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株式会社吉田測量設計

業種

学術研究,専門・技術サービス業

地域

北海道・東北

従業員数

100〜300人

File.138

経営資源は「人」、社員一人ひとりを豊かにする働き方を推進 -男女や国籍の区別なく個々のスキル向上を目指す株式会社吉田測量設計の場合-

幅広い人材活用

2022.02.01

株式会社吉田測量設計

 岩手県盛岡市を拠点に、測量、調査、設計、補償、維持管理業務などを広く行っている「吉田測量設計」。その基本理念「もっとも重要な経営資源は人である」は、50年前の創業から一貫して変わっていない。東北有数の技術者集団といわれ、東北に11支店、東京に1支店を構える現在では、採用にはスキルを重視し、入社後は資格取得など、さらなるスキルアップに向けてのサポート体制を整えている。2018年10月には「いわて女性活躍認定企業」の認定を受け、さらに2020年働き方改革AWARD「女性活躍推進部門」を受賞。女性社員が結婚や出産をしても、キャリアプランを持って成長できる企業であることが評価された。

勤怠管理システムで、フレキシブルな働き方を

 「全社員の幸福を追求するとともに、汗を流し、知恵を出し、信用できる技術集団として社会に貢献する」という経営理念のもと、震災復興などに取り組んできた同社。代表取締役社長の吉田久夫氏は、「コンピューターやCADが無かった時代、弊社で図面作成などを手書きで担ってきたのは、女性たちでした。昔も今も採用に関して男女の区別という意識はまったくなく、技術と働きたいという熱意があるかどうかを重視してきました。我が社の女性社員は、半分以上は結婚していますので、ワーク・ライフ・バランスのためにはどうすればいいか、と考えざるをえなくなりました」と語る。現在は社員数が106名(男性74、名女性32名)となっており、育児休業を取得して復職し就業継続している女性社員がほとんどだ。

「採用には、我が社で働きたいという熱意を重視しています。貢献してくれる女性社員が、仕事だけではなく自分のプライベートでも輝けるようにサポートする責任があるのです」と語る吉田久夫代表取締役社長。

 まず、長時間労働の是正と年次有給休暇取得を推進するために導入を検討したのが、勤怠管理システムだった。タイムカードを本社や各支店で社員が打刻し、それぞれ集計するという旧来の方法では、勤怠管理を本社で一元管理することができず、残業が発生しやすいという分析結果が出たのだ。2020年8月にシステム化を図り、本社ではカードをかざし、支社ではweb上で打刻するだけで、全社員の勤怠が瞬時に反映されるようになった。これにより、社員一人ひとりが勤務時間内に結果を出すことをより意識できるようになり、残業時間の削減につながった。2019年度の残業時間は月平均17時間であったが、2020年度には月平均14時間に減少した。

 また、勤怠管理システムによって、時間単位の年次有給休暇取得が可能になった。一旦家に戻りたい、学校行事に参加したいなどの理由で、1日や半日有休を取らずとも必要な時間を確保できることは、介護や子育てを担う社員にとっては心強い。導入前は8時30分から17時30分と規定されていた勤務時間も、時差出勤を新設。8時始まりや9時始まりなど、社員の希望にフレキシブルに対応できるようになった。

 水曜日を「ノー残業デー」として社内に周知しており、業務の効率化を図ろうという意識が高まっているが、実は、この言葉が無い時代から、同社では先駆けてきたという。

 「かつては金曜日の午後に電話がかかってきて、週明けまでにやって下さいと頼まれることが多々ありました。それでは我々は金曜に残業、あるいは土日出勤になってしまいます。だから、金曜の午後に発注するのは控えてもらいたい、とお願いしてきました」と、吉田代表取締役社長。そのうちに「ノー残業デー」という言葉が広く使われるようになって、ようやく時代が自分たちに追い付いてきたと感じたそうだ。ちなみに水曜日になると、社内のパソコン画面に「本日はノー残業デー」のポップアップが、うるさいくらいに表示されるとのことだ。

会社を頼ってほしいという姿勢が社員のモチベーションアップに

 同社は、社員のプライベートな問題に配慮することを目指して、直属の上司に相談しにくいことでも相談できる窓口を総務部に設けている。仕事上の不安や困りごとはもちろん、介護や育児、本人の病気などにより困ったときでも、会社を頼ってほしいという願いからだ。実際に病気療養中の正社員が、フルタイム勤務から、本人の希望する時間帯での勤務に変更した例もあり、総務部では「一人で悩まず相談を」と呼びかけている。

 図らずもコロナ禍で、困った状況が突然、多くの社員に起こってしまったことがある。2019年2月末に、いきなり翌日から学校は一斉休校と政府が決定したときのことだ。3月1日朝、子どもを家に残して出勤してきた社員に「これから子どもはどうするの?困らないのか?」と社長から声をかけて回ったという。どうするも何も、まだ決まっていないと答える社員に「会社に連れてくればいいじゃないか」と即座に決定。そうして休校期間中、社内に開放した広いフロアで、6家族ほどの子どもたちが、自習したり、ビデオを見たり、食事を摂ったりして過ごすことになった。子どもたちにとっては、会社で働く親を間近に見るチャンスになり、職場環境を肌で感じられる貴重な体験になったといえる。

総務部の倉部さおりさんは現在子育て真っ最中。働き方改革を進める側と利用する側の両方の視点で、社員が利用しやすい制度づくりに励んでいる。

 入社4年目の総務部総務課主任・倉部さおりさんは、小学6年生2人と4年生1人の3人の子どもの母親。子どもの突然の発熱などで、休まざるを得ないハプニングはあるが、休むことに対する冷たい空気は社内になく、「仕方ない」「当然だよね」という反応だという。

 「子どもがいない社員が、休みたいとなったときに逆に私がフォローできることもあります。そうしたお互いのフォローがきちんとできるし、業務を滞らせない体制ができています。コロナによる一斉休校期間中は、子ども3人を連れて出社することができて、改めて会社の懐の深さを感じました。社員全員が子どもたちを温かく見守ってくれて、互いを励まし合うなかで、家庭も仕事も大切にしようという社風がさらに強まったようです。コロナが残した、プラスの側面です」と倉部さんは語る。

 同社では、女性社員の1/3以上が、係長相当以上の役職についている。今までに、上司から勧められて昇進を辞退した事例は皆無。なぜなら、実力を認められた社員が「どうすればもっと働けるのか、モチベーションアップできるのか」を考えるのは当然としてきたからだ。

 本社で勤務していた、山形県出身のある女性社員が、故郷に帰らざるを得ない事情ができてしまった。本人は辞職覚悟で上司に相談したところ、役員クラスでの話し合いになり、決定したのは、「山形事務所を設立すること」だった。彼女は大学工学部を卒業して入社、めきめきと実力をつけ、社内では将来が嘱望される人材だった。

 「せっかく社員になってもらったのに、故郷に帰るから退職なんて、あまりにも惜しい。アパートを会社で借りるから、そこを事務所にして勤務できないかと提案したのです」と吉田代表取締役社長。テレワーク出来るように環境を整えて、現在もこの社員は、日々コミュニケーションを取りながら在宅勤務に勤しんでいる。

 ベトナム出身の女性社員が勤めて2年目で結婚、本国に帰ることになったときも同様の働き方となった。外国といっても距離感はなく、昔のように本社に出向かなくてはならないこともない。ツールによって距離は関係なく働けるという点で、お互いに気を付ける点は時差くらいというのが、同社の認識だ。そのため、社内には4人の外国籍の社員が在職している。また、フィリピンの大学と協議してOJTを実施、優秀な卒業生に来てもらう制度を整えていた最中、コロナ禍で中止を余儀なくされ、再開できる時期を待っているという。こうした外国籍社員雇用の根底には、日本国内で5年から 7年働いて経験を積み、帰国後は、現地の人材を活用してファームを作り、同社の仕事を請けてもらうという構想がある。

 「今は投資の段階。優秀な人材を大切に育て続けるしかない」と吉田代表取締役社長。入社後のスキルアップも積極的にサポートしており、その一例が勉強会だ。月に1~2回社内で勤務時間内に勉強会を設けている。国立大学の教授だった方には数学、英語塾講師の経験がある方には英語などをみてもらうようにしており、40歳未満の社員なら誰でも参加できる。今年、測量士補の国家試験に3度目のチャレンジでベトナム人の女性社員が合格した快挙に、社内が祝福に湧いたという。専門知識の習得とともに日本語の壁に立ち向かえたのは、日本語の疑問を気軽に尋ねることのできる環境もプラスに働いたのだろう。

月に一度の社員による委員会で、要望実現も

 「就業環境向上委員会」という集まりが月1回開催されている。各部署から選任された委員が、働く環境をよくするために「こうしたら、もっと働きやすくなるのでは」という意見やアイデアを持ち寄る組織で、任期は1年であり、誰でも委員になるチャンスが巡ってくる。委員会の翌日に全社員に共有される報告書は、社内コミュニケーションのきっかけになることも多い。

月一度開催される「就業環境向上委員会」では、活発に意見が飛び交う。事前に部署内で、「こんなことを会社に頼んでみては」と話し合うこともあり、社員の関心は高い。

 2020年度、同委員会から「シャワー付きトイレがほしい」という要望が出て、社内の全部のトイレに設置された。「それで気持ちよく働いてくれるなら」と会社側は快諾したが、正直なところそんな要望が上がってくることは予想さえしなかったという。また「女性用トイレが少ない」という苦情を受けて、男女兼用であったトイレをすべて女性専用にしたフロアもある。2017年に、専務が「若い人に育ってもらいたい。上からの意見ではなく、下からの意見が発せられることが必要だ」と委員会の設置を促したが、こうしたコミュニケーションの積み重ねが、同社の風通しのよさに繋がっている。

 「兄と二人で始めた会社で、社員数が15~20人くらいまでは社内のコミュニケーションがとれていた。それが30~ 40人になると、なかなか取れなくなった。今、社員数が100人を超えて、個別にコミュニケーションをとるのは難しいので、委員会の設置など工夫をすることでよくなっている」と吉田代表取締役社長は語る。今年からは関東進出を視野に入れて、川崎市という新たな地域にチャレンジを始めた同社。社内テレワークは本社と支店を結んで既に行っており、そのネットワークを広げ、かつ人材活用によって新しい一歩を踏み出そうとしている。

1993年より、年2回、本社社屋の前を流れる北上川河川敷を清掃。毎年白鳥が飛来する美しい環境を次世代に残すべく、環境保全に真摯に取り組む。未来を担う子供達を応援するため中学校などへ出前授業も行っている。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

勤怠管理システムの導入

効果
長時間労働を是正し、社員一人ひとりの効率化の意識を高めた。時間単位の年次有給休暇取得や時差出勤も可能になり、フレキシブルな働き方が可能に。ノー残業デーも定着。
取組2

講師を招いて社内勉強会をサポート

効果
勤務時間内に自由に参加できる勉強会を定期的に開くことで、モチベーションアップ。各種資格試験の受験などでスキルアップをはかり、技術集団の一員としてさらに活躍。
取組3

会社をよくするための意見交換を定期的に行う

効果
「就業環境向上委員会」という集まりが月1回開催されることで、社員が就業環境改善に向けた意見や要望を出しやすくなり、社内コミュニケーションや風通しのよさに繋がっている。
取組4

女性社員が役職に就くことを推進

効果
女性社員の3分の1以上が係長相当以上の役職に就き、給与にも反映されている。女性社員のモチベーションアップに。

COMPANY DATA企業データ

信用できる技術集団として、社会の進歩発展に貢献する

株式会社吉田測量設計

代表取締役社長/吉田久夫
本社/岩手県盛岡市
従業員数/106名
創業/昭和46年11月
設立/昭和53年12月
資本金/1,500万円
事業内容/測量業務、建設コンサルティング、補償コンサルティング、開発コンサルティング、維持管理業務

経営者略歴

吉田久夫(よしだ・ひさお)
1949年岩手県盛岡市生まれ。1973年入社。2004年代表取締役に就任、2014年代表取締役社長に就任。