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株式会社佐藤工機

業種

製造業

地域

中部

従業員数

100〜300人

File.139

厚労省ガイドラインを活用、給与体系を見直し、待遇改善を達成 -成果報酬型給与体系への移行に成功した 佐藤工機の場合 ー

同一労働同一賃金の実現

2022.02.01

株式会社佐藤工機

 佐藤工機は銅・黄銅、ステンレス、アルミなどのパイプ加工、切削加工を手掛ける部品メーカーである。高い技術力を有し、現在、国内外に6社の関連会社を展開している。同社では2018年10月、事業年度初めの会議で同一労働同一賃金の実現、不合理な待遇差の解消に向けての議論を始めた。議論から生まれた解決策は年功序列の給与制度を成果報酬型に見直すことだった。2021年4月から、この給与体系を導入したが、社員の満足度の向上と同時に、社員一人ひとりにとって自身の技術力向上へのモチベーションアップにも繋がった。

佐藤工機はパイプ加工・切削加工の部品メーカー。高い技術力を持った社員を擁する技術集団である

働き方改革推進支援センターの専門家派遣制度や厚労省ガイドラインを活用

 「働き方改革関連法」の公布を受けると、佐藤工機では雇用形態の違いによる待遇差を見直し、改善策を検討するため、社長、役員、女性1名を含む総務3名、製造部部長、人事部から成る6名のチームを組んだ。さらに働き方改革推進支援センターの「専門家派遣制度」を利用し、社会保険労務士の派遣を依頼。また、顧問の社会保険労務士も加え、議論を重ねていった。

 その際、活用したのが厚生労働省の「同一労働同一賃金ガイドライン」、「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」だった。

「雇用形態による待遇差や賃金差が不合理か否かを判断するのは思った以上に難しかった」と佐野守常務取締役は話す。

 そこで社会保険労務士に助言を求めながら、点検・検討マニュアルに従い時間をかけて検討していった。

 その結果、年功序列の給与制度を成果報酬型の給与体系に見直すとともに、これまで雇用形態によって差があった通勤手当、特別休暇を不合理な待遇差と位置づけ、雇用形態に関わらず同一支給とした。一方、家族手当、慶弔見舞金を均衡待遇としての合理的支給基準を設けて、有期雇用労働者への改善を図った。

働き方改革推進支援センターの専門家派遣制度を活用し、社会保険労務士と共に働き方改革を進めていった

職能別力量比較マップを制作、成果報酬型の給与体系に移行

 改革の中心となったのは給与体系だった。

 同社の主製品は業務用空調機、列車空調、大型チラー等に使用される部品で、量産マシンによる自動化製造が難しく、社員の技術力に負うところが大きい。高い技術力を持った社員が多いのだが、技術力のレベルが高いか、低いかは雇用形態や性別、年齢に関係がない。必ずしも、若い社員が年齢の高い社員より、技術力が劣るとは断言できないのだ。

従来の年功序列型では同程度の技術力を持った社員でも年齢の上下によって給与に差が出ることがあった。議論の結果、このような差を解消するにはスキルを評価する成果報酬型への移行が最適であるとの結論に達した。

 成果報酬型にするには社員一人ひとりの技術力を客観的に評価する指標が必要である。そこで利用したのはISOスキルマップ(力量表)だった。

 佐藤工機はISO 14001:2015、ISO 9001:2015に登録されているが、認証を得るためにスキルマップを作成した。そのスキルマップを参考に、以下のような「職能別力量比較マップ」を全60種類の職種別に作成した。


 このマップはパイプグループの一例である。マップでは正社員、有期社員、パートタイマーの有する力量をショップ区分(NC、TP)、〝穴あけ″〝曲げ″などの加工種類に対してどのくらいの技術力(A~F)を有しているかを示している。

 Aはその技術について未経験者に指導できるほどの技術力、Bは通常の技術力、その下にC~Fのランクがある。ランク付けは職種ごとに配置されているインストラクターの評価、テスト、研修プログラムの履修により、客観的に判断される。

 マップは社内各所の掲示板に張り出され、社員は自分のランクを他者と比較できる。

 さらに賃金差を説明する際に資料としても利用されている。

 たとえば7番の有期社員から4番の正社員との賃金差について説明を求められた場合、「4番はNC曲げの技術がAなのに対し、7番はE。さらに4番は5番が有していない技術も身につけている。この差が賃金の差である」と説明できるのだ。

 また社員一人ひとりのネームプレートにも技能のランクを表示し、自分と他者とのスキルの違いを一目で確認できるようにした。

佐野守常務取締役は「成果報酬型給与体系に移行したことは社員の満足度に繋がり、社員の成長を促すことにもつながりました」と話す

成果報酬型が技術力向上へのモチベーションアップになる

 年功序列型から、成果報酬型に移行する際、社員の反発はなかったのだろうか。

 「説明会を何度も開きました。当社は多品種少量生産で技術力が必要とされる職場です。ですから、スキル重視の給与体系への改革は反対というより、むしろ支持を得た改革でした」と佐野常務は言う。

 成果報酬型への改革は社員の仕事に対するモチベーションアップという良好な効果を生んだ。

 佐野常務は「社員のスキルの判別を明確にすることで曖昧だった賃金差への解消に繋がりました。成果報酬型では技術力を高めれば高めるほど、賃金が上がります。分かりやすく言えば〝努力すればするほど報われる″ということになります。それは社員の満足度を上げる結果にもなりました。また、仕事に対する集中度も増し、残業も少なくなっています」と語る。

 パイプグループでエアコン・給湯部品などに使用する銅パイプの細曲げ加工に従事している前嶋治美さんは8時から15時まで勤務するパートタイマ―として働いているが、成果報酬型への改革についてこう話す。

 「日々、加工能力を上げ、効率よく仕事ができないかを常に考えながら、業務に取り組んできました。今回の働き方改革では正社員もパートタイマーも関係なく成果報酬型への移行で自分が一生懸命働いてきたことを評価してもらえ、それが働き甲斐にも繋がっています。働きやすい職場で今まで以上に仕事に励むことができています。何より、賃金が上がったのが嬉しかったです」。

 佐藤工機では正社員登用制度を導入し、積極的に活用している。パートタイマーや有期社員から正社員への登用は技術力のレベル、製造部長・グループ長の推薦、面接などにより、決定する。そのなかでも、重要視されるのが技術力だ。

パイプの曲げ加工をしている前嶋治美さんは「自分が習得してきた技術をきちんと評価してもらえ、私にとって働き甲斐のある職場になっています」と話す

 今回の改革で雇用形態に関係ない職能別力量比較マップを作成したことで申請者の力量が正社員登用のレベルを満たしているか、否かが判断しやすくなった。力量が不足している申請者に対しても、どのスキルを向上させればよいか、より具体的な指導が可能になった。同時に正社員を目指すパートタイマーや有期社員にとっても、力量を正社員と比較することでどの技術をさらに深めればよいか、目標が明確になった。

 給与体系の年功序列型から成果報酬型への移行は単に待遇差の解消という効果だけでなく、さまざまな効果を生んでいるようだ。

 佐藤憲和社長は社員にとっても、顧客にとっても魅力的な会社へ成長するために必要な大きな改革だったと評価し、次のように語る。

 「当社は〝全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、ものづくりを通じて社会に貢献する″を経営方針にしています。成果報酬型への移行は当社のような技術力重視の中小企業ならではの働き方改革であると思います。性別、国籍、年齢に関係なくすべての社員が活躍できるダイバーシティを実現するには雇用形態による不合理な待遇差の解消は不可欠です。

 また、このような改革を推進して全社員の満足度を上げることは仕事に対するモチベーションを高め、それは高品質の製品製造へ直結します。ひいては顧客への満足度にも繋がります。

 今後も、社員一人ひとりが、自身の力量を把握し、スキルを向上させていく技能集団を目指したいと思います」。

佐藤憲和社長。経営理念は「報恩感謝」。社員の満足は顧客の満足にも繋がるという

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

働き方改革推進支援センターの専門家派遣制度を活用

効果
働き方改革推進支援センターに社会保険労務士の派遣を依頼することで、厚労省のガイドラインを利用したチェックが正確に行え、待遇差の改善への取り組みがスピーディに行えた。
取組2

ISOスキルマップを利用して「職能別力量比較マップ」を制作

効果
職能別力量比較マップにより、スキルに応じて年齢や雇用形態に関係なく、昇給が可能になり、給与体系を年功序列型から成果報酬型に移行できた
取組3

正社員登用制度に「職能別力量比較マップ」を利用

効果
パートタイマーや有期社員は自分のスキルが正社員と比べ、どのレベルにあるのかが明確になり、正社員を目指しやすくなった。また、会社側は登用を判断する際、申請者の力量が正社員登用レベルに達しているか判断しやすくなった。

COMPANY DATA企業データ

株式会社佐藤工機

代表取締役社長:佐藤憲和
本社:静岡県富士宮市
従業員数:253名(2021年9月現在)
設立:1968年10月
資本金:2,000万円
事業内容:空調機器等の冷凍サイクル部品製造

経営者略歴

佐藤憲和(さとう・のりかず)
昭和61年法政大学工学部卒業、昭和63年(株)佐藤工機入社、平成5年同社常務取締役就任、平成8年同社代表取締役社長就任