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真柄建設株式会社
建設業
中部
100〜300人
File.153
経営労務診断を活用した働き方改革の加速と人を大切にする企業の実現へ ―プロジェクトチームを発足、改革を続ける「真柄建設株式会社」の場合―
2023.03.24
真柄建設株式会社は、創業115年を迎える石川県金沢に本社を持つ総合建設業である。1907年、それまでの大工業から今の真柄建設の礎となる「真柄組」を創業。それから100年余り、時代はかつてない速度で大きく変化し、建設物に求められる機能や価値もより高く、多様化してきたが、社訓にある「常に真心をこめて仕事に勤しみ、創意を尽くして技術の向上に努め、建設を通じて社会に貢献する」という姿勢は、今も変わらない。
常に「ものづくり」の原点に立ち、培ってきた技術と経験をもとに、誇りと熱意を持ってお客様の要求に真摯に向き合い、社会やお客様の持続的な発展に貢献していくとともに、社会的責任である「環境への配慮」や「安全・安心」にもしっかりと役割を果たし続けている。
社員一人ひとりの活躍と労働生産性向上を目指して
今回、取組みについてのお話を伺ったのは、総務部次長の阿久津博幸さんと同部係長松﨑京さんのお二人。コロナ禍にあっても企業業績は堅調に推移しているが、建設業の人手不足は益々厳しくなり、企業が継続的に発展していくためには、優秀な人材の採用と定着や高齢者や女性の活用、社員一人ひとりの労働生産性の向上等のための働き方改革の推進が重要であると感じていたという。
従来からも個別に改革に取組みそれぞれ効果を上げてきたが、令和6年度からの建設業の時間外労働上限規制猶予撤廃もあり、更に改革を推進することを決意。
まずは改革を効率的に加速させるために顧問社会保険労務士に相談。社労士診断認証制度による経営労務診断を活用し、課題と改革の方向性を明確にすることで効率的に改革に取組めるのではとの提案を受け、経営労務診断を受診。その結果、明確となった課題、「男性の育児休業取得」や「女性管理職養成」の他、「リスキリングによる専門人材の育成」等の改革を加速させ、『人を大切にする企業』の実現を目指すべく、更なる取り組みに着手することになった。
種々の「働き方改革の推進」
働き方改革推進前は、労働時間管理が曖昧で、ワークライフバランスが不十分、社員一人一人の労働生産性も低い状態であった。そこで、2018年、社内に働き方改革プロジェクトチームを発足。社員の労働生産性向上を目的に種々の改革を推進し、個々に効果を得てきた。
主な取り組みは以下のとおり。
① |
労働時間管理の徹底と管理強化 |
PCログと連動した出勤簿システムによる客観的な労働時間管理を導入。客観的な勤怠データを正確、かつ、タイムリーに把握できるようになったことで、曖昧に運用されていた労働時間管理を徹底し、残業実績データを部門別に提供、各部門別や残業が多い個人別に労働時間の効率化に取組んでもらうことができた。結果、時間外労働は2021年度全社平均月20.5時間、単月80時間超えとなる社員はゼロとなった。 |
② |
休暇の取得促進 |
年次有給休暇の時期指定と計画的付与(年間7日間)の並行運用により、取得率の向上を推進。年次有給休暇取得率は、全社平均32.8%(2010)から60%(2021)へ向上。その他、「入社時点での有給休暇付与(最大10日間)」、「リフレッシュ休暇制度(作業所移動時に3~5日程度の有給休暇取得を奨励)」、「永年勤続特別休暇制度(勤続25年で3日間、35年で7日間)」も運用し、社員のワークライフバランスの充実を推進。 |
③ |
社員のコミュニケーション強化 |
全社員にPC、スマートフォン等を貸与し社内ワークシステムの活用促進、新入社員研修では約2週間の集合研修の後、配属後も週1回のWeb研修を継続し、社員間のコミュニケーション強化に取組み、社員にも好評を得ている。 |
④ |
IT化による作業効率向上 |
社内ワークシステム導入の他、3DCAD、VR・AR(仮想現実・拡張現実)、ドローン、3Dレーザースキャン、現場ライブカメラ、スマートグラス、タブレット端末と図面・現場施工管理効率化アプリ活用等可能な限りIT化を促進し、作業効率の向上、労働生産性向上に努めている。 |
社労士診断認証制度活用による経営労務診断の実施で課題を明確に
このように従来から個別に様々な働き方改革を推進してきた真柄建設だが、同社の現状のコンプライアンスレベルがどうなのか、改革の方向性が的確なのかが不明であったという。そこで、より効率的に働き方改革を加速するため、自社のコンプライアンス水準と課題の把握と改善方向のベクトル合わせが有効と考え、社労士診断認証制度により経営労務診断を受診した。
診断の結果、適合企業の認証を取得し、コンプライアンス水準が適正であることを確認できたが、男性の育児休業取得率と女性管理職比率の低さ等、改善すべき課題が判明。
従来、男性社員の育児休業取得が進まず2015年度までに取得者は1名であった。制度が浸透するまではトップダウンで育児休業取得の推進を行い、2018年度に3名が育児休業を取得。2022年育児・介護休業法改正と経営労務診断により課題として指摘されたことで、育児休業を取得しやすい環境醸成を強化した。結果、法改正内容を社内イントラ掲示による全社員への周知、相談窓口の設置、育児休業に関する情報を対象者にはもちろん対象者の上司に対しても詳細情報を伝え、意向確認も行うことで育児休業の取得に繋がった。2022年度は対象男性社員2名全員が育児休業を取得、内1名は1ヶ月間取得した。
もう一つの課題、女性管理職養成の推進についても取組みを始めた。女性活用の強化施策として現在ゼロの女性管理職の養成を推進することとなった。具体的には2022年度より、女性社員を対象とした女性活躍推進研修を実施。次年度以降は、研修の継続の他、女性管理職養成計画を作成し、5年後の女性管理職誕生を目標に社内で推進して行く。
資格取得支援制度による人材育成とモチベーション向上へ
建設業全体での人手不足は厳しい状態であり、同社も数年前までは新規求人数もそれほど多くなく、社員の育成と定着に苦慮していた。総合工事業として、特に専門人材の育成と定着は、企業の発展には不可欠な要素であり、その有効な施策として、社員の「1級建築士資格取得支援制度」を2020年建築士法改正時から導入。具体的には、資格試験予備校と提携し、資格取得を目指す社員(新入社員は内定の内から)を会社が全面的なバックアップとして、就学環境支援(学校に通学しやすいように対象者の時間外労働規制や業務負担減、試験1週間前の特別休暇、2ヶ月の合宿制度等)、経済的支援(受講料の約80%の支援、合格者受検料支給、受検交通費補助等)を行っている。導入後、2021年度は1名が学科試験合格、2022年度は4名が学科試験合格、内1名が製図試験も合格し1級建築士が誕生した。
施工管理職の森下陽一郎さんはこの支援制度を利用し、見事に合格を果たした一人だ。家族並びに職場の上司、後輩の協力もあり、勉強に打ち込める環境を整えることで、1年で1級建築士試験に合格。森下さんは、次のように語ってくれた。「新卒入社20年目を迎え、近い将来、現場を統括する立場になるため技術者としてスキル向上を図りたいと考えているタイミングで会社から機会をもらえたことや、私への期待を感じられたことでモチベーションはとても上がりました。今後も知識の向上を怠らず、より専門性を高めて今まで以上に会社に貢献したいと考えていますし、1級建築士取得を目指す同僚や後輩に私の経験を生かしたアドバイスを送りたいとも考えています。この制度は会社にとって、1級建築士が増えるだけでなく、他の社員に資格取得気運を醸成する、専門知識の向上、1級建築士を目指す向上心のある学生と出会える等の効果もあるのではないかと思います。」
制度導入により、1級建築士を目指すモチベーション、ポテンシャルの高い入社希望者が増えるとともに、人材の定着や若手社員全体の専門知識の底上げに繋がっている。
『人を大切にする企業』の実現に向けて
真柄卓司社長は「働き方改革が言われるようになってからは、社員一人ひとりの労働生産性やモチベーション向上、安全で働きやすい職場環境形成に注力し、業務に取り組んで参りました。従来は個別の取組みであったものが、最近はシナジーによるまとまりとして会社業績にも寄与してきており、社会やお客様の持続的な発展への貢献はもちろん、社員に対しても給与、退職金、福利厚生等処遇の向上でフィードバックできていることも実感しています。」と語る。
同社はいままでの取組みが評価され、「くるみん」の他、石川県「ワークライフバランス企業」等、金沢市「働き人にやさしい事業所」等の認定も受けることができ、社員の励みと自信に繋がっている。
「まだまだ、改善課題もありますが、働き方改革を加速させ、『人を大切にする企業』として社会に貢献し、継続的に発展していけるように努めていきたいと考えています。」と語る真柄社長。真柄建設株式会社の改革は今も加速し続けている。
支援社会保険労務士:中宮浩之氏(石川県)
CASE STUDY働き方改革のポイント
社労士診断認証制度を活用した経営労務診断の実施
- 効果
- 課題が明確になり、働き方改革が効率的に加速。『人を大切にする企業』であることを社内外にPRすることができた
男性社員の育児休業取得率向上
- 効果
- 男性の育児休業を取得しやすい環境の醸成により、2022年12月まで延人数で13名が取得。2022年度については、対象男性社員2名とも取得した
1級建築士資格取得支援制度
- 効果
- 資格取得を全面的バックアップすることで、総合建設業としての競争力向上の他、入社希望者の増加、人材の定着に結びついた。更には、若手社員を中心に全社的にリスキリング志向が高まり、専門性と労働生産性向上につながっている。2022年には1級建築士が誕生し、今後も継続が見込まれる
COMPANY DATA企業データ
誠意を尽して常に厚い信頼と感謝を得ることがわれわれの使命である
真柄建設株式会社
代表取締役社長:真柄卓司
所在地:石川県金沢市
従業員数:258 名(2023年1月現在)
設立:1943年6月
資本金:3億5,000万円
事業内容:総合工事業(建築工事・土木工事)
経営者略歴
真柄卓司(まがら・たかし)
略歴:
1997(平成 9) 4月 株式会社大林組 入社
2002(平成14)3月 株式会社大林組 退社
2002(平成14)4月 真柄建設株式会社 入社
2012(平成24)4月 執行役員 営業統括部長
2013(平成25)4月 執行役員 東京事業部長
2017(平成29)4月 専務執行役員
2017(平成29)6月 代表取締役社長 就任