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株式会社ワイ・シー・シー
情報通信業
中部
100〜300人
File.167
「働き方改革」をアップグレード、「働きがい改革」の実現へ ―始まりは次の50年に向けたトップの危機意識から「株式会社ワイ・シー・シー」の場合―
2023.03.24
株式会社ワイ・シー・シーは1966年5月に株式会社山梨計算センターとして創業した山梨県甲府市に本社を置く情報通信業の企業である。1989年5月に現在の社名に変更し今日に至っている。「コンピューターを駆使して社会の価値を創造する」という1966年の創業当時から一貫した理念を掲げ続け、樹齢を重ねた大木のように、環境に順応しながら1年1年、成長と発展を続けてきた。
創業50周年を機に、さらなる50年に向け生きがいや働きがいを実感できる社会の実現を目指す
創業50周年を迎えた2016年度に最新鋭のデータセンターを網羅した「YCCビジネスセンター」を竣工した。さらに「いつでも安心して、つながるサービス」のビジネスコンセプトに基づき、新データセンターを核にBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)機能を網羅したファシリティ強化を図り、新技術に対応する技術者育成の役割を担うためさらに「YCCビジネスセンター」を拡充している。この新しいビジネスプラットフォームでは、最新技術を駆使したデジタルビジネスへの対応力や、人材開発の機能を強化し、また、働く環境を刷新し、ストレスの少ない執務環境を整備することに取り組んでいる。
一方で、少子高齢化の進展や働き方改革関連法など企業を取巻く外部環境の変化に適切に対応する必要があると痛感していた。加えて社内では長時間労働が常態化し、一部社員の健康障害も発生した。さらに県外取引先の拡大に伴い出張業務が増加し、社員の会社への帰属意識や一体感の低下など懸念すべきことが目についた。
社長自身が甲府商工会議所、山梨県労働員会、一般社団法人情報サービス産業協会(以下JISA)等の社外での活動を経験する中で、企業としてSDGs、ESGなどの認識に立ち、事業活動を通じ社会的課題の克服や持続可能な地域社会の発展に尽くさなければならないと、強く危機感を抱くようになった。
社長の危機感によりトップダウンの形で働き方改革への取り組みをスタートすることになった。折しも、2017年にJISAが発表した「働き方改革宣言」に会社として賛同を表明し、業界の取組に歩調を合わせて改革を進めることとした。2018年4月に若手社員を中心に社内ワーキンググループを設置し、「働き方改革推進」への具体的な施策の検討を開始した。その後、JISAより、厚生労働省委託事業である「IT業界の働き方改革サポート事業」のコンサルティング支援の打診を受けた。社内協議の結果、同年10月より、この支援を受け働き方改革に取り組むこととした。
社内モニタリングによる課題抽出と若手主体のプロジェクトチームによる検討
JISAによるコンサルティング支援では、労働時間関係のデータと社員に対するアンケート調査を分析し、長時間労働削減のボトルネックを特定した。さらに現場管理者や担当者へのヒアリングを通じて課題の実態や施策の実施可能性を整理し、2019年3月に改善計画を取りまとめた。この中では、休暇制度等に対する満足度は高かった一方で、「雰囲気、コミュニケーション」、「評価、育成」についての満足度が相対的に低いという課題が浮き彫りになった。この改善計画の提案を受けて社内で検討が行われ「YCC働き方改革3か年推進ロードマップ」、「2019年度働き方改革実行施策」が策定された。
その後、社内各部門への説明と周知を経て、ワーキングループを浮き彫りになった課題に合わせて2グループに分け、さらなる深堀をして検討を進めることとなった。Aグループは「社員同士のコミュニケーションを醸成する施策」を、Bグループは「専門能力・スキル向上のための研修」及び「スキルの見える化」をそれぞれ検討することとなった。
しかしながら、プロジェクトチームメンバーの通常業務が多忙であることやその後のコロナ禍への対応に追われたことなどによりプロジェクトの活動が当初の計画通りには進捗していなかったため、2020年には部長クラスの検討チームを発足させるなど態勢を立て直して引き続き働き方改革を推進している。
時間外労働時間は働き方改革に本格的に取り組む直前の2017年度には月平均28時間あったが、2021度年には月20時間に改善している。2022年度も月20時間を下回る水準で推移している。また、年次有給休暇の取得率も2017年度に41%だったのが2021年度には60%に改善した。
業務の進捗状況の共有と平準化進め、生産効率を向上し、時間外労働、休日労働を削減
2002年の入社以来、一貫してヘルスシステム部で現在リーダーの保坂大輔さんは、「入社当初は、3か月ほどの研修を受けた後、いきなり病院に常駐してシステムの保守を担当しました。医師や看護師など病院スタッフからの問い合わせ対応や、システム変更に伴う対応など慣れないことばかりで大変でした。経験を積むにつれ、例えばうまく納期に合わせてシステムを導入できた時など病院の方から『間に合ってよかった』などの声を聞くとうれしいですね」と語る。
医療機関へのシステム導入や改修等は、診療の合間を縫って行うことになるので、短納期対応が求められ、休診日における対応などが避けられず、結果として徹夜勤務や休日労働が切り離せない。
「最近、当社でも働き方改革の取り組みが進んで、時間外労働が減ったのは実感として感じています。全社的な方針の下、自分も含め社員の時間外労働時間削減への意識が相当高まってきたのではないでしょうか」と続ける。
ヘルスシステム部では、時間外労働削減のため業務の効率化をいかに進めるかということに焦点を当てて取り組んだ。一例として、顧客にシステム導入方法の説明や提案を行う際の資料を共有して、一から作成しなくてもよいようにし、病院など導入先から寄せられる質問などへの対応についてもあらかじめ回答例をまとめた事例集を作成して、都度、調べる手間を省くことにした。
「自分自身についても、以前と異なり基本的に休日出勤は極力やらないようになってきています。そういうところは着実に改善されていると思います。希望としては、どうしても休日出勤が避けられない場合の振替休日がやはり業務との関係で希望した時期に取りづらい場合もありますので、さらに改善できればありがたいと思います。これまでを振り返ると、困難なプロジェクトを苦労しながら完成させることで成長し、自信もついてきました。今後はこれまで培ってきたものを若手に伝えるとともに、自分自身何か新しいことに挑戦したいと考えています」。
安全な執務環境を整備してコロナ禍を乗越える
従来、在宅勤務は育児や介護など出社が困難な事情を抱えた場合に限定して導入されていた。コロナ禍において情報サービス業の業界としてもテレワーク、在宅勤務の導入についての議論が活発に展開されたため、検討を行った。
山梨県という地方都市に立地していることから、都心部のような遠距離通勤、長時間通勤の負担はほとんど問題にならない。また、大多数の社員は自動車通勤であるため、通勤中の感染リスクが相対的に低いこともあって、社員の在宅勤務へのニーズもそれほど高くはなかった。
こうした地方都市に立地するという環境や社員のニーズ等を踏まえ、在宅勤務を大幅に拡大するのではなく、職場における感染リスクを徹底して低減する措置を講じることにした。具体的には、デスクの間隔を広げるとともに、机上パーティションを設置した。十分なフロア面積を確保するため、新たに隣接地の賃貸フロアに一部部門を移転した。
県内外の顧客や取引先に常駐してシステムの開発や保守・運用等を行ういわゆる客先常駐については、常駐先企業においてリモートワークが導入される例が増えたこともあり、甲府市の本社内に高セキュリティ確保区画を新設し、本社にいながら県内外の顧客や取引先の作業環境にリモート接続を行い、受託した作業を実行できるようにした。この結果、移動時間や出張・宿泊回数が削減され、社員の疲労軽減、コスト削減につながった。コロナ禍前には約50人いた客先常駐社員は、現在20~30人程度に抑えられている。
コロナ禍対応の取組みとして成果があったものとして、オンライン研修の活用がある。教育担当部門が工夫して研修やセミナーをWeb上で提供するようにしたところ、社員の参加率が向上した。従来仕事の都合で参加できないとか、遠隔地の研修・セミナー会場に参集することが難しいなど時間的、地理的制約のため参加を断念せざるを得なかった社員の参加が進んだ。オンライン研修・セミナーの活用は、とりわけ東京など大都市で開催されるセミナーに甲府から参加できるなど、地方企業にとってのメリットは大きいと感じている。
CASE STUDY働き方改革のポイント
社内方針の徹底と社員の意識改革により時間外労働時間減少
- 効果
- コミュニケーションの活性化とスキルの見える化という社内方針に基づく取り組みを通じて効率化と時間労働の削減、年次有給休暇の取得促進を実現した。
地方企業にとってこそ効果が大きいオンライン型研修
- 効果
- コロナ禍において集合研修をオンライン型に移行。研修参加の時間的、地理的制約が軽減し、社員の研修参加率アップにつながった。
リモートワークの推進により客先常駐の負担軽減
- 効果
- 客先常駐だったエンジニアは、本社にリモート環境を整備し、遠隔操作できるようにしたことにより、該当者は半減した。
COMPANY DATA企業データ
コンピューターを駆使して社会の価値を創造する
株式会社ワイ・シー・シー
代表取締役社長:長坂正彦
所在地:山梨県甲府市
従業員数:178名(2022年4月現在)
創立:1966年5月
資本金:2億1,200万円
事業内容:官公庁、外郭団体、医療機関等の公的分野を中心に業務ソリューションビジネスを展開
経営者略歴
長坂正彦(ながさか・まさひこ)
略歴:1980年株式会社山梨計算センター(現株式会社ワイ・シー・シー)に入社。2005年より現職。
現在、一般社団法人情報サービス産業協会副会長、一般社団法人山梨県情報通信業協会会長、甲府商工会議所副会頭、山梨県労働委員会使用者委員など多数の要職を務める。