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奈良県合同陸運株式会社
運輸業,郵便業
近畿
10〜29人
File.158
労務管理の適正化と働きやすさで、より安全で効率的な運行を実現 ―世のため、人のための物流会社を目指す「奈良県合同陸運株式会社」の場合―
2023.03.24
1955年に設立した奈良県合同陸運は、奈良県桜井市に拠点を構え、主に関東方面への長距離輸送を行ってきた。物流業界は社会インフラの重要な存在。日本の生活を支える「縁の下の力持ち」であることを常に意識し、業務に向き合っている。安全輸送を第一に考え、長時間労働や疲労の蓄積が原因となる事故を防ぐため、ドライバーの働き方を重視し無理のない運行を心掛けてきたそうだ。
時間外労働の上限規制を見据えながら働きやすい職場を目指す
社長就任以来2年が経過し、約15年前の就業規則の改定が未着手だったことや時間外労働の上限規制を見据えた取組みも実施しなければとの思いがあった奥田社長。長距離輸送が主業務のため、運転手の労働時間管理も悩んでいた。そのような中、高速のパーキングエリアで「トラックドライバーの皆様、残業代を諦めていませんか?」のチラシやポスターをよく見かけるようになった。長時間労働に関連して運送会社が訴えられているケースがあることを知り、「自分の会社は大丈夫だろうか?」と不安が募ったという。
「国土交通省が創設した『働きやすい職場認証制度』というのをセミナーで知りまして、自社の実態と照らし合わせ、できている部分とできていない部分をチェックしてみたのです。そうしたところ、できていない部分が多くあることに気が付きました。それがきっかけで、働きやすい職場を目指す必要性を感じ、奈良働き方改革推進支援センターに相談しました」(奥田社長)
勤怠管理システムを導入し、正確な労働時間管理ができる体制を構築
もともと労働時間については他社に比べるとあまり無理するような会社ではなかったという。なぜなら、「できへんかったら、もうやらない」というのが先代社長のスタンスだったからだ。とはいえ、正確な労働時間管理という点では課題があった。従来はデジタルタコメーターを用いて労働時間管理をしていたが、デジタルタコメーターが作動する前の日常点検や点呼、停止した後の運転日報作成や点呼等の時間については十分に管理されていなかったのだ。
奈良働き方改革推進支援センターから派遣された社会保険労務士の安岡さんからアドバイスを受けて、新たに勤怠管理システムの導入を決定。勤怠管理システムを導入したことで「運行管理」と「労働時間の管理」を別々に行って正確な労働時間を把握できる体制が整備され、手待ち時間と休憩時間の区別もはっきりした。運行管理においても改善基準告示で定められている拘束時間や休息時間などが遵守できているかの確認が容易になったという。
また、給与システムも新たに導入。以前は、デジタルタコメーターの情報を集計し、そのデータをエクセルに手入力して給与計算していたが、新たに導入した給与システムと勤怠管理システムを連携させることにより作業効率が格段に上がった。労働時間の手計算やデータを手入力する手間がなくなり、誤入力もなくなった。法定帳簿の調整等も簡易かつ正確に行えるようになり、データの可視化と事務作業の大幅な削減につながった。
さらに、労働時間制についても業務の実情に合わせて1か月単位の変形労働時間制に変更した。これまでは1年単位の変形労働時間制を採用していたが、30日以上前にシフトを確定させることがなかなか難しく、また荷主都合により業務量が変動するため1年の繁閑を見通すことも困難だったからだ。1か月単位の変形労働時間制にすることにより1年を通じての繫閑を意識する必要がなくなり、シフトも次月の業務量に応じて作成できるようになった。
安心して休めるように年次有給休暇制度や給与体系も見直し
運送会社では従業員の定着も大きな課題だが、奥田社長も同じ悩みを抱えていた。そこで行ったのが、年次有給休暇制度と給与体系の見直しだ。
年次有給休暇については、入社時から付与し6か月待たずに年次有給休暇を取得できるようにした。入社間もない従業員の私生活も充実させることで定着につなげる狙いだ。基準日の統一も行ったことで、年5日の取得義務への対応や管理も簡易になった。
給与体系については、これまでは様々な手当が支給されていて計算方法が煩雑でわかりにくく、今後トラブルの原因となる可能性もあった。そこで、手当中心の賃金内容から基本給を中心とした賃金内容へと改定。固定残業代は時間数など内容が明確に分かるように変更し、固定残業代を超えた時間外労働時間分についても計算しやすく分かりやすくした。これまでのように業務の回数に応じて支払う手当を減らし基本給に組み入れることで、従業員が安心して休める環境を整えた。
給与体系の見直しにあたっては、従業員に丁寧な説明を実施し、納得してもらったうえで賃金規程の改定を進めた。また、就業規則についても、社員のSNSの使用方法や掲載内容について会社の情報漏洩とならないような規定を設けるなど、アドバイスを受けながら現代に即した内容に改めた。
以前より休息時間や休みも取りやすくなり働きやすいです
2015年に入社した長井尚功(ながい・たかあき)さん。労働時間のシフトが1ヵ月に変わって、以前より休息時間や休日も取りやすくなり、自分の中で運行を考えて業務を行えるようになったことはこれまでとは全然違うという。
長井 尚功 さん/2015年入社、トラック運転手。
「前職もトラック運転手だったのですが、年次有給休暇は取りづらかったです。今は、前もって分かっているプライベートの予定、例えば子供の運動会などは、社長に相談すれば年次有給休暇が取得できます。年次有給休暇を取りやすい職場環境を作ってくれているので非常にありがたいです。それから、長距離運行をして車庫に帰着すると、それで業務が終了できるようにシフトを考えてくれていることも働きやすいです。前職では長距離運行をして車庫に帰着した後も運行が組まれていて、帰宅はいつも遅くなっていましたが、今は帰着して運転日報作成や洗車などやることが終われば帰宅できるので、子供が学校から帰ってくるのを洗濯物などの家事をしながら待つことができて、家族との時間も十分に取れています。これまで経験した運送会社の中で、この職場が一番働きやすいです」
これまでの取り組みについて、奥田社長は次のように振り返る。
「当社の現状を的確に把握し、実務運営に則した問題の検証と具体的な改善策を専門家に提案してもらいながら、就業規則や給与体系・時間管理等の改善を実施しました。従来からの運行管理システムに加え勤怠管理システムを導入することで、労働時間を正確に把握できるようになりました。2024年の時間外労働の上限規制も見据えながら、より安全で効率的な運行予定を計画できるようになったのは大きな成果です。また、給与も自動計算化され事務作業の効率化が図れたのも良かったです。運転手の労働時間管理に悩んでいましたが、運行管理と並行して正確な労働時間の把握を行うことで問題が解決しました。労働基準法や改善基準告示を遵守しつつ効率的な運行管理のできる体制を構築できて、クリーンな運送会社経営ができるようになったと思います」
今や、わたしたちの生活に欠かせない存在となった物流。
その重要な担い手である運転手が働きやすい環境づくりこそが大切であると考え、一つ一つ従業員と力を合わせて取り組んできた奈良県合同陸運は、これからも、世のため、人のための物流会社を目指して、走り続けることだろう。
支援社会保険労務士:安岡香織 氏(奈良県)
CASE STUDY働き方改革のポイント
業務の実情に合わせた変形労働時間制の採用
- 効果
- 1か月単位の変形労働時間制への変更により、1年の繫閑を意識する必要がなくなり、シフトも次月の業務量に応じ作成可能になった
正確な労働時間管理ができる体制の構築
- 効果
- 勤怠管理システムと給与システムの導入により、正確な労働時間管理ができる体制になり、データが可視化でき作業効率が格段に向上した
働きやすい会社を目指した規程の見直し
- 効果
- 年次有給休暇を入社時から取得可能とした他、給与体系を手当中心から基本給中心にするなど、従業員が働きやすい規程に見直した
COMPANY DATA企業データ
物流を通して社会に貢献する
1. 安全第一を徹底します。
2. 品質保証を追求します。
3. お客様のご要望にお応えします。
奈良県合同陸運株式会社
代表取締役社長:奥田幸一
所在地:奈良県桜井市
従業員数:16名(2023年1月現在)
設立:1955年3月設立
資本金:1,000万円
事業内容:一般貨物自動車運送事業、利用運送事業
経営者略歴
奥田幸一(おくだ・こういち)
<略歴>
大学卒業後、株式会社住友倉庫に入社。配送センター業務、コンテナ運送手配、輸入荷捌き業務、文書保管トランクルーム営業、お台場倉庫所長代理でのマネジメント業務を歴任後、2016年9月に奈良県合同陸運株式会社に入社。2019年9月代表取締役に就任。