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株式会社中部システムセンター

業種

学術研究,専門・技術サービス業

地域

近畿

従業員数

10人未満

File.34

社員一人一人のビジョン実現へ ―新しい働き方を提案「中部システムセンター」の場合―

テレワークの推進

2020.10.14

株式会社中部システムセンター

 中部システムセンター(三重県津市)は、企業のIT化や快適なオフィスづくりなどを支援する企業だ。もともとはオフィス機器販売が中心的な業務だったが、時代の変化とともにビジネスモデルを変えてきた。それに伴い、自社の「働き方」も大きく変化。今では働き方改革のコンサルティングも手掛けている。社員一人ひとりのビジョンを大切にする、同社の働き方改革に迫った。

社会への疑問から改革に着手

 働き方改革が始まったきっかけは、田中裕嗣社長の社会に対する疑問からだった。中部システムセンターを創業し、夜遅くまで懸命に働く父親の姿を見てきた幼いころ。家族を顧みない働き方に対し、違和感を覚えた。違和感は社会人になり、東京のITベンチャー企業などで働いていたころも変わらなかった。長時間労働が当たり前とされている風潮にあらがってはみたものの、「組織が変わらないと意味がない。当時の自分は周りから見ても変わり者に見えていたと思う」と苦笑交じりに振り返る。

父親の後を継ぎ社長に就任した田中裕嗣社長。社会への疑問から働き方改革を進めてきた

 2011年、津市に帰郷し、取締役として入社した。「世の中の流れが変わってきた」と感じた。リーマン・ショックの影響で世界中が不況に。日本中の企業が新たな働き方を模索していた当時、田中社長は自分の違和感が間違っていなかったことを確信した。「昔の働き方を否定するつもりはない。しかし、変わらなければならない」。改革に着手し始めた。

 社員の評価基準について労働時間を重視せず、貢献度を基準にしたものに変えた。売り上げを重視する体質から脱却するため、利益率を重視した経営方針に改めていった。「どれだけ時間と労力をかけて売り上げを大きくしても、利益率が低ければ社員は疲弊するだけで報われない」という考えのもと、ビジネスモデルを「モノの販売」から利益率の高い「サポート業務」や「コンサルティング業務」に変化させていった。

ビジネスモデルの変更と福利厚生制度拡充を同時に行う

 2014年の社長就任以降、改革はさらに加速していく。通常の年次有給休暇とは別に育児や介護のために1時間単位で休暇を取得できる「ファミリー時間休暇制度」、3日連続の年休取得を勧める「3renkyu」など福利厚生の制度を整え、休暇が取りやすい雰囲気を作った。

 評価制度、ビジネスモデル、福利厚生制度と多くの変化について「当時はまだ働き方改革という言葉もなく、ワーク・ライフ・バランスという言葉が広がり始めたころ。戸惑う社員も多かったと思う」と冷静に振り返る。変化に抵抗感のある社員の雰囲気も感じていたが、働き方改革で優れた取り組みを進めている企業を表彰する「ホワイト企業アワード」で2016年に大賞、17年に労働時間削減部門大賞など外部からの評価を受けたことで潮目が変わった。田中社長は「『自分たちのやっていることは評価されることなのだ』と社員が実感したことが大きかった」と力を込める。

 その後も、柔軟な働き方を可能にするために勤務時間を30分前倒しする「繰り上げ勤務制度」や、子どもが生まれた後の男性社員に連続5日間の有給休暇を付与する「パタニティ休暇制度」など、福利厚生制度を拡充させていった。

企業の働き方改革を支援している水越峻史さん。「自分の仕事を地域活性化につなげていきたい」と意気込む

 「うちの会社はすごく恵まれている環境だと思う」と語るのは、企業の働き方改革を支援する同社ワークスタイルプランナーの水越峻史さんだ。2人の子どもの父でもあり、小学校のPTA役員を務めている。授業参観など子どもの行事は平日の昼間が多いとしたうえで、「時間単位の休暇はそういう意味でもありがたい。子どもの行事は出席率100%を達成している」と笑顔で話した。

家族と旅行に出かける水越さん(左奥)。子どもの行事は出席率100%を達成しているという

 福利厚生制度の拡充による効果ははっきり表れた。現在は残業がほぼゼロとなり、年間の総労働時間も2010年と比較し6割に削減。ビジネスモデルと評価制度の変化やIT活用、業務プロセスの改善などにより、一人当たりの生産性が大きく向上した。オフィス機器を販売していたころに比べて利益率の高い受注が増え、利益を増大させることもできた。

「社会変化に先駆けた改革」でテレワークを実施

 「まずは『こういう時代が来るから』と自分が旗を掲げて、対話を重ねながら少しずつ集まってもらうイメージ」という田中社長の言葉通り、これまでの改革は先の社会の変化を見越して行ってきた。

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって一気に認知が広がった「テレワーク」についても企業へアドバイスを行っている。同社では、コロナ禍以前からテレワークを社内で実施しており、現在では社員がほとんど出社せずに仕事を進めている。社内ミーティングもオンラインで行っており、「今の時代は出社しなくても多くの仕事ができる」と全社員が実感している。

 同社ワークスタイルプランナーの小倉弘義さんは、3月以降オフィスに出社するのは数えるほどだという。顧客との商談についても、希望を聞いた上、オンラインで行っている。商談の記録やスケジュールはクラウド上で管理しており、どこからでもアクセスが可能だ。小倉さんは、この管理方法について「仕事の属人化を防ぎ、複数人で顧客をフォローすることが可能になった。そのおかげで休みを気兼ねなく取ることもできる」と評価する。また、オフィス内の機器も社外から接続できるなど、テレワークへの体制がもともと整っていたことで、コロナ禍にもスムーズに対応できた。

中部システムセンターに10年以上勤務しているという小倉弘義さん(左)。「最初はクラウド上での管理に抵抗があった」というが、現在は会社の変化の利点を実感している

 田中社長は働き方改革がうたわれる数年前からテレワークに注目し、個人的にオンライン会議のツールを試してきた。「なんでもっと広まらないのだろう」と感じたこともあったが、今は社会が変化していくのを肌で感じている。「顧客からのテレワークの相談がものすごく増えている。引き続きコンサルティングの件数を上げて、もっと頼りになる存在になりたい」と意気込む。

社員のビジョンを重視した「これからの働き方」

 社員がオフィスに出社する必要性がなくなるなか、田中社長は「オフィスとは何なのか」を日々考えている。その一つの答えが「オフィスは社員のためだけでなく、社外の人も巻き込んで新しい価値を創り出すもの」という考え方だ。中部システムセンターのオフィスは2017年からコワーキングスペースとして社外の人も利用できるよう、無料で開放している。また、社員にベビーシッターなどの資格を会社経費で取得してもらい、2018年からは地域の子どもの学習スペースや遊び場としても無料開放。大人になったときに必要な「考える力」を養うワークショップ等のさまざまなイベントを行っている。

日常業務と並行してキッチンカー事業に取り組む森美那さん。「自分のビジョンと会社にとっての利点が一致した結果」と話す

 社内業務に加え、空間づくりやイベント運営を担当する同社オフィスコンシェルジュ、森美那さんは「民間企業ならではのサービスを提供している」と胸を張る。それでも、新型コロナウイルス感染症の影響によりイベントで人を呼ぶことが難しい状況となり、取り組み方を模索した。そんな中、浮上したのが「こちらから外に出かけるキッチンカー」だ。

現在準備中のキッチンカー

 同社では、社員が自分のスキルや、思い描く未来の「ビジョン」を社内システムに入力し、共有している。「いつかキッチンカーを自分で作って飲食を販売してみたい」という夢があった森さんは、システムに入力。それを見た田中社長が会社の利点と照らし合わせて実行を決めた。田中社長は「会社のビジョンだけでなく、社員一人ひとりのビジョンも実現できる会社でありたい」としたうえで、「それが仕事としてできるならば、こんな素晴らしい働き方はない。現在の状況下でも地域に楽しさを届けることができ、地元の飲食店と連携することで少しでも貢献できたらと思った」と実行の理由について語る。早速、社外の人を巻き込んでのメニュー検討会を開催するなど、「新たな価値」を生み出す取り組みが始まっている。

オフィスで行われたキッチンカーで提供するメニューの検討会

 今回のキッチンカーの取り組みにもいえることだが、田中社長が今後の働き方で思い描くのは「協働・協創」だ。社内外での副業を推進する同社。「テレワークが広がれば必ず副業も広がっていく。さまざまなスキルを持った人が所属している企業や立場の枠を超えて協働・協創し、世の中に価値のあるプロジェクトを一緒に進めていくのではないか」と今後を見据える。

 スキルやビジョンを共有するシステムは社員だけでなく、希望した社外の人も利用できる。このようなシステムにも協働・協創の考えが表れている。田中社長は「個人のビジョン実現による幸福度の向上。それは社外の人も同様です」と話す。そのうえで「どういう『働き方』をしたら自分らしく活躍できるかを誰もが選択できる。この会社がそんな人たちのプラットフォームになれたらいい」と強調する。見た目だけでない「開放的なオフィス」の光景は、これからの働き方の未来を浮かび上がらせているといえるだろう。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

ビジネスモデルの転換と福利厚生制度の拡充を同時に実施

効果
売り上げではなく、利益率の高さを求めビジネスモデルをモノの販売からコンサルティング業務に転換。福利厚生制度も拡充させていき、総労働時間を削減しながら利益を伸ばすことができた。
取組2

情報の共有化でテレワークにいち早く取り組む

効果
クラウド上で商談の記録やスケジュールを全社員で管理し、どこからでもアクセスできる状態にした。社内機器に社外から接続可能にすることで、テレワークにいち早く取り組んだ。
取組3

「社員個人のビジョン実現」を応援し社内外での副業を推進

効果
副業を推進し、社員がやりたいことに自由に取り組ませる環境を整えた。

COMPANY DATA企業データ

働く場・働き方・働く環境を創造して、幸せを掴もう。

株式会社中部システムセンター

代表取締役社長:田中裕嗣
本社:三重県津市
従業員数:8名(2020年8月現在)
設立(創業):1977年
資本金:1,000万円
事業内容:働き方改革およびワーク・ライフ・バランス実現の総合コンサルティング、オフィスづくり支援、IT導入支援、オフィス機器やパソコンの販売・導入支援、コワーキングスペースの運営

経営者略歴

田中裕嗣(たなか・ゆうじ) 1978年生まれ。ITベンチャー、メーカー販売、コンサルティング会社を経て2011年1月に中部システムセンターに入社。取締役を経て、2014年に社長就任。