宮崎県宮崎市にある祇園こども園は、昭和48年4月1日に保育園として開園し、平成30年4月1日に幼保連携型認定こども園に移行した。永年培ってきた保育の実績を基盤にして、モンテッソーリ教育※、全園児へのピアノレッスンや様々な体験学習等に取り組んでいる。質の高い教育保育には、職員が不要なストレスを抱えず協調していける環境が必要であり、職員の労働環境を健全で良質なものとしていくことに経営の軸を置いている。

※モンテッソーリ教育…医師であり教育家であったマリア・モンテッソーリ博士が考案した子どもは「自己教育力」という、自分で自分を育てる力が備わっていると考える教育法

職務分析・職務評価を通じ、賃金体系を検証

　理事長兼園長の長友高弥氏は働き方改革へ取り組んだきっかけを次のように語った。

　「当園では、モンテッソーリ教育、全園児へのピアノレッスンや様々な体験学習等に取り組むために正規、非正規を問わず、当園のビジョンに対応できる優秀な保育教諭を採用・育成しています。従って、臨時職員の保育教諭であっても責任のあるポジションを担ってもらうことがありますが、その際に保育教諭間での待遇差が職員のストレスとなって労働環境を健全で良質なものとしていく足かせとなっていないか、確認したいと思っていました。こうした中で、働き方改革推進支援センターを利用し、専門家からの提案をきっかけに保育教諭の職務評価を通じて、現在の賃金体系の分析及び改善が必要であれば改善に向けた取り組みを行いたいと思いました。」

働き方改革へ取り組んだきっかけを語る理事長兼園長、長友高弥氏

　園には、保育教諭が正規職員10人、臨時職員（フルタイムで有期雇用）と非常勤職員（労働時間が短い職員）を合わせて15名が在職。この25名で副園長、教頭、主幹保育教諭、クラス担任、担任補助、幼児教育主任等の園全体に関わる特定の担当及びイベント担当といった職務を分担しているが、臨時職員の一部もクラス担任を担っている。職務内容に応じた賃金体系になっているか、職務の内容を洗い出して可視化し、その大きさを客観的に評価する手法である職務分析・職務評価を行うことにより、検証を行った。職務分析・職務評価を実施するに当たっては、厚生労働省「改訂版コンサルティングマニュアル」に沿って行うこととし、まず理事長兼園長に趣旨・目的を説明して、保育現場をよく知っている主幹保育教諭を担当者として選任し、職務分析・職務評価を行った。

納得感のある賃金体系の構築に向けて

　以前より、現在の賃金体系では、役付でない正規職員と臨時職員は同じ等級に格付けしているものの昇給に差があることを認識しており、今回、職務分析・職務評価を実施したところ、役付でない正規職員とクラス担任の臨時職員との間で均衡待遇の面で課題があることが明らかになった。そのため、正規職員と臨時職員とで昇給額が異なる固定的な賃金体系を改善するとともに、職務給を一部取り入れた賃金体系の構築の必要があることを確認した。これらの取り組みを進めることにより、保育教諭間で納得できる賃金体系と働きやすい職場を実現し、将来的には優秀な職員の確保に結びつくことが期待される。

賃金に対する納得感が高まりモチベーションアップにつながります

　主幹保育教諭の青山祐子さんは、今回の取り組みを振り返ってこう話してくれた。

　「今回の取り組みが賃金面で良好な職場作りに貢献できると思います。また、子育てや介護など働けなくなるという職員の不安を取り除き、それぞれの働き方で仕事の継続ができるための助言も受けています。現在は、職員同士の理解もあり、子どもの体調不良や介護の為の急な休みでも、お互いがフォローし合える職員の人間関係も良好です。私自身も３人の子育てを経験してきましたが、職場の産休育休への理解や、子の看護休暇制度などを活用させていただき、無理なく子育てと仕事を両立することができました。」

主幹保育教諭の青山祐子さん

職務分析・職務評価の実施には、その趣旨と目的をしっかり理解することが大事です。

　祇園こども園の取り組みを支援した社会保険労務士の武田安哉男氏は次のように語っている。

　「職務分析・職務評価の実施においては、事業所の事務負担が発生するので、事業所の責任者と担当者に対しては支援の趣旨・目的をしっかりと理解してもらうことが重要です。また、現場の実態をよく知っている職員を担当者に選任してもらうことが、支援をスムーズに進める条件だと思います。今回の職務分析・職務評価の実践で働きやすい職場を実現し、保育教諭からも、そして園児・保護者からも「選ばれるこども園」の実現に向けた支援を続けたいと思っています。」

取り組みを支援した社会保険労務士、武田安哉男氏