支援・相談は働き方改革特設サイト

ホーム > 鮮コーポレーション株式会社

鮮コーポレーション株式会社

業種

宿泊業,飲食サービス業

地域

中国・四国

従業員数

50〜99人

File.30

成長の「見える化」で社員の毎日を「鮮やか」に ―飲食店を展開「鮮コーポレーション」の場合―

生産性の向上による処遇改善

2020.09.30

鮮コーポレーション株式会社

 ビジネスマンや観光客が行き交うJR広島駅。駅ビル内の回転寿司店「すし辰ekie店」は、昼時に多くの客でにぎわっていた。同店を経営する「鮮コーポレーション」(本社・広島県庄原市)は、1949年に創業。市内の鮮魚店「西田鮮魚店」が始まりだった。1984年、現会長の西田昌史さんが2代目として社長に就任し、法人化。そこから事業を拡大させ、様々な業態の飲食店を立ち上げた。
 現在、県内で回転寿司店や料亭など11店舗を運営している。社員の成長を「見える化」することで、社員のモチベーションアップに成功するだけでなく、意欲のあるパート、アルバイトが正社員として登用される環境を整えている。

「どうにかしなければ」との危機感から変化が

 今年5月に社長に就任した3代目の西田龍一社長は、事業を拡大させていく父の姿に、幼いころから憧れを抱いていた。「自分自身も周りを巻き込みながら行動することが好きだった」と、社長就任を前向きに受け止める。

社長就任時の思いについて語る西田龍一社長

 社名にある「鮮」という文字にはこだわりがある。経営理念は「新鮮な日々 鮮やかな人生を生きる」だ。提供する食べ物の「鮮度」にこだわる、そして社員の人生も「鮮やか」なものであってほしいという思いが込められているという。
しかし2015年、西田社長が入社して「すし辰ekie」店の店長に就任した当時、現場は過酷な状況だった。西田社長は「とにかく人手が足りず、長時間労働が当たり前。自分もスタッフもすり減っていった」と振り返る。「どうにかしなければ」。危機感が変化をもたらした。

成長を見える化し、「成長シート」でモチベーション維持

 一般的に、飲食業界の魚をさばくといった技術が必要とされる業務は「長年の修行で技術を磨いた人が行うもの」というイメージが業界内では根強い。技術の習熟度などの成長過程も目に見えにくく、人材育成に時間がかかる。モチベーション維持が難しいことから、人手が不足し、社員の個々の負担が増えるといった悪循環に陥りがちだ。
 当時、西田社長が抱えていた危機感は、昌史会長も同じだった。「働き方改革は避けて通れない」。まずは改革のノウハウを学ぶことから始まった。
 当時、県が主催する働き方改革の勉強会に参加した本部部長、小森智恵子さんは「勉強会の参加者に飲食店関係者は一人もいなかった」と当時を振り返る。「それほど飲食業界で働き方改革に取り組むのはハードルが高いのか」と実感したが、「取り組むならば今しかない」と前を向いた。

働き方改革の勉強会に参加した小森智恵子さん。飲食店業界からの参加がなかったことで、改革のハードルの高さを知ったという

 個々の成長を見える化させるために導入したのが「成長シート」だ。業務成果や魚の切り方などの技術、勤務態度などを基に5段階で全社員の評価を決定する。最高評価の「5」は他の社員への教育を担えるスキルを持った社員に与えられ、「人を成長させることが最高の評価につながる」という思いが込められている。いわば「業務遂行能力」を「見える化」するツールといえる。

「成長シート」でそれぞれの業務遂行能力を見える化した

 「残業を減らすといったいわば『ダイエット』だけでなく、社員一人一人の『筋力』、すなわち能力をあげていかなければならない」と西田社長が語るように、成長シートの評価は給与にも連動している。また、評価ごとの給与の計算方法についても全社員に公開することで、モチベーションを向上させる効果をもたらしている。
 この成長シートについて、西田社長の店長時代に苦楽を共にした同社社員のリン・ユティンさんは「従業員は自分の成長が分かり、モチベーションが上がる。結果、会社のためになるのであればこれほど良いことはない」と語る。もともと飲食業界に興味があったリンさんは、出身である台湾の飲食店で働いていた。「もっと自分の能力を磨きたい」と思い立ち、来日。同社にはアルバイト従業員として入社し、「お客様に『広島で一番おいしい』とほめてもらえたことがうれしかった」という経験もあり、正社員となった。能力が評価され、店舗の実務担当者として、新たな仕組みづくりに取り組んでいる。いくつかの飲食店で勤務経験があるが「ここまで社員をケアしてくれるところはなかった」と振り返る。そのうえで「西田社長は就任以来、多くの良い取り組みを積極的に行ってくれており心強い」と頼もしそうに語った。

社内研修で富士登山に挑むリンさん。もともとはアルバイト社員だったが、今では正社員として大きな役割を担っている

成長の見える化で社員、社員登用希望のパート、アルバイトの意欲が向上

 成長の見える化と同時に行われている改革が、「多様な勤務体系」だ。鮮コーポレーションでは(1)残業あり・異動あり、(2)残業あり・異動無し、(3)残業も異動もなし、という3つの働き方を選ぶことができる。入社時だけでなく、入社後も半年に一度変更の申請ができ、西田社長は「ライフステージごとの環境変化に対応するため」と解説する。この制度は「3shine(サンシャイン)制度」と呼ばれており、「太陽のように輝きながら働いてほしい」という願いが込められているという。
 3Shine制度は社員登用されるアルバイトやパートにも適用され、8~9月には3人がこの制度を利用したうえで、正社員に登用された。成長シートは原則、社員が対象だが、「正社員になりたい」と希望するアルバイト、パートに成長シートを導入する。成長シートで「正社員に必要な能力、心構えは何か」を見える化でき、社員登用に必要な要素がはっきりする。この制度があることで、正社員になるにあたってのハードルをできるだけなくす。それぞれの制度が連動することで、社員登用を希望するパート、アルバイトのモチベーション向上にも効果をもたらしている。

「すし辰ekie店」で店長を務める平野孝紀さん

 現在、「すし辰ekie店」で店長を務める平野孝紀さんは、2017年にアルバイト従業員として入社。もともと社員を希望しており、働きぶりが評価され入社から3カ月で正社員となった。今や店長として欠かせない役割を担っているが、バックパッカーの経験もある大の旅行好きで、年次有給休暇を取得した際は旅行に出かけている。今後の目標について、「店長になってまだ1年だが、周りのスタッフに信頼されるよう早く一人前になりたい」と意気込む。

家族で旅行に出かける平野さん。「夢は家族で世界一周」と語る

 平野さんのケースのように、「年休取得の促進」に向けた改革も進んでいる。2019年4月、年休取得は義務化されたが、同社では「アニバーサリー休暇制度」をこの前年に導入した。制度は、全社員が期末の2~3月、翌期のスケジュール内に2日間の年休取得日を申請しておくものだ。西田社長は「取得日をあらかじめ設定しておくことで、取得の先延ばしを防ぐ効果がある」と解説する。また、「アニバーサリー」と銘打つことで、家族の記念日などに取得しやすくする狙いもあった。その結果、年休取得率は2017年度の5%から、翌年度は38%にまで向上した。取得義務化に伴い制度自体はなくなったが、社員らが今でも年休のことを「アニバ」と呼ぶほど、取得しやすい雰囲気が醸成されている。西田社長は「制度の名称は『ポップでキャッチー』なものを心がけている」とし、「制度はみんなに知ってもらってこそ意味がある」と、その狙いについて説明する。

改革の断行で採用にも効果

 新型コロナウイルス感染症の影響はさまざまな業種に影響を及ぼしたが、飲食店の損害は特に大きい。鮮コーポレーションが運営する飲食店は4~5月は休業状態となった。現在は時間を短縮しての営業が続くが、通常の80%ほどまで売り上げが戻ってきたという。西田社長は「回転寿司の場合は寿司をレーンで流すことで視覚的にお客様に喜んでもらえるのが強み」としたうえで、「この状況ではそれも難しくなってしまったので、レーンを流さなくても喜んでもらえるような仕組みを作らなければならない」と今後を見据える。

顧客に間隔を開けて座るよう促したり、入り口前にアルコール消毒液を設置したりするなど、新型コロナウイルス感染症の対策を徹底する

 働き方改革は採用にも効果をもたらした。職場環境を整えていることを採用活動時にアピールした結果、安定的に新卒採用ができるようになった。また、社員の定着率も向上した。3カ月の研修期間終了後、各店舗の責任者が「自店の強み、自身のビジョン」を新入社員の前でプレゼンし、新入社員側から配属店舗の希望を提出する「逆ドラフト」を実施。若手が活躍しやすい工夫を続けた結果、2020年3月時点での入社3年目までの離職率は7%と低水準を維持している。
 飲食店の魅力について「身近な幸せを提供できる素晴らしい仕事だ」と語る西田社長。これからも社員の人生を「鮮やか」にしていくため、改革を続けていくつもりだ。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

「成長シート」で個々の成長を見える化

効果
5段階評価の「成長シート」で業務遂行能力を可視化した。最高評価は他の社員への教育を担えるスキルを持った社員に与えられる。成長が給与につながることで社員の仕事のモチベーションを向上させている。成長シートは社員登用を希望するパート、アルバイトにも導入され、社員に必要な能力や心構えを見える化し、8~9月には3人が社員に登用された。
取組2

選べる勤務形態

効果
(1)残業あり・異動あり、(2)残業あり・異動無し、(3)残業も異動もなし、という3つの働き方を選ぶことができる。入社時だけでなく、入社後も半年に一度変更の申請ができる。パート、アルバイトが正社員登用される際にも選ぶことができる。
取組3

覚えやすい名称で制度の周知を徹底

効果
「アニバーサリー休暇」といった覚えやすい名称で制度について周知を進めた。結果、年休の取得促進などの効果を上げた

COMPANY DATA企業データ

新鮮な日々 鮮やかな人生を生きる

鮮コーポレーション株式会社

代表取締役社長:西田龍一
本社:広島県庄原市
従業員数:74名(2020年7月現在)
設立:1949年
資本金:1,000万円
事業内容:回転寿司店・料亭などの飲食店や鮮魚店運営

経営者略歴

西田龍一(にしだ・りゅういち) 1988年広島県庄原市生まれ。成城大学経済学部卒業後、2010年にサントリーホールディングス株式会社入社。2013年に香港の食材輸入販売会社で勤務後、2015年鮮コーポレーション株式会社入社。すし辰ekie店の店長、常務取締役を経て2020年5月に社長就任。