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株式会社唐沢農機サービス
卸売業,小売業
中部
10〜29人
File.142
人手がかかるリアルサービスを実現するための効率化を推進 -農機の販売サイトを展開する株式会社唐沢農機サービスの場合-
2022.02.01
高齢化、後継者不足など、マイナス面が強調されがちな農業。しかし政府による新規農業就業者支援の強化、農業とベンチャー企業との協働、インターネット産直販売など、次世代の農業が注目されている。当然のことながら農業に欠かせないのが農機具だが、農機具の取り扱いでユニークな展開を見せているのが「株式会社唐沢農機サービス」だ。現在、日本全国47 都道府県対応で、新品・中古品を合わせた掲載商品数は23,000点以上という規模でありながら、単なるECサイトではなく、電話などによる顧客対応というリアルサービスを提供することに注力している。人手がかかるサービスと待遇改善はどのように両立できるのだろうか。
属人化されていた業務をマニュアル化し、効率アップ
「新品・中古農機の買いたい・売りたい・修理したいなどの農家・農機具販売店のあらゆるニーズに応える農機のマーケットプレイス」を運営する、株式会社唐沢農機サービス。
元々は現社長の父親が、個人で営んでいた農機具整備事業を唐澤健之社長が2006年に事業継承し、法人化。2014年からインターネット上の農機のマーケットプレイス「ノウキナビ」を立ち上げた。
通常、ECサイトはメールによる対応に限定していることが多い。しかしながら、唐澤氏は「高齢化が進む農業業界では、デジタル化を一方的に進めることには無理がある」と判断。ノウキナビの中に「コミュニケーションセンター」というコールセンターの役割をもつ部署を設置し、電話による対応で、町の農機具店として培ってきたノウハウを提供することにした。
経営推進部業務執行役員松本優さんは「お客様の層からすると40代 50 代が多く、さらにご年配の方はインターネットが苦手な方が多いので、すぐに電話をお受けできるようになっています。それにインターネットに慣れている方でも、直接尋ねたい、ということもあります」と語る。コミュニケーションセンターの人員配置は6名、うち3名が女性で、運営が始まった頃は、農機に精通しているスタッフはいなかったという。新品の農機の問い合わせにはすぐに答えられても、10年、15年以上前の農機の不具合に関する問い合わせや、部品の取り寄せ、修理の可否などは、その場では保留とし、改めて返答することが頻繁にあった。
「確認に時間がかかることも珍しくなく、社内連携を取るのも一苦労でした。また、全国展開しているので、お客様の近くの加盟店さんに連絡を取ってヒアリングすることも多々あります。一人のずば抜けたエキスパートがいて、その人に聞いて解決すればいい、という旧来のやり方では到底追いつかなくなったのです」
それまで属人化していた情報の共有化・マニュアル化の徹底をはかることで、コミュニケーションセンターの誰もが同じように情報を把握できることを目指した。マニュアルができてからは、各自がその都度考えながら進めるということがなくなり、よりスピーディで適確なお客様対応が可能になったという。
「どんなに古い年式のものでも、エンジンがかかり、その目的の動作が可能な農機なら、誠心誠意、修理に全力を尽くす。お客様の要望を聞き取り、最適優良な農機具を提案する」という、町の小さな農機具店であったときからの矜持。それを全国規模になっても持ち続けることで、ユーザーの信頼を勝ち得ているのだ。
残業しない職場環境とフレキシブルな人材確保
マニュアル化を全社的に実施することで効率がアップし、残業時間が少なくなり、2019年は月平均約20 時間の残業が常態化していたが、今年10月の残業時間は平均8時間に。10日に一度の定例ミーティングは、以前は全員が一堂に会して、就業時間後に17時半から2時間ほど行われていたが、現在ではインターネットを活用して出先からも参加できるようにし、就業時間内に行われるようになった。終業時間を過ぎても業務を終われない部下には、上司が声かけして、チェックする対応が取られている。
「以前は残業して当たり前という空気でした。残業しない同僚は、どうして早く帰れるの?という感じでした。上司が残業していると部下は遠慮して残り、部下が残業していると、それはそれで上司が帰りづらいものでした」と、松本さんは振り返る。現在では18時にはほぼ全員が退社するので、平日でもプライベートな時間を楽しむ余裕ができたそうだ。
春と秋の収穫の農繁期など、問い合わせに関わる部署はシフト制で土曜日曜も勤務しているが、残業にならないように受付時間を告知している。シフト希望は、前月に申請することになっているが、偏りがないように配慮されており、体調不良などで急な休みを取らざるを得ない場合などは、業務連携を取ったうえで、支障がないようにフォローしあっている。
採用面では、従来は経験者を主なターゲットとしてきたが、マニュアル化が進んだことで、新人でも業務を覚える時間が短縮され、経験のない人でも採用に踏み切れるようになった。さらに正社員ではなく、フリーランスやプライベートを大切にしたいという希望が増えてきたことで、雇用形態や就業時間にとらわれないフレキシブルな採用に切り替えることに。
現在パートタイムは3名、デザイナー、ライター、エンジニアなどの業務委託は10名おり、web制作では県外在住の方がいるとのこと。採用もweb上での面談を経て、スキルや待遇面でのマッチングが行われる。同社のリクルートサイトに求人を出しており、登録後に選考、採用に至ることが多いが、すぐには決まらなくても登録メンバーになれば、順次選考されるという独自のシステムになっている。
目標設定で、各社員の評価基準をクリアにする
同社では給与体系が開示されており、男女の差別はなく、評価目標は四半期の初めに、直属の上司から設定される。その目標の達成度合いに応じて評価され、給与に反映される。目標は上司が設定するが、「目標を達成するために必要なサポート」を部下から上司に提案できる。例えば、売れ始めている、流行り始めている商品を、大手ショッピングサイトの中で広告をかけて打ち出したいなど部下が提案して、社内のweb制作部門にかけあうということも可能だ。コミュニケーションセンターの中でも、新品を扱うチーム、中古品を扱うチームに分かれていて、新品チームでは戦略を立てて、上司に打診してキャンペーン広告を打つこともある。
以前は自己評価方式を取っており、評価項目に対して自分で点数をつけ、それを上司が確認して、点数を出すという方式を取っていた。それでは上司の主観が入り、判断基準があいまいになりがちで、コミュニケーションの度合いによっても印象は変わりやすい。評価項目の一例として、積極性、成長意欲という項目があったが、どう頑張れば評価されるのかが不明瞭だった。しかし設定目標が、例えば売り上げ100万円となれば、「どうすれば100万円の受注になるか」にフォーカスして仕事をするようになったという。
松本さんいわく「私は、いいと思うことは何でもやってみようと思うタイプで、入社以来、いろんなことに手を出していました。今は、やるべきことが明確になったので、目標達成するために、取捨選択を心がけるようになりました」
年次有給休暇取得率は、2019年の52%から、2020年は70%と伸び、今後もよりワーク・ライフ・バランスの取れた働き方を推進する方針だ。
「家族があっての仕事。家族やプライベートを大切にしつつ、仕事で成長してほしい。年次有給休暇などをフル活用してもらった上で、大いなる成果を期待している」という唐澤健之・代表取締役社長。アフリカのケニアに農機具と、日本の農業を伝えるプロジェクトを既に始めており、上場を目指して準備段階に入っているという。長野県から日本全国へ、そして世界へ。地方の一企業が大きく活路を開くことに注目が集まっている。
今後も評価制度、社員の教育サポートなどを進化させ、スタッフ全員が成長できる職場環境を整えていく。これからも農機具業界の挑戦者であり続けるために。
CASE STUDY働き方改革のポイント
属人化されていた業務の詳細や進め方をマニュアル化
- 効果
- 詳細なマニュアルに従うことで迷いが生じなくなり、業務上のストレスを軽減。新入社員のオリエンテーション期間を短縮。問題点を洗い出すことで、2019年は月平均20時間だった残業時間も2021年には8時間に削減された。
採用基準を変え、フレキシブルな働き方での募集を行った
- 効果
- 繁忙期や、プロジェクト推進など、特定のスキルを持つ人材が必要な時に活用できるようになり、効率化をはかることで時間外労働を削減。パートなどの、採用の幅が広がり、多彩なスキルが業務に反映されている。
一人ひとりの社員の評価目標を明確化し、
社員側からはサポートが要求できるようにする
- 効果
- 従来の評価項目では、評価する上司の主観が入りやすく、その評価を給与に反映させるのが難しかったが、評価基準を明確にすることで「何を頑張ればよいのか」がはっきりし、モチベーションアップにつながっている。
COMPANY DATA企業データ
一歩先を見据えた価値を生み出す農機具屋集団
株式会社唐沢農機サービス
代表取締役社長/唐澤健之
本社/長野県東御市
従業員数/30名
設立/2007年9月
資本金/1,000万円
事業内容/農機マーケットプレイス運営、新品・中古農機具の販売・修理、WEBコンサルティング
経営者略歴
唐澤健之(からさわ・たけゆき)
1980年8月30日長野県東御市生まれ。高校卒業後、世界を目指し、カナダやニュージーランドでスノーボードに打ち込む。帰国後、外資系ベンチャー企業にて携帯電話内蔵カメラの開発に従事。2006年先代より農機具修理業を事業継承し、2011年に代表取締役に就任。