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有限会社ジェム
その他
中国・四国
30〜49人
File.21
自分の働き方を自分で決め最大限の力発揮 ―四国最大の英会話スクール「ジェムスクール」の場合―
2020.09.10
教室で従業員たちと相談しながら、仕事を進めるジェムスクール・合田美雪代表(左)
香川県の西端に位置する観音寺市。人口約6万人のこのまちに、国内外で「働き方」が高く評価される英会話スクール「ジェムスクール」の本部がある。41人の従業員中、女性が8割、外国人が約半数の同スクールは、徹底したIT導入による効率化、平等意識、自分で決める「働き方」で従業員の力を柔軟かつ最大限に引き出している。
人生のステージの変化を前向きに受け止める
1981年にまちの小さな学習塾・英会話スクールとして誕生した。代表の合田美雪さんは「英会話教育は非常に重要なのに、このあたりで英会話を教えるところはない。『ないなら作ろう』と思った」と振り返る。
いまでは香川、愛媛両県で14校の英会話スクールを経営。経済産業省の「新・ダイバーシティ経営企業100選」や「Great Place to Work 働きがいのある会社」5年連続ベストカンパニーに選ばれるなど国内外から高く評価されるが、お手本があったわけではない。主婦、そして母でもある代表自身が「地域の子供たちに最高の教育を提供したい」という目的を追求した結果、独自の教育法や「働き方」が自然と生まれていった。
従業員の多くは女性。結婚、出産、育児、介護など、仕事と家庭で置きたいウエイトはそのときどきで変わる。
合田代表は「『働くか働かないか』といったゼロか100かという選択肢だけで働き方は収まりません。どこかで人生のステージの変化に合わせ、柔軟に働いていくのが女性ですから」と指摘。そのうえで「それを会社が前向きに受け止め、柔軟に対応すればいい。働き方は『生活の中でどれくらいの時間を仕事に使いたいか』で各自に決めてもらっています」と説明する。
柔軟な働き方を無理なく実現するため、合田代表は3つのポイントがあると考えている。すなわち、「ホラクラシー型の組織」「ダイバーシティ経営」「徹底したIT化」だ。
人を生かす意識と組織
「ホラクラシー型」は、組織の新しい形といわれる。社長をトップとする「ヒエラルキー型」は、年齢や入社歴によってポジションが決まる。上司は、トップの意思決定を下ろしていく形で部下を管理する。持っている情報は上司ほど多く、階層別の情報による管理が特徴だ。これに対し、ホラクラシー型は上司も部下もなく、情報は全員で共有。管理は必ずしも必要ない。個人の裁量権が広く、チームでの意思決定が必要なものはチームリーダーを中心に決定するが、ほとんどの決定は個人に任されている。ジェムスクールでは従来からホラクラシー型に近い組織運営を行っており、パートの従業員が幹部やチームリーダーとなることも珍しくない。
「『プロジェクト(仕事)に対して人がつく』といったイメージです。目的を共有し、自分は何ができるか考えて行動することで、全体が動きます」と合田代表は語る。「自ら進んで好きなことをするので達成したときの喜びも大きい」という。
ダイバーシティ経営は「国籍や人種、宗教、性別、年齢に関係なく企業経営を行う」ことで、ホラクラシー型組織とつながっている。国籍や人種、性別、年齢に関わらず従業員の能力を引き出し、安心して働く環境を実現するためのベースになっている。例えば、従業員は「チェリー」「サマー」など、互いをニックネームで呼びあう。そこに肩書は存在しない。また、外国人の従業員が担う業務は講師だけに限らず、人事業務や教材開発にあたる場合もあるという。
全従業員が情報を共有
ITは従業員のツールとして欠かせない。いつでもどこからでも「メーリングリスト」「クラウド」「社内ポータルサイト」で情報を共有、管理し、仕事を進めている。
クラウドは2000年から導入し、すべての業務で活用されているという。例えば、問い合わせから体験レッスン、入会手続きなどを全従業員が共有。そうすることで、誰がどの時点で対応してもスムーズに運ぶ。14校すべての「時間割」「クラスごとの生徒数や男女比、学年」「講師スケジュール」「レッスンレベル」「外部企業への出張」など、最新情報が共有され、社内のコミュニケーションや従業員と生徒の相談に活用されている。また、オンライン上で入社年数も年齢も立場も関係ない意見交換ができるようになっており、意見やアイデアを発言できる。ハロウィーンなどの多彩なイベントについても、過去のノートが残されている。これを従業員各自が確認しながら業務を進め、必要に応じて相談やブレーンストーミングが行われているという。
メーリングリストは、生徒一人一人を理解して的確に指導するため、「問い合わせ」「生徒からの質問対応」「子育てに悩む保護者へのアドバイス」「自社イベント企画」など、すべてのやりとりを記録し、全従業員が共有。この情報が「報告・連絡・相談」になっているため、作業日報は存在しない。新人スタッフにとっては、読むことで対応例を学び、確認する場になっているという。
社内ポータルサイト「知恵のかたまり」には、「教室一覧」「教材」「生徒対応」「代表の考え方」「英語教育の専門知識」など、従業員として必要な知識がきめ細かく掲載されている。
子連れ出勤、乳母連れ出勤も歓迎
名刺に「凄腕教室長 サマー」と記される福永なつみさん。週22.5時間のスーパー時短勤務ながら、大きなイベントのプロジェクトリーダーも務めてきた。
就職当初はフルタイムで働いていたが、結婚し、産休、育休を取った。子供が1歳になり、週30時間の時短勤務で復帰した。「週1回、教室に出るほかは、子供が昼寝をしている間にテレワーク。2歳になったら昼寝をしなくなったので週22.5時間に短縮し、子連れ出勤していました」と振り返る。
「ジェムスクール幹部 働くお母さん チェリー」との名刺を手にした矢野紗代さんは、子供と親子レッスンに通っていたことがきっかけで入社した。現在は中学1年と小学5年の子供を育てながら、週3日働く。
夏休みは子連れ出勤になる。「子供たちのスポーツのサポートなど、家族との時間を犠牲にせず、責任ある仕事にも取り組めます。子供が風邪をひき、急に勤務できなくなったときに『フォローして』と頼みやすい雰囲気がある」と同スクールの職場環境を説明する。
合田代表は「うちでは子連れ出勤だけでなく、おばあちゃんと子供がお母さんについてくる『乳母連れ出勤』も歓迎しています」と話す。「地域に眠っている優秀な人材に活躍してもらうことで地域の役に立ちたい」と力を込めた。
サイバー校開校で展望広がる
ジェムスクールの講師たちは、精鋭ぞろいだ。高い教育を受けた教養ある候補者たちが難関を突破し、日本へ招かれる。人材獲得のため米事務所が機能しており、2014年の採用は88倍という狭き門だったという。
ところが、新型コロナウイルス感染症の拡大で講師は来日できない状況となった。そこで、米事務所を中心にオンラインによるサイバー校を開校。現在、米国、カナダ在住の元ジェムスクール講師だったアメリカ人講師たちがオンラインで英会話を教えている。生きた英会話はもちろん、生徒たちは世界の中の自分をリアルに実感しているという。合田代表は「サイバー校開校で新たな展望が広がっています」と瞳を輝かせた。
CASE STUDY働き方改革のポイント
ホラクラシー型の組織
- 効果
- 情報は全員で共有。チームでの意思決定が必要なものはチームリーダーを中心に決めるが、ほとんどの決定は個人に任されている。パート従業員が幹部やチームリーダーとなることも珍しくなく、目的を共有して自分のすべき行動を考えることで、全体が行動する。
ダイバーシティ経営
- 効果
- 国籍や人種、性別、年齢に限らず、従業員の能力を引き出し、安心して働く環境を実現。お互いをニックネームで呼び合い、従業員同士の垣根をなくしている。また、外国人の従業員は講師業務だけに限らず、人事や教材開発を担っている。
徹底したIT化
- 効果
- 2000年からクラウドを導入。さまざまな社内の情報を共有することで、従業員の対応力を向上させている。そのほか、メーリングリストでも情報を共有しているため、作業日報が存在しない。社内ポータルサイトで従業員に必要な知識を公開している。
COMPANY DATA企業データ
地方都市に、最高の教育環境をつくる
有限会社ジェム
代表:合田美雪
本社:香川県観音寺市
従業員数:41名(2020年6月現在)
設立(創業):1981年
資本金:300万円
事業内容:英会話スクールの運営
経営者略歴
合田美雪(ごうだ・みゆき) 1957年大阪市生まれ。
英会話と学習塾の「ジェムスクール(有限会社ジェム)」創業者。1980年京都産業大学外国語学部英米語学科卒業。結婚を機に観音寺市に移り、1981年ジェムスクール創業。1987年米ユタ州オレム小学校教師を務めた経験も持つ。アメリカでの小学校講師経験と数々の専門知識を融合させた教育法「ジェムメソッド」を開発した。