなく、新しい発想の習得に努めているという。

 労働環境改善の効果は従業員の間でも広がっている。2018年9月からグループ内の保育所でパート保育士として働く田坂里佳さんは、週4日、7時45分~16時30分まで子どもの世話をしている。保育士としての職場は4か所目だという。「他の認可保育園などでは、パートはサポート業務のみですが、ここではリーダーができるので、自分の発想で保育ができ、充実感があります」と笑顔で話す。残業もないことから、2児を育てながら仕事ができるという。

週4日、パート保育士として働く田坂里佳さん

 これまでの職場では、定時が形骸化していて、残業や仕事の持ち帰りが日常的になっていたこともあったという。しかし「今はプライベートが充実していて、仕事のモチベーション向上につながっています」と話す。小津社長は、残業をなくすことで、保育士が家庭や地域で活躍し、社会人としての視野を広げる効果を期待する。

 2018年10月から正社員として働き、園長を任されている堤千秋さんは「保育士って世間知らずなことが多いです。だから私も仕事以外で、地域の人や大学の先生などと積極的に交流し、知見を広げています」と話す。
効率を考えた働き方を取り入れようと、地域で開催される経営者向けのセミナーにも参加しているという。職員の間から自発的に、働き方を変えようという動きが出始めているのは、大きな成果と言えそうだ。

仕事以外で様々な人と交流をするよう努めていると話す園長の堤千秋さん
家族で遠出を楽しむ田坂さん。仕事でも責任ある業務を任されていて、充実した日々を過ごしている
休日にウィンドサーフィンを楽しむ堤さん。余暇に吸収した発想や人脈を、仕事でも生かす工夫をしている

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

保育士の人員増によりサービス向上

効果
従業員数を拡充し、就業時間内ですべての業務を終わらせるようにした。保育士の心の余裕を確保することで、子どもたちへの気配りもできるようになり、結果として保護者らの評価も高まった。
取組2

職務内容が同じパート保育士の時給を正社員の基本給(時給換算)と同額に、リーダー手当も支給し、モチベーション向上

効果
日々の保育の責任者(リーダー)を交代で担当するパート保育士にリーダー手当を支給。パート保育士の時給と、正社員の基本給(時給換算)を同額にしたことにより、保育士としての能力を引き出すことにつながり、園内が活性化した。
取組3

事務系職員の自宅勤務を承認

効果
直接子どもと接する保育士以外は、自宅で業務をすることを認め、家事との両立、通勤負担の軽減を図った。社員には自己管理が求められるようになり、新しい生活スタイルで働けるようになった。

COMPANY DATA企業データ

株式会社 OZ Company

代表取締役社長:小津智一
本社:福岡市博多区
従業員数:約80名
設立:2008年
資本金:700万円
事業内容:企業内、病院内保育施設の企画・運営、イベント臨時託児ルームの企画・運営、ワークライフバランス推進事業など

経営者略歴

小津智一(おづ・ともかず) 1972年生まれ、工業高校卒後約17年間、大手メーカーに勤め、主に法人営業を担当。2006年に長女誕生後、自身の子育てを通じ、子育て中の父親・母親が笑顔になりにくい社会であることを痛感。これを機にオズカンパニーを創業。保育スタッフが「笑顔」で働ける組織こそ、お客様を「笑顔」にできるという経営理念を確立。父親であることを楽しめる社会をつくりあげるNPO法人を設立し講演活動、行政協働の企画立案なども行っている。